桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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出席番号7番「遅刻常習犯」30

お前は走った。

俺も走った。お前の後を走った。

電気の点いた窓たちが見えてきた。日の落ちた闇の中でも白く浮かび上がる建物が見えてきた。母さんが落下した、父さんが、父さんの後輩が閉じ込められた場所。命が始まって終わった、「病院」という場所だった。

 

お前は病院の入り口のドアを通り抜けた。それを追って、扉が閉まりきらないうちに俺も体を滑り込ませた。後ろからガラスにぶつかる音が聞こえた。

真っ暗な外を切り取った窓が横に並ぶ。動かない景色は絵画みたいだ。それも一枚、二枚と流れていった。

蛍光灯の光に浮かび上がる白い廊下を、俺たちはただ走った。

人の声が聞こえた。ぽつりぽつりと雨の滴のように消えていった。

 

階段を上がった。お前は一段飛ばしで飛び越えていく。俺は一段二段と駆け上がっていく。

 

後ろからあいつの叫び声がした。聞こえない振りをして前に、上に進み続けた。

 

 

 

知っている道だった。

たった一回だけ通ったことのある屋上への道。

その先に何があるのか俺にはわかった。

俺は走った。

 

 

 

ただただ、間に合って欲しいと思った。今度こそ間に合って欲しいと。

先をいく親友に手が届いて欲しいと思った。

何度も待たせて、何度も遅刻した。だから今度こそはと、強く思った。

いつもお前は俺のことを待っていてくれたから。

 

 

 

お前は夜空に続く扉を開いた。一面の星空は綺麗だったかもしれない。

 

俺は夜空に続く扉をくぐった。暗い空に溶けてしまいそうなお前の背中を探した。

 

 

 

「×××!!!」

 

俺はお前の名前を呼んだ。

 

お前は

 

振り返らなかった。

 

 

 

フェンスを乗り越えてお前は消えていく。

後ろからあいつの叫び声がする。

 

俺は

 

 

 

俺は

 

 

 

 

 

 

俺は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走った。

手を伸ばした。

その手は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日、友人が病院の屋上から身を投げた。

 

 

 

その背中を追って、俺も同じ場所から身を投げた。届くようにと、必死に手を伸ばした。

 

生涯一緒だった友人は俺の親友だった。

 

 

 

彼は冷たく硬いコンクリートの地面に落ちていった。それを追って、俺も落ちていった。

 

 

 

 

 

 

ゆ っ く り

 

 

 

ゆ っ く り

 

 

 

おちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地面に着く瞬間、俺は彼に手が届いただろうか。

 

『届いたよ。

ちゃんと君の手は、ボクに届いたよ』

 

最期の最後に、俺は遅刻せずに間に合っただろうか。

記憶をなくしても待ち続けてくれた君に、追い付けただろうか。

 

今度こそ、大切なものを手放さないで済んだだろうか。

 

『よく頑張ったね』

 

 

 

 

 

 

これで俺のとっておきの話は終わりだ。

 

 

 

 

 

 

「なあ、友人A! 俺、間に合ってやったぜ!」

 

 

 

思い出したか?

お前が。

俺の親友なんだ。

 

 

 

 

 

 

一瞬だけ遅れて着いた俺の手は、しっかりお前と繋がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ということで俺の話は終わり。

まあ、ありきたりの話だろ?

 

父親が本当の父親じゃなかったとことかさ。

 

そういえば、あいつのことも家もみんなには見えてなかったんだよな。先生とか「みえる」人にはみえるみたいだけど、誰かみえた奴っている?

いないかぁ。

 

俺もなんだけど、怪異に巻き込まれるとか遭遇するってレベルじゃなくて馴染んじゃうタイプの人ってたまにいるんだよな。両親もそうだったんだろ。

 

だから、これは普通の人生なんだ。

怪異に馴染んで生きた人の人生。

 

始めから終わりまで怪異に付きまとわれる、そんな人生。

な? 普通の人生だろ?

俺の人生はそういうもんなんだ。

辛かったねとか、苦しかったねなんて誰にも言わせねえよ。

みんななら、なあ? 理解してくれるよな。

 

大事なのはこれ。

 

俺! 遅刻しないで来れたぜ!

誉めてくれよ、×××!

 

呼んだ名前が誰のものだったのか、俺にはもう思い出せなかった。

友人A?

助産師さん?

警察官のおっちゃん?

助産師さんの後輩?

 

それとも

 

「父さん」と呼んでいた、あいつ?

 

何処かで誰かの叫び声が聞こえる。

人ならざるモノの叫び声が聞こえる。

 

それは、

 

あいつの断末魔だった。

 

罪を犯した「鬼」の、最期の声だった。

 

桜の花びらが二枚、ぽとりと散り落ちた。




『遅刻常習犯』

の、主人公
前科百犯の遅刻野郎
いつでも遅れて生きてきた

残されたメッセージは届いたかな
最期の想いは届いたかな
遅れる君のためにいつだって
誰かが何かを残してくれた

さあ、どんでん返しの始まりだ
ヒントを掴んで走り出せ!

こんな人生は如何かな

なあ、友人A?
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