桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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出席番号10番「7ページ目を追いかけて」①

やあ、みんな。今度は僕の番だ。

これは、言ってみれば予行練習、みたいなものだったのかもしれない。

長い話になるよ? 最後まで聞いていてね。

 

 

 

季節は春。もうすぐ桜の花も散るだろう頃に、僕はその部屋の戸を開いた。

 

白いワイシャツの上に着たブレザーが役目を終えるまであと一年。高校三年生に進級したばかりの僕は、友人からある話に誘われた。

「せっかくの高校生活最後の年なんだから、変わったことやろうぜ」

彼が誘ったのは一年間だけの委員会活動。進路も、就職も、勉強も、ギスギスした人間関係も忘れて、まっさらな白紙で何かをしないかと僕に話を持ちかけた。

今考えるとね、おかしな話だったよ。僕は彼とはそれ以前に話した記憶がないんだ。だから、僕が彼を、彼が僕を『友人』と呼ぶのはおかしい。

彼に声をかけられた時点で、僕のこの話は始まったんだ。

戸の横にはこんな看板が掲げられていた。

 

『七不思議調査委員会』

 

どこかで聞いたことがないかい?

そう。僕たちが面白半分に小学生の頃立ち上げた委員会と同じ名前だよ。

六年ぶりになるかな。僕は、七不思議の解明に乗り出した。僕たちの地元の七不思議はまだ解明できていないものも残っている。まあ、それも時間の問題なんだけどね。桜ヶ原の七不思議、七つ目の『同窓会』は、今僕たちが体験しているんだもの。

でも、高校生だった僕はそれがすごく歯痒かった。いつかはわかることでも、その時わからなきゃ意味がないことってあるんだよ。

僕はその『いつか』を待つことができなかった。でも、桜ヶ原を離れてしまった僕には七不思議に近づくこともできない。だから惹かれたんだろうね。

 

僕は七不思議調査委員会のメンバーとして名前を書き加えた。

 

戸を開いた先には僕を含めて何人かの生徒がいた。その中にはもちろん『彼』もいたよ。彼は僕を部屋に招き入れて

「来てくれると信じていたぜ」

と言った。

友人に誘われたんだから、来るに決まってるだろ? その時の僕はそう思っていた。親しい以前に校内で見たこともないっていうのにね。

 

 

 

さて、みんな。これを見てくれ。

ここにあるのは、その委員会の日誌だ。なんでここにあるのかって? そりゃ、僕が持ち出したからに決まっているだろ。

当時あったはずのその委員会はもうないんだ。七不思議は、解明された。僕たちの代を最後に、委員会は二度と立ち上がることはないんだよ。

なら、記念に持ってきてもいいだろう? せっかく僕たちが貴重な一年を費やして完成させた記念の日誌なんだからさ。

まあ、これは僕を誘った『彼』に対する当て付けでもあるんだけどね。

 

この日誌の中には当時の僕たちの手で解明された『七不思議』のことが書かれている。

 

もうわかっただろ?

僕はこの『同窓会』でとっておきの話として『七不思議』を語らせてもらうよ。

 

 

 

 

 

 

ああ。ちょっといいかな? この日誌を開く前に、僕からみんなに聞きたいことがあるんだけど。

ええと、それは、あれだ。みんなは、どんな青春を過ごしたのかな? 変な質問だってことは分かってるよ。でも聞きたいんだ。みんなの青春はどんなものだった?

僕の青春はこの日誌だ。『七不思議』を解こうと足掻いた高校三年生の一年が僕の青春の瞬間だった。

 

みんなの青春は?

警官になりたくて部活に励んだ?

護ってくれるお爺さんに苦笑いをした?

恋人と手を繋いでコンビニに出掛けた?

裁かれない悪者の最期を見届けようと正義の味方になった?

傘を持った人に恋をした?

素敵な恋人たちと同居した?

砂時計の中で終わらない夢を見た?

同志からメッセージは届いたかな?

どれだけ友人と一緒に好きな動画を探した?

真っ暗な地下通路を駆け抜けた?

赤く染まった町を一人で見送った?

あやかしと肩を組んで晩酌した?

日だまりの中で昼寝をした?

それとも、僕みたいに七不思議を廻り続けた?

ねえ、教えて欲しいんだ。

みんなの青春は、今でも色鮮やかなまま一ページを埋めているのか。

 

丁度太陽が沈みかけているね。昼と夜の境の時間、青い空があっという間に緋色を経て群青色に交代する時間。『七不思議』みたいな怪異を語るにはこんな時間が相応しいと僕は思うな。

僕の一生はさ。ずっと青空の下にあったと思うよ。ずっと変わらない青空で、つまらなかったけど不満ではなかった。その中でとびきりの『青』が青春ってわけ。

青色が過ぎて黒色が全部を被う前に、僕の青春の話が終えられたらいいよね。

もちろん、その後の黒色の時間は七不思議を語らせてもらうけど。

 

 

 

じゃあ、始めようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よし。まずはこの日誌のことを知ってもらおう。

 

ここに一冊の日誌がある。ほら。ぱららららら~、ってね。書いてきたのはもちろん『七不思議調査委員会』のメンバーたち。一番最初のページなんか、もうどんだけ昔だよってくらい古くてボロボロの状態だよね。

委員会の詳しいことはわかんないけど、メンバーはいつも七人。

つまり、一人一個の不思議を調べてこいって話なんだよね。もー、何でみんなで調べるってことしないのかなぁ。

日誌も、その年の一番最初のページにはメンバーの名前が書き出されている。そして、その次のページから本文が始まるんだ。○年×月△日~って感じで。もちろん担当の名前も書かれてる。

大体は見開きで一個の不思議について書いてあるのかな? いきなり三つ目とかから七不思議が始まると変なんで、順番になってる。多分、あらかじめページを空けておくんだろうね。たまに真っ白なページとか、やけに文字が詰まってるページもあったりするよ。内容は…僕たちの一年を話すからいいか。

でさ。その町の七不思議なんだけど、なんかおかしい気がしたんだよね。委員会に誘った『彼』のこともあったんだけど、一番おかしいのはこれ。何年も委員会が立ち上がって、その度に七不思議全部が調べあげられているんだ。その町の七不思議っていうのはね、

一つ、歩道橋

二つ、交差点

三つ、猫ノ集会

四つ、化け物行列

五つ、祠

六つ、鏡

そして、七つ、学舎。

毎年毎年、この七つが調査されて日誌に記されているんだ。

普通さ。七不思議っていうのは六つ目までわかったらやっと七つ目が出てくるってスタイルなんだよね。ほら、僕らの時もそうだろう? この町のもそうなんだよ。

五つ目までは大体終わってる。六つ目は…半分くらいかな。七つ目はタイトルと日付、名前だけでほとんどの年が空白になっているんだ。

それならいいんだよ。ああ、わかんなかったんだなって。一年終わっちゃったんだなって。

でも、七不思議は毎年同じように調査されているんだよね。ほら、見てみて、ここ。この年、一番最初の委員会なんだけど、一つ目から始まって三つ目まで日誌が書かれている。後は空白。で、次の年。また一つ目から始まっているね。続けて二つ目、三つ目。四つ目はまたわからなかった。更に次の年。また一つ目。今度は四つ目がわかったみたい。五つ目は空白。

そう。繰り返しているんだよ。一年経ったらリセットされたかみたいにまた始めから。前年までの日誌はちゃんと残っているはずなのに、わざわざ一つ目からやり直すんだ。

僕は、これは変だなって思った。

毎年繰り返されている七不思議の調査。僕たちの前には、一回も七つ目が完成されたことはない。

だからって一つ目からやり直す必要はないだろ? わからなかった部分だけ追加で調べていけばいいだろ?

でも、『彼』は僕たちの前でこう言ったんだ。

 

「よし。じゃあ、今年も七不思議一つ目からいってみようか!」

 

こうして僕たちは七不思議を『一つ目から』調査することになったんだ。

 

ほんと、おかしな委員会だったよ。今思い出すと、それなりに意味があったんだとは思うんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

僕の青春の一ページは、僕だけの青春の一ページは、この日誌の中にある。

 

改めて話を始めるよ。

 

僕は、桜ヶ原小学校卒業生。出席番号10番、春咲。同級生のみんなお馴染みの『春男』さ。

この委員会の中で担当した七不思議は、まだ誰も辿り着いたことのない七つ目だった。

 

 

 

 

 

七つが不思議、いざ参る。

 

ってね。

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