桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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『猫の集会』

にゃんにゃか にゃんにゃか
集まれ猫ども

秘密の集会
今夜開催
呼んでやるから手土産よこせ
ないならとっととどっかいけ

俺らが知らない猫事情
知らないだけか? 猫事情
実はどっかで見た気がしてる
どっかが似てる猫事情

にゃんにゃか にゃんにゃか
集まれ猫ども



出席番号10番「7ページ目を追いかけて」④猫の集会

最後の夏休み。高校生、猫に会う。

なんてね。

 

猫は可愛いけど、あいつらも獣。獲物を狩って活きる獣なんだな。そう思う場面は結構ある。でも、まさかそれを七不思議の中にまで持ってくるなんて誰が思うかな。

 

狩られるのは、もちろん僕たち人だった。

 

 

 

とうとう夏休みに入った。高校生活、最後の夏休みだった。

 

冬実もなんとか復帰して、七月の最後は三人で帰った。

秋彦の自宅の机には委員会の日誌が置かれたままだという。しばらく手つかずとなってしまっている秋彦の担当の七不思議は、三つ目。

 

帰り道で僕は彼に聞いた。

「三つ目、どう?」

秋彦の調べることとなった七不思議は

「猫の集会なんて、どこにでもある話だと思うんだけどなぁ」

『猫の集会』だった。

 

にゃぁ~ご

 

猫の鳴く声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

○月×日

担当者、三年○組、秋彦

 

七不思議、三つ目は『猫ノ集会』。

どっかにある猫の集会場。三日月の夜になると猫たちが集まって何かしてる。宴会か、会議か、何かはわからんけど、何かしてる。

何で猫なのか、とか、何で集会なのか、とかは知らん。でも、これが七不思議三つ目だ。

 

ここまでで七不思議は『歩道橋』『交差点』と続いた。三つ目の『猫の集会』を合わせて、何か繋がりでもあるのか?

 

そんな七不思議三つ目『猫の集会』。いや、『猫ノ集会』か?どっちも同じだろ。

 

 

 

内容は

『月夜の晩には猫たちが何処かで集会を開く。そこでは

 

 

 

 

 

秋彦はよく自分のことを『頭が悪い』『俺はバカ』と言った。成績も悪いし、授業態度も真面目というわけじゃない。早弁も居眠りもよくする、健康優良児。

学年は同じでも、僕たちはクラスが違ったからなんとも言えない。けど、他の人から流れてくる噂でそれは本当だと知れた。

だから何?

僕は結局大学に進学したけど、彼とは話も性格も全部が違ったけど全て合ったよ。きっと、相性が良かったんだろうね。僕が難しく考えて行き詰まってるとき、秋彦は

「んな難しく考えんなって」

と言っては肩を強く叩いてくれた。

彼が意味もなく口にした「なんでだ」「なんで」「なんでだよ」という口癖も、僕の重くなった心を軽くした。

菜摘と冬実のようにふざけあっては「はるちゃん」「あきちゃん」と呼び合ったこともあった。

 

ああ、でも。

菜摘が消えたあの瞬間に秋彦が呟いた「なんで」という言葉と、後で聞いた「菜摘のことが好きだった」っていう告白は。

…辛かったなぁ。

 

秋彦は、僕の初めての親友なんだ。

心からわかりあえる、親友なんだ。

きっと、これからもそんな人には出会えないと思う。

 

 

 

ねえ、みんな。

僕の唯一の同級生たちよ。

君たちはそんな人に出逢えたかい? そんな人たちと、青空の下で笑いあえたかい?

『青春』という、限られた時間を、そんな人たちと一緒に生きることができたかい?

 

僕は自信を持って言えるよ。

僕は。秋彦と、冬実と、菜摘と一緒に、青春という時間を生きたんだ。

 

 

 

そうそう。それでね。そんな僕の親友、秋彦は簡単に言えばガサツ。大雑把。単純。あー、これ以上は止めとこうか。僕と真逆だって言えば、わかるでしょ? そんな彼には秘密があった。ふふ、僕たちの間では全然秘密なんかじゃなかったんだけどね。

 

彼、猫好きだったんだ。

 

『にゃーん』

 

残念。彼はもう猫好きじゃないんだよ。秋彦が猫嫌い、とまではいかなくても苦手になった理由はこの七不思議の調査にある。

七不思議、三つ目、猫ノ集会。

これをきっかけに、秋彦はますます猫に好かれるようになるんだけど。彼自身は苦い顔をしてこう言うんだ。

 

「あんなの、もうこりごりだ」

 

結果から言うとね。秋彦は今でも生きてる。七不思議から生きて帰ってきたんだ。

 

その春から始まった七不思議。一つ目では菜摘が、二つ目では一年女子が消えた。

偶然かもしれない。偶然じゃ、ないかもしれない。その時の僕は嫌な予感を感じていた。このまま進んだらどうなる? 次の七不思議の担当は秋彦だった。秋彦も、消えるかもしれない。そんな予感が僕にはあった。

 

夏休みが始まった。最後の夏休みが。

セミがミンミン鳴いていた。夏が終わるその時には、地面にべしゃりと落ちて動かなくなるセミたち。暑い中、毎日毎日懲りずに鳴いた、セミたち。

 

僕たちも消えるのだろうか。

そんな不安が僕の影を濃くし始めていた。

 

 

 

夏休みに入っても学校の教室には鍵がかけられないままだった。補習や自習、部活で毎日どこかしらが使われていた。生徒の笑い声が廊下を走る音と一緒に駆けていった。先生の注意する声が後から響いた。外からは野球やサッカーをする張りのある掛け声が風と一緒に窓をくぐって入ってきた。

セミがうるさく鳴き始めていた。

僕と秋彦、それと冬実はあの委員会で使う部屋にいた。その部屋はほとんど誰も入らないから。たまに入ってくるとしたら『彼』ぐらいだったけど、僕たちは何故か『彼』とは会いたくなかった。

嫌いとか苦手とかそう言うんじゃなくて、もっと根本的なところで避けたかった。

僕たちがそのとき話す内容は決まっていた。秋彦の担当した七不思議、猫ノ集会についてだった。

 

『猫ノ集会』

月夜の晩には猫たちが何処かで集会を開く。

 

「月夜の晩にって、いつだ?」

「満月?」

「日誌によると三日月の夜だって」

「じゃあ、月に二回開くの?」

「そういうことだね」

 

『にゃぁ』

 

「なんで猫ちゃんなのかな」

「元々猫の集会って言われるだろ?それじゃね?」

「でも七不思議にあり? それ」

「しかも怖い話じゃなかったよね、それ」

 

『にゃー?』

 

「仮にそうだとして。何処で開催するの?」

「公園?」

「公会堂?」

「空き地?」

 

『にゃんにゃん』

 

「集会ってなにするの?」

「エサ食ってるだけとか?」

「猫的世間話だと僕思ってた」

「世間話?」

 

『にゃにゃにゃ?』

 

「どういう人が良いとか」

「どういう人が悪いとか」

「何がいいとか」

「何が悪いとか」

「誰が良いとか」

「誰が悪いとか」

 

『これはよくて、これはわるい』

 

どこからそうなったのかはわからないけれど。七不思議の話をしていたはずの僕たちの話題は別のものへと移っていた。

あの生徒は頭がいい、あの生徒は付き合いづらい、あの生徒は口が堅い、あの生徒は気をつかう。あの先生はひいきしている、あの先生は子供っぽい、あの先生は不平等。

全部、全部。誰かに対する評価だった。そして、どれも最後にはこう言うんだ。

 

「この人はいい人」

「この人は悪い人」

 

自分たちにとって都合がいいか悪いかで判断しているのかもしれない。でも、その『会話』の中での判断基準はいつだって『自分たち』なんだ。自分たちがどう見ているのか。

勝手に線を引いて善悪を決める。決めつけて、押し付けて、押し付け合って、最後にはいいか悪いかに分けてしまう。

それが正しいかなんて、誰にも解らないけれど。

 

『こいつは有罪』

『こいつは無罪』

 

まるで、どこかの裁判所の真似事でもしているようだった。

 

『にゃー』

 

 

 

一匹の白い猫が僕たちをじっと見ていた。

 

 

 

 

細くて鋭い、猫の爪の形をした月が空を引っ掻く夜が来た。

七月の、夏休みに入ったばかりの週の、二回目の三日月だった。

その日は朝から灰色に曇っていて、街全体に薄く白い霧が覆い被さっているようだった。

 

なんでそんなこと覚えているのかって?

その日は、前日から一睡もしていなかったんだ。

少し前からかな。秋彦の家に頻繁に猫が寄りつくようになったんだ。秋彦の家は一軒家で、別に猫の一匹や二匹が入り込んでも不思議はない。でも、その時は以上に数が多かったらしいんだ。五匹? 六匹? いいや。十匹、二十匹、もっとかもしれない。彼の家の中に入ることはなくても、家の周りをうろうろうろうろ。悪戯こそしないけど、その光景はあまりに異常。

 

結局僕たちは『猫ノ集会』について詳しいことを調べることができなかった。多分、他の『猫の集会』の話と内容が混ざっちゃったんだろうね。

猫についての話なんて残っているはずがなかったんだ。だって、所詮猫事なんだから。猫が何かしてたって、人の世界には関係ない。いつの時代も、人は人で自分たちの歴史を残すことで手一杯だったんだ。猫は猫で戦争も地震も津波も大雨も乗り越えて、現代を生きている。

猫が何をしていたかなんて、人には知るよしもないんだ。もちろん、何を考えているのかさえもね。

ただ、『集会』だから行う場所はあるはずだ。そう考えた僕たちは、ただ街の地図を広げた。古いものから新しい物まで。

そこでわかったのは、その街には空き地がないこと。その時点の話なんだけどね。公園もなかった。公会堂なんてものも。でも、ただ一ヶ所だけ開けた場所があった。

 

学校の、校庭。運動場、グラウンドだった。

 

「そんなでかい所でやるもんか?」

「広すぎるよ!」

「でも、うん。他に集まれそうな所なんてない。それに、ここだったら」

 

街には二ヶ所学校があった。一ヶ所は僕たちが通う高校。そして、もう一ヶ所。

菜摘が消えた歩道橋。一年女子が消えた、その歩道橋の下の交差点。その交差点の先にある、

 

小学校。

 

僕は確信した。七不思議、『猫ノ集会』はそこで行われる。

僕たちの調べている七不思議は、どこかで繋がっていたんだよ。

 

 

 

秋彦も冬実も最初は疑っていた。実際、ここまでの七不思議についての話は仮定ばかりで根拠がない。資料っていってもほとんどがお伽噺の様なものだった。

でも、実際に菜摘は僕たちの目の前で消えたんだ。事故でもなく、事件でもなく。何かよく解らない『怪異』を僕たちはこの目にした。

それが真実で現実なんだ。

 

僕は桜ヶ原のことを話した。僕の故郷のことを。僕が向き合うべき『七不思議』のことを。それこそ信じられないと二人は言ったよ。子どもの思い込みなんじゃないかって。

桜ヶ原では唯一ある小学校で誰もが七不思議の話を聞く。それを信じ続けて大人になって、子どもに話す。それがずっと、ずっと繰り返されてきた。桜ヶ原の七不思議はちゃんと文として残されていて、図書館の本として置かれているくらいだった。

僕たち桜ヶ原の地元民にとって『桜ヶ原の七不思議』は、桃太郎やかぐや姫、白雪姫、シンデレラのように有名なお伽噺でもあるんだ。そういうお伽噺ってさ、何かしらのルーツがあるんだよ。子どもに何かを教えたい、何かを伝えたい、残したいって。

更に七不思議と言えば都市伝説でも有名だ。そうなると、余計に具体性が増すんだよね。過去の事件を基にした場合が多い。だから余計に恐怖心が煽られて身近に感じる。薄まることはあっても消えることはない。

 

ああ、つまりね。桜ヶ原の七不思議を古いお伽噺とすると、その時の僕たちが調べた七不思議は都市伝説に近いものだったんだ。

この七不思議調査委員会の日誌には毎年繰り返し調査された七不思議について書かれている。

七不思議のデータは更新されていたんだよ。

 

そう。毎年、菜摘や一年女子のように『消えた』生徒はいたんだ!

 

なのに学校では大事になっていない。これってさ、七不思議のことが当然のように受け入れられていて、信じられているって考えられないかな。

それだけならいいよ。でも、僕はぞっと寒気を感じた。近すぎる気がしたんだ。誰かが、例えばクラスメイトが一人行方不明になった。気にもしない。気にもされないような人がいなくなる。空気のようにそれが当たり前だと、当然だと。その人がいたことははっきりと記憶に残っているのに!

あまりにも自然すぎると思った。自然すぎることがすごく不自然に感じた。

高校三年になってそういう事態に直面して初めて僕も気づいたんだけどね。その前の年も、その前の前の年も、誰かしらはいなくなってたんだよ。でも、気にしなかった。意識がそっちに向かないんだよ。意識がそこから外されるんだ。見ようとも聞こうともしない。そもそも興味がない。当事者になるまでおかしいって思わなかったんだ。いや、当事者になってもこの七不思議たちの異常さに気がつかなかったな。

現に、菜摘は自分の異常に最期まで気がつかなかった。多分ね。

 

この日誌を見てよ。何ページあると思う? 毎年毎年、七不思議いくつ目って書かれてるよ。

その分だけ人が消えたんだ。きっと。でも、そんなこと誰も言っていない。誰かがいなくなることは当然のように刷り込まれているんだ。それがどれくらいの範囲での認知かは分からないけど、少なくともその高校内ってことは確かだった。

『人が消える』という事実が何らかのベールに覆われて隠れてる。今思い出すとね。隠していたベールは、きっと僕たちの日常だったんじゃないかって思うんだ。

僕たちが当たり前のように学校へ登校して、授業を受けて、部活をして、下校する。中には登校拒否だとか保健室登校なんて人もいるんだろうけど。でもそれが『普通』で『常識』で『日常』で『正しい』こと。

それらが『異常』で『非常識』で『普通ではない』ものの認知を曖昧にしていたんじゃないかって。『普通』が普通であることに固執してしまって、そんなこと起こるはずがないと思い込んでいたんじゃないかって思うんだ。

 

普通じゃないのが七不思議なのにね。

 

桜ヶ原出身の僕でさえもそんなこと忘れてその高校に入学してたよ。

 

七不思議の恐ろしさを覚えていたら、知ってさえいたら、僕は大切な友人をうしなわずに済んだのかな。

ああ、もう、こんなに後悔しても全部遅いか。過去は変えられないんだから。過去に、あの輝かしい青春の日々に戻ることなんてできないんだから。

 

ごめん。僕はちゃんとここに、君たちがいる桜の元へ帰ってきた。あの頃の青春はもう手に入らないけど、幼い頃の思い出に浸って同窓会をすることはできる。

 

それがどんなに非常識なことであっても、ね。

 

 

 

さあ、話を戻そうか。

 

 

 

小学校の校庭なんかで猫が集会を開くはずがないと疑っていた秋彦と冬実。僕は話した。僕たちの『桜ヶ原の七不思議』を。

一つ、小学校の裏庭にある桜の切り株。

一つ、町にあるバスの路線上にはない停留所。

一つ、池に沈むといわれる未来予知の砂時計。

一つ、突如現れる人を呑み込む地下通路。

一つ、宝の地図ならぬ桜の地図。

一つ、僕たちが今しているこれ。死後の同窓会。

ほらほら。具体性が増してきただろ? 何て言ったって、これらは全部僕たち自身が解明してきた七不思議だ。もちろん、当時解らなかったものもあるけどさ。

でも、どれもこれも『僕たちの』七不思議だと言える話さ。

 

二人はうんうん唸りながらも話を最後まで聞いてくれた。そこでふと、気づいたんだよね。

自分たち何をしているんだ、って。

気づいたというより疑問に思ったんだ。

僕はともかく、秋彦も冬実も、菜摘だって七不思議なんて興味もなかったし信じてなんていなかった。高校三年の一年間なんて、結構重要じゃない? 受験をするならそれなりに勉強に本腰を入れないといけない。就職するにしても高校生の就活だって大変でしょ? それなのに、僕たちは進級してすぐに『七不思議調査委員会』なんてものに参加した。多分、そこに自分たちの意思はなかったと思う。参加することは決まっていたんだ。

 

逃げることなんて、最初からできなかったんだよ。

 

 

 

「なんでだよ」

自分でも気づかなかった違和感を目の当たりにして、秋彦は混乱した。当然だよ。だって、もう、彼の番が来てしまっていたんだから。

 

 

 

『にゃぁ~お』

 

 

 

 

 

 

細くて綺麗な三日月の月が空に上ろうとする頃。秋彦の元に迎えがやって来た。

迎えにやって来たのは、一匹の白い猫。秋彦の家の玄関に立っていた。

 

雲はすっかり遠くへ行ってしまっていた。残されたのは一本の猫の爪の形の月。

 

『にゃうにゃう』

 

猫が早く来いと秋彦を急かした。

後ろから覗き見た彼の顔は、真っ青だった。秋彦は、猫の集会に招かれてしまったんだ。

 

 

 

猫についていった先は、小学校の校庭だった。

 

 

 

月が、とてもとても綺麗だった。白く、黄色く、金色に輝いていた。鋭く夜空を引っ掻く月を見て、僕は思った。

『猫ノ集会』の『ノ』は、この月のことなんだ。

月は、まさに猫と集会を繋ぐ『ノ』の形をしていた。

 

 

 

猫の集会が開かれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

にゃんごろ にゃんごろ

集えよ猫たち

今宵も夜空にといだ爪

キラリと光れば狩の時間

 

さあ!

立たせよ ここに 人の子を!

お前はいいやつ? わるいやつ?

今日のお題はあそこの子ども

ずらりと並ぶ猫ノ目が

細く鋭く見据えてる

お前はいいやつ? わるいやつ?

 

ここは猫ノ裁判所

 

さあ!

有罪? 無罪? 猫が決める

死刑だ! 死刑だ!

狩ってしまえ!

こいつは猫のためにならん

獲物を前に猫はわらう

 

人がえらいと思うなよ?

ここから猫ノ暴君タイム

 

人の常識猫は知らず

猫の常識人は知らず

我らのはかりでさばこうぞ

 

今こそ開廷

猫の世界

 

集えよ猫たち

月ノ下

 

 

 

 

 

 

『にゃぁーん』

 

猫の集会が、開かれた。

 

その場所にいたのはたくさんの猫たちだった。首輪をしているものもしていないものもいた。黒猫もブチもトラもミケもサビも、よく分からないものもいた。その中で、一際目を引く集団がいた。

白猫たちだった。

真っ白な毛で覆われて汚れや穢れが見えない真っ白。

 

一匹の白猫が口を開いた。

『これより開廷』

ずらりと並んだ白猫たちが僕たちを、いや。秋彦を音もなく取り囲んだ。

僕たちは指一本動かすことができなかった。まるで、逃げ道を猫に塞がれた鼠のようだったと思う。

 

『これを連れてきた者、前へ』

僕たちをそこへ連れてきた白猫が前に進み出た。

尻尾の短い白猫。よく見ると、片眼が潰れていた。傷は塞がっている様だけど、痛々しく痕が残っていた。

 

『罪状を』

『にゃ。こいつは猫を虐めましたにゃ』

猫好きの秋彦が? 猫を? 虐めた?

『何年も前のことですにゃ。そいつは、他のにんげんと一緒になってボクに石を投げましたにゃ』

片眼の白猫はにゃーにゃーと語り出す。

僕の頭の中では、次々と疑問が回り出した。

猫に石を? いじめが大嫌いな秋彦が? 悪口を言うなら本人に言えといじめっこに噛み付く、あの秋彦が?

『投げられた石はボクの目に当たりましたにゃ』

あの不器用な秋彦の投げた石が当たった?

野球部もサッカー部もびっくりなノーコントロールの秋彦の投げた石が? その、小さな猫の顔に? その、小さな小さな猫の顔についている目に? 当たった?

偶然じゃないのか?

秋彦は猫に石を投げたりしない。石を投げたとしても、不器用過ぎて石は狙った所へ飛んでいかない。狙った猫に飛んでいっても、その小さな目に当たることなんて有り得ない。

『当たった石は、ボクの目をつぶしましたにゃ。もう、ボクは目が片方見えませんにゃぁ』

片眼の白猫は、にゃーにゃーと泣き真似をした。 可哀想な猫だった。可哀想だけど、何か引っ掛かった。

本当に石を投げたのは秋彦なのか?

僕はちらりと秋彦を見た。秋彦は目が合った僕に首を横に振った。

違う。俺じゃない。そんなことしていない。

「秋彦君、そんなことしないよ」

冬実は、片眼の白猫を見ながら小さな声で呟いた。

何かの間違いか? それとも、何かが間違っている?

集会は続いた。

 

『こいつは悪いひとにゃ。是非とも死刑にするべきにゃ』

死刑! 死刑! 死刑! 死刑!

校庭が猫たちの声で溢れかえった。耳からはにゃーにゃーとしか伝わってこないんだけど、何故か、何故か、頭には人間の言葉として響いてきた。不思議だよね。その時、全く疑問を感じないんだよ。

その場所は、まさに猫の世界だった。

 

このままじゃ秋彦は死刑になる。本当に悪いことをしたのかわからないのに!

僕は叫んだ。

 

「ちょっと待って! 石を投げたのは、本当に秋彦なの?!」

 

一斉に光る目たちが僕の方を向いた。思い出すと今でもゾッとするよ。獲物を狩る眼って、ああいうのを言うんだね。

 

白猫は言った。

『発言を許可する。片眼よ。その子どもだという証拠はあるのか』

片眼の白猫は手を、足を?、前肢をあげて言った。

『はいにゃ』

あげられた前肢は、秋彦の方へ向けられた。

『まず、石を投げたやつはこいつと同じ皮を着てましたにゃ』

皮。多分、制服のことだ。

でも、それだけじゃ秋彦かは分からない。

『次に、虐められた時、ボクはそいつの指を折りましたにゃ。右の一番太くて短い指ですにゃー』

確かに、秋彦は右手の親指を折っていた。

 

でも、折ったのは一週間前。夏休みへ入ったことに浮かれてはしゃいだ彼は盛大に右手の親指をぶつけて、折った。その時は笑い話だった。だから、僕も冬実も、彼がいつ指を怪我したのかはっきり覚えていた。

だから、片眼の白猫が言っていることがおかしいとすぐに気づいたんだ。

目が潰れるくらいの大怪我が一週間で治るはず、ないだろう? って。

 

「石を投げられたのって、いつのことなの?」

冬実が片眼の白猫に聞いた。そうしたら、その猫は胸を張ってこう言ったんだ。

 

『二十年前にゃ!』

 

二十年前だって! その猫がそんなに長く生きていること自体がびっくりなんだけど、どう考えても高校生の秋彦が犯人なわけない。一体どこからその自信は来ていたんだろうね。僕ははっきり言い切った。

「僕たちはまだ十七年しか生きていません」

僕はもう誕生日が過ぎていたんで十八年だったんだけどね。

 

片眼の白猫は口をあんぐりと開けて、残っている片眼を真ん丸にした。冬実が言うには、「あちゃー、やっちゃったかー」っていう顔だったらしいよ。

つまりね。その片眼の白猫は、石を投げたのが秋彦じゃないっていうことをわかってて、そこに、猫の集会に連れてきたんだ。違うってわかってて、秋彦を悪者に仕立てようとしていたんだ。

どうしてそこまでするんだろう。その疑問はすぐに解けたよ。

 

一度いじめられるとさ。仲間外れにされないように努力するんだよ。

 

白猫は言った。

『子どもは無罪。片眼は嘘つきの刑に処す。川流しだ。頭を存分に冷やしてこい』

川流しだ! 川流しだ! 川流しだ! 川流しだ!

濡れるぞ! 寒いぞ! 冷たいぞ! 大きな魚も亀もいるぞ!

『いやですにゃー!』

片眼の白猫は他の猫たちにどこかへ連れられて行った。その少し後に、どこかでバシャンと水音が立った。少し肌寒い夜だった。

 

白猫は僕たちに言った。

『すまなかった。七不思議を回る人の子らよ』

その白猫は、僕たちの調べる七不思議のことを知っているようだった。

『我ら猫は、この月の晩に獲物を連れてこなければならぬ。そして、今宵のようにさばくのだ』

白猫は語った。僕たちの求める七不思議、猫ノ集会のことを。

『獲物を連れてこれぬ猫は町から追い出す掟よ』

追い出されたくなければ、なにかしら獲物を差し出さないといけない。あの、片眼の白猫のように。

『人の子らよ、立ち去るがよい。幸か不幸か、今宵の我らにはもう一件獲物が用意されている』

そう言って、白猫は尻尾をゆるりと踊らせた。白く長い尻尾は、二本あった。

 

 

 

永い時間を生きると、猫は化けるというよね。

その白猫は化け猫だったんだ。

僕たちとは違う世界を生きる、ネコサマだったんだ。

 

 

 

『にゃーお』

 

 

 

気がつけば、そこは秋彦の家の玄関だった。三人揃って立ち尽くす僕たちに、朝刊を届けに来た新聞配達のおじさんが「早起きだね」と声をかけていった。

 

嘘みたいに輝きを鈍らせた月は、もう空から立ち去りかけていた。代わりに、夕日とはまた違った燃え方をして朝日が上り始めていた。

 

両隣には秋彦と冬実がいた。安心して、気が抜けて、その場に座り込んで、最後には笑い出した。

 

 

 

僕たちは、『猫ノ集会』の夜から帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『にゃ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あーあ、つまんない。あの集会から帰ってきちゃうなんてさ』

 

猫の鳴き声と一緒に、『彼』の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

七不思議調査委員会の日誌に秋彦のページが載っている。担当は三つ目。あの三日月の夜、僕たちが招かれた『猫ノ集会』についてだ。

 

内容は

『月夜の晩には猫たちが何処かで集会を開く。そこでは

 

白い化け猫が裁判長をする裁判が開かれる。

 

三日月の夜、猫に連れられて小学校の校庭に行ってみれば、悪い人間か良い人間か裁判にかけられる。悪ければ死刑、良ければそのまま帰してもらえる。

猫は三日月の夜になると獲物、裁判にかける材料、を連れてこなければいけない。それを破ると、町から追い出される。』

 

 

 

秋彦は良い人間だった。

 

彼は、七不思議から帰って来れたんだ。生きて、帰って来れたんだ。

僕は思う。秋彦が、彼が、あの猫の集会で有罪になるような犯罪者じゃなくて本当によかったと。猫たちは無慈悲に「死刑」を求めているから。

 

 

 

七不思議調査委員会のメンバーの数は変わらずにいた。

 

 

 

三つ目『猫ノ集会』、調査終了。

 

 

 

ところで。

もしその集会で有罪になったらどうなっていたんだろう。

 

僕たちが集会に招かれた夜の次の日。僕たちが帰って来た朝の同日だね。

集会が開かれたはずの小学校の近くに住むお婆さんが亡くなったらしい。というか、その…これは詳しく話す話ではないかな?

 

ただね。あの夜に化け猫が言っていた『もう一件』ってこの事だったのかなって、僕は思うんだ。

 

そのお婆さん、あの猫に有罪判決を受けたらしい。猫たち、きっと大騒ぎだっただろうな。

きっと、よろこんで「死刑! 死刑!」って言っただろうな。

 

 

 

その話、詳しく聞きたい?

 

 

 

残念。それは次の機会かな。




『三ツ目、猫ノ集会』

にゃんにゃか にゃんにゃか
集まれや
三つが不思議、いざ参らん

呼び出したるは獣たち
月夜の晩に開かれる
世にも奇妙な猫集会

いい気になるなと人事情
いい気になるぞと猫事情
自分勝手な集まりで
議題に何があがるのか

今夜は猫ノ目 細い月
集まれ気儘な猫たちよ
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