桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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『バケモノ行列』

用済みガラクタたくさんあつめて
みんなでいっしょに運びましょう

ちぎれたエモノをだらりとさげて
ずるずるずるずるずーるずる

列をつくって並んだら
オカシナ行列はじまりさ

いっしょにイコウよ
ガラクタさん
声かけ手をとりまざったら
今からキミもバケモノさ



出席番号10番「7ページ目を追いかけて」⑤化け物行列

夏休みも後半戦。

結構僕ってさ、運が悪いことが多い気もするんだよね。その日もそうだったのかも。

 

忘れたくないものほど忘れやすくて、忘れたいものほど覚えている。人の記憶ってそういう風にできているのかな。

だから僕は、忘れたい『彼』のことも嫌なことも、全部まとめて頭の深いところへ追いやって沈めようとする。そうすると、逆に思い出しちゃうことも多々あるんだよね。

ああ、嫌だ。まだ『彼』が嗤ってる気がする。『彼』の思うつぼなのが更に嫌だ。

 

忘れたくないものは、ちゃんと形にして残しておかなきゃね。

ほら。この写真たちみたいに。

 

 

 

小学校の近くにすむあのお婆さんが逝亡くなって数週間が経とうとしていた。夜空には、あの猫の集会の三日月の夜からもうすぐ二回目の三日月を迎えようとする頃。

秋彦は、日誌には三つ目の七不思議をさっさと書いて委員会の部屋に置いといたと言っていた。『彼』には会いたくない、と。僕も会いたくなかった。もちろん、冬実も。

だから、夏休みの真ん中辺りからは僕たちは学校の外で会うようになった。コンビニに入って涼んだり。安いアイスを買って店の外で食べたり。嫌がる秋彦を引き摺って図書館で課題をしたり。たまに電車に乗って空に溶けそうなくらい青い海を見に行った。

 

高校生活最後の夏休み。とても暑くて、とても楽しくて、とても騒がしい夏休みだった。本当だったらそこにもう一人、いるはずだった彼女がいないことは誰も触れなかった。

冬実は僕たちによくメールや電話を寄越すようになった。多分、菜摘に送るはずだったものも含まれているんだと思う。

冬実は家では泣いていたのかもしれない。だからこそ、僕や秋彦と会って笑顔になりたかったのかもしれない。彼女は何も言わなかったけど。

 

ある日、ふと小学校の前を通った。校庭では僕よりもずいぶん小さな子どもたちがかけっこをしていた。

小学校の近くにある一軒の家はさら地にされていた。

お婆さんがいなくなって、その家族も逃げるようにして町から消えた。あっという間に建物は壊されて何も残らなかった。

時々、そこには猫たちがやって来るらしい。数が増えたような、減ったような気がする野良猫たち。彼らは都合のいい集会所を手に入れたらしかった。

 

ぴょん、と猫じゃらしの芽が地面から出始めていた。

 

進学を希望する僕と冬実はそれなりに忙しかった。勉強はもちろん、オープンキャンパスにもいくつか行って、学校説明会も受けた。高校の担任と面接もした。専門学校を希望する冬実の方が先に進路が決まりそうだった。

僕はというと…

うん。ふらふらしていたな。

絶対に入学したい学校も、就きたい職業もなかった僕。したいことも特になくて、ただ家から近いというだけで大学を選んだ。秋彦には悪いけど、頭も悪くなかったからそこそこの勉強でそこそこの学校に行けるくらいのツケはあった。

秋彦は夏休み中に何回か職場見学に行ったらしかった。

 

 

 

ねえ、みんな。みんなにはあったかな?

どうしてもやりたいこと。どうしてもなりたいもの。

未来なんてさ、本当に曖昧なものなんだよ。決まってないから未来。自分次第でどんなことでもできる。

よく言うよね。でも、本当に曖昧なものだ。

菜摘みたいに突然消えるなんて不幸なことも起こる。僕たち四人みたいに一生に一度の特別な出逢いも起こる。全く予定外の幸も不幸も起きて、それが道の何処に転がっているのか霧と暗闇に紛れて見えもしない。

未来っていうのは、そういうものなんだよね。いつも不安と一緒に歩かなきゃいけない。

僕が他の人と違っていたことといえば、曖昧な未来の先に決まった結末があったってこと。ふらふら道を歩いて、その先には桜が舞う木の下で同窓会。

 

今の、ここに辿り着く。

 

どんなに迷っても、時間がかかっても、さいごにはこの同窓会に辿り着くんだ。

 

ほら。みんなもそうだっただろ?

 

 

ああ、そろそろ空が暗くなり始めてきたね。せっかくの赤い夕焼けともさよならしなくちゃ。

 

でももうちょっとだけ。暗くなる前に話したい七不思議があるんだ。もしかしたら、闇にかかる話になるかもね。

 

七不思議、四つ目の担当は言い出しっぺの『彼』だった。

 

 

 

 

 

 

×月×日

担当者、×年×組、×××

 

七不思議、四つ目は化け物行列。

場所、猫の集会所からほこらに向かっての道。

 

『真っ直ぐ伸びる道。そこを通って化け物たちは行列を作る。彼らは何かを口に咥えて、半月の夜に列を作る。その姿はまさに化け物のそれ。』

 

 

 

ただそれだけ。『彼』の担当のページには、それだけが書かれていた。

 

『彼』の名前の部分が滲んでよく読めない。どうしても思い出せない。

『彼』は何て名前だったっけ?

『彼』はどんな顔を、どんな声をしていたっけ?

 

そもそも

 

『彼』なんて本当にいたんだろうか。

 

 

 

夏休みももうすぐ終わりという頃。その日も僕はふらふら歩いて家に向かっていた。勉強道具一式と財布、それと昼食と間食に食べた物のゴミが入ったビニール袋を詰め込んだリュックを背負って、図書館から家に向かう道を歩いていた。

途中、気紛れに寄ったコンビニでインスタントカメラを買った。本当に些細な気紛れだった。

でも、その日の夕焼けが本当に綺麗でさ。何かの形で残したいと思ったんだよね。秋彦や冬実にも見せてやりたいって思ったんだ。それだけすごい夕焼けだったんだ。

 

そういう気持ちは今でもあって、何かあっても何もなくても、レンズ越しではあるけど景色を残したい。フィルムの中だけどその時間を残したい。そして、それを誰かに伝えたい。誰かに届けたい。

だから僕は、最期までカメラを手にするようになったんだ。ここには持ってこなかったけどね。

僕のカメラは、秋彦に渡してきた。

これからは彼がカメラを使ってたくさんのものを残すんだ。この頃僕の趣味となった写真撮影は、彼に引き継がれたんだ。

そんな趣味、僕にあったのかって? あったんだよ。誰にだって言えない趣味の一つや二つ、あるだろ?

 

ああ。何でここでカメラの話を持ち出したのかって? 僕の記念すべき一枚目の写真はこの「夕焼け」。

それと、偶然撮れた二枚目。

それが

 

「化け物行列」。

 

 

 

カメラを手にした僕は、夕焼けを写真に撮ってとっとと帰ろうとした。天気は悪くなかった。ただ、夏にしては変に肌寒かったんだと思う。本当に寒かったのかは覚えていないよ。覚えているのはやけに鳥肌が立っていたことだけ。

早く帰ろう、早く帰ろうとだけ気が急いていたのかもしれない。だから、曲がるはずの角を間違えて別の道に出ちゃったんだ。

まさに裏道と言える狭い路を通って、見たこともない店の前を横切って、小さな公園を突っ切って。気づいた時には太陽は沈みきっていた。

 

その日は、半月の夜だった。

半開きの戸から何かが出てきそうな、何かが入って行きそうな。そんな風に見事なくらい半分に分かれた半月だった。

 

細い道から見知った通りに出た時、思わず声が出ちゃった。げ、って。月が綺麗な夜にはできれば近づきたくない場所。三日月の夜に「猫ノ集会」が行われていた校庭のある、あの小学校だった。

あの小学校の前に出て、そこからどうやって帰ろうか考えていると、ふと聞き慣れた音が聞こえた。どんちゃんドンチャン、太鼓や鐘の音、屋台を引く時に鳴らすお囃子に似ていた。

 

辺りはもう真っ暗だった。

周りには誰もいなくて変に静かで、そのせいか僕の耳にはその音が余計に大きく聞こえた。

異様だった。その音だけが聞こえたんだから。

「猫ノ集会」のこともあったから、早くそこから離れたかった。猫には会いたくない。特に、白い猫には。猫に悪い人としてさばかれたお婆さんの話はもう耳に入っていたから尚更ね。僕は走った。

 

その通りには、菜摘が消えた歩道橋がある。その下には交差点。そこから真っ直ぐ進むと猫の集会が行われていた校庭のある小学校。

 

僕は走った。

 

その通りに沿って。

 

だって、両腕の鳥肌もすごくて、なにより。

 

後ろからたくさんの足音が、気配が近づいて来ていたから。

 

 

 

僕が怖かったのはその数もだけど、足音の音が怖かった。明らかに足が立てる音じゃないものも交じっていたんだ。どういう音って聞かれると困るけど、そうだな。

「道楽」って知ってるかな。行列を作って歩きながら演奏したりするんだ。どんちゃんドンチャンってね。だから、その行列の足音の中には人の足音以外にも楽器とか、物の音も交じる。

でも、それだって主体は人のはずだ。楽器とか物を扱うのは人なんだから。人が物を持って、使って初めて「物」という物体に価値が生まれるんだろ? 僕はそう思っていた。

 

 

 

その日、聞いた足音は逆だったんだ。

物が何かを持っている。そんな音だった。何を持っているのかって、決まっているじゃないか。

物を持つべき「手」だろ。

 

僕は走った。

 

その行列は見たくなかった。

見てしまえば、その予感が当たってしまったら。

自分はただの「物」なんだって、価値のないただの「ガラクタ」なんだって。

そう思い知らされる気がしたから。

 

走って、走って、僕は逃げた。その行列から離れようと必死になった。

道には誰もいない。車も全く通らない。周りの家から灯りも見えない。ただ、真っ暗な闇だけが世界を覆っていた。歩道にある小さな外灯と、僕と同じように空で独りきりにされた月だけが頼りだった。

 

 

 

僕はその夏、不幸にも二度目の七不思議に遭遇してしまったんだ。

三つ目である「猫ノ集会」の次は四つ目、「化け物行列」。僕たちが避ける『彼』の担当だった。

 

 

 

走って、走って、走って。

辿り着いたのは一つのほこらだった。

その先は、何もなかった。

来たこともない場所だった。目の前にはほこらだけ。後ろからが足音がぞろぞろと近づいてくる。

息ができなかった。怖くて恐くて、どうなるのかって。

僕はすぐ近くの草むらに隠れた。

音を立てないように息を潜めた。潜めた分だけ、自分の耳に心臓の音が激しく鳴り響く感じがした。ドキドキじゃなくて、バクバクでもなくて、ドクドク。全身が心臓になったみたいだった。

 

そして。

 

その行列はついに、僕のすぐ側までやって来た。

 

 

 

 

 

 

先頭を歩くのは猫だった。

その夏、僕達三人にトラウマを植え付けた白い猫。そいつが咥えていたのは、皺が目立つ手。手首から上がない、人の手だった。

猫の集会で捌かれた、あのお婆さんの手だと思った。

その猫が歩いた後には、ポツリポツリと赤い点々が残っていた。

 

折れた傘が歩いていた。

がっしゃがっしゃと折れた金属の骨を擦り合わせて、破れて開かないビニールを引き摺りながらそれは歩いていた。

天辺の棒には鳥が刺さっていた。傘は、もう一度そのビニールの羽を広げたかったのか。

傘が歩く度に、一枚二枚と羽が舞い散った。

 

刃がぼろぼろのハサミが歩いていた。

持ち手に長い髪の毛がまとわりついていることを除けば、意外と可愛いのかもしれない。

でも、そのハサミは髪の毛を切るためのハサミじゃない。一体何を切ったというのだろう。

 

人だったモノが歩いていた。

頭がなかった。僕は下に目を逸らした。逸らした先には、切り離された頭があった。

胴体が頭を掴んで引き摺っていた。

誰かが言っていた。心は脳にあるのだろうか。それとも、心臓にあるのだろうか。その答えがあやふやになる光景だった。

 

行列を作っていたのは現実ではあり得ない化け物たちだった。いつもは使われる立場の弱者である彼ら。使い潰された彼らは豹変し、「化けた」んだ。

まさにそれは、化け物がつくる行列だった。

 

 

 

その行列は、ガチャガチャずるずる音を立てながら僕のいる草むらの真ん前を通り過ぎていった。

その時、僕は何を思ったのかカメラを取り出してシャッターを押した。

 

ほら。これがそのさっき言った写真。「化け物行列」さ。

ははっ。全然上手く撮れてないだろ。所々ボヤけてるし。そもそも、これって世間一般的には心霊写真だよね。

まあ、その。いい思い出にはなったんだろうな。ここにあるってことは。はあ。

 

まあ、いいや。

それで、その化け物行列はぞろぞろと道の奥に向かっていったんだ。そこにあるのはほこらだけ。

 

突然『バンッ』って音がしたと思ったら、それまで長かったはずの行列がどんどん短くなっていった。足音もどんどん小さく、少なくなっていった。

もうほとんど残っている化け物がいなくなったとき、僕は気づいた。

気づいてしまった。

その「化け物」の行列の最後尾には

 

『彼』がいた。目が合ったと思った。

『彼』は笑っているように見えた。

こっちを見て。

僕を見て。

 

月明かりしかない真っ暗闇の中なのに!

 

『彼』の手には、あの七不思議調査委員会の日誌があったように見えた。

 

全部がはっきり見えたわけじゃないよ。でも、僕にはそう思えたんだ。顔も、名前も、声も、覚えていないけど。

本当に覚えていないだけなのかな。本当に『彼』は『人』だったのかな。本当に。

『彼』は生きていたのかな。

 

 

 

「ハヤクキミモコッチヘオイデヨ」

 

 

 

そう音が聞こえた気がした。

多分、『彼』の声だと思う。人の声には、聞こえなかった。

本当に『彼』なんて存在したのかな。

 

その化け物は、行列の最後尾を追いかけるように何処かへ消えていった。

 

もう、足音は一つも聞こえなかった。

 

 

 

七不思議調査委員会のメンバーの数が一人減った。

いや。

始めから、減ったはずの数はメンバーに含まれていたのだろうか。委員会のメンバーの数は、始めから七人いたのだろうか。

 

 

 

高校生活、最後の夏休み。更にはもうすぐ終わりだという半月の夜。

僕は最初で最後の捜索願いを友人に出された。

 

捜索願いを出したのは冬実だった。あの日の夜、いくらメールをしても返信は来ないし、電話をしても繋がらない。そんな僕を心配して届け出たらしい。

夏前には菜摘のこともあったから。

結局僕は次の日の朝、交番に寄ってから学校へ向かった。校門には連絡を受けた冬実と秋彦が待っていてくれた。三人で委員会の部屋へ向かった。夜に見たことを話そうと。

 

戸を開けたら『彼』が「やあ」と言って椅子に座っている予感がした。

そんなこと、なかったんだけどね。

でも、机の上には、『彼』が持っていたはずの日誌が置かれていた。

 

直ぐ様戸を閉めて、別の所で宿題しながら話そうっていうことになった。

前日とは別の、秋が近づく様な涼しい風が青空の下で吹いていた。

 

校門を出るとき、やけに目の下に隈が目立つ服も髪の毛もぼさぼさの男子生徒とすれ違った。聞き取れないくらい小さな呟きを口からブツブツと垂れ流す彼を、僕は何処かで見た気がした。

歩道橋に差し掛かった時、僕は思い出した。

ああ、彼も七不思議調査委員会のメンバーだ。

名前も学年も全く知らない、同じ委員会の同胞だって。

 

 

 

四つ目『化け物行列』、調査終了?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ、四つ目だぜ? 頑張ってミナヨ、春男クン」

 

 

 

 

 

 

どこからか、声が響いた気がした。




『四ツ目、化け物行列』

化けては並べ
我楽多どもよ
四つが不思議、いざ参らん

未熟な輩は思うがまま
化けるまではただの物

我楽多と知るなかれ
瓦落多と知るなかれ
使い捨つまで愛でようぞ
それまで精々遊ぶがよい

所詮無駄な者共と
自ら知れば化ける物
知らずにいればただの塵

次は君の番だ
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