目覚めよ古の祭壇よ
俺に新たなる力を授けるがいい
腐りきった世界を正すのが俺の使命
そうだ
そのためには如何なる犠牲も払わなければ
生け贄を
家族が僕を否定する
友人なんかいやしない
登校拒否
引きこもり
オンラインのゲーム世界が僕の居所
見つけたほこらは
新たな世界の扉となる
僕たち三人はファミレスに入った。今じゃもうほとんどなくなっちゃったけど、その時はまだ二十四時間営業を通していた某チェーン店。ドリンクバーと手軽な値段の商品を注文して、僕たちは店員からするとはた迷惑な客に成り果てる。
ちょっとちょっと、そこの君たち。そんな苦笑しないでよ。みんなだってやったことあるだろ?
今じゃさすがにしないけど、若い頃は結構無茶をやらかす変な勇気を持っていたもんだよ。それがただの無謀だって気づいたときには、もう青春の時間はおしまい。
青春の時間っていうのはさ。ほんの一瞬なんだよね。子どもから大人にかわるほんのちょっとの時間。
あっという間に終わっちゃう。
その中にどれだけのものが詰め込めるかで、僕たちの残りの人生は変わってくるのかもしれないね。
結局その日、迷惑高校生客としてファミレスに滞在したのは半日。しっかりランチを食べて僕たちは解散しました。
夏休みになにやってるんだか。
でもね。最後の夏休みだから無謀なことだってやってみたかったんだ。
実はそれまで、学生だけでファミレスなんて行ったことがなかった。それは冬実も同じで、秋彦が行こうって言い出さなきゃやらなかったかもね。
初めてだったんだよ。そんな風に友人と夏休みを過ごすなんて。
そうそう。そこで、僕は前日の夜の話をした。七不思議の四つ目、「化け物行列」。化け物たちが、ガラクタたちが、使う立場のモノを咥えて行列を作る。
二人は言った。『彼』の後を追わないでくれてよかったと。行列の後を着いていかないでくれてよかったと。
きっと、そいつらについていってしまったらもう戻ってこれないと思うからと。
夏休みも終わって、また学校に通う日々が戻ってきた。
秋彦はちゃっかりと、既に就職先を決めていた。だからか、受験を控えた僕と冬実に早く帰って勉強しろなんて言うようになった。彼なりに気をつかったんだろうね。
冬実は、このままだったら希望校へ入学できそうだと笑って言った。
お菓子作りの専門学校のことなんて全く知らないけど、彼女の作ったお菓子を何回も食べている僕たちはその言葉を信じた。
僕はというと、適当に勉強していれば近場の大学には入れるんじゃないかくらいだった。担任も特に気にしていなかった。
教室には受験生たちが放つピリピリした雰囲気が漂っていたのかもしれない。秋が来て、文化祭やら運動会もあったのかもしれない。
なんで「かもしれない」なのかって? だって、覚えていないから。
僕にとってそういうのは価値がなくて、つまらなくて、退屈で興味のないものだったんだ。
そういうものはすぐに忘れるよ。
そう。僕はクラスから浮いていたんだ。
声がかかれば応えるし、用事だってそつなくこなした。悪くもないし善くもない。空気より重くて目に見える、置物の様だった。僕にはやる気が全くなかったんだよ。
当時はその理由がはっきりしなかったけど、今ならわかる。
綺麗な言い方をすれば生き急いでいたんだ。ただ単に投げ槍になっていただけだけどね。
人はいつか死ぬ。だから、残り時間が限られる。あとこれだけの残り時間。
これしかない。こんなにある。これだけある。僕にとってはこれ「しかない」。たったこれだけ。
たったこれだけの残り時間で何ができる?
何にもできやしないさ。どうせ自分なんかには何にも出来ない。やりたいこともない。しなきゃいけないこともない。何にもない。
僕は無表情で淡々と言う。
「人生に価値なんてない」
僕は、死ぬまでの残り時間に価値を見出だせなかったんだ。
たかが十数年生きただけの若者が何を言っているんだろうね。世界も目の前も、化け物行列を見た日のように真っ暗で、孤独で、さみしいものに感じていた。
僕は、どうしてこんなところに立っているんだろう?
どうしてこんなところを一人で歩かなければいけないんだろう?
どうしてみんな同じように歩かなきゃいけないんだろう?
どうして? どうして?!
誰もが通る道なんだとは思うよ? 卑屈になって、投げ槍になって、意味もなく周りを睨んで、理由もなく叫ぶ。「こうじゃない」って。
それもひとつの『青春』なんじゃないかな。
そんな青春真っ只中の当時の僕にとって、学校行事も進路もどうでもよかったんだ。お分かりかな? 君たち。
秋彦は言ったよ。誘った『彼』がいなくなってしまったんだから、もう七不思議を調べなくてもいいんじゃないかって。それは、なにより冬実と僕を思っての言葉だった。
春には一つ目の「歩道橋」で菜摘が消えた。彼自身、三つ目の「猫ノ集会」で消えていたかもしれない。
冬実は六つ目。僕は七つ目。担当となる七不思議が控えていた。
そうだ。もう『彼』はいないんだ。
「じゃあ、もうあの委員会も終わりかもね」
冬実がほんの少しだけ寂しそうに笑った。
出会った頃から彼女がかけていた眼鏡はそこにはなかった。
僕たちは勘違いしていた。この委員会の活動は自発的なものだと。だから、いつでもやめることができるんだと。言い出しっぺの『彼』がいなくなれば、七不思議の調査なんてしなくてもいいんだと。
数日後、僕たちは気づかされることになる。
七不思議はもう止まらない。僕たちは、七不思議を最後まで巡るように仕向けられていたんだ。
夏休み明けのテストが終わる頃、僕は委員会の部屋に立ち寄った。ほんの気紛れだった。
部屋の机には、最後に見たときのように日誌が置かれているものだと思っていた。でも、そこには何もなかった。
頭をよぎったのは暑い日にすれ違った委員会のメンバー。
冬実が六つ目、僕が七つ目。
じゃあ、五つ目は? そうだ。すれ違った彼。彼が担当だったかもしれない。七不思議の五つ目は
「ほこらだよ」
背後からいないはずの『彼』の声が聞こえた気がした。吃驚して後ろを振り向いても、当然そこには誰もいない。
ほこら
ほこら
化け物行列が向かった先は?
祠だ
僕はあの夜に駆け抜けた道をもう一度駆けることとなった。
その場所へはすんなりと行けた。化け物たちに追い立てられることもなかったけど、何かに導かれているような感じがした。
「コッチコッチ」
決まってる。消えた『彼』が祠の方から僕を手招いていたんだ。
僕に、七つ目まできてみろと。
その場所には誰もいなかった。行き止まりの道の終点にある一つの祠。真っ赤な夕日越しに佇む祠が、長く黒い影を伸ばしていた。
まるで、まるで。そう、血の池溜まりに墨汁を垂らしたような。赤くて黒い景色がそこにはあった。
祠の手前には、日誌が残されていた。
僕は日誌を手に取った。
『七不思議、五つ目は祠。
そう、そこには神がすむ。この俺すら認識できないほど高貴なる神が住む、小さな箱家と話は聞く。
時が満ちたりし時、扉は開く。そして選ばれし転生者たちを異世界へと導くのだ。神が招き入れたそこでは、俺たちは無限の力を手に入れて英雄となるのだ。
選ばれしものよ扉を潜れ。』
異様なほど意味が解らない文が書かれていた。
神? 箱家? 転生者? 異世界? 英雄?
まるで、どこかのゲームやライトノベルのワンシーンに出てきそうな文じゃないか。でもそれは、確かに、僕たちが調査する七不思議の一つについて書かれていた。
夢見がちな高校生。
嫌な現実。もし生まれ変われたら。神様によって自分は選ばれ、異世界へ召喚されて、特別な能力を与えられて、不幸なルートを乗り越えて、最後はヒロインとハッピーエンド。
自分は認められる。
自分は必要とされる。
必要とされたい。
認められたい。
幸せになりたい。
刺激が欲しい。こんな詰まらない現実世界なんて。
ああ、そうか。五つ目を担当した彼もそうだったんだ。おんなじなんだ。
僕は彼とは会ったことがないし、全く知らない。けど、同じ男子高校生なんだ。
どこにでもいる、一般男子高校生。
周りの景色に溶け込みすぎちゃって見えなくなる、そういうタイプの、一般人。世界にいなくてもいい、一般人C。
そんな人生や世界から飛び出したくて、夢を見る。
目の前にある小さな祠が異世界への、非日常への扉だとしたら?
あの化け物行列は何処へいった?
この祠の中へ、扉を潜って別世界へと?
僕は祠の扉に手をかけた。
異世界へと行かなくても、これは祠だ。祠の中には大切な何かが仕舞われている。
だって、祠なんだから。
神様が仕舞われているとは思っていなかったけど、きっと何かが仕舞われている。
祠の中には何がある?
祠の中には、誰が、いる?
僕はゆっくりと、その扉を、
開いた。
開いた先にあったのは
「ここからは、私の番だよ?
春咲君」
目の前が真っ黒に染まった。
とにもかくにも、一人の男子生徒が消えたらしい。
彼は何処に行ったのか、そもそもいつ家を出たのか、家族にすら知られていなかった。
彼がいなくなっても、日常は全く変わらなかった。
きっと僕もおんなじだ。
七不思議調査委員会のメンバーの数がまた一人減った。
もし何処かで彼と逢うことがあればさ。僕たち、話が合ったと思うんだよね。
全部、後の祭りなんだけど。
五つ目『祠』、調査終了。
次は、冬実の番だった。
葉が枯れ落ち、冷たい冬の足音がすぐそこまで迫っていた。
『五ツ目、祠』
扉を開いて奉れ
中に御座すは怪異なり
五つが不思議、いざ参らん
三つの不思議を通し行列
目指すは一つの祠なり
中に座りし神様の
お膝下へと侍るため
彼らはひたすらやって来る
中には神様祀るため
空虚な容れ物作られた
扉を閉じた祠は
時偶口を開けるだろう
中の神はどんな神?