桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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『学び舎』

チャイムが響く、僕の学び舎
あの子の声が廊下で響く
あの子がグラウンドで呼んでいる
あの子が教室で待っている
青空広がる校舎には
たくさんの思い出が残される

またあえるの?

さよなら
僕の青春
思い出だけを残して風は去る

もうあえないね

今でも残したものたちは
置き去りのまま



出席番号10番「7ページ目を追いかけて」⑧学舎

高校三年生の春に始まった、とある町に纏わる七不思議の調査。集められた調査委員会のメンバーとして出会った僕たち四人。

 

菜摘。一つ目の七不思議、歩道橋の担当だった。彼女は春、夏を前にして歩道橋の上から消えた。

秋彦。三つ目の七不思議、猫ノ集会の担当だった。彼は三日月の夜、猫の都合で裁判にかけられた。

冬実。六つ目の七不思議、鏡の担当だった。彼女は鏡の中に誰かを見て、いなくなってしまった。

 

冬実がいなくなった日、僕と秋彦は町中を探し回った。でも彼女は町のどこにもいなかった。

親友である菜摘のように消えてしまったんだろうか。もう、手遅れなんだろうか。

そう思いながら家に帰った。部屋の電気を着けると、机の上にはあるはずのないものが置かれていた。

七不思議調査委員会の日誌だった。

日誌は、今は六つ目の担当である冬実が持っているはずだった。

 

 

 

「さあ、次はきみの番だよ」

 

聞きたくない声が聞こえた気がした。

 

 

 

僕の手元に調査日誌が来る。それは、六つ目『鏡』の調査終了を意味していた。

ページを開けば、冬実の書く少し小さめな字で六つ目が書かれていた。

 

「はやくオイデヨ」

 

耳元で『彼』の声がキンと響く。

 

「うるさい!」

 

誰かに言われなくても当事者である自分がよくわかっていた。

今度は僕の番だ。

今度が、僕の番だ。

 

 

 

おまたせ。同級生のみんな。

これが僕の七つ目だ。

 

そう言って、僕は日誌を開いた。

 

 

 

 

 

 

七つ目は学舎。

 

それまで、誰も辿り着けなかったであろう七不思議の最後。これで七不思議は終わりになる。

始めはそう思っていたんだ。

 

約一年かけて僕に回ってきたこの日誌。これには、その一年の委員会のメンバー一人一人が七不思議を綴ってきた。

その前も、その前の前も、誰かがどれかの七不思議をこの日誌に書き残してきた。もちろん、最後の学舎みたいに何もわからなかったものある。

なんでこの七不思議は最後にいくに連れて出会いにくくなるんだろう。その理由は、僕たちの故郷にある七不思議と似ていた。

一つ目、二つ目と順番に巡らないと次の七不思議には出会えないからだ。途中で止めてしまえば次の七不思議には出会えない。だから、僕の担当する七つ目が一番難しい。内容の調査以前に、出会えるかすらわからないからね。

そんな七つ目の担当になった僕って、やっぱり運が悪いよ。

でも、そんな僕にもほんの少しだけラッキーだったことがあった。

それは、一個前である六つ目の調査が終わっていたこと。出会っていても内容がわからなくちゃ、その怪異でいなくなった人を探せない。六つ目でいなくなってしまった冬実を探すには、六つ目である『鏡』について知らなきゃいけなかった。

一つ目で消えてしまった菜摘は手がかりすら全くなかった。だから、彼女を探すことはできなかった。

六つ目であった冬実ならまだ間に合うかもしれない。

そう信じて、僕は日誌を開いたんだ。

 

冬実は書き残していた。七不思議、鏡についての調査内容を。

その鏡は何処にあるか。何を写すか。

手がかりをもらった僕は秋彦を引っ張って暗くなった道を行く。三度目となったその道は、物音一つ聞こえないほど静まり返っていた。

空を見上げる余裕もなくて、ただただ異様に寒かったことだけを覚えてる。吐く息が白く凍って、それだけが自分の居場所を示していた。

向かったのは五つ目の祠だった。

僕はその一年で二回そこへやって来たけど、一度もその中を覗いたことはなかった。

そう思っていた。

 

僕たちがそこへ着いたとき、祠の扉は開いていた。

、と思う。

真っ先に目に入ったのは丸い鏡。これがきっと七不思議の六つ目だ。

思ったのか言ったのか、覗き込むのが先だった気もする。

鏡の中にいたのは、

 

菜摘だった。

 

彼女は口を動かした。

「ふゆちゃんを たすけて」

彼女がどんな表情をしていたのか思い出せない。でも、その言葉は確かに僕たちのところに届いたんだ。

 

僕と秋彦は鏡に向かって手を伸ばした。

 

 

 

気がついたら

 

目が覚めたら

 

目を、開いたら

 

そこは学校だった。

 

 

 

「オカエリ。いや、ヨウコソカナ?」

 

 

 

七つ目は、学舎。

 

 

 

 

学校では、たくさんのことを学ぶ。そこに集まるのは、集められるのは、未熟な子どもたち。

体も心も頭も、全部が未熟な雛たち。空を飛べない雛たちは世界を知らない。

だから、よちよち歩き回るんだ。歩き回って、自分達の世界を作るんだ。

これこそ「子どもの国」。

 

そこには音がしなかった。

キーンコーン カーンコーン

空が青かった。

もっと遊ぼうよー

空が白かった。

空が黒かった。

空が赤かった。

こっちこっちー

知らない建物だった。

でも、どこか懐かしかった。

 

僕は何処かの教室にいた。椅子に座って、机の上に広げたノートに鉛筆を走らせていた。

書けた? 春咲君

隣の席に冬実が腰かけた。

俺のを参考にしてくれてもいいんだぜ? 春咲

後ろから秋彦の手が肩に置かれた。

ちゃんと終わらせてね。春咲君

机越しに菜摘が笑っていた。

 

巣でたった一人だった雛は寂しかった。だから、仲間を集めた。自分と同じような雛を、自分の巣へ引き込んだ。

雛は増えた。巣は大きくなった。

誰かが言った。

いつかは大人になって、ここを出て行かなきゃいけないのかな。

誰かが言った。

ずっとこのままでいたいな。

このままでいようよ。

コノママズットココニイヨウヨ

ソウダネ

ソウダヨネ!

 

ずっと雛のままでいることはできない。そんなのわかっているよ。

みんな、わかっているんだよ。

でも子どもでいたい。

子どものままでい続けたい。変わりたくない。大人になんてなりたくない。

外の世界を知らなくていい。

だって、自分達にはここがあるから。

 

知らない子が廊下を走っていく。

キャハハハハハ

知らない子たちが運動場で遊んでいる。

待ってよー

壁にかかった時計は動かない。

この指とーまれ

 

いつの間にか、僕は教室に一人残された。誰もいない教室は寂しくて、落ち着く。

誰にも邪魔されない、僕だけの空間。僕だけの、時間。

 

早く書いちゃいなよ

目の前に『彼』がいた。顔が見えない。でも笑っている。古い制服を着て、立っていた。

何処かで見たことがある気がする『彼』。何処にもいない『彼』。この一年、僕たちに七不思議について調べろと誘いをかけた張本人。

ほら、次の人にまわそうぜ

空が白かった。雲もないのに。太陽もないのに、ただ白かった。

 

僕はノートのページを捲った。

一ページ、二ページ、三ページ。白と黒のページが流れていった。

四ページ、五ページ、六ページ。見知った文字が流れていった。

これが、僕たちの一年。これが、僕たちの七不思議。

これが、僕の青春。

 

ページがパラパラ捲れる。

教室には風も吹いていないのに。

カーテンが風に煽られて捲れたまま止まっている。

時間は、進まない。

止まったまま、時間は進まない。

 

僕は。僕たちは。その一年をかけて七つの不思議を追ってきた。歩道橋から始まって、交差点、集会、行列。鏡を抜けて、学校へ。

僕は、七つ目の不思議を追いかけてきた。

ページが止まる。まだ何も書かれていない、真っ白なページだった。

ほら、君の番だ

そうだ。僕の番だ。

 

 

 

僕は、ペンを走らせた。

 

「七不思議、七つ目は学舎。

六つの不思議を通り抜け、たどり着くのは一つの校舎。

みんなが集まるその場所には時間が流れない。

ずっとずっと子どものままで。」

 

 

 

ずっとずっと、このままで。

 

 

 

これが、僕の七不思議だ。

 

ここが、僕の青春だ。

 

 

 

僕の七不思議は、青春は時間を、ページを止めて、ずっとずっと止まったまま。

青春という時間はほんの一瞬だ。花は散る。青空は雲がかかって夜になる。

だけど、このノートのページを開けばいつだってよみがえる。いつだって、青春の輝く瞬間に戻れる。

だから、ページを開き続ければ僕たちはきっとその瞬間に居続けられるんだ。

いつだって、僕たちはあえるんだ。

 

これが、僕の、七不思議。

 

ほら。君も七不思議を辿ってごらん。

ほら。君たちもページを開いてごらん。

いつだって僕たちはここにいる。

七ページ目を追いかけて、ここに来てごらん。いつだって、素晴らしい青春が君たちを待っている。

 

ほら、またあえるね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃあ、またハジメからイッテミヨウカ!




『七ツ目、学舎』

懐かしき時間をその身に刻め
七つが不思議、いざ参らん

鏡の向こうに在りし世界
黒と白で彩りし
時間を止めた故き世界
其処は似て非なるカレラの世界

巡れ巡れ
七つの不思議
廻れ廻れ
終わることなき永久の時間

ずっとずっとこのままで
変化と成長を拒む子どもたち

これが最後?
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