桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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『七ページ目を追いかけて』

僕たちの七不思議
一つ、二つと辿ってきた
追いかけたものは七つ目の先

ずっとずっとこのままで
七不思議は終わらない
ずっとずっとこのままで
巡って廻ってぐるぐる回る

子どものままでいたい子どもたち
きっと僕たちもおんなじだった

ずっとあえるよ


出席番号10番「7ページ目を追いかけて」⑨7項目

これで、僕の七不思議は終わりだ。

 

どうだったかな? みんな。

 

おいおい。どうしたの? そんな恐い顔して。

同級生じゃないか。

何をそんなに怒っているの?

 

余所者だって?!

何を言ってるんだよ?!

僕は君たちの同級生だろ? 友だちだろ? 仲間だろ?

 

 

 

ナンデソンナニオコルノサ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やあ、みんな。お待たせ。

今度こそ、僕の番だ。

長い話になっちゃったね。

でも、もうすぐ終わりだから。

あと、少しだけ。僕の話に付き合ってくれるかな?

 

季節は立春を目前にしていた。桃の花の蕾が膨らみ始めた頃に、

 

 

 

ヤメロ!!!

 

 

 

僕らの委員会活動は終わりを告げた。

 

僕たち三人は、

 

学舎から逃げ出した。

 

 

 

ヤメロ!!!!!!

 

 

 

子どもは子どものままではいられないんだ。どんなに居心地が良くても、外の世界を夢見て飛び出していく。

僕と、秋彦と、冬実は。その年の三月に卒業した。

 

 

 

僕らは大人になったんだよ。

 

 

 

どうしてこうなったのか。ちゃんと話すね、みんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七不思議の七つ目は、時間の止まった学び舎だった。そこには、秋彦も冬実も、消えた菜摘も、知らないうちに消えた誰かも、みんなが集まっていた。

 

このままずっとここにいたいな。

このままずっとこのままでいたいな。

 

頭がぼんやりしていた。何もかもが霞がかっていた。

そんな時に、僕は頬を叩かれた。見事な強烈ビンタだった。痛みに目を醒ますと、目の前には顔を真っ赤にして怒っている菜摘がいた。

「ふゆちゃんを助けてって言ったじゃない!」

消えたはずの菜摘が目の前にいる。それは、自分が菜摘と同じように別の世界へ来てしまったということだった。

そうだ。帰らないと。冬実を連れて、秋彦と三人で帰らないと。

「ここにいちゃダメだよ」

そう言って、菜摘は机の上に広げられたノートを指差した。七不思議調査委員会の日誌だった。

ただのノートだった。今まではそうだった。

僕は、ページを一枚。ぺらりと捲った。

冬実の書いたはずのページに、戻った。

 

ただの、ノートだっただろう?

 

ふざけるな。よくも僕たちを騙したな。

 

騙してないよ。だって、僕は僕なんだから、友だちの同窓会にいってもいいじゃないか。

 

その為に利用したのか? 菜摘も。他の子達も。

 

違うね。僕はいつも通り友だち作りをしただけだよ。

 

みんな、聞いてくれ。

今まで日誌を手にして読んでいたこいつは余所者だ。

気づいていた? 流石、僕の同級生たちだ。

こいつは、僕たちの巡った七不思議の首謀者。『彼』だ。

『彼』がその七不思議を始めた。彼が七不思議を回した。

『彼』は

 

 

 

八つ目の怪異。

『七不思議調査委員会』だ。

 

 

 

その瞬間、『彼』の口元が醜く歪んだ。

ずっと『春咲』である僕のふりをして七不思議を語ってきた『彼』は、あの日の僕と同じ姿をしていた。

輝く青春の時間を謳歌した、高校生の僕の姿だった。

 

 

 

『彼』なんて生徒は存在しないんだ。そこにあるのは、七不思議を調べさせて書かせるという仕組み。

一つ目の歩道橋を渡り、二つ目の交差点を通り、三つ目の集会で選別し、四つ目の行列で運んで、五つ目の祠の中にある六つ目の鏡に姿を写させる。姿を写された人は鏡を通って別の世界へ。そう、七つ目の学舎へ。

『彼』は鏡に写った姿を利用し、次の七不思議を書く人を探し出す。

毎年毎年同じように。

 

七不思議自体は解明されなくてもいいんだ。ただ、七不思議というものに少しでも触れることで

「ここにはこんな七不思議が存在するんだ」

という認識を植え付ける。

七不思議っていうのは繰り返せば繰り返すほど強いものになる。

ほら、僕たちの桜ヶ原に根付く七不思議のように。

でも、その七不思議の場合はラスボスとでも言うかな? 七不思議自体を呑み込む八つ目が存在してたんだ。巡った人を怪異と共に呑み込む存在。

『彼』は日誌だ。

日誌は書いた人を食べて成長した。初めは「七不思議について書いた人 」という限定的なルールを守って。でも、次第に日誌は力を付けて、ルールを守らなくても消えなくなった。町の外には出られないようにされてはいたけど。

日誌を通して魂を喰らう『彼』はどんどん力を付けた。七不思議のあるその町は、とうとう彼の天下になってしまった。

 

僕たち三人が再び鏡を通り抜け、元の世界に戻った後にその鏡は砕け散った。きっと、菜摘が向こうから割ってくれたんだと思う。

 

 

 

これで、僕の七不思議は終わりだ。

 

 

 

 

 

 

 

僕が八つ目である『彼』の日誌を持ってきたのには理由がある。

この日誌には僕や冬実、秋彦、菜摘を含めたたくさんの青春が入っている。

入っていると思っていた。

ページを開けばいつだって、輝くその時間に戻れると思っていたんだ。

 

そうだっただろ?

 

違ったね。

 

ナンデ?!

 

だって、あの時間はもう十年以上前の話だ。君が読み上げてきたこの日誌の中にいくらしっかり書かれていても、全部じゃない。

 

そっくりだっただろ?!

 

そっくりだったけど、本物じゃないさ。

覚えているはずがないんだよそんなにしっかりと。

いくら唯一の輝いて色鮮やかな青春だとしても、結局はそれも記憶の一つに過ぎない。過去なんだよ。全部、過ぎてしまったんだ。

僕たちの七不思議は終わったんだ。

 

オワッテナイ!

ボクガイル!

 

過ぎてしまった過去は、霞がかったようにおぼろになる。色褪せてモノクロになっていく。

きっと、きっと、それでいいんだ。

過去を振り返って懐かしむことができるからこそ、自分は歩んできたと思えるんだ。

今まで生きてきたと思えるんだ。

 

ボクタチハ!

 

僕たちは、子どもだった。幼かった。でも、大人になった。

ここにいる誰もがそうだった。

もう、お別れの時間なんだよ。

 

 

 

そう言って、僕はその日誌を破り捨てた。

 

 

 

それまでひらひらと頭上から舞い散っていた桜の花びらが、一瞬ピタリと止んだ。

 

 

 

 

 

 

僕は、同級生たちを振り返ってこう言った。

 

「また、会えたね」

 

最期に、また会えたね。

 

 

 

 

僕の青春は、菜摘と秋彦と冬実と、僕でできている。四人で作った青春という一年の一ページ。

日誌の中ではたった見開き七ページほど。

そのページを開けば、あの輝く時間が開かれる。キラキラときらめいて、カラフルに彩られた素敵な時間。

でもね。

開かなければ、思い出そうとしなければ、それらには埃が積もっていく。他の記憶もそうであるように、霧や霞がかかって見えにくくなる。色はモノクロになっていく。音なんて、録音できるものではないから思い出せるはずがない。

だって、過去を振り返った中で輝いているからこそ特別な青春なんだ。

もし、自分の中でその思い出を特別にしたいなら。何度でも思い出してごらん。何度でも、ページを開いてごらん。そうすれば、その度に青春はよみがえる。あの時間に出会えるんだ。

 

僕は、この青春が人生の中で唯一の大切なものだ。

だから、何度だって思い出すよ。絶対に忘れない。

そのために僕は何回も何回も七ページ目を、七つ目の不思議を追いかけてページを捲るんだ。

 

 

 

これで、僕の話はおしまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば、何で僕がおとなしく『彼』にずっと話をさせていたかなんだけど。

だってわかるよね。そいつが僕じゃないって。同級生か、余所者かなんてさ。

 

だって友だちだもん。

 

秋彦と冬実にはもう会えない。だって、僕の唯一の友だちだから。もちろん、菜摘にも。

だから、しっかり別れの言葉を残すんだ。

 

え、君たちには?

君たち同級生には、いつだって再会の言葉を送るよ。

また会おうって約束した友だちだから。

だから、また会えたねって言うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

破れた日誌のページが、風に流されて何処かへ飛んでいった。




『七ページ目を追い越して』

もう会えないね

いつかは僕らも大人になる
さいごに迎える卒業の日

もし君が
また会いたいと願ってくれるなら
僕はきっと忘れない
あの青春の一ページを
ずっとずっと忘れない

最期の最後に書き足す言葉は
別れの言葉と
ありがとう

これにて七不思議
終了なり

さあ
七ページ目を追い越そう
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