私の朝は食パンとともに始まる。
寝坊助な愛しの彼の為に、毎朝挟む具を変えて朝食のホットサンドを作る。食パンの耳を切り落として、前日の夜に決めておいた具をパタパタ挟む。トーストするのは家を出るギリギリで。
少しでも温かい朝食を食べてもらいたいから、彼ほどではないけど苦手な朝だって頑張って起きるよ。
切り落とした耳はまとめて冷凍庫へ。量がたまったらおやつのラスクに早変わり。仕上げに砂糖と、愛しの彼女が好きなシナモンパウダーをさらりとかけて、私たちだけの女子会に一役買ってくれるの。
毎週金曜日の夜は彼女との逢瀬の時間。私は甘いお菓子を、彼女はそれに合う飲み物を用意するの。机の上に並べて、たくさんおしゃべりする。眠くなってきた頃に、私のベッドで二人で眠る。彼女から香る花の匂いは、疲れた心も体も癒してくれる。アロマセラピーってやつ?
ひんやり冷たい彼女は、いつだって私の手に指を絡めて眠った。互いに名前を呼びあって、笑ってこう言うんだ。
「あたしたち、幸せだね」
「私なんて、幸せすぎて涙出ちゃうよ」
私よりも小さい彼女の体は、シーツと私の腕で包んだだけで見えなくなってしまった。
毎週土曜日の夜は彼との逢瀬の時間。
この日だけは外に足を伸ばして外食をする。仕事終わりに待ち合わせをして、二人だけで食事をして、軽いお土産を買って帰ってくる。割り勘で、しかもファミレスとかラーメン屋とか、ショッピングセンターのフードコートとか、そういう所でのデートだったけどすごく楽しかった。
お土産はいつだって、十花ちゃんへの花だった。花のデザインの雑貨だとか、本物の生花だとか、私も一緒になって選んだ。彼はね。いつだって幸せそうに笑って、これはこういう花なんだって優しい声で私に教えてくれるの。
家に帰るとね。いや、家っていっても同じアパートで隣の部屋なんだけどさ。
その、あの、ね、ほら、男女の恋人ってことで、こう、えっちなこともしたいなー、なんて、思っちゃったりもするんでありまして。えーと、二人で、お風呂、入ります。でも! でも! いかがわしいことはしてないから! ほらそこ! ニヤニヤしない! ちゃんと隠してるから! 入浴剤入れてるから! 隠れてるから!
あー! もー! 言わなきゃよかった!こんなの同級生にする話じゃないよね!?
でもね。こんな私でも、ちゃんと男女のお付き合いはしてたんだよ。もちろん女同士のも。
手も繋いだし、キスもしたし、結婚のことも考えてた。二人の部屋を行ったり来たりだったけど、私たち三人は結婚を前提に「同居」してたつもりなんだ。
春が過ぎて、夏が過ぎて、秋も過ぎて、冬も過ぎて。すごく、すごく幸せな時間はあっという間に過ぎていった。
ずっと、このまま三人でいられるんだと思っていた。
亡くなったお婆さんの部屋に新しい人が入ったのは、私たちが三人になってから二年くらいが経っていた。
私と、十夜さんと、十花ちゃんには暗黙の了解みたいなものがあった。それは自然とそうなったもの。
一つ。三人が揃って会うことはない。これは私が引っ越してきてからずっと変わらないことだった。なぜか、これを不思議に思うことはなかったけど、望まないということではなかった。
ただなんとなく、三人が揃ってしまえばこの関係も終わってしまう気がしたの。
一つ。浮気をしない。するはずないけど、一応ね。
一つ。体の関係を持たない。つまり、性行為をしないということ。十夜さんと十花ちゃんは兄妹だから、もし赤ちゃんができても産めない。
十花ちゃんは言った。確かにお兄ちゃんは好きだけど、そういうことをしたいわけじゃないって。男の人と女の人がそういうことをすると、赤ちゃん、できちゃうでしょ? あたし、赤ちゃんいらない。ずっと、ずっと、三人のままがいい。四人目も五人目もいらない。あたしたちだけがいい。そう言ったの。十花ちゃんは絶対に性行為をしない。だから、私も十夜さんもしないんだ。私も、三人のままがよかったから。それは十夜さんも同じだった。
私たちの同居生活は、常に最低布一枚分は距離をおくものだった。私と十花ちゃんが同じベッドで眠るときはパジャマを着て、私と十夜さんが一緒にお風呂に入るときは水着を着て。
なんでそんな面倒なことをするのかって?
それが私たちの間の約束事だったからだよ。
なにかしらルールを作って守らないと、「同居」生活はうまくいかないの。例えば家事の役割分担、生活時間、門限、ペットの管理、ネットの利用時間と制限。ほら。誰かと住むと、こんなにも自然に決まってくるルールがある。どれも簡単なものでしょ? 私たち三人にとっての守らなきゃいけないルールがその三つだったってだけ。三人で暮らすために決めた、守らなきゃいけないルールがその三つなの。
私たちは「三人で同居」していたの。
「三人で」していたかったの。
三人でいたかったの。
だから当然、その空間の中に他人を入れることなんてしなかった。家族とか大家さん、管理人さん、業者の人は別にしてもね。もちろん、友人や同僚は外で会った。
でも、ある日。そんな私たちの近くに、空気の読めない土足で踏み込んでくる大馬鹿者がやって来たの。
下の階に女性が引っ越して来たようだった。
次回、クソキモババア来襲の回(笑)