桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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出席番号13番「Hello my dear.」⑥

『五花ちゃんはみえないものが見えちゃう』

 

私は、昔から人によくそういう風に言われた。実際、他の人よりも『ちがう』ものが見えていた。伸びた尻尾の影が途中で二股になる昔から神社に住む猫。線路に座る両足のない女の子。暴走族のお兄さんの横にいる黒いフードを被った死神。首から上のない美容師さん。

桜の木の下で誰かを待ち続ける着物を着たお姫様。

どれも、普通の人には見えない『モノ』たち。見えてはいけない『モノ』たち。

 

小学生の頃、私は彼らが他の人には見えないのだと知らなかった。たまに見える人はいた。でも、いつも見える人は本当にごくわずかだった。同級生たちは信じてくれた。見えなくても、信じてくれた。彼らはそこにいるんだって。そして、教えてくれた。彼らを見ないことが、見えないことが幸せなんだって。

中学生になって、私は彼らの話をするのをやめた。それでも、確かに見えていた。

高校生になって、見えない振りをすることを覚えた。時折、小学生の頃の同級生に

「彼らは見えなくなったの?」

と聞かれることがあった。私は自分を指差して答えた。

「見えてるように見える?」

同級生たちは首を横に振った。私は、見えない振りをすることが上手くなった。

大学生になって、見えていることを忘れかけた。私は目の前のことから目を背けて、なおかつ目を閉じようとした。

 

これでいいんだ。そう思っていた。

 

でも、あのアパートで私は出会った。

十夜さんと十花ちゃんに。

 

十花ちゃんと初めて会ったとき、私たちはとても驚いた。私は、彼女がまるで生きているかのように『そこ』にいることに。十花ちゃんは、死んだ自分のことを私が見えていることに。

「はじめまして。私、五花っていうの。今日、隣の部屋に引っ越してきたんだ。よろしくね」

これが、私と十花ちゃんの出会いだった。

 

十夜さんの口から直接十花ちゃんのことが出たのは、意外と時間が経ってから。

ある日の朝、挨拶のついでに十夜さんが、妹のこと見えてるのか? って聞いてきたんだ。もちろん、私は見えてますよって答えた。まだ、私たちが付き合ってない時の話。

詳しいことを知ったのはそれから更に一年近く経ってから。

十花ちゃんの年齢はね、私と同じなんだ。でも、それにしては体が小さいの。身長は確かに私と同じ。でも、体が薄いっていうか細いっていうか。痩せてるとは違うんだ。それは、成長途中の未発達な体つきって言うのがしっくりくる見た目だと思う。

なんでだろうってずっと思っててね、十夜さんに聞いてみたんだ。そうしたら、十花ちゃんが亡くなったのは高校二年生の桜が咲く日。十夜さんの卒業式の日だったんだって。いつも自分の好きな花をくれる十夜さんに今日だけは絶対に自分から花を贈ろうって張り切って、当日までバレないようにって家から遠く離れた場所の花屋に通って、特別な花束を注文して、さあ受け取りに行くぞって時に。

 

トラックにはねられた。

 

その花屋は車通りの多い道の横にあったんだって。運が悪かったんだって、十花ちゃんはその時のことを笑って話してたよ。たまたまだったんだって。

そうだよ。たまたまで命は簡単に刈り取られて枯れていくの。だから、彼女は自分の命を奪ったトラックの運転手を恨んでいない。

でも私は釈然としないんだ。だって、本当に楽しみにしてたんだよ。花を贈ることも、贈られることも。

結局、十花ちゃんはその手で十夜さんに花を贈れなかった。それに、彼女自身が花を贈られるはずだった卒業式すら迎えることもできなかった。

贈られなかった花束はね。今でもちゃんと、十夜さんの部屋にあったんだ。ブリザードフラワーとして、彼の部屋の壁に大事に大事に飾られていたの。私は何度も何度も見てる。

 

 

 

もう、ないけれど。

 

 

 

 

 

よくもやってくれたな、あの女。

 

 

 

 

 

今回、あの女が仕出かしたことに対して一番怒っているのは十花ちゃん。呆れているのがこの私。じゃあ、十夜さんは?

十夜さんは哀しんでいる。

 

私と同じように、みえるはずのないものが見える十夜さん。私には受け入れてくれる友人たちがいた。でも、彼にはいなかった。彼はずっと受け入れてくれる人がいなかった。

唯一信じた妹はもうこの世にはいない。「死んだ妹が見える」と言う十夜さんに対して、周りはどんな視線を浴びせたんだろう。周囲は彼の個性を拒絶した。だからきっと、彼も周囲の視線を拒絶した。

そして、彼は十花ちゃんと二人きりの同居を選んだ。

普通の人から見れば一人暮らし。でもね。私から見たら幸せそうな二人暮らしだったんだ。

十花ちゃんから花の香りがする度に、今日も十花ちゃんは愛されてるなって感じるの。毎日忘れられることなく花が生けられているなって。

 

二人は本当に幸せそうなの。それを言ったらね、彼ら何て言ったと思う?

「五花(お姉ちゃん)がいるからもっと幸せになれたよ」

だって。

自分たちのことを理解してくれて、好きになってくれて、幸せだって。

 

 

 

 

 

 

ねえ、みんな。

私、本当に幸せなんだ。そんな二人と一緒にいられて、本当に幸せなの。

今までも、これからも、ずっとずっと、ずぅっと、一緒にいたいんだ。

だからね。

この同窓会が終わったら、二人をみんなに紹介したいんだ。

いいでしょ?

いいよね。

 

よかった。

大丈夫だよ。二人とも、ずっと一緒だって約束したんだもん。

三人で、ずっとずっと一緒だって、約束したんだもん。

 

こっちにくれば、ずっと一緒にいられるでしょ?

 

 

 

私は眠った。そして、次の日ちゃんといつも通り起きた。

十花ちゃんは、まだ私の横で目を閉じていた。ほんと、可愛い私の恋人。少しだけ、花の香りが薄らいでいた。私はもう一人の恋人に会うために、ベッドを降りた。

自室に戻ると、十夜さんはまだ眠っていた。相変わらず朝が弱いお寝坊さんだね。ちょっとした悪戯心から、彼が眠るシーツの中に潜り込んだ。あったかいなぁ。私はそのまま、彼が起きるまで二度寝をすることにした。こういうのも同居の醍醐味だよね。結局、起きた彼に怒られるんだけど。

 

起きた彼と朝食を食べながらどうするのか話し合った。警察に届けるか、ネットに晒すか。よし、ネットに晒すか。とりあえず、前日に撮影した荒らされた部屋の写真を一部ネットに載せた。もちろん身バレ防止はしっかりして、キモババアの罪をしっかり不特定多数の人に見てもらう。でもきっと、あの女はこんなことじゃ悔い改めない。こんなんじゃ罰にはならない。

「罰」は罪を自覚しないと罰にならない。

私たちは管理人さんに連絡しながら、これからどうするか考えていた。このままじゃ、あの女は同じことを繰り返す。そう思ったの。それだけあの女の日頃の行いが悪かったってこと。

十夜さんは警察に任せることを提案した。彼はおそれていたの。

仮にあの女を問い詰めたとして、何であんな女の子の部屋なんてあるのかと言われるのが関の山なんだよね。その時、何て答えればいいの? 妹の部屋だって? じゃあ、あの遺影は? 花は? 肝心の、その「妹」はどこにいるって? 正直に言ったところで誰も信じてくれないよ。数年前に死んだ妹がまだそこにいて、その妹の為に部屋を使っているなんて、私みたいに見えていない限り誰も信じない。

彼がおそれているのは信じてもらえないことと、自分が見ているものを否定されること。自分はおかしいんだって、言われること。

 

報告だけして、もう少し様子を見よう。そうなったの。

少なくても、彼の中ではそのつもりだったんだ。

 

でもね、私の中ではそうじゃなかった。十夜さんと十花ちゃんを傷付けた、哀しませた、バカにした。私の、私たちの大事なものに土足で踏み込んで荒らした挙げ句に、あの女は、あの女は!

十夜さんが自分のものだってアピールしてきたんだ。

なんという勘違い女。

 

十夜さんは私のものだ!私たちのものだ!

『十夜お兄ちゃんも五花お姉ちゃんもあたしのものだ!』

 

 

 

 

 

私は。

私たちは。

ほんの少しだけ他の人たちと見える世界が違った。愛した人が兄妹であったり、同姓であったり、他の人と違うものが見えたり。

 

死んでいたり。

 

死ぬ運命がすぐそこまで見えていたり。

 

もういない人と一緒に居続けたり。

 

ただ、見えている世界をわかりあいたくて、隣にいたくて。受け入れてもらいたかったの。自分の世界を。

だから私たちは同居しようと決めた。一緒にいることで、一緒に生きることで

 

私たちは互いに依存していこう

 

そう、言ったの。

 

 

 

ごめんね、十夜さん。

私、あの女を我慢できなかったの。

 

十夜さんが十花ちゃんの部屋に生ける為の花を用意すると言って部屋を出ていった。彼が忘れないで花を供えればね、不思議と亡くなった人も生前の様に生き生きとした姿になるの。だから、十花ちゃんもずっとあの部屋にいられたんだよ。

 

残った私は机に向かった。

さいごの言葉を書き残そうと、レターセットとペンを取り出した。

三枚の手紙を書き終わると、封をし宛名をそれぞれ書いてポストへ投函した。

そして、私はあの女の部屋の扉の前に立った。

 

さいごにどうなるのかは、なんとなくわかっていた。

 

私は




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