桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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そうして


出席番号13番「Hello my dear.」⑦

これが私のとっておきの話。

 

え? それからどうしたのかって?

うーん、ここにこうして同窓会に出席してるって時点でわかんないかなー?

 

結果的に言うと、その女に殺されました。以上。

 

ごめん、ごめん! もっと詳しく話すから怒んないでよ!

えっとね、私はあの女の部屋のドアを叩いたんだ。ノックね。

あのアパートにはちゃんと呼び鈴はあるんだよ。あるんだけど、私は「叩いた」んだ。ちょっとした噂があってね。あのアパートでは扉をノックされると、ノックされた方は近いうちに亡くなるっていうのがあったんだ。で、その噂は誰が流したのかもわかんないんだけど、いつかは入居者の耳に届くだろうってことで契約時に管理人さんから話がいくの。こういう噂がありますよ、ってね。だからアパートに住む人は誰だって知ってるの。もちろん私も、十夜さんも、十花ちゃんも、そしてあの女もね。

 

だから私、叩いたの。

ちからいっぱい、ね。

 

 

 

『ダンッ!

 

ダンッ!

 

ダンッ!』

 

 

 

怪奇現象じゃなくても驚くくらいのノックだったと思うよ。

あははっ

それに、その噂を知っていたらもっと驚くんじゃないのかな。

 

それだけ私は頭にきてたの。

でもね、頭の中ではちゃぁんとわかってたんだ。逆上したあの女が包丁片手に出てくること。もし手に持っていなくても、それから私が言う言葉で絶対に殺しにくる。

 

 

 

『ガチャ』

 

 

 

私だとわかった瞬間、あいつは刺しにくるかもしれない。だから扉が開いた瞬間、あいつが出てきた瞬間、私は笑って言ってやったんだ。

 

 

 

『私たちの十夜さんに手を出さないでくれる?』

 

貴女、二階にある十夜さんの部屋に勝手に入ったでしょ。

貴女、女の子の部屋ぐちゃぐちゃにしたでしょ。

貴女、女の子の写真ダメにしたでしょ。

貴女、十夜さんのベッドでなんかしたでしょ。

貴女、自分がなに仕出かしたかわかってないでしょ。

 

ねえ、なにしてくれてんの。

ねえ、十夜さんがどんな気持ちか考えろよ。

ねえ、貴女がしたこと犯罪だよ。

ねえ、貴女気持ち悪いよ。

ねえ、

 

ねえ!

ねえ!

ねえ!

 

なんか言ってみなよ!

 

あの人は私たちのものだ!

貴女みたいなキモババアに入る隙なんてないんだよ!

ただの他人はお呼びでないの!

 

私の邪魔をするな!

あたしたちの邪魔をするな!

 

 

 

 

どこまで言ったとこだったかな。

あの女、急にガタガタ震えだしてね、部屋の奥に引っ込んだんだ。あ、その時は結局包丁は手に持ってなかったよ。戻ってきた時には持ってたかな。

 

あははっ

いい気味だっ

あははははははっ

 

はあ。それでね。

戻ってきて顔面真っ青な逆上したキモババアに刺されたってわけ。

ざっくり、とね。

 

 

 

『ザクッ』

 

 

 

その後どうなったのかは、さすがにわからないな。

 

私の記憶が正しければ、そうなったのは201×年のこと。同窓会の予定までまだ時間があった。

暇ですねー。

暇ですよー。

早めに集合場所に来て待っててもよかったけど、私には愛しい恋人たちがいたから一人にはできなかった。

だから、ここに来る直前まで十夜さんの部屋にいたんだ。もちろん、三人で。

 

 

 

私が最期に遺した手紙にはね。私が死んだ後こうして欲しいっていうことが書かれているの。

 

 

 

一枚目。管理人さんへ。

十夜さんの部屋が不法侵入され、荒らされたということ。その犯人があの女だということ。あの女が私を殺すかもしれないということ。その理由である、十夜さんと自分は交際をしているということ。

お世話になっていながらこういうことを招いたことへの謝罪。

家賃を振り込む口座にまとまった金額を入金したこと。死後、私の部屋の片付けは十夜さんに一任すること。

最後に、今までお世話になり、とてもよくしてもらったことへの感謝。

本当に、本当に、ありがとうございました。

 

 

 

二枚目。両親へ。

管理人さんへの手紙と同じように、そうなったことの経緯。

遺品について。見られて恥ずかしい物はない、と思う。

同窓会について。私は、出席するということ。

今まで育ててくれたことへの恩義、感謝、それと言葉にできないくらいの愛情。

大好きだったよ、私の二番目に愛した人たち。

最後に、別れの言葉と、遺骨の行き先について。

どうか、私の骨は桜ヶ原の桜の下に埋めて欲しい。私の、一番愛した人たちと一緒に埋めて欲しい。

そうすれば、またきっと、あえるから。

 

 

 

三枚目。十夜さんへ。

彼への手紙には特に何も書かなかった。書いたことといえば、そうだね。詳しいことは戻ってから話すから、お花を生けてね。それだけ。

彼が花を生けてくれる限り、私は彼の元に帰ることができる。私は信じている。だって、同じような世界を見てきたんだもん。

 

 

 

私たちはね。

同じ様に世界を見たいと思っていたの。でもね。そんなのできっこなかったんだ。全く同じ様に世界を見ることなんてできないの。

だって、私たちは別のひとなんだから。

違う道を歩いてきて、違うものとであって、違うように感じてきた。見え方は同じでも、見てきたものが違うんだ。

同じ一つの世界に生きている。そう、まるで大きな家に同居しているように。でも、生活の仕方も、起きている時間も、することも違う。

同じ一つの窓から見える景色は違っているんだ。

 

私は、桜が咲き続ける少しさびしい夕暮れの景色を。

十夜さんは、夜に花が咲く幻想的な景色を。

十花ちゃんは、時間を止めた枯れることのない花畑の景色を。

私たちは一つの窓から見ていたんだ。見えた世界は違っていた。

 

それでもね。

違う世界でも、似ているように見えてはいたんだ。

簡単に言っちゃえば、私たちの世界には花が綺麗に咲いていた。同じじゃないけど、それでいいんじゃない? 今は、そう思うんだ。

きっと、これから私たちが見る世界は一つになれる。同じ世界を同じように見ることができる。

夜を背景に、散らない桜が花畑の上で咲き続ける世界を、三人で見続けることができると思うんだ。

 

それが幸せなことなのかは、解んないけれど。




死んだ人といるとね。
ほんの少しだけ、おかしくなっちゃうんだ。
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