『緊急搬送された』
『誰が?』
『あいつだよ』
七不思議、三つ目の担当をしてる「眠りウサギ」
同じ教室で過ごしていた時から眠ることの多かったそいつ。
ついたあだ名が「眠りウサギ」。
一時期は病気か?と疑ったこともあったけど、いたって健康だった。
でも、中学・高校と上がるに連れてそいつは変な夢を見るようになった。
今日はこんなだった。昨日はこんなだった。
俺はよく、そいつから夢の話を聞かされた。初めて変な夢を見た時も、真っ先に俺の方へ向かってきたそいつ。
俺たち同級生は仲がいいと思う。
他のとこがどんなかは知らないけど。
隠し事なんてあり得ないし、男女関係なく付き合いがあった。「いじめ」なんて言葉を知ったのは、進学でバラバラになって外に出た後のことだし、中には人ですらない同級生だっている。
事故で亡くなったやつの代わりに教室へ通い続けた猫。それがさくらだ。正式でないにしても、この猫は俺たちの同級生。
その関係は大人になっても続いている。中には同級生同士で婚約したやつらもいたし、地元に長い間帰ってこれないやつもいた。
でも、半分以上が地元に戻って就職するなりして外に出たやつらの帰りを待ってるんだ。俺は地元就職組の一人。
毎年、恩師の墓には大量の手紙と花が届く。
「また、みんなで集まろう」
そう俺たちは約束している。
誰も欠けることなく、また会えるんだ。
そんな「同級生」の中で何でそいつが俺に話を持ってくるかなんだけど。
単に俺が怪奇オタクだから。
UMAを信じてるやつとか、寺の家のやつとか、変なやつに好かれるやつとか。いろいろいるんだけど、怪奇現象全般に詳しいのは俺だな。
だから、大抵何が起こっても冷静に分析できるんだよ。あと、どんなはっちゃけたことでも信じる。
嘘だったら論破する自信はそこそこあるし、みんなからも何か変なことでわからなくなったらひとまず俺!ってくらい一目置かれてる。
だからだな。
そいつ「眠りウサギ」が俺に夢の話をしてたのは。
俺たちの地元にはさ。七不思議ってのがあるんだ。
あるきっかけがあって、その七不思議をクリアしよう。そう言い出したのは俺だった。
同級生に七不思議を割り振って、解明に乗り出したんだ。
バカだと思うだろ?
バカなんだよ。
バカみたいに信じた。
一つ目が「切り株」。
これは、母校の小学校に実際あったし、生徒の中でも話が有名だった。
さすが、一個目だよな。
この切り株は今でも学校にある。
ちゃんと探せば、古い文献も出てくるんだ。
二つ目が「バス停留所」。
これは、古い地図をもとに実際に回らないと話にならない。
大事なのは「地図」じゃなくて、「停留所」。辿る道のルートじゃなくてポイントさえ押さえればなんとかいけそうだった。
そして三つ目。
これが「砂時計」。
「眠りウサギ」が担当したやつだ。
さて、怪奇オタクの俺から「砂時計」の話をさせてもらうわけなんだけど、長くなるぜ?
あと、勘違いしないでくれよな。
この「砂時計」の話を解くのは眠りウサギであって、俺じゃない。
俺はただのヘルプなんだ。
本を漁って調べるのは簡単だ。でも、現実はその内容の通りとは限らない。
今、「砂時計」の七不思議を体験してるのはあいつなんだ。
それにさ。
俺の担当は七つ目なんだぜ?
じゃあ、始めるか。
『砂時計』
砂時計って知ってるか?
見たこと、あるか?
上と下に分かれていて、砂が落ちていくんだ。その時間が一定だから時計として使える。「時間を知る」というより、「時間を計る」時計だよな。
砂は上から下へ流れていく。
流れきった砂は、時計を逆さにすることでまた流れ始める。
砂時計っていうのはそういう物なんだ。
俺たちの町にある七不思議の「砂時計」の話、聞いてくれ。
これは、上書きされる前の七不思議だ。
七不思議、三つ目。
「砂時計」
この町のどこかにある池には砂時計が沈んでいる。
砂時計の中の砂は落ちきっている。だから、池から出して逆さにして欲しい。時間を進めて欲しい。
時間を進めてもらえたら、砂時計は何かお礼をしてくれるだろう。
そういう話が七不思議として残っていたんだ。
池の名前も場所もしっかり文献に示されていた、ちょっとファンタジー?な七不思議。
そんな印象を、始め俺は持っていた。
実際に体験したことのある人の手記やら何やらを調べた。
一つ目の「切り株」もそうだったけど、簡単な七不思議ほど体験談は多い。
それでわかったこと。
この「砂時計のお礼」っていうのは、未来予知らしいんだ。
ある人は自分の結婚する女性を。ある人は命の危険にさらされる事故を。ある人は人生で重要な影響を与える人との出会いを。
夢の中で見たらしい。
そして、それは的中する。
砂時計をひっくり返すだけでこんなお礼がもらえるんだったら、ラッキーだよな。
ただ、連続でこんな幸運は起こるはずないだろ?
まず、そもそも池があったとしても砂時計があるかは分からない。
沈んでる砂時計なんて見えねぇよ。
第一、砂時計って沈むほどの重さあるのか?
砂時計があったとしても、砂は落ちきっていないと「お礼」は発生しない。
そりゃそうだ。落ちている途中の砂時計は、いきなりひっくり返されても感謝しない。
運が良かったら更に運が良い「お礼」が手に入るんだろ。
そういうもんだ。
そういう七不思議だったんだ。
かつてはな。
悪意の全くない七不思議。
もし、砂時計を探そうと池に入って溺れても自己責任だ。七不思議は関係ない。
実際、そこそこ池での水難事故とかあったらしいけど欲を出した報いだ。
でも、今はそんな七不思議じゃない。
現に、眠りウサギはうなされて眠り続けている。体はげっそりと衰弱しているよ。
どうしてこんなことになったのかって?
この七不思議がこのままだったら問題なかったんだ。でも、変えられた。
池が埋め立てられたんだ。
砂時計は、もう時間を進められない。
まずは、眠りウサギから聞いていた夢の話からだな。
あいつの「変な夢」の始まりは、今考えるとまんまその七不思議だったんだ。
池の中に沈む砂時計を手に取る夢。
それを皮切りに、誰かの死ぬ時の夢を見始めた。それも、その死ぬ人の視点でだ。
なんでその「変な夢」が「誰かの死ぬ時の夢」かわかったかなんだけどさ。
ある時の夢の中であいつ、夢の中だと違う人なんだけど、同級生の名前を呼んだらしいんだ。そりゃ、知ってる奴の名前くらい夢の中でも呼ぶだろうさ。でも、夢が夢だったからその名前の奴に確認したんだと。
当時、俺たちは小学生。
名前の奴は、近場で亡くなった人はいないって言った。
名前を呼んだ声は、しゃがれた爺さんの声だったんだと。
確かに両隣の家にそれぞれ爺さんと婆さんが住んでいるけど、まだまだ元気だぜ?そうそいつは言っていた。
数年後、その両隣の家の爺さん婆さんが亡くなった。
たまたまだろ。俺たちはそう思った。
たまたま爺さんの夢と婆さんの夢を見た。それが本人たちかは分からないけど。
それでおしまい。
とはいかなかったんだな。これが。
「変な夢」が「誰かの死ぬ時の夢」だと断言する理由はその後にあるんだ。いや、実際は死ぬ瞬間の夢じゃなかったんだけどさ。
きっかけは大雨続きの末に起こった土砂崩れ。
名前を呼ばれた奴、「両隣の家」の奴な、そいつの家の一帯が土砂崩れに呑まれたんだ。
マジか!ってそいつの家だっただろう所へ行ったら変なことになってた。三軒続きのそいつの家。爺さん、そいつ、婆さんっていう風に家が横に並んでたはずなんだ。
土砂崩れってこんなだっけ?って笑うくらいの状況だった。
婆さんの家だけ綺麗に土砂に呑まれてて、他の二軒は無傷。な?笑えるだろ?こんなのあり得ねぇって。
ふざけて俺はそいつに言ったんだ。
「お前、なんか憑いているんじゃね?」
そいつは同級生の家の寺に行ったとき「憑いてますね」って言われたそうだ。泣いてたぜ、そいつ。
で、何が憑いていたかというと、隣に住んでいた爺さん。もう亡くなってた爺さんだ。
「え、憑かれるくらい親しかったのか?」って俺は聞いた。そしたらさ。そいつは逆だって言ったんだ。自分に対してずっと雷おやじだった、ってさ。いつもキツく厳しく当たられてたって。
でもおかしいよな。土砂崩れで無傷なのはその爺さんのせい以外考えられねぇじゃん?
それで思い出したんだよな。「変な夢」。夢の中で爺さんはそいつの名前を呼んで謝ってたらしいんだ。
こじつけかもだけど、その爺さん、最期に後悔してたんじゃないのか?
それともう一つ。その土砂崩れが起こって片付けるまで誰もしらなかった事実。
両隣の家のもう片方に住んでた婆さんなんだけどさ。床下に事故で先立った旦那さんと愛犬の骨を埋めてたそうなんだ。まさに「真実は墓場まで」ってな。
その婆さんが死んでも隠した、本人の意思で隠していたかは分からないけど、「骨を床下に埋めた」という事実。土砂崩れで家が崩壊するまで誰も知らなかったし、気づきもしなかったそうだ。
でも、ただ一人。いや、婆さん本人ともう一人と言うか。
知ってた奴がいるんだ。
そう。眠りウサギだ。
爺さんの夢とは別にあいつは、婆さんの「床下に骨を埋める」夢を見ていたんだ。
亡くなった本人以外知らないはずのことを夢に見た。
俺は、それを理由に断言した。
お前が見ている「変な夢」は、実際の瞬間かは別として「誰かが死ぬ時の夢」だ。
これがよくなかったのかもしれない。
あいつ自身が「これは誰かが死ぬ時の夢だ」って自覚しちまったんだ。
しかも、話だと夢の中じゃ「誰か」は「自分」。何回も何回も自分が死ぬ夢を見てるのと変わりないだろ?
しかも、夢を見る度にその「変な夢」を見るらしいんだ。
夢の相談をされたの、10や20じゃ納まらない。
あいつのあだ名。
「眠りウサギ」な。
学生の頃に付けられた名前なんだけど、その理由がこれなんだ。
熟睡できないんだよ。あいつ。
毎回そんな夢を見るんじゃしょうがないよな。だから、いつも時間があれば眠ってた。というよりも、あれは意識を失ってたの方が正しいかもな。
始めはまだまし、夢の内容も回数も、だったけど、段々ヒートアップしてきてさ。高校卒業は辛うじてできたけど、受験に受かった大学は中退した。
中退するって相談をそいつから受けたとき、目の下には濃い隈があって睡眠薬を常用しているって聞いた。眠っているのに眠れていなかったんだよ、そいつ。
週に数回だった相談が毎日になって、日に一度だったものが数回になって。
その度にそいつは、夢の中で死んでるんだよ。俺だったら耐えられない。
それでさ。
最近、妙なことを言い出した。
夢の中で君に会った。
同級生~さんと会った。
あれはきっと~くんだ。
その「変な夢」に俺たちが出てくる。
眠りウサギはそう言い出したんだ。
どういうことかわかるか?
夢の中で「同級生と会う」、「夢の中で自分が同級生になる」ってことの意味。
同級生の死ぬ時を見るって、そいつは言い出したんだ。
眠りウサギはな。俺たちのクラスの中でも気が弱いんだ。すぐに何かあると「どうしようどうしよう」「大丈夫かな」「こわいこわい」。すぐプルプル震えてさ。まさに弱虫ウサギ。でも、誰よりも俺たち同級生のことを大切に思ってくれてる。そんなやつなんだ。
そんなやつが俺たちの最期を見る。
そんなの耐えられるわけねぇよ。
やつれたあいつから話が来たとき、第一声から「どうしよう」だぜ?こっちが「どうしよう」だよ。話の最後になってくると、もう、泣いてた。
どうしよう、みんながあんな終わり方を迎えてしまう。どうしよう、僕には何もできない。
俺にもさ。何にも解決策はなかったんだ。
ただ、やつれていくあいつを見ていることしかできなかった。
どうしてそんな夢を見るのか。
俺には分からなかったんだ。
だって、当時の俺は、七不思議の三つ目がこんなことになるなんて予想もしていなかった。
池も砂時計も、まだちゃんと残っている。
そう思っていたんだ。
ちゃんと調べておけばよかった。
そうすれば、少なくともこんな風にあいつを苦しめなくて済んだのかもしれない。
話は現在。
あいつが緊急搬送された病院の、病室の前。
俺と、すぐに集まれた同級生たちが頭を抱えていた。
「どうすればいいんだよ」
「これって七不思議なんでしょ?」
「このままじゃあいつ」
決まってる。
「やるしかないぜ」
みんなの視線が俺に向けられる。
「この七不思議を解明する」
今起こっている、この七不思議を解明するしか眠りウサギを救う方法はない。
あいつは、俺たち同級生の最期を見てしまった。
耐えきれずに持っていた睡眠薬をありったけ飲んだんだ。全部終わらせよう、って。自殺未遂を起こしたんだよ。
これを招いたのは七不思議なんかじゃない。
俺たちの甘さだ。
なんとかなるだろうと甘く見たから、あいつを苦しめた。
ごめんな。
「これが七不思議の一つだったら、解明するしかないだろ。
俺たちの手で解明するんだ」
どうか、どうか、ひとつの願いのもとに集まった仲間たちよ。
「みんな、力を貸してくれ」
その場にいた全員が頷いた。
今、あいつはどんな夢を見ているんだろう?
たった一人で終わらない夢を見続ける「眠りウサギ」。
終わらない悪夢を見続ける「眠りウサギ」。
なんでこんなことになったんだろう。
俺たち同級生全員がのぞんだ「七不思議」の先は、こんな結果じゃなかったはずなんだ。
俺たちが望んだのは、あの人との××なんだ。
ああ、ごめん。
俺の独り言だ。
とにかく。
俺たちはクラス全員でこの「砂時計」の七不思議を解明することになった。30人、眠りウサギを除いてだから29人、全員でだ。
絶対、助けてやるからな。
信じて、待ってろよ?俺たち、友だちだろ?
俺は眠り続ける眠りウサギのベッドの横にイスを引っ張ってきて、一冊のノートを広げる。そこには、眠りウサギが「砂時計」に関して調べたこと、見た夢のことが細かく書かれている。
ほらみろ。あいつはしっかり努力しているんだ。
俺は居残り要員としてこの場所に残された。
まずは、わかりやすいところから。
あるはずの七不思議「砂時計」はもう話したよな。
それと、実際今七不思議を経験している眠りウサギがどうなっているのかも。
じゃあ、次は「今、以前の七不思議のやり方を辿ったら」だな。
もうすぐ連絡が入るはずだ。
砂時計が沈んでいるはずの池は近くだから。
俺が知っているのは、人づてに聞いた話だけ。
「その池、ちょっと前に埋め立てられたぜ?」
いつだったか、そんな話を聞いた。
実際には見に行ってないんだ。
ああ、電話だ。同級生の現場に行ったやつらからだ。
ああ、うん。おい、なんか犬吠えてるぞ?さくら連れてったんだろ?大丈夫か?
いや、それ犬か?犬なのか?おーい、さくら大丈夫かー?んー、まあいいか。
で、そっちどうよ?そっか。やっぱりな…さんきゅ。どうすっかな…
ああ、一旦戻ってきて
うわ!うるさ!おい、なんか変だって!それ、やっぱ犬じゃないって!
…あ、切れた
変な電話だったな…
同級生からだったぜ?池を見に行ったやつら。
池はもう影も形もないってさ。埋め立てられて、ビルが建ってるって。住所は確かだから間違いはないはず。
いつの間にこうなったんだろうな…
お、メールだ。
池のあった場所が辿った経緯がこれでわかるな。
よし。じゃあ、一緒に辿ってくぜ?
なんか外で犬が吠えてる気が…
いやいや、気のせいだ。
えー、まず埋め立てられた年。
俺たちが七不思議を調べ始めた時はまだ無事だったらしいな。そりゃそうだ。「この七不思議、もうありませーん」なんて言われてたら問題だ。
埋め立てられたのは高校生になってから。
意外と最近のことだったんだな。
で、埋め立てられた理由。
「池に飛び込む人が急増したから」
…嘘だな。
池に飛び込む人は元々いたって話だ。七不思議の砂時計目当てのやつらだな。
「砂時計」の七不思議自体はずっとあるんだ。それが今さらになって突然有名になるなんて、考えにくいだろ?他に原因があったとしても、地元民である俺たちが知らないはずない。
偶然…だよな?
背筋にぞくっとしたものがはしった。この15の数字が何を示しているのかは、俺には解らない。
埋め立てられた年の名前の名字は一個前とは違っていた。そして、それまで規則正しく並んでいた名前が、その年を最後にプツリと途絶えていた。
その年から、既に15と2年経とうとしていた。
今の…土地所有者ってどうなってるんだ?
単純に考えれば、「土地所有者」こそ一番その土地に詳しいと思う。だって、自分の「持ち物」のことは大体知っていているのが当然だろ?
うわ…わからん。
マジでこんがらがってきた…
…
……
………よし。
ここはあいつの登場だな。
元・学級委員長。
現・役所勤め!
こいつに聞けば一発だろ!
はい、電話ー。
(あいつのとこって確か、まだ黒電話だったよな。通じるかな?)
つー、つー、つー(がちゃ)
あ、俺だ。俺、俺!俺だって!俺なんだから分かるだろ?!
俺俺詐欺じゃないって!
だーかーらー!お…
あ、切れた。
あ、かかってきた。律儀な奴め。
あー、ごめんご。
ちょっと聞きたいことあってさー。ほら、眠りウサギのこと連絡あったろ。あれだよ、あれ。
砂時計なんだけどさ、あるはずの池が埋められてんの。年とかはわかったんだけど、どうしてそうなったのかがわからんの。
うん、そう。ふんふん。え、ヤバくね?
俺は、今は役所で働いている元学級委員長へ電話をかけ、片っ端から質問を投げ掛けていった。
俺は七不思議に関して極力こいつに頼みたくなかった。同級生みんなに七不思議のことを話したのは俺。でも解明しようと誘いをかけたのは、実は、この学級委員長だったんだ。責任感が人一倍強い学級委員長。今回の件も含めて、俺はこいつに全部を背負わせたいわけじゃない。
だから、遠ざけたかったんだ。
と言っても、結局は向こうもそれがわかっちまってるんだよな。
俺たちは仲が悪いわけじゃない。信頼してるから避けるんだ。あいつができないことを俺がやる。俺ができないことをあいつがやる。それでいいじゃないか。
だから、忘れないでくれよ。
『同窓会』の話にはきっと自分の番まであいつは出てこない。出席番号が一番最後の学級委員長。
誰とも関わっていないっていうことじゃない。首をあえて突っ込まずに見守ってるんだ。
だから。
頼るのは今回限り。
あいつのことは誰も語らないからな。
代わりに俺が語ってやる。
俺たちが同窓会で語る話に誰かしらの他の同級生が出てくるように、学級委員長もずっとそこにいるんだ。
学級委員長は誰よりも先にそこへいって、俺たちを待っているはずだから。
だって、あいつは。
学級委員長は
わりぃ。
話がずれたな。
電話は終わった。
必要なことは全部教えてくれたぜ。さすが、役所勤め。の、社畜。仕事が早え。
しかも、ちゃっかり電話を切る直前に「落ち着いてしっかりやれば、おまえなら助けられる」なんて言葉を残しやがった。
やーっぱ、わかってるんだよな。あの学級委員長は。
まずな。
15年ごとの土地所有者が代わるのはそのままの意味だ。名義の奴が死亡して、他の奴に所有権が移る。大体血が繋がった誰かだってさ。事故だったり、病気だったり。ここの関係性ははっきりとは言えない。
で、約17年前に今の名義になったらしい。その時、今までと違うことが一つあった。
この町出身じゃない奴が土地を所有したんだ。
つまりな。
元々そこの土地を持っていた人と全く関係のない人が名義に載ったんだ。今まではどんなに遠縁でも血の繋がりはあったそうだ。でも、その時、とうとう誰もいなくなった。
外から嫁いできたり婿入りした人は、様は「他人」。その子どもは血が繋がってる。「この町出身」ってことになるな。
理由は分からないけど、そこの土地を所有して15年でいなくなる。その時、大抵は周りの人、家族とかだな、も一緒だ。
ほんと、わけわかんねぇな。
俺たちのこの町にはな。結構古い話とかが色濃く残ってるんだ。
町中に植えられていた桜の木。
一番古い、公園に残る一本の桜。
七不思議。
変に強い地元の団結力。
他にも数えきれない位の伝承がある。
例えばさ。
俺たち同級生の団結力。異常だろ?
いじめとかが普通にある「外」から見るとキモいだろ。
でもこれが「俺たち」なんだ。
意識はしていないけど、「地元民」ってことだけで無条件に心を許してる。俺にはそう思えるんだ。
だから、逆に言えば「外」の奴らと一線引いてるとも言えるかもな。
いや、「外」の奴らが引いてるのかも。
名義が外の奴らに代わったとき、向こうはどう思ったかな。
土地が手に入ってラッキー?
池の管理なんて面倒だ?
地元の奴らが変な言い伝えを信じている、気味悪い?
多分どれも当てはまるよな。
現に、何百年も残っていたはずの池を呆気なく埋め立てたんだから。
俺たちにとっての価値が、そいつらにとっては無価値だったんだ。まあ、しょうがないさ。
土地が手に入るって話が出た段階で、池の埋め立てはほぼ決められたらしい。地元連中の話も聞かないで、というよりこっちには全く話がなかったらしいんだ。業者ももちろん外の連中。
気付いた時には池の水は抜かれてた。
もう、どうしようもなかったんだろうな。
本当に古い池だったし。
七不思議だって、時代と共に変わるもんなんだよな。
なーんて易々と受け入れてたまるかよ。
池の埋め立てはしょうがないとしても、問題はその後!
そいつら、マンション建てやがった。金儲け目的に池を潰してたんだ。やけに最近知らない奴増えたなー、って思ってたんだよな。
こういうことかよ。
ということで、砂時計が沈んでいるはずだった池は今じゃコンクリートの下。
はぁ…
でも問題があるんだよな。
こんなことになったら、七不思議「砂時計」なんて消えるはずだろ?
池が埋め立てられてから、もう15年以上経ってる。それでも今の今まで「砂時計」はまだあると俺は思ってたんだ。
俺は学校の教師をしてる。だから、そういった話題の時事的なネタもすぐに手に入るんだ。でも、「七不思議が変わった」なんて話、少しも聞いたことがない。池が埋め立てられたって話も、今回のことがなければ「ふーん」で終わってた。
俺だけじゃないぜ?
同級生の誰もが知らなかったんだ。
おかしいと思わないか?
で、だ。
俺、思うんだけどさ。
七不思議とか都市伝説っていうのは誰かが話を流さないと消えるもの。誰かが少しでも信じていれば、その話はまだ「生きて」いることになるんじゃないかって。
だからさ。
「砂時計」、まだ池だったとこに埋まってるんじゃないか?
じゃあさ。
もし元の七不思議みたいに砂時計を拾い上げて時間を動かせば、眠りウサギも目を覚ますんじゃ?
これしかない…のか?
というか、これくらいしか打開策浮かばねぇ。
(わんわんわんわん!)
うーん。と言っても、どうすんだよ。池はコンクリの下だぜ。
(わんわんわんわん!)
うるせぇ!
あー
そう言えば、眠りウサギも犬飼ってたっけな。変な犬。ちっさい頃に山で拾ってきた犬。
どっかの昔話みたいに怪我してたのを拾ってきて、手当てしておいといたらなつかれたっていうお決まりの話なんだけどさ。
ずいぶんと長生きしてるよな、あの犬。俺たちが幼稚園児の時の話なんだぜ?それ。
電話口で吠えてたのもあの犬かな?
犬じゃないような気もするんだけど…
その犬を拾った山も、半分もうないんだよな。池ほどじゃないけど、町を跨いであった山だから土地開発で切り崩されたんだ。今じゃ、俺たちの町に入ってる部分だけ辛うじて残ってる状態。
可哀想だよな。その山にいた生き物たち。
ああ、可哀想なんだよ。
その池にあった砂時計も。
勝手な都合で潰されて、消されて。
だから、もし砂時計に意思があったら俺たちにも怒っていいんはずなんだ。なんで助けてくれなかったのかってね。
今のこの現状ってさ。
もしかして「砂時計の呪い」じゃなくて「砂時計のSOS」なんじゃないか?
…考えすぎかな。
俺の勝手な想像だ。
なんにしても、眠りウサギを助けないことには話は終わらない。
さあ、どうすっかな。
どうすれば池のコンクリを打ち破れる?
どうすればコンクリの下の砂時計を取り出せる?
聞こえていたはずの犬の鳴き声は、いつのまにか遠くなっていた。
町の裏道を走る獣の影があった。
我は犬なり。
今は昔、眠りウサギなる人の子に助けられし身なり。彼の子どもも大きくなり、我も癒しとしての務めをはたして幾うん年。そろそろ彼の元を離れるのもよいかと考え始めた矢先であった。
桜ヶ原の七不思議とやらが一つ、砂時計が消えた。
我が生まれし山には村があり、桜ヶ原の七不思議の話は聞き及んでいた。
その地の七不思議は、多少変われども本質は不変のものであった。
そのはずであったのだ。
しかし、いつの頃かその一つである砂時計があるはずの池が埋め立てられたのだ。
あの池には昔から我らが一族の友と呼ぶべき種族がいた。
今では我らも彼らも住む場所を奪われた。
我らの山も、彼らの池も、かつての姿を残せていない。我ら一族は残った山の半分に村を作り、彼ら一族はこの地を去った。
我らの棲みかを奪ったのは人の子だ。
我を助けたのも、人の子だ。
我は走る。
助けを乞いに。
かつて我を助けた友を、今度は我が助けに。
我は犬なり。
「犬」という名を人の子に貰った、タヌキだ。
我は走る。
故郷である狸村へと。
助けてくれるだろうか。
砂時計をすくい出すことができるだろうか。
助けて見せる。
同窓会まで、まだ時間があるのだから。
我は犬なり。
犬という名の、狸なり。