桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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出席番号14番・後編「砂時計」-狸村の援軍- ⑥

部屋に着信の音が響いている。

 

これは俺の見た夢の話だ。

眠りウサギを助けることができなくて、疲れて疲れて、どうしようもなくなって、同級生たちから少し休めと言われ、

ある月明かりが綺麗な夜に起こった非現実的な話。

それに上書きした俺の願い。

 

この話はbad endだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの夜、池の周りに集まっていた動物たちも、気づけば姿を消していた。

 

俺は呆気に取られて立ち尽くしていた。そんな俺の前にイヌが何かを咥えてやって来た。その後ろにはたくさんのタヌキたち。

 

『桜ヶ原の山には狸の村がある』

そんなことを思い出した。

 

俺はイヌが咥えてきたものを受け取った。

×××だった。

どこかで見たことのあるような、ただの×××。俺にはそれが「七不思議の砂時計」の不思議とわかった。

 

 

ぽろりと涙が出てきた。

 

なんでかはわからないけど。

でも、なんでだろう。

砂時計に対して。

これまでの苦労に対して。

眠りウサギがやっと×××××という安堵。

そして、きっと、俺たちが今までやってきたことは、信じてきたことは、間違ってなかったんだという、安心。

そういうのがごちゃ混ぜになって、このとき溢れ出したんだと思う。

 

俺は、地面に膝を着いてイヌから×××を受け取った。

そして、彼らに頭を下げて

 

「ありがとうございます。

ほんっとうに、ありがとうございます」

 

感謝の意を示した。

 

 

 

 

 

俺たちの長い夜は明けることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

受け取ったそれは、眠りウサギの頭だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風が静かに吹いていた。

日の光が水面に反射して、キラキラと光っている。

 

俺は、今、あの池を目の前に立ち竦んでいる。

眠りウサギが眠っていた池。砂時計が沈んでいると信じられている池。

 

もう、眠りウサギは目をさまさない。

 

これが最後だ。

ここまで付き合ってくれたみんな。

どうか聞いてくれ。

 

 

 

 

 

先に逝ってしまった眠りウサギの代わりに、俺が話をしよう。

これが、あいつの遺した七不思議だ。

 

 

 

触れた者に未来をみせる砂時計。

それは確かに桜ヶ原の池に沈んでいた。15年という周期ごとに砂時計を守る池の番人は入れ代わる。

 

くるりと

 

砂時計はひっくり返される。

 

さらさら落ちる中の砂。

 

未来を見せられた人はどうなる?

「死ぬ未来」を見せられた人は

 

砂時計の砂となって流れて、溜まっていく。

 

 

 

砂時計の「砂」とは、砂時計に触れた者の遺灰なんだ。

 

 

 

さらさら流れていく砂時計。

誰かが流れ落ちていく。また、誰かが落ちていく。

 

 

 

 

 

ああ、こんな七不思議知りたくなかった。

 

 

 

 

 

砂時計は「未来を見せる」と謳いながら、本当のところは獲物を待っているんだ。

 

七不思議の四つ目である「地下通路」も似ているかもしれない。町のどこかに長い地下通路が現れるらしいという七不思議。

どこかに、らしい、というのは目撃談がないから。どれくらい長いのかもわからない地下通路。そこから帰ってきた人はいないという。

 

ひっそりと池の中で誰かが触れるのを待っている砂時計。

ひっそりと誰かが中に入ってくるのを待っている地下通路。

両方に待つのは死んで餌となる結末だ。

 

いや、砂時計は生きていないから「餌」って表現は違うか。

砂時計は自分の中で落とす砂を探してる。砂時計は砂を落とすことで時間を進める。

ひっくり返さなくても、砂が下に落ちきれば時間は経過したことになるからな。砂が落ちきれば新たな時間を刻むためにひっくり返す。普通はな。

 

「触れたら」未来を見せる砂時計。

 

砂時計はひっくり返ってなかったら?

 

ひっくり返っていたと思っていたのは、砂時計の砂が落ちきった後に再び落ち始める砂が現れるから。

15年間溜めた遺灰が下に流れ始めるから。

 

下に流れ落ちたはずの遺灰はどこにいくんだろうなぁ

 

きっと、別の世界なんだろうなぁ

 

なあ、眠りウサギ。

お前は今どこにいるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

ああ、悪い。

ひっくり返ってないっていうのはただの想像だ。

結局のところ、俺も、俺の同級生もこの七不思議「砂時計」は実際には見ていない。唯一見たのは、今はもういない眠りウサギだけ。

 

だから、俺から言えることはさ。

七不思議「砂時計」は触れた者を灰にして自分の中で流し落としている。

いや、落としていたっていうのが正しいか。

この七不思議は別のものに上書きされたんだから。

 

上書きしたのは今回のこと。

続き、聞いてくれよ?

 

これは砂時計とは別の話だ。

 

タヌキを助けた眠りウサギ。

まるでお伽噺を辿るように池で溺れる。

そこであいつが死んでタヌキと入れ代わったかは

 

 

 

わからないよな?

タヌキは化けるのが得意だ。俺たちなんか、ころっと騙されちまう。

でも確かに入れ代わっていたんだと、俺は思う。

眠りウサギは死んでいたんだ。

池で見つけた死体が証拠だ。ただな。いつ死んだかは本当にわからないんだ。

眠りウサギの死体は、まるで俺たちが砂時計の七不思議に辿り着くのを待つかのように綺麗だった。

全く腐敗していなかったんだよ。

 

眠りウサギの最期は本当に残酷なものだったと思う。

体がバラバラにされていたんだ。いつだったか、ここら辺でバラバラ殺人が連続で起こったことがある。

不思議と、いつだったかは誰も覚えていないが、眠りウサギは多分その被害者の一人となってしまっていたんだろう。

事件の犯人は…えっと、どうなったんだっけな?唐突に終わりを迎えて記憶にすら残らなかったのかもしれないな。

…えーっと、ニュースで…

ああ、そうだそうだ。犯人らしき人物は…

 

 

 

山の中で獣に食い荒らされて死亡。

そうだったよな?イヌ?

 

(わん!)

 

だーれが食い荒らしたのかなぁ?

なあ、イヌ?

 

(わふん?)

 

知らん顔するな。

タヌキを助けた眠りウサギ。

お前たちタヌキに好かれてないはずないだろ。

桜ヶ原で山は一ヶ所だけ。

そこには狸村があるんだろ?

生きたままタヌキたちに食われた犯人に同情の余地なし。

よくやったぞ、お前ら。

 

(わうん♪)

 

それに…

 

あいつを、眠りウサギを俺たちの元にかえしてくれてありがとな。

 

(わん)

 

どんな形であってもあいつがかえってきたのは喜ぶべきことなんだ。

首も、足も、手も、全部バラバラにされたあいつ。

それが「眠りウサギ」だって判ったのは本当に奇跡だ。

あいつの死体、死蝋化していた。外の世界と遮断された「池」という空間で変性し、死体は腐敗しないで蝋化していたんだよ。だから、死んだままの姿だった。

見つけること自体が難しかったんで、今回狸軍は地元繋がりである河童軍に力を借りたってわけ。

 

だからさ。俺たちはこう言ったんだ。

これじゃあ遺灰にできないね、って。

遺灰にできないってことはさ。遺灰を流し落とす砂時計の中には入れられない。七不思議「砂時計」に触れながらも、あいつは砂時計の向こうにいけないんだな、って。

 

バカな話だよ。

七不思議「砂時計」ってのはさ、触れて、死んで、砂時計の中に灰として入れられて落とされることで成立してたはずだ。

なのに、中途半端で落ちきっていない。

 

これが「夢」なんだなって俺は思った。

 

もしも、砂時計の上から下に流れ落ちる境が生と死の堺で、そのときに眠りウサギが見ていたような「死の間際の夢」を見るのなら。

落ちきれない眠りウサギは眠り続けて夢を見続けるはずだ。

 

 

 

 

 

 

これで、終わりだ。

 

七不思議「砂時計」は触れた者を遺灰にして中に取り込む。

遺灰は上から下に流れ落ちる。そして、その境を通過する時。生きている世界と死んでいる世界の境を通過する時、夢を見る。

 

俺たちの同級生、眠りウサギは偶然。本当に偶然、遺灰になることはなかった。

桜ヶ原のタヌキを助けた眠りウサギは、恩を返されるようにその遺体をタヌキに助けられた。

まるでお伽噺の『狸村の援軍』みたいにタヌキは眠りウサギの代役を演じて、俺たちが真実に辿り着くまでの時間稼ぎをしてくれた。

 

あいつは待っててくれたんだ。

ずっと、あの池で俺たちが自分の遺体に、七不思議「砂時計」に、真実に辿り着くのを。

ずっと、ずっと、終わりのない死の間際の夢を一人見続けながら。

 

 

 

これが、眠りウサギののこした話だ。

 

 

 

悪いな。最後は俺の語りになっちまって。

 

 

 

眠りウサギ。

俺たちの、大切な同級生。

クラスの中で、最初にいなくなってしまった同級生。

 

今年も桜が咲くだろう。

そして、散っていくのだろう。

 

なあ、眠りウサギ。

信じてくれよ。信じて、俺たちを待っててくれよ。友だちじゃないか。

俺たちもいつかは死んで、お前のいるところへ逝くんだ。

そのときにさ。

また、お前の見た夢の話を聞かせてくれよ。

 

だから、そのときまで、




がしゃん。

砂時計がまた音をたてて上下を入れかえた。

上書きされた七不思議。
生きている限り明らかにはされない砂時計の真実。
おいで、おいで、こっちにおいで。
君の未来(死)を見せてあげよう。

今日もまた、砂時計は池に沈み獲物がやって来るのを静かに待っている。

夢を見るかのように。
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