桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

94 / 157
ホラー動画を探し隊・田中「なんのヘンてつもない通りよね」

がさがさがさがさがさがさ

 

(マニキュアが塗られた爪のゴツい手が映る)

 

 

 

えっとぉ、映ってるかしら。

大丈夫そうね。さすがアタシ。

ごきげんよう、みなさん。久しぶりの動画投稿、って言ってもアタシ一人きりのになるんだけど、最後まで観ていってね。ちゅ。

ああん? オカマが何言ってんだって? 掘るぞ、オラ。

あらやだ、アタシったら。んんっ、改めてご挨拶よ。ホラー動画を探し隊乙女担当田中。オカマ毛嫌いするなら閉じてちょうだいね。

 

四人で動画を出さなくなって結構経ったわ。ホラー動画は見尽くした。じゃあ次は自分達で動画を作ろう。あるあるの展開ね。でも、どう? 言い出しっぺが実際に実行するのは何パーセント?

アタシたちは一人一本、全員合わせて四本の動画を作ろう。それでこのグループの配信を終わらせよう。そういう話になったの。

四人が集まって長かったわ。でもね、これからはもっと違ったことをやってみたかったの。ケンカしたわけじゃないわ。ただね、世間がこれじゃあつまらないってアタシたちに押し付けてきたのよ。

もっとおもしろく、もっと恐く、もっとスリルに、もっともっと。刺激が足りない。危険に近い方がより興奮する。全部、傍観してるだけだから出る意見よ。

アタシたち、頑張ってたわ。他の配信グループもそうよ。楽して動画はあげてない。中にはへらへらしてる人もいるかもね。でも少なくともアタシたちは努力していた。努力しながら楽しんでいた。

楽しくなきゃこんなの続けないわよ。自分を認めてあげなくてオカマが務まるもんですか。

先にその事だけは言わせてね。

アタシ、こんなキャラ作ってるけどみんなのこと考えてんだから。

 

 

 

急にこれをあげたのには理由があるわ。知ってるかもしれないけど、まず山田ちゃんのこと。次に佐藤ちゃんのこと。二人ともと連絡がつかない。ううん、一部の人は二人がどうなったかわかってるかもね。

あの子達、最後に動画を作ってたのよ。これからどういうのを作りに行く。それを残されたアタシと鈴木ちゃんに連絡してた。それが本当に最後になっちゃった。

鈴木ちゃんはビビってるわ。あの子、ああ見えて臆病なのよ。だから次はアタシ。

これを最後にするわ。もしもアタシに次が残されてないんだったら、遺書を残すわ。全部をフィクションで終わらせてたまるものですか。

アタシたちの本当を発信してみせる。これが最後よ。

オカマの底力、見せてア・ゲ・ル。

 

 

 

じゃあイクわよぉ。

 

 

 

がさがさがさがさがさがさ

 

 

 

見えてる?

この通り。今の時間は日の入り間近。逢魔が時ってやつね。

場所はなんの変哲もないただの道よ。

事前に調べてみたけど、事故があったとかの曰く付きじゃないわ。ただちょぉっと、曲がるとこ、ストーカーさんたちが好きそうな隠れて待ち伏せできるようなとこが多いっぽいわね。

ええ、どこにでもある通り道よ。

 

ここに来たのはアタシ、初めてなの。知らない土地よ。

ああでも、そうねぇ、山田ちゃんと佐藤ちゃんが最後に行くって言った場所も同じ市内だったかしら。なぁんか聞いたことがある名前ねって思って確認したらそうだったわ。それだけ。アタシは来たことないわ。

証拠なんてないわよ。でも来たことないの。

 

始まりはいつだったかしら。

最近ってわけじゃないの。そこそこ前からね。山田ちゃんがいなくなるよりももっと前、普通にアタシたちが活動してた時よ。

メールが来たの。

古参さんも知っての通り、アタシはオカマだから男女構わないでやり取りするわ。イヤガラセ以外はどんな下ネタでも受けてあげるのよ。だから個人垢もあってね、用があったらそっちにぶちこんでちょうだいって言ってるの。そこにメールが来た。

 

「山田さん、×××にいましたね」

 

最初は誰だったかしら。初見さんかもしれないし、いつもの25番ちゃんかもしれないわね。

返信は、しなかったわ。

 

アタシ、そこに行ってないもの。

 

それだけで終われば見間違いだったのよ。でもこの類いのメールは続いた。それも多数の人から送られてくるの。

 

「×××の○○にいましたね」

「×××の▽▽▽にいたの田中さんでしょ?」

「また×××に行ったんですか」

 

どれも知らない話よ。アタシは一度もそんなとこに行った覚えはない。

 

ねえ、こんな感じの話、聞いたことない?

芥川龍之介のドッペルゲンガー話。アタシ、それを思い出したわ。

いるはずのない時間、場所で見られる自分そっくりの誰か。アタシはそこにいない。別の誰かよ。

いくらアタシがNOと言っても信じてもらえないわね。大丈夫、ちゃんとそこにいない証拠もあるわ。

生放送よ。生放送の生配信のナマナマの状況でならアタシが別の場所にいるはずない。

いくつかのメールの日時でそれは起こったわ。いわゆるカブリね。

生放送ではアタシ以外にもメンバーの子たち、もしかしたら他の配信者とコラボしたものもあったかもしれない。アタシが顔出ししてその配信をしていたのを証明してくれる人はたくさんいるわ。

全部がそうとは言えないけど、少なくともいくつかはアタシじゃないとハッキリ言えるの。

メールした本人も困惑しててね、あれ? あの時って生放送でしたよね。そうなるの。

 

でも新しいメールは送られてくる。ドッペルゲンガーはいるらしいのよ。一体ナニしてんだか。

 

 

 

ピーポーピーポー

 

 

 

あの子達には伝えてないわ。佐藤ちゃん辺りは気づいてたかもしれないけど、アタシは言わなかった。

だって、心配かけたくないんですもの。

 

イヤなコメントはオカマのアタシに浴びせればいいわ。変人でしょ、アタシって。だから他の三人を傷つけないで。

そうやってこのキャラを貫いてきたわ。それがアタシの本当よ。

本当のアタシを知ってるのは信頼できる人だけでいいわ。アタシがみんなを受け入れるように、オカマを受け入れてくれる人だけでいい。

 

だから、メールには返信しなかったのよ。アタシは無言でいた。

 

でも状況が変わったの。

 

 

 

それは一つのメールが切っ掛けだった。

 

「田中さん、×月×日×時に×××の××にいませんでしたよね。投稿履歴見ました。生放送でしたよね。間違いありませんよね?」

 

いつものアレかと思ってスルーしようとしたわ。でもそれはいつもより切羽詰まってた感じがした。

×××にいるはずのないアタシに確認を取ろうとしてる。なんで? いるはずのないことを送り主はわかってるのよ。それでも確認を取ろうとしてるの。

アタシはもちろん、そこには行っていない。

 

アタシ、初めてメールに返信したわ。

 

「ご存知の通り、アタシはその時間その場所に行ってはいません」

 

メールのやり取りは続いたわ。なんで向こうがそんなメールを送ってきたのか。

ほんっと最悪よ。

その送ってきた子の友人がね、「アタシ」にレイプされたんですって。本人はさすがに当事者かもしれないアタシに連絡するなんてできないわ。だから友人が代わりにメールしてきたの。しかもね、その友人ちゃんはアタシたちの動画の視聴者さんだった。つまり、友人が「アタシ」に「されている」時間、アタシが生放送してたことを知ってるの。

だから確認してきたってワケ。

 

アタシはオカマだから、オンナの気持ちが解って女に興味がない男性なのよ。そういうキャラ。

本当がそうじゃなくっても、画面の中ではアタシはそういうことになってるわ。視聴者から見た「アタシ」はそういう存在なの。

それを利用して女性に近づいてるのね。最悪よ。ほんっっっと、最悪。

アタシは男性なの。どんなにオカマオネエを自称しててもそれは変わらない。アタシは女性じゃない。女性になれない。体は男よ。そう産まれたんだから。

でも一部の女性はこう思う。

 

「オカマは女性に無害」

 

 

 

この道、ほんと角が多いわね。危ないわ。

急に誰かが出てきそうよ。夜なんて歩けないわ、この道。

 

そう、この暗闇の何処かで女の子はレイプされたの。

 

 

 

カツンカツンカツンカツン

 

 

 

大柄の変なオカマっていう男性に声をかけられて、気を抜いた瞬間に力ずくで角の、隠れられる隙間に女の子を押し付けられて、ハンカチか何かを噛まされたのね、声もあげられなかったんですって、そして、そして、下着を下ろされて汚い棒の性器を。

ああなんてことなの。

痛かったでしょう。恐かったでしょう。それがアタシの姿をしていたなんて、許せない。

しかもその醜い行為は繰り返された。

メールがいくつも来たみたいに、犯罪は繰り返されたのよ。口を開けない子だっているに決まってるわ。

それらは全部、アタシに怒りをぶつけてくる。

 

「おまえがやったんだ」

「許さない」

「犯罪者」

 

アタシは無実よ。でもその子たちははっきりと「アタシ」の顔を見ている。アタシじゃないアタシの顔を。

 

誰にも言わなかったわ。

心配、させたくないもの。迷惑もかけたくないわ。みんな頑張ってるのよ。その頑張りを無駄にしたくない。

だから決めたの。

最後かもしれない今回で決着をつけるって。

 

 

 

カツンカツンカツンカツン

 

 

 

ドッペルゲンガーって、もう一人の自分が自分に成り代わる話多いわよね。それと、会っちゃうと死ぬってパターン。

それってどっちが? もしかしたら自分がそいつのドッペルゲンガーなのかもしれない。自分はただのそっくりさんだった。

 

カツンカツンカツンカツン

カツンカツンカツンカツンカツンカツン

 

もう一人の自分は罪人だった。自分は善人だ。罪人を逃がすために善人は代わりにならなきゃいけない。無実の罪を背負わなきゃいけない。だってドッペルゲンガーなんだから。

そんなの理不尽よ。

ドッペルゲンガーだったとしても同じ心を持って同じ人生を生きてきた人じゃないわ。アタシは絶対にレイプなんてしない。だってアタシはオカマよ。虐げられる痛みを知ってるわ。

 

あら、ここ、さっきも通らなかったかしら。

 

 

 

カツン

 

 

 

本当にイヤな通りね。迷っちゃうわ。

誰かがついてきてもすぐに隠れられる。やだ、アタシ、こわいわぁ。

もう暗くなってきちゃったし、誰かに道を訊こうかしら。

 

あら! あそこに誰かいるわ! ラッキーね!

すみませぇん! あのぅ、この道って

 

 

 

カツンカツンカツンカツン

ザッザッザッザッ

 

 

 

え。嘘。

 

 

 

ザッザッザッザッ

カツンカツン

 

 

 

嘘。嘘よ。ほんとに、なんで。

誰よ。アンタ誰よ!

 

 

 

ザッザッザッザッザッザッ

 

 

 

そっくりな顔して! アンタなの!? 女の子たちに酷いことしたのは!

ずっとアタシのふりして! とんでもないことしてくれたわね!

謝りなさいよ! 被害者全員に謝りなさい! その後でアンタの大事なアソコを切り落としてあげるわ!

オカマなめんなよぉ!

 

 

 

がっ

 

 

 

ぐぅ!

この、ゴリラ! アタシを殺そうっての? アンタ、ドッペルゲンガーね。本物のアタシじゃないわ。

 

 

 

カシン、シュー

 

 

 

アタシが本物よ! アンタ、偽物だわ!

悔しかったらオカマ生きてみせなさ

 

 

 

ごぶ

 

ごぶごぶごぶ

ごぶごぶごぶげほごぶごぶごぶ

 

どさ

 

 

 

みんな、ごめん、ね

 

 

 

 

 

 

ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

この動画は削除されました

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。