俺たちの、大切な同級生。
クラスの中で、最初にいなくなってしまった同級生。
今年も桜が咲くだろう。
そして、散っていくのだろう。
なあ、眠りウサギ。
信じてくれよ。信じて、俺たちを待っててくれよ。友だちじゃないか。
俺たちもいつかは死んで、お前のいるところへ逝くんだ。
そのときにさ。
また、お前の見た夢の話を聞かせてくれよ。
だから、そのときまで、
その、時まで…
…
……
………
ふわぁ。
ねむいねむい。
ああ、ごめん。最近まだ夢見が悪くてね。
ふぅ。よし。じゃあ、僕の話を始めようか。
これが、最後だよ。
これが、僕のとっておきの話。
「出席番号14番、砂時計」だよ。
僕たちの町にある七不思議。何回も言ったね。
その中にある一つ、砂時計。それが僕の担当する七不思議だったんだ。
僕は解明まであと少しというとこまでいった。
「未来を見せる」という砂時計の噂。砂時計が沈んでいるという池の場所。「未来を見た」人のその後。15年という周期で代わる土地名義。
僕は限りなく砂時計に近づけたと思うよ。
ただね。
最後の最期に運が悪かった。
あ、僕、昔ここに来たことある。
そう思い出した日のことだった。
僕は殺された。
その時、町にはバラバラ殺人をして回る狂人がいた。僕はたまたま、偶然、その人に会ってしまったんだ。
そんな人に会ってしまったらどうなるか、わかるでしょ?
僕は同級生の中でも真っ先にbad endを引いちゃった。
ほんとに、運が悪いよね。
でもね。幸運だったこともあるんだよ?
七不思議を知るよりずっと前。僕は池で溺れるタヌキを助けたことがあった。そのタヌキは体が癒えるまで、僕の家で過ごすことになった。結局居心地が良かったみたいで住み着いちゃったんだけどね。
そう。その時に僕は池に沈んでいた砂時計に偶然触れちゃったんだ。
小さい頃すぎて忘れてたけどね。
あーあ。
自分の最期を夢の中で見ていたのに、未来は変えられなかったんだよね。
bad endは決まっていたんだ。
ただ、その夢の最期が訪れる前に手を打つことはできたんだよ。
まるでお伽噺の『狸村の援軍』みたいに、タヌキが僕に力を貸してくれた。
僕は。僕たちは、どうしても七不思議を解明したかった。
どうしても七つ目に辿り着いて、みんなで桜の木の下に集まりたかった。絶対に集まるんだと、約束したんだ。
でも、僕のこの最期じゃ何かが足りない。
七不思議「砂時計」は解明されていない。そんな気がしたんだ。
「砂時計」にはまだ何か隠されてる。生きてる誰もが辿り着けない真実が隠されてる。
そんな気がしたんだ。
でも、僕にはそれを解明する時間は残されていない。どうしよう。
そんな時、助けたタヌキがこう言った。「受けたご恩を返しましょう」。
まさに『狸村の援軍』じゃないか!
僕はそれまで調べあげたことを書いたノートをタヌキに託した。
夢で見た僕はバラバラになって、池の底に沈んでいた。この町に池は一ヶ所しかない。僕はきっと、砂時計と一緒に沈むことになる。
たった独りで、沈むことになる。
僕は泣きながらタヌキを抱き締めた。
タヌキは毛皮を涙で湿らせながらも、じっと僕が泣き止むのを待っていてくれた。
僕はタヌキにお願いした。
どうか、その時が来るまで僕が死んだことを隠して欲しい。このままじゃ、「砂時計」は解明されないままだ。だから、「砂時計」が本当に解明される時まで僕のフリをして欲しい。
そして、僕は沈んだ。
タヌキはしっかりと僕の代わりを演じてくれた。
もしかしたら、同級生の何人かは気づいていたかもしれない。
同級生の一人が刷り変わった、ってね。
でも、彼は気づかなかった。今も昔も変わらない「怪奇オタク」くん。他のことに関しては鋭いのに、こういうことには鈍いよね。
だから彼に託したんだ。
残ってしまった「砂時計」の真実に辿り着けるように。
いつか池に沈んだ僕を、見つけてもらえるように。
僕は彼が好きだったから。
一部は夢と混ざってしまったけど、きっといつか、彼もこの池に辿り着くと思うんだ。
だから、その時まで僕は眠って待ち続ける。
僕は「眠りウサギ」だからね。
それにしても、よく何年も気づかなかったなぁ。あんなに近くにいたはずなのに。
彼は「昔の僕」と「今の僕」の性別が変わったことにちっとも気づかなかったんだよ?
僕は「女の子」で、タヌキは「オス」だったのにさ。
本当に鈍いね、怪奇オタクくん。
今となっては、もうどうでもいいことなんだけどさ。僕は本当に彼のことが好きだったんだ。
だからノートを託したし、夢のことも話した。
よく彼がね。
「信じてくれ。俺たち、友だちだろ」
って言ってくれるの。
その言葉は僕の心にとても響いてた。もちろん、眠っている今も。
信じているよ。怪奇オタクくん。
誰よりも信じているよ。
だから僕は独りで眠り続けることができるんだ。
みんなを。同級生たちを信じているから、また、みんなで集まって笑って話せるって、信じているから。
僕は誰よりも早く死んで、眠り続けて、待つことができるんだ。
信じ続けることができるんだ。
そうそう。僕があの殺人鬼に殺されて、バラバラにされて、池の底に沈んだ後の話をしないとね。
一匹のタヌキ、イヌって名前だよ、彼は僕がいなくなったのを上手く隠してくれた。僕そっくりに化けて、あたかも僕が生きて生活しているように見せたんだ。
一方、本物の僕は眠って夢を見ていた。
冷たい、冷たい、明けることのない夜を、僕は眠っていた。
見る夢は、砂時計の中に取り込まれて落ちていった人たちのものだった。
知っていた人たち、知らない人たち。誰もが最期の瞬間に夢を見ていた。
誰もが、最期の瞬間に何かを想っていた。
砂時計の上から下へ。
生きていた世界から死にゆく世界へ。
自分がいるべき世界がかわるその瞬間の境界に、人は一瞬の長い永い夢を見るんだ。
僕は、今自分がこうなって初めて知った。
僕もまた、終わらない夢を見続けているのだから。
ただ、僕には他の人とはちょっと事情が違った。
僕には「同窓会の約束」があったんだ。その約束は砂時計の七不思議よりも強いもの。だって、「砂時計」は三つ目。「同窓会」は七つ目なんだから。
どこかで、女の人の声が聞こえた気がした。
「あなたには約束があるのでしょう?」
って。
その声はいとも容易く奇跡を起こした。
砂時計の下に落ちかかっていた僕を繋ぎ止めたんだ。まるで、桜の木の幹や根が体に絡み付いたようだった。
現実では、砂時計のあるはずの池が埋め立てられていた。水が抜かれ、代わりにコンクリートが中に流された。その時まだ腐っていなかった僕の体は、当然一緒に閉じ込められた。すると、まるで時間が止まったかのように僕の体たちは「保存」されてしまったんだ。
本来なら体がなくなることで遺灰として取り込まれ、落ちていくはずの「砂時計」という七不思議。
取り込まれて落ちていくだけの七不思議だったはずなんだよね。
だから、ほんの一瞬の「落ちきる寸前の境界」のことなんて誰も知らないはずだったんだ。
でも僕は落ちきれずに、こうして境に繋がれ夢を見続けている。
彼が、怪奇オタクくんがこれに気づいて、僕の体を見つけてくれるまで。きっと僕は眠り続けるんだろう。
ふわぁ。
ほんとに長い夢だね。
ねえ、怪奇オタクくん。
早く僕を見つけてね。
早く、「砂時計」の真実に辿り着いてね。
砂時計の七不思議は、もう以前のものではない。僕が上書きしちゃったんだ。僕の見る「最期の夢」たちで上書きしちゃったんだ。
最後にね。
君にヒントをあげるよ。
僕の見ている夢を、ちょっとだけ。
ほんの、ちょっとだけ。
君に、君にだけ。
見せてあげる。
だからね。
だから、
ボクヲ ハヤク ミツケテ
ココハ
クラクテ
ツメタインダ
ヒトリボッチハ
イヤダヨ
ネエ、怪奇オタクくん
ネエ、ミンナ
僕は待っているよ。信じて、待っているよ。
ハヤク、コッチヘオイデヨ
がしゃん。
砂時計がまた音をたてて上下を入れかえた。
上書きされた七不思議。
生きている限り明らかにはされない砂時計の真実。
おいで、おいで、こっちにおいで。
君の未来(死)を見せてあげよう。
今日もまた、砂時計は池に沈み獲物がやって来るのを静かに待っている。
夢を見るかのように。
ネエ、怪奇オタクくん。
ボクのミセタ夢ハドウダッタ?
ボクノ、ボクたちの上書キした七不思議はドウダッタ?
なあ、眠りウサギ。
お前はもうこっちにはいないんだな。
ごめんな。もう少しだけ、俺たちを待っててくれよ。
眠りウサギと怪奇オタクのいる世界は違うところにある。怪奇オタクが生きている人の隣で笑っているように、眠りウサギも他の屍と共に眠り続けるのだ。
同じ世界にいるもの同士が隣にいることこそ、きっとそれが幸せなのだろう。
死んでしまった眠りウサギは既に生きていた頃のように朗らかな笑顔をしていなかった。なぜなら、存在する世界がかわってしまえば人も変わるからだ。生きている人の横に死んでいる人が立てないように、死んでいる人の横に生きている人は立てないのである。
死んだ人は生きていた頃と同じではいられないのだ。
だから眠りウサギは。
死者は、生者においでおいでと手招きするのである。
お前も、自分と同じようにこっちへこいと。
死んで、自分の隣に立てと。
死者が生き返らないのと同じように、砂時計の中の砂ももとには戻らないのである。落ちてしまった砂は、落ちる前には戻れない。だから、次々と砂が上から下へ落ちていくのだ。落ちた砂が、更に落ちてくる砂を呼んでいるのだから。
ネエ、ミンナ。
ハヤク、コッチヘオイデヨォ。
桜の花が舞っている。
僕は、一人、木の下で待っている。
砂時計を片手に、待っている。
ねえ、みんな。
信じているよ。
いつか必ず、またみんなで集まるんだ。
笑って、みんなで話をするんだ。
僕は待っている。
同窓会が開かれるそのときを、待っている。
さらさら落ちる砂時計
生から死へと流れ落ちる砂時計
人は、死の瞬間何を思うんだろう。
流れ落ちる瞬間何を思うんだろう。
さらさら落ちる砂時計
永遠に落ち続ける、砂時計
人は
人はきっと
生から死の世界に流れ落ちる瞬間、永遠に終わることのない夢を見るんだろう。
ああ、ながい夢だね。