巻き込まれたので、ハジメさんの立場(原作の)を簒奪する事にしました。   作:背の高い吸血鬼

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なんか、凄い!(小並感)


13話 喰

神結晶とは、歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物とされている。

 

神結晶は、大地に流れる魔力が千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したもの。直径三十センチから四十センチ位の大きさで、結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。

 

その液体を”神水”と呼び、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われている。神代の物語に神水を使って人々を癒すエヒト神の姿が語られているとか何とかで、左腕を欠損し大量失血で死にかけていたハジメさんを復活させたのもこの神水のお陰である。

 

さて、そんな秘宝である神結晶だが、現在は岩から取り出されて神水採取の為の専用の台に置かれている。ウォーターサーバーならぬ神水サーバーとなり果ててしまったが、一応、とても貴重な物なのでちょっとやそっとの衝撃では落ちたりしない様に厳重に固定されている。それと、元々溢れ出ていた神水は地面に作ったくぼ地に貯めてある。態々容器に入れずとも、そのままがぶ飲みしなけれならない事態が発生するから、当面は放置。一応、埃などが入らない様に蓋するけど。

 

それから、この空間の拠点化を推し進めた。当分の間は此処にこもる事となるので、最低限の生活空間の確保は急務である。錬成の鍛錬にも支障を来したら嫌だからね。

 

「・・・さて・・・狩りの時間だよ・・・」

 

拠点化が終了したので、とうとう魔物に手を出す時が来た。ここ真オルクス大迷宮の一階層の魔物だからといって侮るなかれ。油断すればハジメさんの様に足をすくわれる事となる・・・あやまって小石を転がしてしまうという痛恨のミスを犯してしまっただけで、油断ではない、か。まぁそれは置いておき、狩りである。ここ奈落一階層で出現するのは【イナバさんこと蹴りウサギ】【纏雷の二尾狼】【ハジメさんの宿敵こと爪熊】の三種であり、単体の強さ基準で並べると

 

爪ぐま>蹴りウサギ>二尾狼

 

となる。

 

小説の表現でも、ここ一階層で最弱である二尾狼は、その欠点を補う為に四匹から六匹程度の群れをなし、連帯して狩りに挑む。ハジメさんが捕獲した二尾狼も例にもれず四匹の群れであった。なので戦力的に見れば

 

爪ぐま>蹴りウサギ=二尾狼×4~6匹

 

となるだろう。

 

まだまだ弱い私が手を出すべきなのは二尾狼。此奴だけだ。彼等は(ここでは)最弱。故に、群として連帯し、待ち伏せして獲物を攻撃するという戦術を取っている。真大迷宮は隠れる所が豊富にあるので様々な場所が彼等の狩場になり得るので、私から探しに行ったり、敢えて自身を囮に使うのもナンセンス。となると、おびき寄せる以外に方法がない。幸い、此処は全くと言って良い程人の手が入っていない場所。しかも、人間は群れた二尾狼よりも最弱。

 

であるならば、有効な戦術は一つしかない。そう、罠である。

 

これが地上の野生動物であれば、消されていない人の匂いで罠だと気付いて9割以上が掛からないだろうが、此処での人の匂いは獲物の香ばしい香りだ。それに、魔物には罠という概念が存在しない。これ以上に有効な捕縛方法はないだろう。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

迷宮のとある場所に二尾狼の群れがいた。

 

二尾狼は四~六頭くらいの群れで移動する習性がある。単体ではこの階層の魔物の中で最弱であるため群れの連携でそれを補っているのだ。この群れも例に漏れず四頭の群れを形成していた。周囲を警戒しながら岩壁に隠れつつ移動し絶好の狩場を探す。二尾狼の基本的な狩りの仕方は待ち伏せであるからだ。

 

しばらく彷徨いていた二尾狼達だったが、ふと、今までに嗅いだ事のない旨そうな肉の香りを察知した。最弱故に、強大な敵との会敵を避ける為に発達した嗅覚は、遠方の僅かな匂いの選別すら行える。だから、感じ取ってしまった。

 

二尾狼達はその香り目指して進み始める。その香りが、自分達の生命を脅すことに気付かずに・・・

 

其処にあったのは二尾狼が如何にか入れる程度の広さしかない小さな洞窟。その奥には、意識せずに唾液が溢れ出るほど旨そうな肉がぶら下がっている。何故こんな所にそんな物が?と普段であれば警戒するだろうが、肉に惑わされている二尾狼には些細な問題であり、周辺警戒のあと、無警戒に入口へと殺到した。狭い洞窟に躰をぶつけながら、奥へ奥へと進む。ちょうど中間あたりに差し掛かった次の瞬間。

 

地面が消えた。

 

「キャウンッ!?」

 

肉に惑わされていた為に反応が遅れた先頭の二尾狼は対応できずに落下する。3mほど落下した先に存在したのは、鈍い銀色の輝く剣山であった。

 

50kgは優に超える二尾狼は、落下と同時に剣山に突き刺さる。重量の落下エネルギーは大きく、覚醒したハジメさんがドリル状をした槍で突き刺しても中々刺さらなかった硬い毛皮と皮膚を貫通し、内部の肉を穿つ。合計10箇所以上を突き刺された二尾狼は即死だった。仲間の死と、これが何らかの攻撃だと目を覚ました、後方から続いていた二尾狼達が洞窟から撤退する。

 

彼等の襲撃者たる晴香は、最低でも一体の体が必要だっただけなので、その他の個体は如何でも良い為に逃がした。

 

「錬成」

 

上の落とし穴を埋める。更に、洞窟も埋めた。これで外敵の侵入は防げる。

 

落ちた二尾狼の元へ近づき死亡していることを確認すると、もう一度錬成と唱えて剣山を鉄に変える。【異界収納】に鉄を仕舞い、代わりにシュタル鉱石製のナイフを取り出した。魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石なので、毎日寝る前に全魔力を注ぎ込んでいた逸品であり、切れ味・硬度共に抜群である。が、流石に晴香でも動物の剥ぎ取り方法は判らないので、剣山の傷口から適当に皮を斬り、力尽くで剥ぎとる。

 

胸辺りから肉を切り取る。魔物肉は調理しても美味しくないらしいので、筋を斬る為に何回も切り刻む。

 

「ふぅ・・・」

 

これから私は、魔物の肉を食べる。

 

魔物の肉を食った者は例外なく体をボロボロに砕けさせて死亡するのだが、ハジメさんは喰らった。人間にとって致命的な魔物肉は体内を侵食し、内部から細胞を破壊していくのである。しかし、それでもハジメさんが生き残れたのは【神水】の存在があった。以前説明したように神水には、飲んだ者はどんな怪我も病も治すという、謂わばエリクサーのような効能がある為、細胞が破壊されても直ぐに再生させるのである。

 

しかし、細胞を破壊すると言う事は即死レベルの放射線をもろに浴び続けるようなもの。幾ら【神水】で再生させられるとはいえ、その痛みは想像を絶するものであり、あのハジメさんをしても『いっそ殺してくれ!』と切に願わせるレベルの耐え難い激痛。生半可な覚悟で挑めば精神は崩壊、痛みが治まったとしても植物人間と化してしまうかもしれない。

 

此処で肉を断念し、例え銃を制作し、奇跡的に一階層、二階層を突破したところで三階層はちょっとした火種で3000℃の灼熱空間へと変わるフラム鉱石製タールが辺り一面を埋め尽くす火気厳禁エリア。詰みである。

 

リスクが大きすぎるが、そうまでしないと此処から先は生き残れない。

 

それに覚悟ならとっくに決めている。

 

幾度となく諦めていた夢を叶えられるなら、死ぬほどの激痛や精神崩壊のリスクなど・・・私の障害には成り得ない。当たる事も出来なかった壁を、今なら真っ向から当たる事が出来る。その壁を破壊し、向かった先にはユエちゃんがいる。

 

ほら、自然とやる気が出て来ない?今までは三次元の私と、二次元のユエちゃんは相見えることが出来なかった・・・でも、このトータスに来れた事で相見えるとこが出来る。映像でない、本物のユエちゃんと会う事が出来る。その為には何をしなければならない?何をすれば、ユエちゃんと合流できる?その道筋は、ハジメさんが作ってくれてるじゃない。なら、その道を突き進めば良い。その先々で私を遮る壁なんて、死に物狂いで破壊すればいい。

 

一度深呼吸。パチンっと頬を叩いて気合を入れると、

 

「私は人間を止めるぞ―――っ!!」

 

晴香が叫び、勢いに任せて魔物肉を喰らい付いた。

 




作者の私も、本当にユエちゃんに会えるのならば魔物肉に喰らい付きます。勿論、神水を飲料水としますが・・・

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