巻き込まれたので、ハジメさんの立場(原作の)を簒奪する事にしました。 作:背の高い吸血鬼
手の平で顔を覆い、目をギュッと閉じていた春香は、ざわざわ騒ぐ無数の気配を感じて目を開けた。そして、周囲を呆然と見渡す。
まず目に飛び込んで来たのは、やけに既視感を感じる壁画だった。縦横10mはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせてうっすらと微笑む中世的な女性が描かれておる・・・
なんだろ、この宗教画。以前、何処かで―――っ
『―――ファッ!?
エヒトとは、召喚されたこの世界の、主に人間族の聖教教会と言われる組織が崇拝する、女神様。とは言え、皆が思ってるような高貴なお方ではない。残虐なクソ女神だ。ありふれの小説で知っている。
眺めていると、ムカついて来たので視線を逸らした。
周囲を見てみると、如何やら私は巨大な広場にいるらしい事がわかった。大理石の様な、美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建造物のようで、バロック彫刻だろうか。これまた美しい彫刻の施された巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっており、大聖堂と言う言葉が思い浮かぶ、荘厳な雰囲気の広場である。そこに、私と、私とは別の場所から召喚されたであろう人物たちが茫然と立ち尽くしていた。
そして、その召喚された人物たちを見て、私は腰を抜かしそうになった。
なんせ―――
『え゛っ、なんで香織ちゃんに、雫ちゃん・・・ご都合勇者に子悪党組も!?』
そう。私の周りには、物語の中にしか存在しないはずの、ありふれの主役達が目の前に存在していた。ハッキリ言おう、召喚された事よりも驚いている。辺りを探すと、ハジメさんも見つかった。まだ覚醒していないからか、全く魔王様に見えない。これはこれで凄く新鮮な感じだけど、いまはそれ処じゃなかった。
私は、如何やら【ありふれ】の世界に、召喚されてしまったようです・・・
* * * * *
私達の前には、まるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好の集団。
彼等は一様に白い生地と金の刺繍の施された法衣の様な物を纏い、傍には錫杖の様なものが置いて有る。その錫杖の先端には、円環の代わりに円盤が数枚、吊り下げられていた。
その内の一人。法衣集団の中でも一際豪奢な衣装を身に纏い、精緻な意匠の装飾が施された烏帽子の様なものを被った、70歳前後の老人が進み出て来た。もっとも、老人とは思えない覇気を纏っており、不快皺や白く長い髭が付いていても、50代の様に若々しく見える。そんな彼―――イシュタル―――は、手に持って錫杖をじゃらじゃら鳴らしながら、外見によく合う深みある落ち着いた声で私達に話しかけた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同行の皆様。歓迎いたしますぞ。私は、聖教教会の教皇の地位についております、イシュタル・ランゴバルドと申すもの。以後宜しくお願いいたしますぞ」
そう言って、イシュタルと名乗った神の先兵は、好々爺然とした微笑みを浮かべた。
* * * * *
こんな場所では落ち着けないでしょう。と、未だに混乱の冷めぬ生徒たちを促し、落ち着ける場所―――幾つもの長いテーブルと椅子が用意された広場へと連れて来られた。その間、私も彼等に紛れてちゃっかり付いていく。何故かバレてない。制服違うのに。バレたらどうなっちゃうんだろう・・・と、ちょっぴり不安に思いながら、席に着く。因みに場所は、ハジメさんの前の最後尾。
目の前にハジメさんがいる事に、若干居心地が悪い中、私を含めた全員が席に着くと、例の正真正銘【美少女&美女】のメイドさんがカートを押しながら入って来た。思春期真っ盛りな男子諸君は興奮した感じに、興味津々にメイドさんを眺めており、その様子を見る女子の眼差しと言ったらとても冷たいモノで。
まるで生ごみでも見ているかのようだ。向けられたら興奮しそう///
全員に飲み物が行き渡るのを確認したイシュタルが話し始める。
「さて、あなた方におかれましてはさぞ混乱しているでしょう。一から説明させていただきますのでな、私の話を最後までお聞き下され。」
そう言って始まったイシュタルの話は、小説と同様、実にファンタジーでテンプレで、そしてどうしようもないくらい勝手なモノだった。
要約すると、こう。
この世界はトータスと呼ばれている事。
トータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族と獣人族、魔人族ね。
人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、獣人族は巨大な樹海の中でひっそり暮らしている。
知らないのか教えてもらえなかったけど、巨大な樹海の獣人族が住む場所はフェアゲルゲンと言われる。
この内、人間族と魔人族は数百年と戦争を続けている。魔人族は数は少ないが個々の力が強力であり、対し人間族は強くはないが数で対抗しているようだ。戦力は拮抗し、大規模な戦争はここ数十年発生していないが、最近、異常事態が発生しているのだと言う。
それが、魔人族による魔物の使役。
魔物とは、野生動物が魔力を取り込んで変異種に変わった姿、と言われている。この世界の人々にも正確には判っていないようだが、それぞれ強力な固有魔法が使えると言う大変危険な生物である。
そんな魔物達を1、2匹では無く数十匹と使役できると言う事は、人間族の”数”というアドバンテージが失われたに等しいと言う事。つまり、人間族は滅びの危機に瀕していると言う事だ。
・・・と言う、小説のおさらいでした。
「あなた方を召喚したのは【エヒト様】です。我々人間族が守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避する為にあなた方を喚ばれた。この世界よりも上位の世界の人間であるあなた方は、この世界の人間よりも力を有しているのです。」
そこで一言区切ったイシュタルは「神託の受け売りですがな」と表情を崩した。
「あなた方には是非その力を発揮し、
イシュタルは何処か恍惚とした表情を浮かべている。もしかしたら神託の事でも思い出しているのだろうが、私からしたら薬でもキメちゃった危ない人だ。お巡りさん、そのおじさんです。しかし、エヒト様の意思の下、ね・・・
私には、ある女性の言葉が脳裏に刻まれている。彼女は、こう言っていた。
『君たちのこれからが、自由な意思の下にあらんことを』
言わずと知れたウザキャラ、ミレディちゃんの言葉よ。神に抗い、敗れて反逆者の汚名を被り、そのまま数千年も小さなゴーレムの体で生き永らえ、何時か神殺しを成すものが現れるのを心待ちにしている、そんな彼女がハジメさん達に掛けた言葉だ。この世界の九割以上の人間がエヒト様を崇めているらしいが、私は崇めないよ。宗教って嫌いなんだよね、神の名の元にどうたら~って戦争を吹っかけるって、私の感覚からしたら唯のテロリスト。それ以上でもそれ以外でもない。
そこでアへってるオッサンは、私達に神の意思で動く駒に成れ!と、ここで公言している様な物だ。原作を知っている私からしたら、この光景を第三者視点で見ている様な、不思議な感覚に陥る。その駒となる当事者の一人であるにもかかわらず。
チラッとハジメさんを一瞥すると、難しい顔をしている。神の意思を疑う事なく喜々として従うこの世界の歪さに警戒心を強めたのだろう。原作でも、そのような表現がなされている。
バンッ!!
「ふざけないでください!!結局、この子たちを戦争に巻き込みたいだけでしょう!そんなの許しません!ええ、先生は許しませんよ!!私達を早く帰してください!きっと、ご家族も心配しているはずです!貴方達のしている事は、唯の誘拐ですよ!!」
ぷりぷり怒るのは、ハジメさん達の担任の先生。マスコットキャラの様に可愛らしい、その姿から【愛ちゃん】と呼ばれている人であり、将来のハジメさんの嫁の一人だ。因みに、本人が愛ちゃんと呼ばれると直ぐ怒る。なんでも、威厳ある教師を目指しているのだとか。
『・・・いやぁ~無理でしょう』
現に、この理不尽な召喚の理由に怒り、ウガーッ!!と立ち上がった愛ちゃんに「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる・・・」見たいな視線を向けられており、その生徒たちはみな、ほっこりしている。
ほんわかした表情で愛ちゃんを見ていた生徒たちだったが、次に放たれたイシュタルの言葉で凍り付く。
(結果を知ってる私以外。あと、多分ハジメさんも)
「お気持ちはお察しいたします・・・しかし、あなた方の帰還は不可能です。」
「「「「「っ!?」」」」」