巻き込まれたので、ハジメさんの立場(原作の)を簒奪する事にしました。   作:背の高い吸血鬼

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おはよう、がざいます・・・


21話 解放

凄まじい発砲音と共に、電磁加速された二発の弾丸がサイクロプス目指して突き進む。晴香が練習してきたクイックドロウだ。一瞬の反応すら許さぬ超高速で飛翔したタウル鉱石製フルメタルジャケット弾は、左右のサイクロプスの巨大な一つ目の瞳孔を穿ち、脳内の蹂躙。高威力の弾丸はそのまま後頭部を突き抜け、後方の壁に追突して漸く停止する。

 

撃たれた二体のサイクロプスはビクンビクンと痙攣したあと、前のめりに倒れ伏した。超重量の巨躯が倒れた衝撃で部屋全体を揺るがし、積もった埃が舞う。

 

一瞬の戦闘に、この空間が静寂に支配される。

 

「哀れ?ごめんね、貴方達に構ってる余裕はないの」

 

晴香は06式のシリンダーを開放して再装填を終え、ホルスターに収納すると、そのままサイクロプスの潰れた脳に手を突っ込んだ。高温の弾丸にシャッフルされた脳の一部を引きずり出すと、態々ひき肉にする手間が省けるとでも言わんばかりにそのまま喰らい付く。瞬殺されたとは言え晴香よりもステータスが高かった彼等の肉により激痛が走るが、服用している神水のお陰で痛みは直ぐに治まる。

 

ステータスプレートを取り出し、技能欄を見れば【金剛】を習得していた。

 

それを確認すると【風爪】でサイクロプスを切り裂き、体内から魔石を取り出す。血濡れを気にするでもなく二つの拳大の魔石を扉まで持って行き、それを窪みに合わせる。

 

ピッタリと嵌まると。直後、魔石から赤黒い魔力光が迸り、魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。そして、パキャンという何かが割れるような音が響き、光が収まる。同時に部屋全体に魔力が行き渡っているのか周囲の壁が発光し、久しく見なかった程の明かりに満たされる。これで扉は解錠された。

 

その事を確認した晴香は、【異界収納】よりタンクを取り出すと、其処から水を出して手を洗い、口を拭いて扉を押す。これからユエとのご対面だ!と、スキップしそうな勢いだ。そんな晴香の後ろ姿を、死体となり果てたサイクロプスが悲しそうな死に顔を向けている。

 

この扉を守るガーディアンとして封印されていた彼等は、こんな奈落の底の更に底のような場所に訪れる者など皆無だと思っていた。晴香がここに来た際、漸く来た役目を果たす時!と、胸中は歓喜で満たされていた彼等は、満を持しての登場だった。しかし、相手を見るまでもなく大事な一つ目ごと頭を吹き飛ばされる。

 

これを哀れと言わずしてなんと言うのか。

 

【異界収納】へと死体の収納も忘れて扉に向かって行くその後ろ姿。そして、収納を忘れられる死体サイクロプスは、本当に哀れだと思う。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

扉の奥は光一つなく真っ暗闇で、大きな空間が広がっている。【夜目】による暗闇補正と、手前の部屋の明りに照らされて少しずつ全容がわかってくる。

 

中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。その立方体から生える、僅かに見えるその存在が、晴香の目的であるユエだ。

 

開いた扉をそのままにして、晴香は歩みを進める。コツコツと晴香の足音が、この空間に反響した。

 

その時である。

 

「・・・だれ?」

 

かすれた、弱々しい女の子の声。何時かのアニメで聞いた、否、その周波数変換された電子音では無く、本物の生声。晴香の胸中に、言葉では表現できない興奮の様な夏が湧き上がり、鼓動が早まった。トータスまで来て、此処まで何度も死に掛けて、それでも諦めないで、此処まで来た。

 

唯々、目の前で封印された少女と出会う為だけに。

 

「漸く、会えた・・・」

 

上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が垂れ下がっている。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗いていた。年の頃は原作通り十二、三歳くらい。痛々しい程に窶れており垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしている。

 

無意識に流れ出そうとしていた涙を堪える晴香。紅の瞳の女の子も晴香をジッと見つめていた。

 

「・・・どうして、貴方はこんな所で封印されてるの?」

 

理由も真相も知っているのにこんな事を聞くのは、晴香的に凄く白々しい。しかし、聴かなければ不自然なので致し方なし。

 

余談だが、なぜ晴香がユエの事を彼女と言うのかというと、単純にこの時のユエはまだユエでは無く【アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール】という名前を持っているからである。この時にその本名を晴香が口にするのは憚られる。

 

「・・・・・・私、は・・・」

 

俯いた彼女が約300百年間碌にだしていない声で、呟くように理由を話してくれる。

 

「私、先祖返りの吸血鬼・・・すごい力持ってる・・・だから国の皆のために頑張った。でも・・・ある日・・・家臣の皆・・・お前はもう必要ないって・・・おじ様・・・これからは自分が王だって・・・私・・・それでもよかった・・・でも、私、すごい力あるから危険だって・・・殺せないから・・・封印するって・・・それで、ここに・・・・・・」

 

枯れた喉でポツリポツリと語る彼女。そのような事実を語られると知識にあっても、実際に耳にするのは重みが違う。例えるなら、そう。唯の紙に書かれた沖縄戦の資料を見るのと、実際に塹壕に入って戦争経験者の話を聞くような、そのような感覚だろうか。知っていても、その語られた辛い思いに同情を禁じ得ない。

 

晴香自身は知っているし、ここで聞くのも白々しいが、同上の理由で質問をさせてもらう。

 

「貴方は王族なの?」

「・・・(コクコク)」

「殺せないのは如何して?」

「・・・勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

「それが凄い力なの?」

「これもだけど・・・魔力、直接操れる・・・陣もいらない」

 

最後のは晴香も同じである。史実ハジメは元から魔法適性が無いので、魔力を直接操る事が出来ても魔法は発動できないので、大がかりな魔法陣が必要なのには変わりなく、碌に魔法は使えない。しかし、晴香は元々火属性適性並びに土属性適性を有しているので、この二属性に限って言えば陣無しでの即発動が可能である。

 

だが、この彼女のように魔法適性があれば反則的な力を発揮できる。何せ、周りがノロノロと詠唱やら魔法陣やらを準備している間に、即時展開で魔法を撃てるのだから、正直、勝負にならない。しかも、不死身。魔力が尽きさえしなければとの枷が存在するが、それでも勇者すら凌駕するチートである。

 

「・・・たすけて・・・」

 

晴香が、『・・・そう言えば私も、その魔法チートに片足突っ込んでるわ・・・』なんて思索に耽けているのをジッと眺めながら、ポツリと女の子が懇願する。

 

「ちょっと待ってて」

 

史実ハジメの様に無言で考え込まないでそう言うと、晴香は女の子を捕える立方体に手を置いた。何処かに行くわけではない。ただ、封印を解除するまでの辛抱に対する宣言だ。

 

「あっ」

 

女の子がその意味に気がついたのか大きく目を見開く。晴香が安心して?っと、微笑みを向けると錬成を始めた。

 

魔物を喰らい、変質してしまった晴香の赤黒い魔力が迸る。しかし、イメージ通り変形するはずの立方体は、晴香の魔力に抵抗するように錬成を弾く。やはり弾くようだ。だが、全く通じないわけではない。少しずつ少しずつ侵食するように晴香の魔力が立方体に迫っていく。

 

抵抗が強い。だが、既に史実ハジメの魔力ステータスの二倍を軽く超えている晴香の敵ではない。

 

更に魔力をつぎ込む。詠唱していたのなら六節は唱える必要がある魔力量だ。そこまでやってようやく魔力が立方体に浸透し始める。既に、周りは晴香の魔力光により濃い紅色に煌々と輝き、部屋全体が染められているようだった。更に魔力を上乗せする。七節分・・・八節分・・・女の子を封じる周りの石が徐々に震え出す。

 

「はぁっ!」

 

晴香は気合を入れながら魔力を九節分つぎ込む。属性魔法なら既に上位呪文級を超える魔力量。どんどん輝きを増す紅い光に、彼女は目を見開き、この光景を一瞬も見逃さないとでも言うようにジッと見つめ続けた。

 

それでも錬成できない立方体に対し、晴香は更に魔力を注ぎ込んだ。

 

直後、彼女の周りの立方体がドロッと融解したように流れ落ちていき、少しずつ彼女の枷を解いていく。

 

それなりに膨らんだ胸部が露わになり、次いで腰、両腕、太ももと彼女を包んでいた立方体が流れ出す。一糸纏わぬ彼女の裸体はやせ衰えていたが、それでもどこか神秘性を感じさせるほど美しかった。そのまま、体の全てが解き放たれ、彼女は地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。立ち上がる力もないらしい。

 

今までにないレベルの魔力投射量に汗を流した晴香は、額に滴る汗を手で拭うと、彼女の前に座る。

 

半分以上は魔力を消費したので、これから発生するサソリモドキとの戦闘に備える為に、太股に備えたショットシェルポーチの様な場所から神水の入ったシュタル鉱石製の試験官を二本抜く。なぜそこからとったかというと、異界収納より取り出すのも考えたが、いま彼女を驚かすのは良くないと考えたからだ。

 

その二本の内一本を彼女に渡そうとした時。その手を彼女がギュッと握った。弱々しい、力のない手だ。小さくて、ふるふると震えている。しかし、生きている証として温もりは感じられた。晴香が横目に様子を見ると女の子が真っ直ぐに晴香を見つめている。顔は無表情だが、その奥にある紅眼には彼女の気持ちが溢れんばかりに宿っていた。

 

そして、震える声で小さく、しかしはっきりと彼女は告げる。

 

「・・・ありがとう」

 

その言葉を贈られた時の心情をどう表現すればいいのか、晴香には分からなかった。

 

ただ、封印から解放し、彼女を救えた。という思いが胸中に広がっていた。

 




21話めにして漸くメインヒロインのユエちゃんの登場です。
あ、まだユエちゃんじゃないですねw
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