巻き込まれたので、ハジメさんの立場(原作の)を簒奪する事にしました。   作:背の高い吸血鬼

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おはようございます


22話 名前

繋がった手はギュッと握られたまま。約三百年と言う三世紀もの長い間、彼女はここに封印されていた。晴香の原作知識には、吸血鬼族は数百年前にエヒトルジュエの八つ当たりにより、封印された彼女とアラブ神として憑依現界している個体【ディンリード(ユエを封印した叔父)】以外滅んでいる。

 

話している間もやはりというか、彼女の表情は動かない。それはつまり、声の出し方、表情の出し方を忘れるほど長い間、たった一人、この暗闇で孤独な時間を過ごしたということだ。

 

しかも、信頼していた相手に裏切られて。よく発狂しなかったものである。もしかすると先ほど言っていた自動再生的な力のせいかもしれない。だとすれば、それは逆に拷問だっただろう。狂うことすら許されなかったということなのだから。晴香が言うとどの口がと思われそうなので声には出さないが、よく耐えたねという思いが、心の底から湧き上がり、今すぐ抱き締めてナデナデしてあげたい衝動に駆られる。

 

「どういたしまして」

 

そう言って小さな手を握る。彼女は、それにピクンと反応すると、再びギュギュと握り返してきた。可愛い。

 

「・・・名前、なに?」

 

彼女が囁くような声で晴香に尋ねる。そういえばお互い名乗っていなかった(晴香は意図的に名乗らなかった)と苦笑いを深めながら晴香は答え、彼女にも聞き返した。

 

「晴香。綾瀬ハルカって言うの。貴方は?」

 

彼女は「ハルカ、ハルカ」と、さも大事なものを内に刻み込むように繰り返し呟いた。むず痒い。でも嬉しい。そして、問われた名前を答えようとして、思い直したように晴香にお願いをした。

 

「・・・名前、付けて」

「・・・前の名前を捨てるのね?」

 

こくりと頷き、小さな口を開く。

 

「ん・・・もう、前の名前はいらない・・・ハルカの付けた名前がいい」

「わかった。」

 

前の自分を捨てて新しい自分と価値観で生きる。この彼女は自分の意志で変わりたいらしい。その一歩が新しい名前。

 

彼女は期待するような目で晴香を見ている。晴香は、原作と同様【ユエ】という名前を与える予定だ。しかし、それを言うと史実ハジメと同じ理由で名付けるのはどうかと思うし、晴香的にもよろしくない。なのでその理由を考える素振りを見せて、彼女の新しい名前を告げた。

 

「【ユエ】なんて如何かな?」

「ユエ? ・・・ユエ・・・ユエ・・・」

「ユエって言うのはね、月って意味なの。貴方を初めて見た時に、綺麗な金髪と真紅の瞳が時刻や高度で色の変わるお月様みたいだったから・・・」

 

思いのほかきちんとした理由があることに驚いたのか、女の子がパチパチと瞬きする。そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

ごめんね、言い方を変えただけで殆どハジメさんの受け売りなの・・・なんて口が裂けても言えない。しかし、ユエという名前を変えたくない晴香からしたらほぼパクリ理由のネーミングなど断腸の思いである。これ程、自身の語彙力の低さを恨んだ事はない。

 

「・・・んっ。今日からユエ。ありがとう」

 

晴香の苦悩を知らずのユエの感謝に苦笑い一つ。すこし気持ちが軽くなった気がした。

 

(私がユエちゃんを初めて見たのは、書店で見たライトノベル一巻の表紙イラスト。あのイラストレーター先生が描いたユエちゃんに、私は一目ぼれしたんだ・・・いまじゃあ本物のユエちゃんが目の前に居るけどね・・・)

 

晴香は前世界でのユエとの出会いを思い出していた。本当に偶然の出会いだった。書店のラノベコーナーにて、店長のおすすめ!とデカデカと書かれた看板の下に並んでいた数あるラノベの内、一瞬目に入った瞬間にはもう、惚れていたのだ。今目の前で、無表情だけど輝いた瞳を向けてくれる彼女に。

 

「ハルカ・・・?」

「・・・何でもない。それより・・・あぁ~タイムアップ。」

 

本当は服を渡そうと思った晴香であったが、ソレが動き出したのを【気配感知】により察知すると、諦める。

 

「ごめんねユエちゃん、ちょっと私に抱っこされて!」

 

立ち上がった私にひょいっと抱き抱えられるユエは相当困惑顔であったが、無抵抗で抱きかかえられている。そう言えば話してる最中、神水を飲ませてなかったので抵抗らしい抵抗が出来る程の体力が無い為だ。途中で飲ませる他あるまい。

 

晴香はユエを抱き抱えると、自分達―――正確にいえばユエの頭上にとんでもない魔物の気配が存在するのを確認し、縮地で壁際まで飛ぶ。ソレが天井より降ってきたのはほぼ同時だった。一瞬で、移動した晴香が振り返ると、直前までいた場所にズドンッと地響きを立てながらソレが姿を現した。

 

その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。

 

一番分かりやすいたとえをするならサソリだろう。二本の尻尾は毒持ちと考えた方が賢明だ。明らかに今までの魔物とは一線を画した強者の気配を感じる。ユエの封印を解くことによってサソリモドキが出現する事は知っていても、自然と晴香の額に汗が流れた。

 

彼はユエの叔父であるディンリードが用意したガーディアン。ユエを逃がさないための最後の仕掛けであり、ユエを救い出した者に対するディンリードの最後の試練。その試練内容は、この強大な力を有するガーディアンからユエを見捨てず救い出すこと。

 

「アレはユエちゃんを逃がしてくれないみたいだよ?」

 

腕の中のユエをチラリと見る。彼女は、サソリモドキになど目もくれず一心に晴香を見ていた。凪いだ水面のように静かな、覚悟を決めた瞳。その瞳が何よりも雄弁に彼女の意思を伝えていた。ユエは自分の運命を晴香に委ねたのだ。その瞳を見た瞬間、晴香の口角が吊り上がる。史実ハジメではない晴香自身に、過去ひどい裏切りを受けたこの少女が、今一度、その身を託す。

 

この信頼に応えなければ、晴香が、何よりユエへの思いが廃る。

 

「・・・それじゃぁお姫様の護衛と行きましょう!ユエちゃん、これ飲んで!」

「・・・ん」

 

片手でお姫様抱っこされるユエに、事前に取り出していたが渡せるタイミングが無かった神水入り試験官を渡す。ハジメの様に無理矢理飲ませない。開いた片手でもう一本の試験官を飲み干す晴香を見たユエは、反射的に受け取ったコレは何らかのポーション類だと察し、力の入らない手でどうにか蓋を外すと、口に付けてちょこりと傾けた。容器から神水がユエの体内に流れ込む。

 

「!」

 

衰え切った体に活力が戻ってくる感覚に驚いたように目を見開いた。

 

「ちょっと動くね!」

 

縮地による高速移動にて、抱えるユエが振り落とされぬように強めに固定すると、迫るサソリモドキから離れる為に縮地を連発。一番遠い柱の裏に隠れると、しっかり捕まっててねと伝えてからユエを背に背負った。全開には程遠いが、手足に力が戻ってきたユエはギュッと晴香の背中にしがみついた。

 

ギチギチと音を立てながらにじり寄ってくるサソリモドキを一瞥すると、晴香は【異界収納】より【44式45mm狙撃砲】を取り出し、真紅の雷を纏う。

 

「さて、殺るよ!」

 

晴香が持つには不釣り合いな大きさを誇る30mm狙撃銃を更に大口径化させた対物ライフルの銃口が、サソリモドキの頭部を捉えた。

 




会話って難しい。
それと、コロナが流行ってる今日この頃ですが、私の学校生活が始まりましたので執筆時間が短くなってしまう為、毎日更新が出来なくなります。多分、三日に一度のペースになると思います。ご迷惑をおかけしますが、予めご了承くださいm(>_<)m
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