巻き込まれたので、ハジメさんの立場(原作の)を簒奪する事にしました。   作:背の高い吸血鬼

33 / 52
おはようございます!


31話 銀紋章

「ユエっ!!」

「・・・」

 

晴香の呼びかけにも反応せず、青ざめた表情でガタガタと震えるユエ。【念話】で激しく呼びかけ、神水を飲ませる。しばらくすると虚ろだったユエの瞳に光が宿り始めた。

 

「ユエ!」

「・・・はる、か?」

「晴香だよ、大丈夫?」

 

パチパチと瞬きしながらユエは晴香の存在を確認するように、その小さな手を伸ばし晴香の頬に触れる。それでようやく晴香がそこにいると実感したのか安堵の吐息を漏らし目の端に涙を溜め始めた。

 

「・・・よかった・・・見捨てられたと・・・また暗闇に一人で・・・」

 

ユエ曰く、突然、強烈な不安感に襲われ気がつけば晴香に見捨てられて再び封印される光景が頭いっぱいに広がっていたという。そして、何も考えられなくなり恐怖に縛られて動けなくなったと。

 

「そっか・・・大丈夫、私はユエの隣にいるよ」

「・・・晴香」

 

抱き締めて耳元で囁くが、ユエは不安そうな瞳を向ける。よほど恐ろしい光景だったのだろう、晴香に見捨てられるというのは。何せ自分を三百年の封印から命懸けで解き放ってくれた人物であり、吸血鬼と知っても変わらず接してくれるどころか、日々の吸血までさせてくれるのだ。心許すのも仕方ないだろう。

 

そして、ユエにとっては晴香の隣が唯一の居場所だ。一緒に晴香の世界に行くという約束がどれほど嬉しかったか。再び一人になるなんて想像もしたくない。そのため、植えつけられた悪夢がこびりついて離れず、ユエを蝕しばむ。ヒュドラが即席の城壁を破壊しようと攻撃しており、もうじき城壁は倒壊すると感覚で理解している晴香は、錬成で一旦自身とユエを地面に沈めて【気配遮断】と【魔力遮断】を発動して物理的、魔法的に姿をくらます。

 

抱き締められたユエは、晴香の腕の中で服を握った。

 

「・・・私・・・・・・」

 

泣きそうな不安そうな表情で震えるユエ。晴香はユエの見たであろう悪夢から、今ユエが何を思っているのか感じ取る。今にも消えてしまいそうなほど弱々しく、心の折れかけているユエには強烈なインパクトの伴う、私だけが与えられる活力が必要。

 

揺らぐ瞳を見れば一目瞭然。こんな状況だが、晴香は一旦ヒュドラを脳内から押しやると、ユエの為だけに全思考を傾けた。

 

「んっ」

「っ!?」

 

ユエにキスをした。それもディープな方。

 

上でヒュドラが暴れる為に凄まじい振動で、この小さく狭い地下空間が悲鳴を上げるが何の其。キスされたユエは、普段であれば晴香の舌を瞬時に跨牢するのだが、全くと言って良い程に抵抗できずに成すがまま。そのまま口内でうねり、唾液が混ざって零れ落ちるほどに混ぜ合わせるキスが数十秒と続く。

 

「んぁ・・・は、はる・・・っ」

 

そろそろ息が続かないと判断した晴香は、漸くユエの口内から自身の舌を抜く。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

「はい、ユエ」

「あ・・・」

 

ユエを支えて晴香の首筋の前へと誘う。そして、そのままユエの口に優しく押し当てた。

 

無意識か分からないが、ユエが歯を突き立てる。血と共に晴香の力が吸い取られて行くような奇妙な感覚を感じられる事から、ユエがちゃんと吸血していると理解できる。より吸いやすいように、そして、我が子をあやす様に優しく背中を撫でて安心させる。此処に私は居るよ。ユエの隣に晴香はいるよ、と。

 

暫くして首筋よりユエが離れた。瞳は、先程の様に揺れてない。

 

「もう一度言うわ・・・ユエ、貴方の居場所は私の隣よ。もし帰る事になっても、それは変わらない・・・一緒に帰るって、約束したでしょ?」

 

晴香の目には、つい先程の様に不安に押しつぶされそうな、唯の少女は居ない。「もう、惑わされない」―――そう瞳で語る、いつかのように無表情を崩しふんわりと綺麗な笑みを浮かべたユエがいる。

 

「んっ!」

 

ユエが復活した事を理解した晴香は【異界収納】より神水試験管6本程取り出し、3本をユエに渡し、残りを煽る様に全て飲み干す。完全回復には程遠いが長時間回復し続けられる、言わばバフのように扱った。きっと聖教教会関係者が卒倒する豪快な飲み方だっただろう。

 

試験管を収納すると、錬成で地下スペースを広げ、其処に新たな兵器を召喚した。

 

「ユエ、00式を使うから、もしもの時は援護をお願いね」

「任せて!」

 

いつもより断然やる気に溢れているユエ。静かな呟くような口調が崩れ覇気に溢れた応答だ。先程までの不安が根こそぎ吹き飛んだようであり、そして色々吹っ切れたようだ。これで心配は無くなった晴香は、急いで【00式】を組み立てる。

 

00式の正式名称は、【00式10cm六弾倉回転式手装砲】

 

以前晴香は『艦〇れ見たいに大きな砲を持ってれば・・・』と妄想していたのを知って居るだろうか?それを具現化させてしまったのが、この00式である。旧日本海軍の秋月型駆逐艦の主砲と同じ口径を有し、生物相手はに過剰威力、扱う側にも強い反動を伴う双方に危険が及ぶ、多分ロマン兵器に分類されるモノだろう。

 

重量は正確に測る事が出来ないので不明だが、恐らく500kg前後。高威力の砲撃に耐えられる砲身。纏雷で流した電圧により発生した磁力を利用した再装填機構。幾ら晴香と言えども、完全には受け流しきれない高威力による反動を少しでも抑える為のスプリングを利用した反動抑制機構。名前にある六発の数種類の砲弾を搭載できる回転弾倉、それと、腕に装着する為の各種補助器具などが合わさった結果である。

 

とても生身の人間が扱う兵器では無いが、ステータスが人間を逸脱した晴香ならではの、言わば専用兵器である。

 

10cmと大口径なので、それに見合う様々な弾頭を装備でき、現在は以下の、

 

・10cm榴弾

・10cm形成炸裂弾

 

それと新規開発した、

 

・10cm装弾筒付翼安定徹甲弾(俗に言うAPFSDS砲弾)

 

を装備可能であり、現在は【異界収納[+遠隔召喚]】を磨きに磨いたため、手動ではなく遠隔召喚により、弾倉内部に直接各種弾頭を装填出来るようになったため、砲弾本体が尽きぬ限り事実上の無限弾倉を再現できた形だ。

 

もう、あの時の失敗は繰り返さない(23話参照)

 

しかし残念ながら、反動が強すぎるため連射は出来ない。代わりにと言っては何だが、一発撃つと再装填機構の動作で次弾装填が約2秒かかるので、大体3秒間隔で放つ事は可能だ。

 

「―――行くよ!!」

「んっ!!」

 

晴香が再度、【気配感知】で感じ取ったヒュドラの存在する場所付近を囲むようにして、地面の中から【重剣山】を発動。魔力を三分の一ほどごっそり持っていかれたが、胃の中に残っている神水が瞬時に回復して行く。そして、ヒュドラが囲まれて身動きが取れなくなっている今がチャンスと、錬成で地面から飛び出した。

 

「クルァアアアアっ!!」

 

ヒュドラが苛立ちの咆哮を上げて極太剣山を破壊すれば、その奥には金属の何かを構え、不敵な笑みを浮かべる侵入者が―――

 

「死ねっ!」

 

晴香の身体が紅の雷を纏うと、口径に見合わない小さな引き金を引く。

 

―――ドゴォォオオオンッ!!!!

 

砲が火を噴く。直径10cm、弾頭重量凡そ27kg、その内圧縮炸薬量24kgの留弾が、丁度顔を覗かせた盾役に向かって突き進む。バネを利用した反動抑制機構がキチンと動作したが、それでも半分以上の衝撃が腕や肩を通して晴香を直撃する。しかし、人間を逸脱して化け物と化した晴香には耐えられない程の大袈裟な衝撃では無かった。

 

それでも十分化け物だが。

 

盾役が見たのは、妙に遅く感じる時間でどんどん近づいて来る、金属の丸い壁であった。

 

「クルア――――――」

 

避けるか迎撃するか。しかし、壁の方が到達する足後が早いと判断した盾役は、避けられないと悟ると顔を肥大化させ、受け止め―――ようとした事が命取りであった。砲弾が直撃する。次の瞬間・・・

 

ド―――――――――ッ!!!!!!!

 

空間そのものが爆ぜた。

 

そう錯覚してしまう程の大爆発が発生し、この密閉された100階層広場内部に爆圧が無秩序に解き放たれる。

 

「―――!【聖絶】!」

 

その強大な爆発力が、壁として存在していた【重剣嶽】を内部から破壊して、無差別に重質量の岩が砲弾の様に飛び散る。無秩序に散破する岩は当然晴香たちにも飛んでくるが、それを奈落の吸血姫が許す事なく光属性最上級結界魔法【聖絶】にて、全てを防いだ。予想としてはもう少し威力の抑えられた爆発だろうと思っていた晴香は、流石に此処までの威力と、周辺に散らばる岩々に頬を引きつらせる。

 

他の配置に仲間や守るべきものがあった場合に、こんな攻撃を繰り出してしまったらと想像するだけで顔が青くなる。しかし、反省会は後回しだ。今はヒュドラに全力を尽くさなければならない。

 

ビリッ―――カシュン・・・カランっ

 

纏雷により高電流を一部分に流せば、再装填機構に備え付けられた銅コイルにより大きな磁力が発生し、コイル内の鉄心が後方に移動すると、弾倉が回転すると同時に撃ち終えた空薬莢が排莢される。そして、磁力が切れると同時に伸びきったスプリングが元に戻ろうとする運動エネルギーで次弾装填が完了。

 

この間、僅か3秒。

 

晴香は【生成魔法】を習得していない為にアーティファクトはまだ制作出来ないが、代わりに科学の原理をわかる範囲で最大限利用した、アーティファクト紛いの現代兵器をこのように制作する事が出来たのだ。この世界の住民にとっては、もはやアーティファクト以外の何物でもないのだが、それはさておき。

 

「・・・やった?」

「頭は全部潰したけど、本体?は生きてるみたい。気を抜かないで!」

「んっ!」

 

その直後、

 

「!」

 

ユエが驚愕の表情を浮かべた。その先にはヒュドラがおり、音もなく新な、七つ目を有した銀紋章の頭が胴体部分からせり上がり、晴香たちを睥睨した。

 

ヤバいと本能が警報をガンガンならすとほぼ同時に、七つ目の銀色に輝く頭は、鋭い眼光で晴香たちを射抜き、予備動作もなく極光を放った。SFの宇宙戦艦の主砲レーザーの射撃は、実際に見ればこのようなモノなのだろう。光り輝く極光は見る分にはとても美しい光景だが、向けられて放たれる側としては、一切合切を焼く尽くす死の光を連想させる。

 

射線的にユエの前に居る晴香は、耐えられるのでは?と思って居たユエの【聖絶】ですら危ういと、全身を悪寒に襲われ同時に飛び出していた。

 

後方に。

 

極光が一瞬だけ【聖絶】と拮抗したが、まるで何事も無かったかのように突き破ると、極光は勢いが衰える事無く、そのまま晴香たちを丸ごと消し飛ばす――――――

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。