巻き込まれたので、ハジメさんの立場(原作の)を簒奪する事にしました。   作:背の高い吸血鬼

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おはようございます!
誤文字報告ありがたいです・・・(感激)


37話 ライセンで

魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の澱よどんだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる久しぶりの空気に晴香の頬が緩む。やがて光が収まり目を開けると、

 

奈落と同じ洞窟であった。

 

「秘密の通用路、だね」

「ん・・・」

 

調べると、綺麗な縦線の刻まれた壁があり、晴香の目線には七角形が描かれていた。頂点には様々な解放者たちの紋章が刻まれており、その頂点にはここ数か月、ほぼ毎日見て来た【オルクス】の紋章があったので、攻略の証である指輪をかざす。すると、雰囲気たっぷりにズゴゴゴっと壁が左右に割れて、奥の通路を晒した。

 

晴香とユエは顔を見合わせて頷くと、その通路を進む。

 

途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。二人は一応警戒していたのだが、何事もなく洞窟内を進み、遂に光を見つけた。外の光だ。晴香はこの数ヶ月、ユエに至っては300年間、求めてやまなかった光。

 

晴香とユエは、それを見つけた瞬間、思わず立ち止まりお互いに顔を見合わせた。それから互いににこっと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出した。近づくにつれ徐々に大きくなる光。外から風も吹き込んでくる。奈落のような澱んだ空気ではない。ずっと清涼で新鮮な風だ。晴香は【空気が旨しい】という感覚を、この時ほど実感したことはなかった。

 

そして、晴香とユエは同時に光に飛び込み・・・待望の地上へ出た。

 

地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は1.2km、幅は900mから最大8km、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。

 

【ライセン大峡谷】

 

晴香達は、そのライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた。地の底とはいえ頭上の太陽は燦々と暖かな光を降り注ぎ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐる。たとえどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていた晴香とユエの表情が次第に笑みを作る。

 

無表情がデフォルトのユエでさえ誰が見てもわかるほど頬がほころんでいる。300年ぶりに見る、この大地と蒼穹の大空は、ユエにはどの様に映ったのか。それはきっと、言語化できない万感の思いに違いない。

 

「地上、ね・・・」

「ん・・・」

 

二人は、ようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとお互い見つめ合い、そして思いっきり抱きしめ合った。

 

「よかったね、ユエっ!」

「んっ――!!」

 

小柄なユエを抱きしめたまま、晴香はくるくると廻る。しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。途中、地面の出っ張りに躓き転到するも、そんな失敗でさえ無性に可笑しく、二人してケラケラ、クスクスと笑い合う。

 

ようやく二人の笑いが収まった頃には、すっかり・・・魔物に囲まれていた。

 

「ふぅ~・・・ユエ、魔法はどう?」

「・・・分解される。でも力づくでいく」

 

ライセン大峡谷で魔法が使えない理由は、発動した魔法に込められた魔力が分解され散らされてしまうからである。もちろん、ユエの魔法も例外ではない。しかし、ユエはかつての吸血姫であり、内包魔力は相当なものであるうえ、今は外付け魔力タンクである神結晶シリーズを所持している。

 

つまり、ユエ曰く、分解される前に大威力を持って殲滅すればよいということらしい。

 

「効率は?」

「・・・10倍くらい」

 

史実と同じく、初級魔法を放つのに上級レベルの魔力が必要らしい。射程も相当短くなるようだ。

 

「ありゃ。それは駄目ね、私が守るからもしもの時に備えてて」

「うっ・・・でも」

「魔法職には辛いでしょう?それに、私がユエを守るって誓ったしね」

「ん・・・わかった」

 

ユエが渋々といった感じで引き下がる。せっかく地上に出たのに、最初の戦いで戦力外とは納得し難いのだろう。少し矜持が傷ついたようだ。唇を尖らせて拗ねている。そんなユエの様子に苦笑いしながら晴香はおもむろに06を通常発砲した。相手の方を見もせずに、ごくごく自然な動作でスっと銃口を魔物の一体に向けると、これまた自然に引き金を引いたのだ。

 

あまりに自然すぎて攻撃をされると気がつけなかったようで、取り囲んでいた魔物の一体が何の抵抗もできずに、その頭部を爆散させ死に至った。辺りに銃声の余韻だけが残り、魔物達は何が起こったのかわからないというように凍り付いている。

 

その間にスっとガン=カタの構えをとり、両手系計11発を全て解き放つ。響き渡った銃声と共に十一条の閃光が走り、射線上に存在した魔物の頭部が消し呼ぶ。

 

そこから先は、もはや戦いではなく蹂躙。魔物達は、ただの一匹すら逃げることも叶わず、まるでそうあることが当然の如く頭部を吹き飛ばされ骸を晒していく。辺り一面が魔物の屍で埋め尽くされるのに五分もかからなかった。

 

06・60を太もものホルスターにしまった晴香は、一言。

 

「よっわ」

 

知っていても呟かずにはいられなかった。そんな晴香にユエがあきれた視線付きで一言。

 

「・・・ハルカが化け物」

「あはは・・・」

 

そうなんだよね・・・と苦笑いした晴香は、もう興味がないという様に魔物の死体から目を逸らした。

 

「さて・・・どうしよっか?ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮がある場所だけど。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進む?」

「・・・なぜ、樹海側?」

「峡谷を抜けて、いきなり砂漠横断になっちゃう。でも樹海側なら、町にも近そうだし。」

 

本当はシアと合流したいから。とは言えないので、もっともらしい理由を述べる。実際、樹海側に向かえば【ブルックの街】が存在するので嘘は行っていない。樹海の反対方向にはアンカジが存在するが、優先するべきはシアである。

 

「・・・確かに」

 

晴香の提案にユエも頷いた。魔物の弱さから考えても、この峡谷自体が迷宮というわけではなさそうだ。ならば、別に迷宮への入口が存在する可能性はある。晴香の【空力】やユエの風系魔法を使えば、絶壁を超えることは可能だろうが、どちらにしろライセン大峡谷は探索の必要があったので、特に反対する理由もない。

 

晴香は【異界収納】より魔道駆動二輪を取り出す。颯爽と跨り、後ろにユエが横乗りして晴香の腰にしがみついた。

 

地球のガソリンタイプと違って燃焼を利用しているわけではなく、魔力を【纏雷】で変換して得た電気で電動機を回しているので、駆動音は電気自動車のように静かである。ちなみに速度調整は魔力量次第である。晴香自身が直接魔力を注いでいるのではなく、内部に内蔵された【魔力水タンク】より供給されるため、仕様はガソリン車のようなものだ。ただ、CO₂や温室効果ガスを排出しないクリーンなエコバイクである。

 

因みに【オルクス大迷宮】から出ればライセン大峡谷だと知っていた晴香は、【魔力水タンク】から【変換器】に至るまでの間で魔力が霧散するのを防ぐ為、外部装甲と機構の間に【魔力遮断】を付与した特殊鉱石を挟んでいる。なので魔力効率が最悪に悪くても特殊鉱石に挟まれた変換機構の魔力効率は変わらない。

 

速度を上げれば上げるだけ魔力を多く消費して【魔力水タンク】内部の魔力は減るが、特殊鉱石に囲まれているお陰で霧散する事無く、変換後は魔力を含まない唯の電気のために霧散することがない。霧散するのはあくまでカバーをせずに【纏雷】などを使用するからである。

 

ライセン大峡谷は大陸を横断するように、東西に真っ直ぐ伸びた断崖だ。そのため脇道などはほとんどなく道なりに進めば迷うことなく樹海に到着する。晴香たちは迷う心配が無いので、迷宮への入口らしき場所がないか注意しつつ、軽快に魔力駆動二輪を走らせていく。車体底部の地ならし機が谷底の悪路を整地しながら進むので実に快適だ。

 

「・・・気持ち良い」

「ふふ、そうだね・・・」

 

かなりの速度で走っても、一定以上の強さの風は通さない半障壁が展開されている為、微風が吹き抜ける程度であり、ふさぁっとユエの髪を揺らす。やはり空気が違う為か、とても優しい風に感じる。だからだろう、ユエは目を細めてまったりモードだ。そんなユエに釣られて晴香もまったりしてはいるが、手だけは忙しなく動き続け、一発も外すことなく襲い来る魔物の群れを蹴散らしている。

 

魔物の悲鳴と発砲音のBGMは如何かと思うが、奈落で散々経験している晴香とユエは慣れっこであり、これも一つのリズムと捉えてのんびり。

 

殺意溢れる殺伐な一時を過ごした弊害だろう。

 

「・・・ハルカ?」

「いや、迷宮が見つからないな~と」

 

勿論迷宮を探しているが、本命はシアである。これから先でユエの妹部にまで成長を遂げるキーパーソンだ。彼女を確保しなければ、ライセン迷宮は無論、ユエの心許せる相手がいなくなってしまうのは、晴香的に良くない。本心では、ユエは私だけに依存してくれればいいと思っている。だが、晴香以外にも仲良くできる相手がいた方が、ユエの為になる。

 

オスカーの住処を出た時期は、史実ハジメさんと同時期に旅立ったはずなので、ちゃんと会えると思うが果たして―――

 

しばらく魔力駆動二輪を走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。中々の威圧である。少なくとも今まで相対した谷底の魔物とは一線を画す。もう三十秒もしない内に会敵するだろうが、これは彼のダイヘドア(双頭ティラノ擬き)だろうか。このタイミングで快適と言う事は、もしかすると合流できるかもしれない。

 

魔力駆動二輪を走らせ突き出した崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。それは、晴香の予想した通りダイヘドアであったが、真に注目すべきはダイへドアではない。その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女―――シア・ハウリア―――だろう。

 

晴香は魔力駆動二輪を止める。

 

晴香が二輪を止めたので、この【ライセン大渓谷】で少しは骨のある魔物と会敵したのか、と気になったユエがひょこりと晴香の肩越しから視線を魔物の方向に向け、そんなに強そうでもないと判断を下した。魔物の下には死にかけの小さな魔力反応があり、これを捕食するのかな?と一瞬だけ視線を向けた。

 

向けてしまった。

 

ユエは見てしまったのだ。魔法陣を起動する際に預言してしまった【ウサミミ】を。自身の言い放った言葉が、本当に現実してしまった事に対して運命を呪う。それはもう、封印される運命以上に!

 

「・・・早速でたな!?私は吸血姫ユエ。残念そうなウサギでも容赦はしない女!!」

 

そして、ユエは凝視する。注目するのはウサミミではない。はち切れんばかりにたわわに実った二つの凶器を。黒い感情が湧き出る。捥げてしまえ―――否、私が捥ぐ!!瞬時に魔力を練り上げ、ズタズタに削ぎ落す為に丁度良さそうな【風帝】を発―――

 

「もぅ、ほらユエ落ち着いて・・・」

「・・・・・・むぅ」

 

―――動仕掛けた所で晴香がインターセプト。無理矢理発動しようとした魔法を止めさせ、シアの胸は救われた。

 

「それで、如何しよっか?助けて樹海の案内人にでも仕立て上げる?」

「・・・・・・ん・・・その後は、奴隷?」

「あはは・・・」

 

思わず苦笑いの晴香であった。

 

しかし、我の姫ユエ様は、中々に酷い事を言いなさる。

 

なんて呑気な晴香とユエをシアの方が発見したらしい。ダイヘドアに吹き飛ばされ岩陰に落ちたあと、四つん這いになりながらほうほうのていで逃げ出し、その格好のまま晴香達を凝視している。

 

「―――見つかったぁ(渋い声)」

「ハルカ・・・?」

 

黒服サングラスが超高速で追いかけて来る、かなり印象深い番組のナレーターの真似だが、流石に判らないようだ。

 

それは兎も角、彼女は再びダイヘドアが爪を振るい隠れた岩ごと吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がると、その勢いを殺さず猛然と逃げ出す。晴香達の方へ。それなりの距離があるのだが、シアの必死の叫びが峡谷に木霊し晴香達に届く。

 

「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。そのすぐ後ろにはダイヘドアが迫っていて今にもシアに食らいつこうとしていた。このままでは、晴香達の下にたどり着く前にシアは喰われてしまうだろう。

 

「案内人が死にそうだから、助けるとしましょうか・・・」

「ん・・・大事な資源は、無駄にしない」

 

奴隷=資源?

 

旅立ちの際に預言してしまった【巨乳ノウサミミ】との遭遇が現実してしまったためか、如何やら今日のユエ様は暗黒面らしい。

 

それはそれでイイ。

 




※本編とは関係ありません






シア
「だずげでぐだざいいぃぃいいいっ!!」
ユエ
「だが断る!―――【風帝】!!」
シア
「胸がッ、アァ―――――ッ!?!?」

と言う未来が一瞬過ったと、シアは後に語る・・・
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