巻き込まれたので、ハジメさんの立場(原作の)を簒奪する事にしました。   作:背の高い吸血鬼

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38話 禁忌の言葉(バルスでは無い)

「取り敢えず、助けるよ~」

 

スッと自然に照準がダイヘドアを捉える。そして連続で発砲。ここライセン大渓谷では魔法を構成しようとすると魔力が霧散してしまうという魔法職殺しの場所であり、それは固有魔法でも体外で作用させる魔法であれば、この効果が発揮されてしまい【纏雷】による電磁加速では普段の約10倍もの魔力と消費してしまうため、通常発砲による攻撃だ。

 

しかし、通常攻撃だとしても12.7mm50口径。そして異世界鉱物タウル鉱石製フルメタルジャケット弾は、奈落ならまだしも地上の魔物に対しては高価は絶大。

 

何が起こったのか理解できずにダイヘドアは意識を永遠の闇に落とす。頭部が爆散し、力を失った胴体が地面に激突、慣性の法則に従い地を滑る。ダイヘドアはバランスを崩して地響きを立てながらその場にひっくり返った。

 

その衝撃で、シアは再び吹き飛ぶ。

 

狙いすましたように晴香の下へ。

 

「きゃぁああああー!た、助けてくださ~い!」

 

眼下の晴香に向かって手を伸ばすシア。その格好はボロボロで女の子としては見えてはいけない場所が盛大に見えてしまっている。たとえ酷い泣き顔でも迷いなく受け止めてあげるのが優しい女性なのかもしれない。

 

が、

 

「ごめんね~」

 

しかし、そこは晴香クオリティー。一瞬で魔力駆動二輪を後退させると華麗にシアを避けた。

 

助けるとか言っておいて結局助けないのかよ!と思われる行為だが、ダイヘドアから()()ちゃんと救ったので、これ以上の救済は必要でないと判断したのだ。それと、どんな女性でも自分だけを特別扱いしてくれる者(本当は男性だが今回の場合、晴香は女性なので【者】としておく)を好意的に捉えるようであるからして、暗黒面に染まるユエを更に深淵に堕とさない為にも受け止めることはしなかった。

 

考えて欲しい。シアのあずかり知らぬ所での話であるが、一瞬でもユエを暗黒面に落とした相手(シア)が、奈落の底で苦楽を共にし、一蓮托生のパートナーとなった最愛に受け止められて助けられる。優しい、と言えばそれまでだが、現在は自分だけを特別視して欲しいと思っているユエの前で、そんな事は、晴香は出来ない。

 

というかしたくない。

 

ユエとの立場が逆だったら、と考えたら、晴香は多分シアに嫉妬するだろうから。

 

自分で言うのもアレだが、女性は本当に面倒くさい生き物である。これは女性じゃなければ分からない問題かもしれないが、当時のシアを避けたハジメさんはファインプレーだったろう。

 

晴香的には、もっとユエから嫉妬されたい立場。嫉妬や愛憎なんかは果てしないご褒美である。しかしこれとそれは別。

 

「えぇー!?」

 

そんな事を考えてる間にシアは驚愕の悲鳴を上げながら晴香の眼前の地面に落下した。両手両足を広げうつ伏せのままピクピクと痙攣している。気は失っていないが痛みを堪えて動けないようだ。

 

まるで車に引かれた蛙のようだ。

 

「・・・面白い」

 

ユエが晴香の肩越しにシアの醜態を見て、さらりと酷い感想を述べる。存在自体がギャグの塊のようなシアに影響されてか、黒い雰囲気は何処かへ旅だったようだ。

 

「な、なんで助けてくれないんですかっ!?」

「いや、助けたよ?(命は)」

「ん・・・」

 

晴香が顎をしゃくり、ユエが指を指して、そういえばと思い出したシアが恐る恐る振り返る。すると「へっ?」と間抜けな声を出して絶句した。自分を食料にせんがために散々この大渓谷を追い回してきたダイヘドアが、いつの間にか頭部を爆散させて血の海に沈んでいるのだから。

 

「し、死んでます・・・あの、ダイヘドアが・・・」

 

シアは驚愕を表に目を見開いている。それを横目に、晴香が話しかけた。

 

「それで、残念ウサギちゃん。君の名は?」

「残念ウサギとは何ですかっ!―――って!そうでした!先程は助けて頂きありがとうございました!私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです!取り敢えず私の仲間も助けてください!」

 

峡谷にウサミミ少女改めシア・ハウリアの声が響く。帝国兵から追われ、魔物にも追われて確か40~50人くらいしか生き残ってなかったと認識している晴香。考える様に空を見上げた晴香に、シアがしがみついて懇願した。よほど必死なのか、助けてくれると言うまで絶対離さない、と言わんばかりの握り強さである。

 

「・・・私のハルカに、触れるな!」

「アダっ!?は、放しませんよっ!!」

 

そんなシアに相当強くユエが蹴りを食らっているのだが、頬に靴をめり込ませながらも離す気配がない。

 

「はぁ~、それで、取り敢えず理由は聞きましょうか。だから、その汚い顔を私の服で拭こうとしないで?」

 

どの道、助けるつもりでいたが、ユエは事情を知らないので取り敢えず促す。すると、話を聞いてやると言われパアァと笑顔になったシアは喜々として語ってくれた。なお、さりげなく晴香の服で顔を拭こうとしたことはインターセプトされた模様。

 

でも離さないのでユエが【風弾】を放った。

 

「・・・いい加減にして」

「フビュラッ!?―――ま、魔法撃ちましたね!?父様にも撃たれたことないのに!よく私のような美少女を、こうも雑に扱ってくれましたね!?」

「いや、兎人族なんだから魔法は使えないでしょう・・・って、え。美少女?」

 

晴香の目には顔面土砂崩れのボロボロ雑巾が映っている。それはもう酷い具合に崩壊しており、カリ〇ォル〇アダ〇ンの都市の様にぐしゃぐしゃだ。とても美少女には見られない。と言うか、晴香はここ数か月ずっと、女神と言う言葉すら生温い表現法へと成り下がるほど、美を超越した美少女のユエと一緒にいた。夜でぐしょぐしょになって色々乱れていたとしても、その美しさは失っておらず、艶やかさが増す始末である。

 

なので、ぐしょぐしょ処かぐしゃぐしゃなシアは、単にレベルは比較的高いけど酷く残念な少女以上の評価にしかならなかった。

 

ユエに慣れると、通常のシアですら村人Aの様に霞んでしまうのである。

 

「美少女でしょう!?」

「いや、ユエの方が可愛いし、シアなんかより美少女だよ」

 

晴香も酷かった。

 

何かとは何ですか!!と抗議するシアを無視した晴香は隣のユエを見る。ユエは晴香の言葉に赤く染まった頬を両手で挟み、体をくねらせてイヤンイヤンしていた。腰辺りまで伸びたゆるふわの金髪が太陽の光に反射してキラキラと輝き、ビスクドールの様に整った容姿が今は照れでほんのり赤く染まっていて、見る者を例外なく虜にする魅力を放っている。

 

可愛い+微笑ましい=愛でたいという欲求。と言う事で、頭をなでなで。途端、晴香とユエを中心とする半径3mは幸せな桃色の空間へと早変わり。

 

格好も、晴香が用意していたシンプルな服一式ではない。前面にフリルのあしらわれた純白のドレスシャツに、これまたフリル付きの黒色ミニスカート。その上から純白に青のラインが入ったロングコートを羽織っている。足元はショートブーツにニーソであり史実と同じファッションだ。どれも、オスカーの衣服と魔物の素材、更に晴香の特注アザンチウム鉱石製極細ワイヤーを繊維にした金属布を合わせた複合服となっており、神結晶の装飾もあしらわれた、晴香が素材を、そしてユエが仕立て直した逸品だ。

 

下手な防具よりも高い耐久力を有する、戦闘で役立つ衣服である。

 

更に、オスカー作の【黒傘】の様に神結晶を装飾として取り入れている為、服に受けた魔法攻撃の魔力を5~4分の1程度だが吸収する特性もあり、毎度の事【金剛】と神結晶には【高速魔力回復】が生成魔法にて付与された、金属鎧のアーティファクトにも劣らない防護服となっている。

 

ちなみに、晴香は黒に白のラインが入ったコートと下に同じように黒と白で構成された衣服を纏っている。これもユエとの合作だ。全体的にユエの衣装と似ているが、これはユエがペアルックにしたいとの意見でこのような形となった。なお、ユエはスカートを取り入れようとしていたが、戦闘中にひらひら翻るのは鬱陶しいと言う事で、ミニスカの下にパンツを履くスタイルとなっている。

 

出来ればズボンで良かったのだが、ユエ曰く『・・・ハルカも女の子。オシャレしなきゃ、メッ!』と言われてしまったため、今のスタイルに落ち着いた。

 

因みにだが、スカートは白黒のチェック柄となっていた為、悪ふざけで先端が赤いバールのようなモノを開発。髪も白なので、それっぽく構えれば本当にソレっぽく見える事で、コスプレでもしているようだと少し興奮した。しかも、異様に硬いシュタル鉱石製なので、鈍器にも投擲器にも使える一種の武器として戦う事も可能。

 

実際に実戦で使う事はないだろう。

 

話が反れてしまったので元に戻そう。そんな可憐なユエを見て「うっ」と僅かに怯むシア。しかし、客観的に見ればシアも美少女ではある。少し青みがかったロングストレートの白髪に、蒼穹の瞳。眉やまつ毛まで白く、肌の白さとも相まって黙っていれば神秘的な容姿とも言えるだろう。手足もスラリと長く、ウサミミやウサ尻尾がふりふりと揺れる様は何とも愛らしい。

 

そして何より・・・晴香やユエにはないものがある。

 

巨乳だ。シアは大艦巨砲の持ち主だった。ボロボロの布切れのような物を纏っているだけなので殊更強調されてしまっている凶器は、固定もされていないのだろう。彼女が動くたびにぶるんぶるんと揺れ、激しく自己を主張している。ぶるんぶるんだ。念の為。

 

要するに、彼女が自分の容姿やスタイルに自信を持っていても何らおかしくないのである。むしろ、普通に・・・と言うか雑に接している晴香が異常なのだが、ユエの方が・・・と、シアがどれだけ美少女で巨乳だったとしてもユエの方が美少女であると言う、ある種の宗教的感覚に染まっているともいえる。

 

これでは【神山】の試練が突破できるのか試されるが、晴香が進行するとしたらエヒトなんていうゴミではなく、ユエが対象となる為、問題は無いだろう。

 

それは兎も角。

 

それ故に、矜持を傷つけられたシアは言ってしまった。言ってはならない禁忌の言葉を・・・

 

「で、でも!胸なら私が勝ってます!貴方なら兎も角、そっちの女の子はペッタンコじゃないですか!」

 

 

 

――ペッタンコじゃないですか――――ペッタンコじゃないですか―――――ペッタンコじゃないですか――――――・・・

 

 

 

峡谷に命知らずなシアの叫びが木霊する。恥ずかしげに身をくねらせていたユエがピタリと止まり、前髪で表情を隠したままユラリと二輪から降りた。ばりぼり魔物をごっくんするけど晴香も一応女なので、それほど気にしてなくとも胸を指摘されるのはイラッと来たがそれだけであった。

 

しかし、胸に関してはかなり気にしているユエは違かった・・・

 

 

 

 

 

 

ちなみにだが、ユエは着痩せするが、それなりにある。断じてライセン大峡谷の如く絶壁ではない。(これ重要)

 


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