巻き込まれたので、ハジメさんの立場(原作の)を簒奪する事にしました。   作:背の高い吸血鬼

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おはようございます!


39話 一人じゃない

――ペッタンコじゃないですか――――ペッタンコじゃないですか―――――ペッタンコじゃないですか――――――・・・

 

その事を特に気にしているユエに向かって紡がれた、最低にして最悪の禁忌の言葉。それは、彼の天空の城をも崩壊せしめた【バ〇ス】よりも破壊力をもって、ユエの心に風穴を開けた。

 

開けてしまった。

 

シア以上に矜持を傷つけられたユエは、震えるシアのウサミミに囁ささやくように声を掛けた。

 

――――・・・お祈りは済ませた? 

――――・・・あ、謝ったら許してくれたり・・・

――――・・・・・・・・・ 

――――死にたくなぁい!死にたくなぁい! 

 

「【嵐帝】」

「アッ――――・・・」

 

竜巻に巻き上げられ錐揉みしながら天に打ち上げられるシア。彼女の悲鳴が峡谷に木霊し、きっかり十秒後、グシャ!という音と共に晴香達の眼前に墜落した。頭部を地面に突き刺してびくんびくんする不気味なオブジェと化した禁忌ウサギには一瞥もくれず、ユエは「いい仕事した!」と言う様に、掻いてもいない汗を拭うフリをするとトコトコと晴香の下へ戻り、二輪に腰掛ける晴香を下からジッと見上げた。

 

「・・・おっきい方が好き?」

 

ユエは胸に手を添えて晴香を見上げる。最も望んでいる答えを願う様に。

 

なので、晴香は本心を語った。

 

ド直球に。

 

「正直に言うと並み位が好き。だから、私にとってユエのは最も好ましいサイズです」

 

あの、手の平にフィットする様なサイズが晴香のベストサイズ。思い出すのは、夜に毎日行われたベットの上の大運動会。ユエを後ろから抱き締め、胸に手を添えたときの、丁度覆い隠せるくらいの、あのサイズ感。

 

控えめに言って最高。

 

因みにだがここで胸のサイズを端的に表すと、

 

シア>晴香>ユエ

 

となる。

 

「・・・出来れば【嫌い】と言って欲しかった」

 

晴香は今の私のサイズが好きなのは凄く嬉しい。だけど、ユエからしたらもっと大きくしたいし、成りたい。シアくらいに、シアぐらいに!と、何方も優先したくとも出来ない葛藤で、とても複雑な面持ちだ。それはもう、苦虫を噛んでしまったかのように愛らしい表情が歪んでしまうくらい。その事が取る様に分かる晴香は、苦笑いしながら手招きし、ユエを膝の上に乗せて抱き締めた。

 

「ふふ、何れ大きくできる時が来るから。気長に待ちましょう?」

「・・・・・・・・・来る?」

「うん。大体一年以内に」

「・・・・・・どうして?」

 

当然の疑問だろう。答えは神代魔法の一つ【変成魔法】の習得だ。

 

「どうしてだろう・・・なんとなく、かな?」

 

史実通りに歩みを進めさせれば、大体同じ時期に全ての神代魔法を習得できるはずである。その為にも、出来るだけ時期を併せようと微調整を続けて来た影響が、こうしてシアと合流できた結果でもある。なら、これからもその調整を怠らなければ、一年以内に【変成魔法】の習得も可能だ。その為にも、鍛錬を怠る訳にはいかない。

 

今の所、将来に不確定要素がある為に、ユエに全ての情報を教える事が出来ないのが凄く苦しい思いだが、諦めてもらうほかあるまい。

 

「・・・そう」

 

どうしてか確信して断言した晴香を信じたユエは、背中を預けて寄りかかった。ユエとしては聞きたい事が多数あった。奈落の時から、妙に階層や魔物に詳しかったり、初見のはずなのに魔物への対処が出来てたり、生成魔法の習得の時もそんなに驚いてなかったり。今も思えば、脂肪の塊ウサギと出会ったのも予定調和じみている。

 

まるでこの先に起こる事を知っているみたい。

 

「ユエ?」

「・・・ん~ん、なんでもない」

「そっか・・・」

 

本当に知っているのかは分からないけど、晴香が私の隣にいてくれれば、それでいい。この先、私が晴香から離れる未来も、その逆も有り得ない。もし晴香が私から離れるとでも世迷言を垂らしたりでもすれば、絶対逃がさないし捕まえて監禁する。

 

「・・・吸血姫からは逃げられない」

「ふふふ、逃げないよ」

 

ぽんぽん、と頭を撫でられた。これがまた癖になr――――――

 

「あの~、私の事を忘れてイチャつかないでくれます?」

 

自然と始まった桃色空間。それに水を差す存在がいた事を完全に忘れていた。と言うか、お前なんかいたの?という視線がシアに突き刺さる。そして、

 

「「いたの?」」

「いましたよ!?」

 

言葉にも出された為にウサギが切れた。でも、直ぐに怒りは終息を迎える。今、この瞬間にもシアの家族は絶滅に瀕しているからだ。そして、漸く本題に入れると居住まいを正すシア。二輪の座席に腰掛ける晴香達の前で座り込み真面目な表情を作った。色々ボロボロな為、全く真面目に見えないが。

 

「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘、シア・ハウリアと言います。実は・・・」

 

語り始めたシアの話を要約するとこうだ。

 

 

 

【私が生まれちゃったから、諸々の要因で一族諸共絶滅しそう!だからタスケテ!!】

※詳しく知りたい人は、原作を読んでね!(>_<)

 

 

 

 

「・・・気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

 

最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。仮定した未来等が見れる【未来視】と言う固有魔法が使用できるシアは、ユエや晴香と同じ、この世界の例外であり、特にユエと同じ、先祖返りでもある。

 

話を聞き終わった晴香は特に表情を変えることもなく端的に答えた。

 

「いいよ」

「え・・・ほ、本当ですか!?な、何かを対価に求めたり・・・」

「そりゃ求めるよ」

 

何を当たり前の事を、と晴香は苦笑い。フェアベルゲンから追い払われ、帝国からは追われ、厄介事のオンパレードである。そこに態々首を突っ込むのだから、対価を求めないはずがない。求めないとしたら唯の馬鹿か、阿呆勇者か、馬鹿な勇者くらいだろう。全部光輝だが、それは気にするべからず。

 

「私達が求めるのは、樹海の案内人。だから、案内の為に貴方達を雇うわ」

 

亜人族でないと必ず迷う樹海なので、兎人族の案内があれば心強い。

 

「・・・報酬は、貴方達の命」

 

ユエの要求が死神のようだった。が、しかしそれでも、この峡谷において強力な魔物を片手間に屠れる強者が生存を約束したことに変わりはなく、シアは飛び上がらんばかりに喜びを表にした。

 

「あ、ありがとうございます!うぅ~、よがっだよぉ~、ほんどによがったよぉ~」

 

ぐしぐしと嬉し泣きするシア。しかし、仲間のためにもグズグズしていられないと直ぐに立ち上がる。

 

「あ、あの、宜しくお願いします!そ、それでお二人のことは何と呼べば・・・」

「晴香。綾瀬晴香よ」

「・・・ユエ」

「ハルカさんとユエちゃんですね」

 

二人の名前を何度か反芻し覚えるシア。しかし、ユエが不満顔で抗議する。

 

「・・・さんを付けろ。残念ウサギ」

「ふぇ!?」

 

ユエらしからぬ命令口調に戸惑うシアは、ユエの外見から年下と思っているらしく、ユエが吸血鬼族で遥に年上と知ると土下座する勢いで謝罪した。どうもユエは、シアが気に食わないらしい。ユエの視線がシアの特大級の脂肪の塊を憎々しげに睨んでいる。

 

これが理由だ。取り敢えず撫でて宥めさせる。

 

「それじゃぁ早く行こう。後ろに乗って」

 

膝の上に座る療養中のユエを撫でながら、シアに指示を出す。シアは少し戸惑っているようだ。それも無理はない。なにせこの世界に二輪と言う乗り物は存在しない。しかし、取り敢えず何らかの乗り物である事はわかるので、シアは恐る恐る晴香の後ろに跨った。そしていそいそと前方にズレると晴香の腰にしがみついた。凶器が押し付けられるが、特に反応する事無く走り出す。

 

もし、反応してしまったらユエに要らぬ疑いを掛けられかねない。

 

シアはハルカの肩越しに疑問をぶつける。

 

「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが・・・この乗り物?何なのでしょう?それに、ハルカさんもユエさん魔法使いましたよね?ここでは使えないはずなのに・・・」

 

晴香は道中、二輪の事やユエが魔法を使える理由、晴香の武器がアーティファクトみたいなものだと簡潔に説明した。すると、シアは目を見開いて驚愕を表にした。

 

「え、それじゃあ、お二人も魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると」

「うん」

「・・・ん」

 

しばらく呆然としていたシアだったが、突然、何かを堪える様に晴香の肩に顔を埋めた。そして、泣きべそをかき始めた。理由を知っている晴香だが、知らない事で通しているので、分からない風に聞くしかない。

 

「・・・あの~情緒不安定なのは構わないけど、服を汚さないでね」

「・・・手遅れ?」

「手遅れって何ですか!手遅れって!私は至って正常です!・・・ただ、一人じゃなかったんだなっと思ったら・・・何だか嬉しくなってしまって・・・」

「「・・・」」

 

シアは魔物と同じ性質や能力を有するという事、この世界で自分があまりに特異な存在である事に孤独を感じていた。家族だと言って十六年もの間危険を背負ってくれた一族。シアのために故郷である樹海までも捨てて共にいてくれる家族。きっと多くの愛情を感じていたはずだ。だからこそ【他とは異なる自分】に余計孤独を感じていた。

 

シアの言葉を聞き、ユエは思うところがあるのか考え込むように押し黙る。いつもの無表情がより色を失っている様に見える。

 

ユエは、自分とシアの境遇を重ねて見ている。共に、魔力の直接操作や固有魔法という異質な力を持ち、その時代において【同胞】というべき存在は居なかった。更に言うとユエには愛してくれる家族が居なかったのに対して、シアにはいるということだ。それがユエに複雑な心情を抱かせている。しかも、シアから見れば結局その【同胞】とすら出会うことができたのだ。中々に恵まれた境遇とも言える。

 

本当はディンリードが愛してくれていたと言う事実を知る晴香は、その事を言いたくても言えない。更に言えば、今言った所でユエは信じないし、封印された際の思い出したくもない記憶を蘇らせることとなる。晴香の言った事が、かえってユエにダメージを与える事となるので、出来る事は【今は】一人でないことを示す事だけだ。

 

「大丈夫、ユエは一人じゃないよ。私が隣にいるから」

「・・・んっ」

 

ユエは、無意識に入っていた体の力を抜いて、より一層晴香に背を預けた。まるで甘えるように。

 

「あの~、私のこと忘れてませんか?ここは『大変だったね。もう―――「「五月蠅い」」―――はい・・・ぐすっ・・・」

 

今まで良い空気を邪魔された事がない晴香たちの返答は辛辣極まりない。二人の中に土足で入り込んだシアも悪いのだが・・・







後書きを描こうと思って、でも何書こうか分からなくなって・・・







ユエ
「バ〇スッ!(物理)」

―――ブジュィィイイイイッ!?!?(何かが引き千切れそうな音)

シア
「胸が~胸がぁ~ぁあっ!?!?」

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