巻き込まれたので、ハジメさんの立場(原作の)を簒奪する事にしました。   作:背の高い吸血鬼

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おはようございます!
誤文字報告ありがたいです(>_<)


40話 合流

二輪を進めると、暫くして遠くで魔物の咆哮が聞こえた。どうやら相当な数の魔物が騒いでいるようであり、その喧噪の中心にはシアの家族であるハウリア一族が総出で逃げ回っている事だろう。

 

「ハルカさん!もう直ぐ皆がいる場所です!あの魔物の声・・・ち、近いです!父様達がいる場所に近いです!」

「あの、兎さん?五月蠅いから耳元で騒がないで頂戴」

 

と言いつつ、アクセルを絞り二輪を一気に加速させた。壁や地面が物凄い勢いで後ろへ流れていく。

 

そうして走ること二分。ドリフトしながら最後の大岩を迂回した先には、今まさに襲われようとしている数十人の兎人族達がいた。

 

ライセン大峡谷に悲鳴と怒号が木霊する。

 

ウサミミを生やした人影が岩陰に逃げ込み必死に体を縮めている。あちこちの岩陰からウサミミだけがちょこんと見えており、数からすると二十人ちょっと。見えない部分も合わせれば四十人といったところであり、怯える兎人族を上空から睥睨しているのは、奈落の底でも滅多に見なかった飛行型の魔物だ。姿は俗に言うワイバーンに見た目が似ている魔物であり、体長は3~5m程で、鋭い爪と牙、モーニングスターのように先端が膨らみ、刺がついている長い尻尾を持っている。

 

あれが、

 

「ハ、ハイベリア・・・」

 

肩越しにシアの震える声が聞こえた。ハイベリアは全部で6匹はいる。兎人族の上空を旋回しながら獲物の品定めでもしているようだ。

 

そのハイベリアの一匹が遂に行動を起こした。大きな岩と岩の間に隠れていた兎人族の下へ急降下すると空中で一回転し遠心力のたっぷり乗った尻尾で岩を殴りつけた。轟音と共に岩が粉砕され、兎人族が悲鳴と共に這い出してくる。ハイベリアは「待ってました」と言わんばかりに、その顎を開き無力な獲物を喰らおうとする。狙われたのは二人の兎人族。ハイベリアの一撃で腰が抜けたのか動けない小さな子供に男性の兎人族が覆いかぶさって庇おうとしている。

 

周りの兎人族がその様子を見て瞳に絶望を浮かべた。誰もが次の瞬間には二人の家族が無残にもハイベリアの餌になるところを想像しただろう。しかし、それは有り得ない。

 

なぜなら、ここには彼等を守ると契約した、者達がいたから。

 

ドパンッ!!ドパンッ!!

 

峡谷に二発の乾いた破裂音が響く。兎人族達が聴いた事もない強烈な音とに驚くと同時に二条の閃光が虚空を走る。その内の一発が、今まさに二人の兎人族に喰らいつこうとしていたハイベリアの眉間を狙い違わず貫いた。頭部を爆散させ、蹲る二人の兎人族の脇を勢いよく土埃を巻き上げながら滑り、轟音を立てながら停止する。

 

もう一発は、他の場所で襲撃を受けそうになっていたと兎人族の頭上より急降下を開始したハイベリアの頭部に命中し、此方も爆散。

 

「な、何が・・・」

 

先程、子供を庇っていた男の兎人族が呆然としながら、目の前の頭部を砕かれ絶命したハイベリア達を交互に見ながら呟いた。

 

更に響く発砲音と共に上空のハイベリアたちが一切の慈悲なく正確に撃ち落とされて行く。今まで自分達を苦しめていた強敵が、為す術無く殺されて行く超常現象に固まるしかなかった兎人族達の優秀な耳に、またもや聞いたことのない異音が聞こえた。キィィイイイという甲高い蒸気が噴出するような音だ。今度は何事かと音の聞こえる方へ視線を向けた兎人族達の目に飛び込んできたのは、見たこともない黒い乗り物に乗って、向かってくる三人の人影。

 

その内の一人は見覚えがありすぎる。今朝方、突如姿を消し、ついさっきまで一族総出で探していた女の子―――

 

「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」

 

その彼女が黒い乗り物の後ろで立ち上がり手をブンブンと振っている。その表情に普段の明るさが見て取れた。信じられない思いで彼女を見つめる兎人族。

 

「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」

「・・・」

 

実は、晴香もハジメさんと史実同様の戦闘妨害が行われていた。しかし、やられると分かっていれば対策の施しようがあると言う訳で。12000越えの筋力値に物を言わせてちょっとやそっとの衝撃程度では照準がズレないように対策を施していた。なので、一発も外す事無く全弾命中を叩き出し、ハイベリアを物言わぬ屍にした。

 

しかし、邪魔されたのは、正直うざかった。

 

なので、

 

「えい」

「ちょっ―――あだっ!?」

 

突き落とした。兎人族達の前で停止+ドリフトする序でに。ポイ捨てするように。

 

「うぅ~、私の扱いがあんまりですぅ。待遇の改善を要求しますぅ~!私もユエさんみたいに大事にされたいですよぉ~っ!!」

 

しくしくと泣きながら抗議の声を上げるシア。シアは、晴香に対して恋愛感情を持っているわけではない。ただ、絶望の淵にあって【見えた】希望である晴香をシアは不思議と信頼していた。私に対して冷たいけど、交わした約束を違えることはないだろうと。しかも、晴香はシアと同じ体質である。【同じ】というのは、それだけで親しみを覚えるものだ。そして、その晴香は、やはり【同じ】であるユエを大事にしている。

 

それはもう蝶よ花よの如く。この短時間でまざまざと見せつけられた。正直、シアは二人の関係が羨ましかった。

 

それ故に、【自分も】と願ってしまうのだ。

 

しかし、残念ながらハルカクオリティー。

 

「嫌よ。私の特別はユエだけだもの」

 

ユエを抱き締めながらぴしゃりと拒絶。ここ数か月、晴香はユエ色に完全に染まっている。元から好きだったユエと本当に出会えたことにより気持ちは限界突破。襲われてしまった時からどんどんユエと共に深淵へと溺れて行く感覚に酔ってしまっている。正直、シアなんか別に救わなくても良いんじゃね?と思ってしまうくらいに。

 

しかし、晴香とユエには決定的な違いがある。それは【寿命】。

 

ユエは魔力が尽きない限り【自動再生】により歳を取らない=不老減死だ。しかし晴香は、魔物と融合した半人半魔だとしても、元は唯の人間である為、如何頑張っても100~200?歳程度が限界寿命だと考えられる。ステータスが10000を余裕で超過しているので、更に生きれるかもしれないが、本当かは判らない。だが、全ての神代魔法を獲得し、概念魔法を習得すれば、ユエと同じ様に長寿命になる事も、無理矢理若返る事も出来る。

 

ユエを残して先に死ぬなど、それは絶対に許されない。と言う事で、巣穴から出てきたのである。神代魔法を求める為に。シアの救出は迷宮攻略に、兎人族は今後に起こりうる出来事を穏便に済ませる為に。

 

仕方なくである。必要なので。

 

「んふふ・・・」

 

抱き締められて、耳元でそんな事を言われたユエの頬はバラ色だ。このやり取りの張本人たるシアや他の兎人族が思わず見惚れてしまう可憐な笑みである。ユエを撫でる晴香が咳払いで兎人族達を目覚まさせると、シアに促した。私達が来た訳を。

 

ハっと我に返ったシアが、助かった皆に自身が取り付けた契約の事などを話した。

 

(・・・あの人が将来の深淵蠢動の闇狩鬼カームバンティス・エルファライト・ローデリア・ハウリア・・・)

 

濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性。兎人族らしく温厚っぽい感じの人物である。しかし、史実ハジメの魔改造で逝ってしまうカムは、覚醒してその様な中二病的な名前となるのだ。私もハート〇ン軍曹を真似て覚醒させなければならないのか、と少し憂鬱な気分になっていると、シアと父様と呼ばれた兎人族は話が終わったようで、互いの無事を喜んだ後、晴香たちの方へ向き直った。

 

「ハルカ殿で宜しいですか?私はシアの父にしてハウリアの族長、カム・ハウリアです。我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか・・・族長として深く感謝致します!」

 

そう言って、カムは深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。

 

「どういたしまして。それじゃぁ樹海の案内、よろしくお願いします」

「勿論ですとも!」

 

グズグズしていては魔物が集まってきて面倒になるので、直ぐに出発する。

 

一行は、ライセン大峡谷の出口目指して歩を進めた。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

ウサミミ四十二人をぞろぞろ引き連れて峡谷を行く。

 

当然、数多の魔物が絶好の獲物だと襲ってくるのだが、奈落で化け物となった晴香が護衛しているので、一匹も獲物にありつくことが出来ず、無残に頭部を爆散させて大地に散る事となる。乾いた破裂音と共に閃光が走り、気がつけばライセン大峡谷の凶悪な魔物が為すすべなく絶命していく光景に、兎人族達は唖然として、次いで、それを成し遂げている人物である晴香に対して畏敬の念を向けていた。

 

もっとも、小さな子供達は総じて、そのつぶらな瞳をキラキラさせて圧倒的な力を振るう晴香をヒーローだとでも言うように見つめている。

 

「ふふふ、ハルカさん。チビッコ達が見つめていますよ~手でも振ってあげたらどうですか?」

「そうね~」

 

茶化すつもりで言ったのだろうが、残念ながら晴香はハジメではない。それなりに子供の相手が出来るので、普通に対応する。

 

魔物が来てない今なら、と振り向いてちびっ子たちに笑顔で手を振る。それだけで子供達のテンション爆上がりであり、何人かの男の子が顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。ふっ、私は罪な女だ・・・何て内心思っていたらユエが手をにぎにぎしてきた。

 

「・・・ハルカは私の」

「ふふ、嫉妬?嬉しいなぁ~」

 

子ども相手に対抗心を燃やすユエが愛おしかったので、そのままお姫様抱っこしてキスをした。それだけで、殺伐としたこの空間そのものが桃色に可視化されてしまう程の幸せオーラで溢れてしまう。襲って来る魔物も一瞥すらくれられず哀れに瞬殺されてしまう。女の子同士のイチャコラを初めて見たハウリア族一同も硬直してしまう!

 

固まったハウリアに気付かずイチャイチャしていると、先程晴香の微笑みに心を『狙い撃つぜっ』された、まだ普通の男の子の一人―――パル君(10歳)が、呆然とした面持ちで晴香に声を掛けた。

 

「あ、あのハルカお姉ちゃん!」

「ん、如何したのパル君?」

「どうして・・・お、女の人同士で、き、ききキス・・・したの?」

 

これにはハルカとユエが異常に仲が良いなと思っていたシアも、おかしい者を見たと言った表情である。

 

「何でも何もユエが好きだからだよ―――って言っても納得できないよね・・・ん~そうね。丁度良い機会だし、説明しましょうか」

 

晴香は語る。

 

「この世界には男性と女性が存在して、男女でカップルを作るのが当たり前・・・って思われてるけど、恋愛の仕方っていっぱいあるの。例えば私とユエみたいに女の子同士でカップルになるLesbian(レズビアン・女性同性愛者)。逆に男の子同士でカップルになるGay(ゲイ・男性同性愛者)大雑把にだけど、男の子も女の子も関係なく好きになった人とカップルになるBisexual(バイセクシュアル・両性愛者)とか、ね?私達を含めたその人たちを纏めて【性的少数者】又は【ジェンダー・マイノリティー】っていうのよ。」

 

まだ中世的な文明レベルの世界に、このような思想を振りまくのは早すぎるかと思うけど、私達の事を手っとり早く説明するにはコレしか無かったので、説明する事にしたのだ。お互い好きだから・・・で納得してもらえるならそれでよかったのだけど。

 

と。ぺらぺら語った晴香の言葉が飲み込めないのか、聞いたパル君は無論の事、他の兎人族も初めて知った未知の思想に目を白黒させている。無理に理解させるつもりは無いし、別に理解を示さなくてもいいからと付け加えながら前へと進む。

 

晴香の後を慌ててついて来る兎人族達の気配を感じながら、ユエが一言。

 

「・・・理解されなくてもいい、忌避されてもいい。それが異常だと価値観を押し付けられても、私達には関係ない」

「ええ・・・」

 




※本編とは関係ありません


ユエ
「・・・でも、邪魔したら【蒼天】」
晴香
「愛が重い♡」
シア
「っ!?(な、なんでしょう悪寒がしますぅ・・・)」

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