巻き込まれたので、ハジメさんの立場(原作の)を簒奪する事にしました。 作:背の高い吸血鬼
帝国兵を殲滅した晴香は、戦闘に巻き込まれぬように考慮した無傷の馬車や馬の所へ行く。目の前で前主人達がスプラッタにされた馬たちだったが、自然な微笑みで撫でて来る晴香に警戒心は無い。何気に初めて馬を撫でるという経験だが、馬とは怖がらずに接するのが基本と言うのは本当の様であり、気持ちよさそうに目を細めている。
リラックス状態の馬たちをよそに兎人族達を手招きする。樹海まで徒歩で半日は掛かる距離で有り、せっかくの戦利品である馬と馬車を有効活用する。魔道駆動二輪を【異界収納】より取り出し、馬車に連結させる。馬に乗る者と分けて一行は樹海へと進路をとった。
因みにだが、無残な帝国兵の死体はユエが風の魔法で吹き飛ばし渓谷に落とした。後にはただ、彼等が零した血だまりだけが残された・・・
* * * * *
七大迷宮の一つにして、深部に亜人族の国【フェアベルゲン】を抱える【ハルツィナ樹海】を前方に見据えて、晴香が魔道駆動二輪で牽引する大型馬車二台と数十頭の馬が、それなりに早いペースで平原を進む。しかし、晴香は度々休憩を挟ませた。ここ数日ずっと逃げに徹していた兎人族は人間よりも体力はあれど子供はそうはいかない。
適当な場所で休憩を取らせて、数十分後に再度移動を開始する。
「ねぇウサギちゃん。この運転を任せても良い?」
その出発前、晴香はある事を思いついたので、それを制作する為に二輪の運転をシアに任せる事とした。
「えっ、良いんですか!?」
シアは二つ返事で了承し『ヒャッハァ―――っ!!』と運転席に跨りアクセルを握る。そして、低速で走らせた。因みに10km以上の速度が出せない様に制限機能を動作させている為、暴走仕勝ちなシアでも安全運転を強制させられる実にスマートな装置だ。と言うのはさて置き、運転を任せた晴香はユエを抱えて馬車の御者台に移動し、クッションを取り出して敷き、その上に腰を下ろした。
「・・・なにするの?」
「これから接触する他の亜人達に少しでも友好的に接する為のものを作るわ」
フェアベルゲンに向かう際、兎人族は追放された身である。更に言えば、これから人間である晴香を人間絶対殺すマン溢れる国に誘うのだ。端から友好的な接触など到底不可能である。しかし、友好的ではなくとも、少なくとも晴香が他の人間達とは違うというイメージを持たせたい。
その様な思惑をユエに語りながら、鉱物や魔物素材、道具を取り出した。そして、
「ユエ、髪を切っても良い?」
「?・・・ん」
「ちょ、なに了承してるんですかユエさ―――あ、あぁ!?」
ユエのゆるふわな髪を一つに纏めた晴香は、シュタル鉱石製ハサミでシャッと切った。ゆるふわロングなユエが、一瞬にしてショートヘアーに早変わり。晴香的にはロングの方が好きだが、ショートもこれはこれでありだ。まじまじ見ているとユエが決めポーズをとる。
「似合ってる?」
「うん。いつもと違うユエでなんか新鮮で、可愛いわ」
「んふふ・・・ありがと」
慌てるシアなぞ眼中に無い、と言わんばかりに盛り上がってる晴香たちに、シアが切れた。
「もう!何やってるんですか晴香さん!?髪は、女の子の命なんですよぉッ!?」
「知ってるよ?」
何を当たり前の事を。そんな事も分からないの?・・・と言ったユエと晴香の視線がシアに突き刺さる。ブチ切れそうなシアに晴香はユエの髪を見てと促すと、シアは驚きの表情に染まる。何故なら、毛先がにょきにょきと延びて、まるで再生しているかのように長くなっているのだから。
【自動再生】
魔力が存在する限り、身体の損傷を急速に再生させる事が可能なチート技能だ。ハジメさんの射撃で頭皮を削られるという悲しき事件の後でも、その効果はちゃんと発揮している為、髪の毛にも作用するのかと聞いたところユエより肯定されたので、このような行為に及んでもユエ的には何ら問題無かった。12歳の時より身体が固定されている為、髪の短いヘアースタイルを取ろうにも伸びてしまうという弊害もあるがそれはさておき。
驚くシアをよそに、今度はユエに渡されたハサミが晴香の長髪を切り落とす。バサリッと、数年切ってなかった髪の束がユエの手に握られている。
晴香は【自動再生】を有していないが、代わりに治癒力を大幅に加速させる【魔力変換[+治癒力]】という技能を持っている。これを使用して、髪を意図的に直す為に、細胞の成長を促し、高速で育毛させることが出来るのだ。なので、ユエと同じような速度でにょきにょきと髪が生える生える・・・
まだまだ必要であるので、伸ばしている間の時間を使って、晴香はある物を作り始める・・・
* * * * *
「・・・ハルカ、結果はどうだった?」
「上々ね。これなら、実戦でも問題無く使用できるわ」
錬成に生成魔法も駆使して製作中の所、ユエが質問してきたのは帝国兵との戦いのこと。あの時、事前に実験したいと言う事で、ユエは手を出さずに傍観を決め込んでいた。そして実験の結果も満足のいくものであったのだが、どうも帝国兵を倒した後の晴香は物思いに耽っているような気がして、ユエとしては気になったのだ。
「・・・ふふ、実は人殺しは初めてだったのよね。でも、特に何とも思わないところが人として変わったなぁ~と思ってね」
「・・・そう・・・大丈夫?」
「問題無いわ。寧ろ安心してる」
一旦手を止めた晴香は、何故?と可愛らしく首を傾げるユエを撫でながら語る。
「例え同族が敵だろうと、私はユエを守れるって証明できたから」
「んっ・・・私も、ハルカを守る」
楽しく愉快痛快に人体実験を行ったマッド晴香は、実は初めて人を殺したという事実に内心とても驚くシア。初見の彼女からしたら、あの犯行は手練れの凶悪殺人鬼のそれだとてっきり思っていたため、その驚き様は凄まじいものであった。なにせ、同族でもふざけながら殺せるのだから。ハウリア的に有り得ない。しかし同時に、晴香の僅かな変化に気がついたユエの洞察力(晴香限定)にも感心を示す。
「それで【最強】だからね~」
「ん~」
そして、改めて、自分は晴香やユエのことを何も知らないのだなぁ、と少し寂しい気持ちになった。
「あの、あの!ハルカさんとユエさんのこと、教えてくれませんか?能力とかは聞きましたが、なぜ奈落?という場所にいたのかとか、旅の目的って何なのかとか、今まで何をしていたのかとか、お二人自身のことが知りたいです!」
「・・・聞いてどうするの?」
「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけです。魔力を直接操作出来たり、固有魔法も使える事から・・・そ、その、な、仲間みたいに思えて・・・だから、その、もっとお二人のことを知りたいといいますか・・・何といいますか・・・」
シアは話の途中で恥ずかしくなってきたのか、次第に小声になって運転に集中しだした。それはもう、初めて原付に乗った試験者が10~30kmの速度を守って安全運転に従事しているかのように。
出会った当初も、そう言えば随分嬉しそうにしていたとユエは思い出し、シアの様子に何とも言えない表情をする。あの時は、ユエの複雑な心情により有耶無耶になった挙句、すぐハウリア達を襲う魔物と戦闘になったので、谷底でも魔法が使える理由など簡単なことしか話していなかった。きっと、シアは、ずっと気になっていたのだろう。
確かに、この世界で魔物と同じ体質を持った人など受け入れがたい存在だろう。仲間意識を感じてしまうのも無理はない。
かと言って晴香は兎も角ユエが、シアに対して直ちに仲間意識を持つわけではない。が・・・樹海に到着するまで、まだ少し時間がかかる。特段隠すことでもないと言う事で、晴香とユエはお互いのこれまでの経緯を語り始めた。
結果。
「うぇ、ぐすっ・・・ひどい、ひどすぎまずぅ~、ユエさんがかわいぞうですぅ~。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて・・・うぅ~、自分がなざけないですぅ~」
号泣した。滂沱の涙を流しながら「私は、甘ちゃんですぅ」とか「もう、弱音は吐かないですぅ」と呟いている。どうやら、自分は大変な境遇だと思っていたら、ユエは自分以上に大変な思いをしていたことを知り、不幸顔していた自分が情けなくなったらしい。尚、晴香はそんな辛い目に合っていたユエの救出者であるとシアは認識した。
流石に魔物を喰らった事に関しては驚きを通り越したようだったが・・・
しばらくメソメソしていたシアだが、突如、決然とした表情でガバッと顔を上げると拳を握り元気よく宣言した。
「ハルカさん!ユエさん!私、決めました!お二人の旅に着いていきます!これからは、このシア・ハウリアが陰に日向にお二人を助けて差し上げます!遠慮なんて必要ありませんよ、私達はたった三人の仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」
勝手に盛り上がっているシアに、ユエが実に冷めた視線を送る。晴香は手元で錬成中。
「完全に足手纏いなウサギはちょっと・・・」
「さり気なく『仲間みたい』から『仲間』に格上げしている・・・厚皮ウサギ」
「な、何て冷たい目で見るんですか・・・心にヒビが入りそう・・・というかいい加減、ちゃんと名前を呼んで下さいよぉ」
意気込みに反して、冷めた反応を返され若干動揺するシア。そんな彼女に晴香は追い討ちをかけた。
「ウサギちゃんは旅のお仲間をお探しかい?」
「!?」
晴香の言葉に、シアの体がビクッと跳ねる。
「一族の安全が一先ず確保できたら、ハウリアから離れる気なんでしょう?私達と【同類】に出会えたのだから、これ幸い見たいな感じで」
「・・・あの、それは、それだけでは・・・私は本当にお二人を・・・」
図星だった。
実は、既にシアは決意していた。一族の安全を確保したら、自らは家族の元を離れると。自分がいる限り、一族は常に危険にさらされる。今回も多くの家族を失った。次は、本当に全滅するかもしれない。それだけは、シアには耐えられそうになかった。もちろん、その考えが一族の意に反する、ある意味裏切りとも言える行為だとは分かっている。だが【それでも】と決めたのだ。
最悪、一人でも旅に出るつもりだったが、それでは心配性の家族は追ってくる可能性が高い。しかし、圧倒的強者である晴香達に恩返しも含めて着いて行くと言えば、割りかし容易に一族を説得できて離れられると考えたのだ。見た目の言動に反してシアは、今この瞬間も【必死】なのである。
もちろん、シア自身が晴香とユエに強い興味を惹かれているというのも事実だ。晴香の言う通り【同類】である晴香達に、シアは理屈を超えた強い仲間意識を感じていた。一族のことも考えると、まさに、シアにとって晴香達との出会いは【運命的】だったのだ。
「ふふ、別に攻めてるわけじゃないわ。ただ、私達の目的は第七迷宮の攻略。
「・・・」
晴香の含みのある単語にはユエだけしか気付かず、容赦ない言葉にシアは落ち込んだように黙り込んでしまった。晴香の内心は兎も角、ユエは特に気にした様子がないあたりが、更に追い討ちをかける。
シアは、それからの道中、大人しく二輪を運転しながら、何かを考え込むように難しい表情をしていた。
「出来た!」
長居はしたくない重々しい雰囲気の中、晴香が声を上げた事によりそんな空気は霧散する。
「これが・・・?」
生成魔法も使用していた所を見るに、何らかの装備である事には違いないのだろうが、こんな代物は見た事が無いユエは首を傾げる事しか出来ない。何せ、それは・・・
それは・・・一体何でしょうね!