巻き込まれたので、ハジメさんの立場(原作の)を簒奪する事にしました。 作:背の高い吸血鬼
「アヤセハルカ、そしてユエ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを口伝の資格者として認める・・・はぁ・・・」
アルフレリックはとても重めな溜息を吐いて、族長の総意として晴香とユエを【資格者】として認めた。理由は二つ。
一つ。亜人族最強種の熊人族の族長であるジンを片手間に片付けてしまったこと。
一つ。骨折などの重傷を負ってしまったジンに対して【凄い回復薬(神水)】を無理矢理投与して全快にさせたこと。
である。
怪しさ満点な【凄い回復薬】と銘打たれた瓶を、死ぬ気で拒絶していたジンの口を無理矢理解放させ、口に突っ込んで飲ませたのだ。ジンの友人であり、土人族の族長でもあるゼクが武器を取って攻勢に出ようとする一触即発の事態に発展したが、ジンが驚きの声を上げて
晴香とユエを省いて誰もが呆気にとられる。フェアベルゲンに存在する高価な回復薬をもってしてもなお、ジンの怪我は治せないと直感で分かっていたからだ。
何より、人間族とは言え一応客人である晴香たちに対して勝手に攻撃行動を起こし、赤子を捻る様にして呆気なく敗れ、更にはフェアベルゲン最高価値の回復薬の効能を上回る回復薬で全快にさせてしまった。族長として、フェアベルゲンとしての面子は丸潰れである。その事を払拭するには、相応の対価を晴香たちに与えなければならなくなった。
それが【資格者としての容認】である。
「ありがとうございます」
高価な回復薬・・・と思われている神水を投与した晴香は、もとより亜人族の面子を潰せば、それなりに色々と利権を貰えるのでは?と思っての行動であったが、コレは認められたのでまぁ嬉しい?程度の感覚である。本題はハウリア族の事だ。
「さて、それじゃぁ私達はフェアベルゲンを後にします。大樹の元へと向かいますね」
話はもう済んだと言わんばかりに、席を立った晴香はユエの手を取って踵を返し・・・
「待て!大樹には亜人族の案内が無いとたどり着けんぞ?まぁ我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらうがな。友人を治してくれたことは感謝するが、口伝には【気に入らない相手を案内する必要はない】とある。俺はもとより、フェアベルゲンは案内を出さんぞ?」
ゼクが厭味ったらしい笑みで、晴香に投げかける。強制的に直されたジンはうつむいたままだんまりを決め込んだ。
対し晴香は
掛かった―――
内心ニヤリと黒く微笑んだ晴香は立ち止まる。もとより、案内はハウリア族に任せるつもりであり、フェアベルゲンの者の手を借りるつもりはない。それに彼等は知っている。晴香たちの案内はハウリア族が請け負う事を。
「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」
ゼルの言葉に、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情をしている。この期に及んで、誰もシアを責めないのだから情の深さは折紙付きだ。
「長老様方!どうか、どうか一族だけはご寛恕を!どうか!」
「シア、止めなさい!皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」
「でも、父様!」
土下座しながら必死に寛恕を請うシアだったが、ゼルの言葉に容赦はなかった。
「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのになッ」
ワッと泣き出すシア。それをカム達は優しく慰めた。長老会議で決定したというのは本当であり、他の長老達は何も発言しなかった。おそらく、忌み子であるということよりも、そのような危険因子をフェアベルゲンの傍に隠し続けたという事実が罪を重くしたのだろう。ハウリア族の家族を想う気持ちが事態の悪化を招いたとも言える。何とも皮肉な話だ。
「そういうわけだ。これで、貴様が大樹に行く方法は途絶えたわけだが、どうする?運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」
他の長老衆も異論はないようだ。しかし、晴香は特に焦りを浮かべることも苦い表情を見せることもなく、唯々可愛らしい年ごろの笑顔で、こう言い放った。
「―――よろしい。ならば、戦争だ♪」
「「「「「「ッ!?」」」」」
途端、晴香より大瀑布の水圧の如き絶大なプレッシャーが放たれた。この世のものとは思えない悍ましい気配が室内を一瞬で侵食する。体中を虫が這い回るような、体の中を直接かき混ぜられ心臓を鷲掴みにされているような、怖気を震う―――圧倒的な死の気配。血が凍りつくとはまさにこのこと。一瞬で体は温度を失い、濃密な殺意があらゆる死を幻視させる。
「ひっ」
どたっと音を立てて崩れ落ちたのは、ハウリア族を囲んでいた兵の一人。プレッシャーに耐えられなくなったのである。
族長以下フェアベルゲンメンバーが顔を青褪めさせる異様な雰囲気であることに、ハウリア族一同は感じていたが、晴香が何かをしたこと以外は一切、なにも分からなかった。これは原作三巻辺りで対象者外指定をした者達以外に【威圧】を振りまくハジメさんの技をパクった技術である。
鍛錬は疲れたが、数々の協力者(魔物)達のお陰で如何にか習得できた業である。尚、協力者たちを労う為に、晴香は彼等を天に召してあげた。天国と言う名の楽園に旅立たせてあげたのである。本当に存在するかは別として。
「【資格者とは敵対しない】と掟にあるのに理解できない?私は初めに【大樹への案内はハウリア族に一任する】って言ったし、案内の対価に【大樹への案内までは彼等を保護する】って言ったよね?・・・それって、私達という【資格者】が保護している者達を殺すっていうのと、大樹に向かう私達への妨害の宣言。つまり、フェアベルゲン上層部は資格者に対して最後通牒を叩きつけたわけ」
晴香は徐に【異界召喚】から【10式30mm多銃身機関砲】を取り出し、低速で砲身を回転させる。ハウリア族を含めた全亜人族が、それが何だか解らなかったが、その凶悪な見た目からして何らかの武器だと分かり、更に不気味な事にギュルギュルギュル・・・と30mm六連装砲身が回る不快音が室内に響く。
ソレを族長一同に向けて回転速度を少し上げる。緊張が走る。
ユエも
「私は、私達資格者に対する【宣戦布告】として受け取るけど、それでいいかな?」
このままでは回答は出来ないだろうと言う事で【威圧】を弱める。すると、今まで呼吸をする事すら忘れていたようで過呼吸気味に浅く呼吸を繰り返す長老集。しばらくして息を落ち着かせたアルフレリックが冷や汗を流しながら、口を開いた。
「良い訳なかろう・・・ゼクの件は失礼した」
アルフレリックが頭を下げた事で非を認め、一触即発の事態は回避され、脅しに必要が無くなった10式は【異界収納】に仕舞われる。
「しかし、ハウリア族の処刑は既に決定している。フェアベルゲンから案内を出そう」
「・・・何度も言うけど案内はハウリアっていってるでしょう」
「なぜ、彼等にこだわる。大樹に行きたいだけなら案内人は誰でもよかろう」
アルフレリックの言葉に晴香はシアをチラリと見た。先程からずっと晴香を見ていたシアはその視線に気がつき、一瞬目が合う。すると僅かに心臓が跳ねたのを感じた。視線は直ぐに逸れたが、シアの鼓動だけは高まり続ける。
「約束したのよ。案内と引き換えに助けるって」
「・・・約束か。それならもう果たしたと考えてもいいのではないか?峡谷の魔物からも、帝国兵からも守ったのだろう?なら、あとは報酬として案内を受けるだけだ。報酬を渡す者が変わるだけで問題なかろう」
「貴方達からしたら問題無いかもしれない。でも、案内するまで身の安全を確保するっていうのが約束なの。途中でいい条件が出てきたからって、ポイ捨てして鞍替えなんて・・・」
晴香は一度、言葉を切って今度はユエを見た。ユエも晴香を見ており目が合うと僅かに微笑む。それに笑みを浮かべた晴香はアルフレリックに向き合い、告げた。
「格好悪いでしょう?」
どや顔である。
それをみて晴香に引く気がないと悟ったのか、アルフレリックが深々と溜息を吐く。他の長老衆がどうするんだと顔を見合わせた。しばらく、静寂が辺りを包み、やがてアルフレリックがどこか疲れた表情で提案した。
「ならば、お前さんの奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ・・・既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」
「アルフレリック!それでは!?」
完全に屁理屈である。当然、他の長老衆がギョッとした表情を向ける。ゼルに到っては思わず身を乗り出して抗議の声を上げる。
「ゼル。わかっているだろう?この娘たちが引かないことも、その力の大きさも。ハウリア族を処刑すれば、確実に敵対することになる。その場合、どれだけの犠牲が出るか。いや、フェアベルゲンが滅ぶ可能性すら大いにある。長老の一人として、そのような危険は断じて犯せん」
「し、しかし、それでは示しがつかん!力に屈して、化物の子やそれに与するものを野放しにしたと噂が広まれば、長老会議の威信は地に落ちるぞ!」
「だが・・・」
ゼルとアルフレリックが議論を交わし、他の長老衆も加わって、場は喧々囂々の有様となった。やはり危険因子とそれに与するものを見逃すということが、既になされた処断と相まって簡単にはできないようだ。悪しき前例の成立や長老会議の威信失墜など様々な思惑があるのだろう。
だが、そんな中、晴香は敢えて空気を読まずに発言する。
「ああ~、盛り上がっているところ悪いんですけど、シアを見逃す以前に族長会議の威信は地に落ちてると思いますよ?」
「なんだとッ!?」
「客人として招かれた者に対して問答無用に攻撃行動を取ったり、その主犯者が最高責任者の一人である、族長の一人だったり。これ、明らかにスキャンダルの域を超えて亜人族という国の威信を揺るがした事態ですよね。そんな程度の低い事、今更なのでは?」
ハッキリ言わずともわかるだろう。先程ジンが取った行いは、フェアベルゲンという国を破滅へと導く寸前の所まで持って行ったことを。もし、晴香が史実ハジメよりも凶悪になっていた場合、フェアベルゲンはもとより、全亜人族を何とも思わず亡ぼしていたのかもしれない、最悪な事態に発展していた事を。
魔法が使えず、頼りの樹海と霧も、その一切合切を吹き飛ばす武力が晴香には存在し、その行使に制限はある意味ユエが握っている様な物だが、ユエも敵と判断を下して、その武力の行使を推進したかもしれない。
一人の族長が仕出かしたことは、それ程までに重い事であり、国の威信云々など掠めるような重大事件である。
晴香が比較的理性的であった事により全面戦争には発展しなかったのは唯一の救いだ。しかし、ハウリアを処刑するのならば、晴香は今後の為にも亜人族と敵対してもキーパーソンであるシアを、ハウリアを全力で死守する。
「・・・それは」
「皆さんは私達資格者に対する理解が其処まで高くないようです。なら、手っ取り早く【手を出してはいけない理由】を示す為に、そうですね・・・この樹海、焦土にしましょうか?」
簡単ですよ?と、笑顔で語り掛ける晴香に、長老方は押し黙るしかなかった。先程の強烈なプレッシャーは無論、移動の最中に見せたアーティファクトによる超常の力。明らかに手加減した様子であり、本気になれば妨げる者が存在しないこの樹海くらい、本当に焦土にしてしまえるのでは?と、思ってしまったのである。
・・・まぁハルツィナ大迷宮が存在するので、そのような事は絶対にしないのだが。
遅くなってしまい、申し訳ありません・・・