巻き込まれたので、ハジメさんの立場(原作の)を簒奪する事にしました。 作:背の高い吸血鬼
「―――うぬらは、力が欲しくないか?」
ゴクッと、誰かが喉を鳴らす音が、静寂の樹海の中に痛く響く。
『どうする?』と目で問われるハウリア族達は直ぐには答えられなかった。自分達が強くなる以外に生存の道がないことは分かる。晴香は正義感からハウリア族を守ってきたわけではない。故に、約束が果たされれば容赦なく見捨てられるだろう。だが、そうは分かっていても、温厚で平和的、心根が優しく争いが何より苦手な兎人族にとって、晴香の提案は、まさに未知の領域に踏み込むに等しい決断だった。
元からの平和主義者が、戦闘心溢れる戦争主義者へと心のあり方を変えるのは、強烈な感情の動きや、それこそ史実ハジメのように一度心が壊れない限り至難なのである。
黙り込み顔を見合わせるハウリア族。しかし、そんな彼等を尻目に、先程からずっと決然とした表情を浮かべていたシアが立ち上がった。
「やります。私に戦い方を教えてください!もう、弱いままは嫌です!」
樹海の全てに響けと言わんばかりの叫び。これ以上ない程思いを込めた宣言。シアとて争いは嫌いだ。怖いし痛いし、何より傷つくのも傷つけるのも悲しい。しかし、一族を窮地に追い込んだのは紛れもなく自分が原因であり、このまま何も出来ずに滅ぶなど絶対に許容できない。晴香へと芽生えた淡い目的のためにも、シアは兎人族としての本質に逆らってでも強くなりたかった。
不退転の決意を瞳に宿し、真っ直ぐ晴香を見つめるシア。
その様子を唖然として見ていたカム達ハウリア族は、次第にその表情を決然としたものに変えて、一人、また一人と立ち上がっていく。そして、男だけでなく、女子供も含めて全てのハウリア族が立ち上がったのを確認するとカムが代表して一歩前へ進み出た。
「ハルカ殿・・・宜しく頼みます」
言葉は少ない。だが、その短い言葉には確かに意志が宿っていた。襲い来る理不尽と戦う意志が。
そんなシアたちに晴香さんはにっこり。
「わかった。でも、覚悟はしてね?大丈夫。ちゃんと死なない様にするから・・・でも、気を抜いたら死んじゃうかもしれないわね、ふふっ♪」
マッドなその微笑みと共に紡がれたその言葉に、ちょっぴり恐怖を感じつつもハウリア族は皆、色々な覚悟を宿した表情で頷いた。
* * * * *
ハウリア族達の運命を掛けた戦闘訓練が始まった・・・が。案の定と言うべきか、予想通りと言うべきか、やっぱりハウリアはハウリアであり、魔物一匹を殺すだけで「ああ、どうか罪深い私を許しくれぇ~」とか「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!それでも私はやるしかないのぉ!」などとほざきやがり、戦闘が三文芝居のような有様に成り果てた。
花や虫を心配して変な所で跳ねて避けたりなど、見ていられない。
これでは渡したせっかくの装備品や、奈落で習得した【合理的な動き】が全く意味をなさない。やはり、健全な教育では限界があるようだ。
はぁ~・・・と一つ、小さく溜息を吐いた晴香は、シア以外の全ハウリア族に聞こえる様に声を上げた。
「傾注ッ!これより、五分間の休憩を取ります」
そう告げた晴香は、特に何も言わずに樹海の奥へと消えて行く。
ハウリアたちは晴香が休憩時間の間にユエにでも会いに行ったのだろうと思いながら、精神的な疲労を癒す為に、樹海の木々へと背中を預ける様にして座り込んだ。
食料確保の為の狩りなどでは全く問題無く獲物をしとめる事のできるハウリア族であるが、素材を得る為でも、ましては食料に成り得ない魔物を意味も無く殺すのは、とても精神的に来る物があり、全員が疲労困憊で憔悴した面持ちである。ある者など、この休憩時間を利用して訓練中に殺傷したネズミ型の魔物の死体を前に、恰も『自身で殺してしまった我が子に対して』とでも言う様に縋りついて涙を流している。普通に怖い光景だ。
まぁそれは兎も角。
彼等も判っているのだ。この戦闘が、経験が、ハウリア族の未来を左右するとても大切な行為であることに。しかし、幾ら頭でわかっていようが、心ではどうしても忌避してしまう。
もとより晴香も、一日二日で心が簡単に入れ替わるとは思っていない。なので、強制的に入れ替える為の準備の為に樹海の奥へと消えたのだが、その事を理解している者はこの場におらず、もうそろそろしたら強制的に心の魔改造計画が発動されるとは露程も思ってもいない彼等は、この休憩時間を感受していた。
もし知っていたら、この場から全力で逃げ出していたに違いないのだが・・・それは晴香が許さない。例え離れていようとも【気配感知】の範囲内にいるハウリアを逃がすなんてことは、万が一、億が一に在り得ない。
「今戻ったよ・・・さて。私はこの二日間、貴方達の訓練風景を見させていただきました」
にこにこの笑顔で戻って来た晴香さんは・・・何故か軍服であった。
個人的にデザインがカッコよくて自ら着る衣装に取り入れたいとユエに要望を出して製作された、ゴテッとしていて威圧感のある、何処か独軍を彷彿とさせるデザインである。唯、ハーケンクロイツの紋章は刻まれていない。刻みたかったけど、風評が気になったから。異世界でそれはないと思うが念のため。
そして手には・・・一本の鞭が握られていた。
「えぇ・・・よ~く、見させていただきました」
―――ベチンッ!!
深い笑みに変わった笑顔と共に、一瞬にして振り抜かれた鞭が弧を描いて樹木の幹に当たり、とても気持ちの良い音と共に幹を削って一筋の深い傷跡を付けた。先端がマッハを超えた一撃。これが人体にでも当たってしまえば、良くて泣き別れ、悪くて肉がえぐり取られていた事だろう。
一瞬、自分達の訓練を褒めてくれる?みたいに純情かよと思わせるような笑顔を浮かべていたハウリア族一同は、晴香の行動に顔を青くしていく。その可憐に見える笑顔は、実は褒めようとしているのではなく、怒りに染まっている恐怖の笑みである事に漸く気付いたのだ。
「は、ハルカ殿・・・?」
「えぇ、まさか自身や身内の命が、種の存続がかかった瀬戸際で魔物を心配し、虫や花に気を遣うとは・・・それだけ、余裕があるのならば・・・そんな事が考えられなくなるくらい濃密でキツイ戦闘訓練を施しましょう。魔物を殺しても、花や虫を踏みつぶしても心が痛まないように教育してあげましょう」
「それな、なんt―――「ベチンッ!」ア、アァ―――――――ッ!?!?」
何て酷い事をおっしゃるのですか!と抗議の声を上げようとしたカムに、鞭が当たった。男の急所に。潰れてしまわぬように絶妙な力加減でダメージを受けた〇玉の激痛は、族長であるカムが涙を撒き散らしながら絶叫を上げる程に強烈なものであった。
ハウリア男性が顔を白くして後ずさる。
なんて悪魔的な所業なのかっ!?と。
「・・・次、勝手に何か言おうとしたら潰すわよ?他の貴方達もね?―――貴方達が発していい言葉は【はい】か【yes】だけ・・・返事は如何したッ!この糞蛆虫共がッ!?」
「「「「「「は、はぃ~!!」」」」」」
大瀑布の如く溢れ出す威圧と、生気を削り取られる殺気を叩きつけられたハウリア達が意識を失いそうになる寸前、間髪なく鞭が飛び、金的などの激痛を持って強制的に覚醒させられると、再び鞭が飛んでくるので死に物狂いで避けようと行動する。
「貴様らは薄汚い―――共だ!この先、―――されたくなかったら死に物狂いで魔物を殺せ!今後、花だの虫だのに僅かでも気を逸らしてみなさい!貴様ら全員―――してやるわ!わかったら、さっさと魔物を狩りに行け!この―――共がッ!」
ビチィッ!バシィッ!バチィィィイイイインッ!!!
アベシッ!?クペッ!?ミュブッ!?
鞭が撓れば、誰かの悲鳴が上がる。痛みに震え、恐怖で死にそうに成りながら、ハウリア達は蜘蛛の子を散らすように樹海へと散って行く。此処から後8日間が、地獄も生温く感じる絶望の時間となってハウリア達を襲うこととなり、それ以降、樹海の中に【―――】を入れないといけない用語とハウリア達の悲鳴と怒号が飛び交い続けた。
種族の性質的にどうしても戦闘が苦手な兎人族達を変えるために取った訓練方法。戦闘技術よりも、その精神性を変えるために行われたこの方法を、地球ではハー○マン式と言うとか言わないとか。
「ほらほらほら!!さっさと狩りなさい、この―――共ッ!(バシッ!)」
「アギャァ!?」
晴香は鞭を振るいながら思う。
―――なんか、気持ちいい。ちょっぴり快感っ!
鞭がハウリア達の肉体を打ち付ける感覚に、その都度上がる悲鳴にゾクゾクした。ハウリア女性に当てた際に出る苦しくも嬌声に聞こえる卑しい悲鳴に、嗜虐心が芽生えてしまい・・・と、ちょっぴりSに目覚めた晴香であった。
健全な教育を心がけたが、無理だったみたい。
あと、因みにだが、女性に対して鞭を振るう場合は、跡がついても目立たない部分に当てているし、男性に対して喰らわせるよりも威力は低くしている。無論、顔には絶対に当てない。
女は顔と髪が命なのだ。
多分、これは人種や世界が違っても国際常識であろう。
* * * * *
【ユエとシアの勝負回は、原作をご覧ください。なろうの37話で見れます】
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ユエとシアが晴香のもとへ到着したとき、晴香はティーセットを事前に準備していた。
事前に二人の気配に気が付いたので、時期的にもそろそろ帰って来るだろうと予測していた晴香は、主にユエを労う為に紅茶を準備していたのだ。自分用とユエ用、ついでにシア用である。そして、二人がやって来た。
全く正反対の雰囲気を纏わせているユエとシアに、史実通りの展開になったのかな?なんて思いながら手を振って声をかけた。
「お疲れ様、二人とも。例の勝負はどうだったの?」
私達の旅についていく許可の為と、私の第二の嫁になる為の、ユエによる真剣勝負である。私はユエだけで良いんだけどなぁ~という思いも、当事者である晴香を外して行われたシア一世一代の大博打?である。
そして、この勝負の為に超重量の大槌をシア用の武器として用意した。シアがとても真剣な表情で【ユエさんに勝ちたいです。なので、武器が欲しい!】と頼み込んできたので。この勝負が何なのかは教えてもらえなかったが、流れや史実で察せている晴香は、出来ればユエに勝って欲しいと思いながらも、武器製作に手を抜くことなく仕上げてシアに渡したのだ。
・・・まぁ、史実通りの展開になってしまったのだけれども。
苦虫を噛み潰してしまった様な苦々しい表情のユエを、手招きして膝の上に抱っこしながら、頭を撫でる。少しだけ表情が和らいだのを確認しながら、結果を聞くことにする。
晴香に促されたシアが上機嫌で話しかけた。
「ハルカさん!ハルカさん!聞いて下さい!私、遂にユエさんに勝ちましたよ!大勝利ですよ!いや~、ハルカさんにもお見せしたかったですよぉ~、私の華麗な戦いぶりをっ!負けたと知った時のユエさんたらもへぶっ!?」
身振り手振り大はしゃぎという様相で戦いの顛末を語るシア。ティーカップから紅茶が零れている。そして、調子に乗りすぎて、ユエの【風弾】を食らい錐揉みしながら吹き飛びドシャと音を立てて地面に倒れ込んだ。よほど強烈だったのかピクピクとして起き上がる気配がない。
同じく吹き飛んだティーカップはというと、ユエによる風魔法【飛来】で器用に空中で受け止められると、そのままテーブルの上に音もなく置かれた。何て高度な技術の無駄な使用方法であろうか。
「・・・フンっ」
と、鼻を鳴らし更に不機嫌そうにそっぽを向くユエに、晴香が苦笑いしながら尋ねる。囁き声と共に、耳に掛かる吐息に擽ったそうに身動ぎしたユエは、晴香に背を預け、胸を枕にしながら小さく語り出した。
「それで、実際にはどうだったの?」
「・・・ん。魔法の適性は・・・・・・」
と、史実通りの説明を聞き終えると、とうとうこの瞬間がやって来た。