俺の幼馴染みはヤンデレです 作:太公望
「美咲お姉ちゃん、お腹減った!」
「わ、分かったからさ、もう少し落ち着いてくれると助かるんだけどな〜」
「はーい!」
私、奥沢美咲は平日だと言うのに耀太先輩の家におじゃましている。
なんでこんなことになっているのかを説明すると長くなっちゃうんだけど、頑張って簡潔に言ってみる。
事の発端は今日の朝、こころと一緒に生徒会室に行った時だった。
「耀太! あなたのためにお菓子を作ってきたの!」
「耀太先輩、朝からうちのこころがすいません」
「朝からお疲れ様」
そう言いながら耀太先輩はこころが作ってきたお菓子を食べたんだけど、少ししてむせこんだんだ。
「ゲホッゴホッ、おまっ、何入れた」
「だ、大丈夫ですか!? ……って、え?」
「お姉ちゃん、誰?」
気づいたらこのサイズに縮まってた。
紗夜先輩達は午後から練習あるから見れないって言うし、頼めそうな白鷺先輩も彩先輩も仕事でいないらしい。
黒服さんが学校に掛け合ってくれたおかげで特別措置として休めてるけど……
「お姉ちゃんお姉ちゃん、遊ぼ! ゲームに鬼ごっこにかくれんぼ!」
「なんだかちっちゃくなったこころを相手してるみたい」
「おねーちゃーん! はーやーくー!」
「はいはい、今行きますよ〜」
正直言っちゃうと、こころを相手してた方が楽に思えてくる。
だって、子供の頃の耀太先輩がこんなに破天荒だったなんて……でも、これもこれでありかもって思っちゃう自分もいることに驚いてる。
「お姉ちゃんまだ〜?」
「遊ぶの? ご飯食べるの?」
「んー、どっちも!」
「それじゃ先にご飯食べてからね」
「わかった!」
弟より少し身長が小さくなったぐらいだったから、家から着なくなった服持ってきてみたけど、すごっく似合ってる。
不意に見せてくれる無垢な笑顔も破壊力抜群なんだよね。はぁ……お姉ちゃんでよかったよ。
「お姉ちゃんのオムライス美味しいね!」
「あ、ありがと。ていうか、ほっぺたにケチャップついてるよ」
「ほんとだ!」
「拭いてあげる」
「ん、ありがと!」
やばいやばいやばい、本当にこれはやばい。
たまにこころにもこういう事やるんだけどさ、それとは比べ物にならないくらいやばい。
だってだって、あの耀太先輩だよ? いっつも頼りになるし、かっこいいし、ちょっと不幸体質なのは忘れておくけど、この子があの耀太先輩なんだよ?
今がずっと続けばいいのにって思えるぐらいあたしは幸せです。
「ご飯食べたからゲームしよ!」
「ゲームって何やるの?」
「神経衰弱! 僕、学校でも負けたことないし、お母さんにも負けたことないんだよ! あ、あとあと、負けたら勝った人の言うことなんでも一つだけ聞くってのはどう?」
「まぁ、それぐらいならいいよ」
「やったー!」
あたしも軽い気持ちで言ってみたが、これが後々めんどくさい事になるんだよ。
「ここと〜……ここ!」
「な、なんでそんなに当てちゃうわけ?」
「えっへん! 4枚連続取り!」
ちっちゃい耀太先輩は運を頼りにペアを引きまくっていった。
そのまま勝負は進んでいき、見事にあたしはボロ負けしたのであった。耀太先輩、恐るべし強運。
「スゴいでしょ、最高でしょ、天才でしょ!」
「うんうんすごいねー」
「じゃあさ、約束通り1個だけお願い聞いて!」
「いやいいんだけどね、簡単なやつだよ?」
「簡単だよ。お姉ちゃんの好きな人教えて!」
言われた瞬間むせこんだんですけど。
でもそういうのが気になるお年頃なんでしょうね。今言っても戻ったら記憶なんてないだろうし、別にいっか。
「あー、あたしが好きな人はね、すっごい頼りになるし、すっごくカッコイイんだよ。でもその分マヌケっぽいところもいっぱいあってさ。それも全部ひっくるめて好きなんだけどね」
「かっこいいな〜。僕もそんな人になりたい!」
それは君だよってツッコミたいところだけどやめておこうかな。
薫さんから時たま昔話みたいに耀太先輩のこと聞いてたけどさ、あたしも幼馴染がよかったなってつくづく思うんだよね〜。
そういえば、今の耀太先輩って記憶もちっちゃい頃のままだから……
「今度は耀太君の好きな人聞きたいな〜」
「聞きたい?」
「聞きたい聞きたーい」
「うん、いいよ! 耳貸して」
答えは十中八九わかりきってる事だけど聞いてみたい質問No.1のやつ。しかも耳元でとかヤバいんですけど。もう語彙力なくなってきてヤバいしか言えなくなってきそう。
「僕の好きな人はね、千聖だよ」
「そうなんだー、かわいいもんね」
「絶対に秘密だからね! かおちゃんにも秘密だからね!」
「わかってるって」
あーあ、本当に羨ましい限りですよ。
小さい頃からずっと一緒で、今となっては両想いになってるし。付け入る隙なんてない気がしてきた。
「あ、薫さん来るんだ」
「薫ってかおちゃんのこと?」
「んー、多分そうだと思うよー」
でもちっちゃくなった耀太先輩と今の薫さん会わせたらどうなっちゃうんだろう。まぁ、なるようになるか。
「やぁ美咲。耀太が縮んだと聞いて来てみたが……」
「美咲お姉ちゃん、この人がかおちゃん?」
「ぐっ……」
「え、薫さん!?」
「ほ、本当に耀太が小さくなってたとは……私の心を持って行ってしまったよ」
要するに昔の耀太先輩を見て心を持っていかれたってことでいいのかな?
やっぱりちっちゃい子って強いよね。特にあたしたちの年齢には色んな意味で。
「かおちゃんすっごくかっこよくなってる! 大人だ大人!」
「よ、よーちゃんもすぐにこうなるからね」
「あの薫さんが怖気付いてる」
「しょ、しょうがないじゃないか。あの頃の耀太にまた会えるなんて……はははは儚い」
「いやいや、めっちゃ動揺してるでしょそれ」
いつも堂々としてる薫さんがここまで怖気付いてる。
ここまで来ると白鷺先輩の怖気付いてる姿も見たくなってきたかも。えーでもどうすればいいかな。
「かおちゃんかおちゃん、ちーちゃんは?」
「ちーちゃんなら今はお仕事に行っているよ。電話してみるかい?」
「うん! おっきくなったちーちゃんとお話したい!」
「わかった。少し待っててくれ」
なんか考えてる間に話進んでるんですけど。
でもそうしてくれる方が楽だからいいんだけどね。
「もしもし、千聖かい? 今少しややこしい事になっていてね。な、なんというか….…耀太が小さくなってしまったんだ。え、今から来るって? わ、分かったよ」
「ちーちゃん今から来るの!?」
「そ、そうみたいだよ」
「仕事すっぽかしてまで来るって相当一大事なんじゃないですか」
「あの様子からして……いや、考えないでおこう」
薫さんが白鷺先輩に怖気付いてるのもなにげ珍しいかも。
それより耀太先輩がいつ戻るのか黒服さんに聞いておけばよかったな。
「ちーちゃんと会える♪ おっきくなったちーちゃんはどんなんかな。身長おっきくなって〜、すっごくキレイになって!」
「え、この頃の耀太先輩ってこんなに白鷺先輩のこと好きだったんですか?」
「ああ、そうだよ。耀太が千聖から避け始めたのは中学ぐらいからだったかな。あのころの千聖は……私でも許してくれなかったよ」
「あらまぁ……ご愁傷さまです」
そこまでやばいとは思わなかったよ。幼馴染ならまだ許容範囲内でしょ。いやあたしはさすがにそこまでしないかな。好きなら好きって言うし、束縛なんて……ってのも断言出来ない事を悔やむ。
「薫! 耀太が小さくなったって本当なの!?」
「早かったね。ほらよーちゃん、大きくなったちーちゃんだよ」
「ちー、ちゃん?」
「ほ、本当にあの頃の耀太が……」
「あれ? ちーちゃん? 大丈夫?」
薫さんによると、仕事の疲れと耀太先輩の可愛さゆえに失神してしまったらしい。
白鷺先輩、お疲れ様です。
「うぅ……耀太が……」
「そうだ、千聖が寝て思い出したよ。耀太が元に戻る方法が」
「え、今更ですか?」
「来る時にこころから電話が来てね。どうやら寝ると元に戻るらしいんだ」
え、超絶簡単じゃん。少し一緒に遊んで寝させてあげるだけでしょ? そんなことでいいならあたし一人でやってたんですけど。
「ん……な、なんでソファーの上に……じゃないわ! 耀太、耀太よ!」
「僕ならここにいるよ、ちーちゃん」
「あう……き、気を確かに持つのよ。耀太は耀太、あの頃の純粋無垢な耀太よ」
「キレイになったね! 身長は……あんまり変わんないけどやっぱり可愛いよ!」
「んーーーーー!!!!」
思ってたより白鷺先輩が壊れてる。
今この状況で白鷺先輩に私か薫さんが話しかけても耳に入らないんだろうなってことは容易に想像できる。
耀太先輩、あなたの幼少期はあざとすぎですよ。
「ん、眠くなってきたかも」
「もしかしてちーちゃんと会えるから我慢してたのかい?」
「うん……ふぁぁ……」
「よ、耀太……なんていい子なの!」
さっきまで眠い素振りなんて一切見せなかったのにいきなり眠いって言い出すとか反則。あたしもそんなの言われたらぶっ倒れるって。
「耀太君、お着替えしてお布団で寝よっか」
「美咲ちゃん、耀太は私が寝させるから大丈夫よ」
うん、白鷺先輩ならそう行ってくると思ったよ。
でもですね、あたしだって今日1日耀太先輩のお世話してきたんですよ。こんなにあざとい耀太先輩のお世話してたんですよ。そしたら一緒に寝るぐらい我儘言ってもいいでしょうが。
「それは譲れないです。今日はあたしが耀太先輩のお世話するんで」
「そのセリフは聞き捨てならないわね」
「ふっ、私も話に混ぜてもらってもいいかい?」
「あなたは論外よ、薫」
「なっ……」
さてさて、ちょっと白鷺先輩とバトリますか。
「さぁ耀太、一緒に寝ましょうか」
「だーかーら、あたしと寝るんです」
「ま、まぁまぁ二人とも落ち着きたまえ。ここは1つ、耀太に選んでもらうのはどうだい?」
「それもそうね」
「耀太君、あたしと白鷺先輩、どっちと一緒に寝たい?」
お願い耀太先輩、あたしって言って!
「ん、ちーちゃんと……」
「ふんっ、私の勝ちね」
「はいつも一緒に寝てるから、今日は美咲お姉ちゃんと寝たい」
「あたしの逆転勝利ですね」
「ま、まけた、なんて……いいわ、今日は許してあげる」
よし、よしよし! ちっちゃい耀太先輩と寝れるなんてもうヤバすぎるって!
あ、でも寝たら元に戻っちゃうなら着替えさせなきゃダメだよね。服着せないで寝たら……いやいや、それもそれでいいかもしれないけど、あたしが起きたらダメになるから却下。
「美咲お姉ちゃん、いい匂い」
「そ、そうかな〜」
「うん、ママみたいな匂いで、眠く……」
「ありゃ、寝ちゃったか」
一緒のベッドに寝て横で見る耀太先輩の寝顔は天使みたい。あーもう吐血しそう。情報量多いし、とにかく尊すぎて頭パンクしそう。
「あ、れ……? あたしも、眠く……」
「……き、美咲、起きろって」
「ん、耀太先輩……あ、戻ったんですね」
「ああ、戻ったよ」
いつの間にか寝てたあたしを元に戻った耀太先輩が起こしてくれた。
ちっちゃい耀太先輩も可愛かったけど、あたしはやっぱり今の耀太先輩が好きだな。
「なんか、その……世話になったな」
「これぐらいどうってないですよ。小さくて可愛い耀太先輩のこと見れましたしね」
「あー、その事なんだけどさ、俺がちっちゃくなってた時のこと覚えてるって言ったら怒るか?」
「え、えぇぇぇ!?!? オムライス食べさせてあげたのも、口吹いてあげたのも、着替えさせてあげたのも、あれもこれも全部ですか!?」
「ぜ、全部覚えてます。最近にしては事細かにはっきりと覚えております」
それはないって黒服さん。
あたしだってちっちゃい耀太先輩だからやったんだよ。そんなの覚えられてたら恥ずかしいに決まってるじゃん。あーあ、これであたしは幻滅されましたよ。お嫁に行けないでーす。
「げ、幻滅される……」
「幻滅なんてするわけないだろ。めっちゃ優しいし、可愛いとも思った。まぁ、いい母親になりそうだな」
「それは言い過ぎです。そのセリフでもっと惚れたらどうするんですか」
「って話は置いておいて、頼む、千聖と薫には覚えてることを秘密にしておいてくれ。じゃなきゃ……」
「分かってますって。ちゃんと秘密にしますよ」
その後、白鷺先輩と薫さんに問い詰められたけど、知らないの一点張りでなんとかなった。
耀太先輩の秘密を握っちゃってるわけだし、少しぐらい我儘言っても許してくれるよね。
ちゃんと次は修学旅行行くから!きっと行くから!