俺の幼馴染みはヤンデレです 作:太公望
「ほらほら、ちゃっと行ってきちゃいなさい! 帰ってきたら出かけるんだから!」
「今回はいつまでいれんの?」
「大体2週間前後かな。この日のために母さん頑張ってたんだよ」
「愛する耀太のためだもの。あ、お嫁さん早く紹介してね?」
「一瞬でも期待した俺を殴りたい」
他愛もない会話をして、俺は家を出る。
なんかこう、すごい新鮮な感じがする。朝から父さんと母さんと話すとかいつぶりだろうな。記憶にないわ。
「あら、偶然ですね。おはようございます」
「お前の家と真逆なんですけど」
「おはようございます」
「……おはよ」
なぜだか分からないけど、途中で紗夜と会いました。
俺の家と紗夜の家は真逆で、普通なら会うことは無い。
もうあれだ、確信犯だな。
「つかぬ事をお聞きしますが、相手は決めたんですか?」
「悪い、まだ考えてる。やっぱ……死ぬほど考えねぇと絶対後悔すると思うから」
「私はいつまでも待ちますよ。私に出来ることはやりきったつもりですから」
「おう」
珍しく紗夜がまともだと思ったよ。いやさ、本来なら風紀委員なんだし、まともだと思うんですけどね。そうであって欲しかったんですけどね。
「朝からデートっていいですよね」
「なんで後ろからいきなり来るんだよ。こえーよ」
「ずっといたんですけどね」
「おはよう、耀太くん」
「お、おはよう」
後ろに着いてきていた有咲と燐子に気づかず、ずっと考えていたらしい。
うん、どうやっても考えがまとまる気がしない。
「耀太くん、早くいこう。もうすぐ時間だよ」
「白金さんの言う通りですね。少し急ぎましょうか」
「あいあい、さっさと行きますよ」
学校に着いて、生徒会の引き継ぎをやったんだけど、かなり簡単に終わった。
燐子が来年の生徒会長を任命して、来年の生徒会メンバーから花貰って終わり。あとは普通に各自解散にするっぽい。
「終わっちゃったね」
「最後は明日の挨拶だろ。とりま気張れよ」
「耀太くんにそう言われちゃったら頑張るしかないよ」
俺は帰ろうと思ったけど、少しだけ学校を回ることにした。
見慣れた教室、歩き慣れた階段、どっかの誰かさんたちから逃げるために使ったトイレ。
思い出したくないものまで思い出しちゃうんだけど、それも悪くない気がする。
何もすることがないし、どうせならと言って誰もいない屋上まで来て寝転んだ。
真っ白な雲と、澄みきった青い空が目に映る。こうやって授業サボった記憶がめっちゃあるけど、後悔なんかしてない。
「あ、やっぱり耀太先輩だ」
「なんだ美咲か」
「明日卒業だからって感傷にひたってたりするんですか?」
「さぁな」
唐突に現れて、上から俺の顔を覗き込んできた美咲も俺の隣に寝転んだ。どうせあたしも弟と妹の迎え行くまで暇なんで、とか言ってるけど、そんな理由で一緒にいてくれるなら嬉しい。
「こうやって屋上でお前と話すのも最後かもな」
「確かに最後ですね。こうやって2人きりになるのも最後かもしれませんし」
「かもな」
学校での行動の全てに最後、という単語がついてくる。
やっぱり、少し寂しいって思うんだけど、そう思う俺自身にも驚く。
早く卒業したいって思ってたのに、今となっては卒業したくないって思ってる。
「あー、もういいや。今から留年するか」
「え、するんですか!?」
「いや冗談。美咲と同級生もありだけど、やりたいことあるからさ」
こうやって美咲と冗談交じりの会話がいつも通りなのも今日が最後だと言うのに、その会話が長く続かなかった。
「さーて、そろそろあたしは迎えに行きますかね。あ、明日、教室で待ってますから」
「自覚あるん?」
「先輩が待ってろって言ったから待ってるんですよ。結構期待してますよ、先輩」
そう言いながら美咲は笑った。いつもより子悪魔っぽくて、思わず顔を逸らしちまうぐらい可愛いって思った。
「じゃ、また明日」
「おう、気をつけてけよ」
「……大好きですよ、耀太先輩」
去り際に美咲はそういった。あのですね、さすがにそれは反則です。考えてたのがまたゼロにリセットされちまったじゃねぇか。
「ま、いっか」
そう言いながら俺も立ち上がって、ある場所へ向かうことにした。
着いた場所はパスパレの事務所。
今日もレッスンする、ということになっている。
なんかイヴが卒業式の前夜祭ってことでパーティーしたいって言い出したから、軽くお菓子でも持ってきてみんなで食べようってことになった。
「だーれだ」
「その声は日菜だろ」
「ざーんねんっ! 今回は麻耶ちゃんでした!」
「フヘヘ、イタズラ大成功っす!」
「珍しくお早いご到着で」
俺が部屋に入ってすぐ目を塞がれた。
日菜のイタズラかと思ってたんだけど、麻耶がやってくるのは想定外なんですね。予想出来るわけないだろ。
「あ、そうだ、忘れないうちにお土産渡しとくわ」
「ありがとうございます!」
「んー! るるるんっ♪ てきた!」
「満足して貰えたようで何より」
2人にお土産を渡して話していると、千聖達も到着して全員が揃った。
こうして揃うのも久しぶりで、高校生としては最後……って、最後はもう使いたくねぇな。
「みなさん! 卒業の前夜祭としてお菓子パーティーです!」
「私ね、いーっぱいお菓子持ってきたよ!」
「今日だけはハメをはずしても誰も怒らないわ。今紅茶淹れるわね」
「あたしはクッキー焼いてきたよ! リサちー直伝のクッキー!」
「ジブンはマカロン持ってきました! これ、この間駅前にできたばっかりのマカロン屋さんのやつなんです!」
やっぱしこの5人って仲良いよな。俺マジでこの空間にいらないと思います。ここって女子の花園ってやつじゃないの?
「ねーねー、よーくんはなにもってきたの?」
「ん、あぁ、作ってきたカップケーキと、母さん用のフォンダンショコラ」
「またお母さんの勝手に取ってきちゃったの?」
「安心しとけ。今回はちゃんと母さんの分も残してきてあるから。1口分だけど」
なぜだか知らないけど、ぼーっとしてたい気分なんです。
俺は何も食わなくていいから、この5人ののほほんとした雰囲気を近くで見てたいだけっていう理由はあるんだけど、知らないフリをしておこう。じゃなきゃ読心術使われてバレるやん。バレたら恥ずかしすぎて飛ぶぞ俺。
「ほらほら、耀太くんも一緒に食べよ! 早くしないとなくなっちゃうよ!」
「悪い悪い、ちょっとぼーっとしてた」
「耀太さんがぼーっとするなんて珍しいっすね」
「ま、俺も俺で色々あるって事よ」
俺も混ざって紅茶飲んだり、お菓子食べたり、日菜が持ってきたボードゲームとかトランプで遊んだりしてたら、あっという間に時間が過ぎた。あ、トランプはまた彩の惨敗な。ボードゲームに関しては俺が負けたんですけど。
「今ね、すっごくるんっ♪ てしてる!」
「いつも意味不明だけど、今ならわかる気がする」
「奇遇ね、私もよ」
「私も私も!」
やっぱりこの5人って最高だわ。俺は入んなくていいから、保護者的な立ち位置で見てるだけでいい。
彩はドジるし、日菜はハチャメチャするし、イヴは変な方向に進むからめっちゃ大変なことになるのは日常茶飯事。でも、麻耶が落ち着かせて、千聖がまとめて、結局いい方向に進んでく。
これが本当のベストマッチでしょ。
俺が知ってる限り、こんなに相性のいい5人組は他には知らん。まぁ、俺の交友関係が狭いのもあるんですけど。
「んー、めっちゃ幸せ」
「あ、そうだ! みんなで記念写真撮ろうよ!」
「はいはい。カメラあるから5人並んどけ」
「ダメですよ。ヨウタさんも一緒に写るんです!」
「ったく、わかったよ。三脚出すから待ってろ」
俺は写真に写るのが大っ嫌いだ。
ずっと残るし、ずっと無くしちゃいけないって思うようになるから嫌い。写真を撮る時にどんな顔をすればいいのか分からないから嫌い。
でも、今はそんなことどうでもいい。5人と一緒に写れば、なんとかなるでしょ精神に至りました。
「あとで現像して渡すよ」
「ちゃんと額縁買わなくちゃいけないわね。もちろん、とっておきのものよ」
「あたし、これ待ち受けにする!」
「ワタシはペンダントに入れます!」
こいつらと一緒にいたから、俺も変わったのかな。パスパレに強制的ではあれど、入ったことは間違いじゃなかったって今なら言える。でも強制的に入れた千聖の権力には今でも驚きますけどね!
「い、1回しか言わねぇからな」
「なになに?」
「……めちゃくちゃだったけど、一緒にいてすっげー楽しかったっつーか、なんていうか。まぁ、退屈はしなかった」
「それで?」
「俺なんかと一緒にいてくれて……あ、ありがとう。感謝してる」
今の俺が考えうるだけの感謝の意を述べました。
もうちょっとちゃんと考えろって自分でも思うよ。でも、考えてる余裕なんてないし、バカっぽくても自分の今の気持ちを伝えたかったんです。
「そ、そんなこと言われたらこっちまで泣けてきちゃうじゃないっすか」
「あ、麻耶ちゃん本当に泣いてる!」
「録音完了です! 着信にしておきますね!」
「イヴちゃん、私にもちょうだい! 寝る時に枕元で流すから!」
またなんか始まったよ。もうこうなったら俺には止められない。むしろ止めない方が楽しい。
最初はめんどくさいだけだったけど、今はめんどくさいだけじゃなくて、楽しいまであるんだよ。
「あなたがパスパレに入ってくれてよかったわ」
「俺も入ってよかったわ」
「明日、期待してるわよ?」
「さぁな」
明日で終わりじゃないことは確信できた。
だから俺は迷いなく、自分自身のことを決められる。
でもさ、まだまだ迷ってるからやばいんですね! 助けて神様!
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