Mr.6のお仕事   作:rairaibou(風)

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11.真実 ②

 ウイスキーピーク、その外れにある小屋。

 その男、Mr.8ことアラバスタ王国護衛隊長イガラムは、ベッドに身を横たえ、己の不覚を呪い続けていた。

 起き上がれば、まだ体には激痛が走る。だが、本来ならばたとえこの身が引き裂けるようなことがあろうとも、今すぐにでも船を出さなければならい。

 しかし、船を失い、ミリオンズ達に監視されている今、体の痛みもあって自由には動けない。

 彼はそれが自害にも値するほどの屈辱であった。アラバスタ王女、ネフェルタリ・ビビを守らなければならない立場であるのに。

 

 王女を『麦わらのルフィ』一味に任せた後、彼はアラバスタ王国への直線ルートを行くことで囮になり、彼女への脅威を少しでも減らそうとした。

 だが、ウイスキーピークを出港したすぐ後に、彼の船は爆破された。彼自身は『何者かの手によって』その直撃を逃れたものの、こうしてベッドに横になるしか無い状況だ。

 

 今こうしている間にも、王女は脅威にさらされ続けている。

 

 彼がその先に思考を進めようとしたその時、小屋の扉が開いた。

 入ってきたのはミス・マンデー、かつてのパートナーにして、イガラムを監視しながら看病するという選択肢をとったエージェントでもある。

 それは彼女らにとってもリスクのある選択肢だった。そして、イガラムもそれは理解している。それも含め、彼は今すぐにでも島を後にしたかった。

 そして、その後からついてきたのは、Mr.6とそのパートナーたちだった。

 表情にこそ表さないが、イラガラムはそれに驚いた。彼についての『大号外』は、当然イガラムの耳にも届いている。

 

「客だよ」と、ミス・マンデーは彼らを指差して続ける。

 

「約束は守ってもらうよ」

「ああ、そんなに心配すんな」

 

 彼は手にしていたパイプ椅子をベッド脇においてそれに座り込んだ。

 

「久しぶりだな、Mr.8」

 

 嫌味ったらしく言う彼に、イガラムは答えた。

 

「ひにぐが……マー、マー、マー、マ~。皮肉屋だな、私の正体など、すでにわかっているだろう」

「そうだな、アラバスタ王国護衛隊長、イガラム」

 

 ニーサンは冷静に、突き放すようにそう言った。彼がその立場であることは、ミス・マンデーからすでに聞いているし、それに納得もしていた。戦闘力もさることながら、人をまとめるのに秀でている男だという評価は、間違っていなかったのだ。

 

「何をしに来た……」

 

 彼はすでに死を覚悟していた。そして、何をされても王女のことは一言も漏らさぬと決意していた。

 だが、ニーサンの返答は彼の想定とは違うものだった。

 

「イガラム、一つ取引といこう」

 

 その提案に、彼は沈黙した。相手の意図が読めぬ以上、何も言うべきではない。

 ニーサンは更に続ける。

 

「簡単なことだ、今お前が持っている情報をおれ達に提示すればいい……」

「それで、一体私が何を得るというのかね?」

「お前を、アラバスタまで送ってやる」

 

 イガラムはそれに否定の言葉をつけず、ニーサンの次の言葉を待った。まだ信用に足るわけではないが、魅力的な提案ではあった。

 

「盗品だが、おれは船を持っているし、アラバスタへのエターナルポースもある。ここから直通でアラバスタに向かえば……お前の『遅れ』は取り戻せるだろう」

 

「迷うなよ」と、彼は続ける。

 

「お前には利益しか無い提案のはずだ。おれ達は王女の件を知っているし、その行動も知っている」

「それなら、一体何が知りたい?」

 

 ニーサンは一度息を呑み込んでから答える。

 

「この会社の、ボスは誰だ?」

 

 イガラムとミス・マンデーはその問いに背筋を凍りつかせた。

 謎こそが社訓であるこの会社、その実、その社訓はボスであるMr.0の素性を完全に覆い隠すためだけに存在する。

 Mr.1ペアですらその正体を知らないと言われており。彼の正体を知っているのは、ナンバー2のミス・オールサンデーのみ。

 それは、バロックワークス社の最大の闇だった。

 

「それを言えば、君たちも狙われることになる」

 

 イガラムは、駆け引きなどではなく本心からそう言った。その責任を負わせるほど、彼はフロンティアエージェント達を個人では憎んでいなかった。

 

「心配すんな、おれ達はもう会社から切られている。あの『大号外』は、おれ達が抹殺から逃れるためにうった芝居だ。会社はもうおれ達を殺したつもりになってる」

 

 パイプ椅子が軋むほどに背もたれて続ける。

 

「この町もそうさ、任務失敗以前に、お前とミス・ウェンズデーを長期間受け入れていた時点で、ボスはこの町を消すだろう。お前はそれを言わぬことがおれ達に対する最低限の情だと思っているのかもしれないが、こうなってしまった以上、抵抗すべき敵をはっきりさせることこそがおれ達に対する情だ」

「……しかし、敵は強大すぎる。君たちの敵う敵ではない…」

「勘違いするな。たしかにおれ達は会社に切られたが、だからといってお前らに味方したいわけでもない、あくまでも自衛のために、離れるべき対象を知りたいだけ」

 

 それでもまだ答えを渋るように唇をなめたイガラムに、しびれを切らしたミス・サーズデーが鯉口を切った。僅かな音であるがそれに気づいたニーサンが右手でそれを制す。

 だが、その代わりに彼は一層低いトーンで言った。

 

「お前、ちったあはっきりさせろよ……お前がおれ達に行った『裏切り』によって、この町すべてが命の危機にさらされているという現実をはっきりと理解しろ。その上で、まだこの組織に対して恨みが上回るのなら、そのまま黙っていればいい。だが、少しでもおれ達に情というものがあるなら、さっさとゲロってアラバスタに向かえばいい。お前が黙っていることで、この世界の誰もトクはしねえんだよ」

 

 裏切り、という言葉に、イガラムは目を見開いた。敵対する組織に対する恨みを自覚していながらも、エージェントたち個人に対する裏切りを考えたことはなかった。

 だが、状況的にはニーサンの言うとおりであった。犯罪組織であることは前提にしても、彼がエージェントたちを欺き、裏切り続けていたことは事実、そして、それでウイスキーピークの住民達が命を狙われる可能性があることも理屈が通る。

 イガラムは覚悟を決めるために息を吸った。彼らに対する情はある。

 

「わかった。言おう」

 

 エージェントたちは沈黙でそれを待った。

 

「この会社のボス、Mr.0は……王下七武海、クロコダイル」

 

 パイプ椅子の足がガタガタと軋む音がした。ニーサンがその名前に驚き、大きく身を乗り出したのだ。

 それは他のエージェントたちも同様だった。これだけの賞金稼ぎを秘密裏で束ねることの出来る武力を持つボスだ。多少は名のある男だとは思っていた、だが、それが王下七武海とまでは、当然思っていなかった。

 

「マジ? ヤバくない?」と、一言だけ漏らしたミス・サーズデーの反応こそが、彼らの思いを代弁していた。

 

「なるほど……」

 

 ニーサンは俯き、歯を食いしばりながら絞り出すように呟く。

 どうしてそれに気づけなかったのだろうか。たしかに、そうであれば、全ての辻褄があう。

 彼がアラバスタ攻略の上でも最もネックになると思っていた部分は、王下七武海のクロコダイルの懐柔、もしくは討伐であった。

 しかし、もしその大戦力がそのままこちら側だとしたら……。

 

「アラバスタ王国は陥落する……」

 

 直感的に、彼はそう思った。国王軍が寝返ったとかそういう次元の話ではない。クロコダイルさえいなければ確実に成功すると思われていた作戦である、クロコダイルが仲間だとあれば、もうすでに成功していると言ってもいい。

 

「そうはさせぬ……!」

 

 なんとか身を起こしながら絞り出したイガラムを、ニーサンはもはや憐れみに近い感情で眺めている。

 王女と護衛隊長、そして、三千万ベリー程度の少数海賊団でどうにかなる相手ではない。

 

「ヤバいね……」

 

 それまで沈黙を保っていたミス・マザーズデイも、珍しく深刻な表情をしながら言った。動揺からか普段注意しているはずのミス・サーズデーの口調がまじる。

 

「カーチャン達は、とんでもない敵を抱えちまった」

 

 ニーサンはアラバスタでの一幕を思い返していた。初めてクロコダイルと顔を合わせたあの時、なんとかやつを出し抜こうとしたあの時、そして『ライブ』会場でのあの時。

 あの男は、ハッタリを重ねる自分をどのような目で見ていたのか。

 完璧ではないにしろ、自分はこれまでうまく立ち回っていたつもりだった。だが、どうやらそれも、この会社の手のひらの上であったということになる。

 むしろ、クロコダイルがこの会社のボスだというのならば、自分はうまくおちょくられていたとすらとれる場面すらあった。

 悪人としての格が段違いだ。

 彼は頭を抱えた、あまりにもショックが大きい。賞金稼ぎ、そしてロックンローラー、そのハッタリが打ち砕かれている。

 

「あのさ~」と、あまり物事を深く考えないのか、それとも強烈に前向きなのか、あるいはそのどちらかであったり、そのどちらも同じような意味なのかはわからないが、ミス・サーズデーが素朴で重要な疑問をぶつけた。

 

「そもそもなんで王女サマがスパイやってるわけ? 意味わかんなくない?」

 

 一瞬、その言葉に誰もついていかなかった。だが、それは最大の疑問でもある。

 少しばかり沈黙があった後に、ニーサンが問うた。

 

「そうだな、おれもそれにはかなり興味がある。教えろ」

 

 イガラムは、やはり少し躊躇しながらもそれに答えた。

 

「元は、ビビ様がおっしゃられたこと。最初は私も危険なだけで意味のないことだとは思っていたが、敵の正体がクロコダイルだと分かると、その理由も出来た」

「理由?」

「……相手がクロコダイルとあっては、今の我々では民意で勝つことが出来ない……王女様ならばまだ若く、国民の人気もあり、何より反乱軍を説得できる」

「なるほど」

 

 ニーサンは背もたれて頷いた。それでもまだ王女が直接スパイになる理由がはっきりとするわけではないが、王女の意思が多少そこに入っているのならば、考えられないことではない。

 

「確かに、今の王と国王軍では民意を得られないだろう……バロックワークスはそのように工作したし、国王が安易な人気取りに走っていないのも事実。それに引き換えクロコダイルは、武力という、人気を得るために最もわかりやすい武器を持っている。王女様がどれほど国民に人気なのかは知らねェが、まあ、あれだけの美貌だ、しわくちゃババアよりかは人気があるかもな」

 

 彼はやはり憐れみの目でイガラムを見た。工作によって王の威厳が地に落ちつつあるのは彼が最もよく知っている、彼はそれを成すために最もよく働いたエージェントの一人なのだから。

 

「大したもんだ」と、ニーサンは続ける。

 

「痛みも血も知らねえであろう一国の王女様が、国を狙う敵のためにスパイとなって組織に潜り込み。こんな島で賞金稼ぎと寝食を共にし、時には痛み時には痛めつけ、二年もの間身分を誤魔化し続けていた」

 

 だが、その努力によって得たものが、国から雨を奪う『ダンスパウダー』の製造の資金に使われていたという事実を彼らはどう思っていたのだろうか。そして、王女ビビは、彼女を仲間だと笑い合うエージェントやミリオンズをどう見ていたのか。

 

「大したもんだ」と、彼はもう一度続ける。

 

「そこまでして守りたかったんだろう、富を、地位を。どうやらおれもその策略に見事引っ掛かり、ペラペラと調子よく喋っちまった……ここの連中は気が良くて嫌いじゃなかった……だが、そう思っていたのはおれ達だけだったらしい」

 

 彼はゆっくりと立ち上がった。パイプ椅子をたたみ、それを片手で持ち、それを突きつけるようにイガラムに向ける。

 

「とんだ間抜けだよおれ達は!」

「やめろMr.6!!!」

 

 明らかな攻撃の構えに、ミス・マンデーが一歩前に出てそれを止めようとした。

 だが、シャッパとミス・サーズデーが彼女の前に立ちふさがる。シャッパは拳を握り、ミス・サーズデーは鯉口を切っている。彼らはニーサンの意思を尊重した。

 ミス・マザーズデーは腕を組んだままじっとイガラムを睨みつけている。彼女はニーサンを止めない。

 一人、ミス・チューズデーのみが「やめてください!」と、ニーサンの腰に抱きついてそれを止めようとしている。

 だが、彼女の腕力はニーサンを止めるには非力すぎた。

 

「……お前らには国がある。帰るべき国が『まだ』ある。そこに帰りゃ、お前らはいい立場だ。こいつ達は違う、こいつ達には何もねェ、だから、だからこそ『理想の国』に憧れた。それを……てめェらの裏切りによって、こいつ達は国を失ったんだ!!! アラバスタが勝とうが! バロックワークスが勝とうが! こいつ達には帰る場所がねェ!!!」

 

 その叫びは、彼だけでなく、ミス・マザーズデーが、ミス・サーズデーが、ミス・マンデーすら心の奥底には持っていた感情だった。持っていたが、ぶつけることは出来ない感情だった。だってそれは、国家乗っ取りによってなされようとしていたものだったのだから。

 だが、ニーサンはその引け目を無視して思いをイガラムにぶつけていた。

 

 激高されながら武器を突き立てられても、イガラムは落ち着いていた。どこまで言っても彼にとってバロックワークス社員は敵対者、そのそれぞれに人生があることを理屈では理解しているが、それを亡国の危機と比べることは出来ない。彼らには『裏切った』という感覚がこれまでなかった。

 

 ニーサンは持っていたいパイプ椅子を大きく振りかぶって、床に叩きつけた。リベットが弾け飛び、それがばらばらになる。

 

「お前を殴るわけじゃねえ、反省しろというわけでもねえ。だがなテメェら……それでもテメェらを守った……テメェらのために悪魔の実の能力者に立ち向かった『仲間』を、その『仲間』をテメェらは『裏切った』ことを、一生忘れるなよ、一生背負っていけよ!!!」

 

 イガラムはそれに沈黙していた。まだそれにはっきりとした答えを出すことが出来ていなかったのだ。

 無理もない、彼は王国の護衛隊長。王家の敵を討ち滅ぼす立場であり、それが正義だ。だからこそ、相手にも正義があることを理解しない、理解してはならない。それが国を守るということなのだから。

 ニーサンも、それは無理のないことと頭の中では理解していた。なによりバロックワークスは犯罪組織であり、その狙いは無害な国家の乗っ取り。世界が、どちらが善で、どちらが悪と判断するのか。『海の戦士ソラ』がどちらの味方になるのか、誰にだって分かる。

 だからこそ彼は叫びたかったのだ、悪の中にも正義はあったと、悪の中にも救われるべき小さな存在はいたのだと、彼は叫びたかった。

 

 イガラムは厳しい視線でニーサンを睨んでいた。敵対ではない、恐れでもない、弱気になるべきではなく、かと言って彼らを憐れむべきでもなかった。

 

 シャッパとミス・サーズデーは戦闘態勢を解き、ミス・マンデーも瞳に涙をためてニーサンとイガラムを見やっていた。

 ミス・チューズデーも彼から離れ、複雑そうな表情を見せている、聡明な彼女のことだ、ニーサンの言うことを理解できないわけではない。

 

「よく言った」と、ミス・マザーズデーが微笑んで言う。

「カーチャン、胸がすく思いだよ」

 

 ミス・マザーズデーの言葉に、ニーサンは救われる。

 

「お前ら」と、ニーサンは仲間たちに向かって言った。

 

「さっきも言ったが、おれはこれから『アラバスタ王国に直行』する」

 

 仲間たちは沈黙をもって続きを求めた。

 

「馬鹿な行為だ、アホな行為だ。おれ達の敵であるクロコダイルに最も近づく行為でもある。だが、おれはこの王国がどのような道をたどるのかをしっかりと見届けたい。もうすでに、この国の結末はおれの手から離れている。おれは王国の手助けもしねえし、会社の手助けもしねえ」

 

 一拍置いて続ける。

 

「ついてきたくないやつはついてこなくていい。ここに残ることをおれは何一つ責めはしない」

 

 それは、もはや彼らにとってはいらぬ忠告であった。

 

「行くぞ、アラバスタに」

 

 仲間たちは、それぞれがそれぞれの同意の声を上げた。




作中で明言はしないと思いますがミス・チューズデーは19歳、ミス・サーズデーは17歳位で考えています

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特にワンピース二次は初めての試みなので評価とアドバイスを頂けると幸いです

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