Mr.6のお仕事   作:rairaibou(風)

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12.タマリスク発アルバーナ行きヤサラクダシャトルバス

 アラバスタ王国、サンドラ河の下流に存在する町、エルマル。

 かつては緑あふれる町であったそこにすでにかつての面影はなく、今では無数の廃墟が残るのみ。サンドラ河が海からの侵略をうけることで真水の供給が難しくなり、奪われた雨によって人々はその町を捨てた。

 町を捨てた人々に代わって砂を掻き出す存在はなく、風に乗ってくるそれは廃墟しか残らぬその町を飲み込まんとしていた。かつてそこが『緑の町』と呼ばれていたことなど、その過去を知らぬものは誰も信じないだろう。町の誇りであったはずのタフ大聖堂すら、すでにその威厳の面影もない。

 

 ニーサン達が乗り込む輸送船は、彼の予定通りサンディ(アイランド)に直行していた。幸いなことに海賊や悪天候に出会うこともなく、恐らく最短の時間でそこにたどり着いていた。

 

「何だこりゃ」

 

 その港に停泊している船をひと目見て、ニーサンは呟いた。

 キャラヴェルだ、海賊旗があることからそれが海賊船であることには間違いないのだろうが、賊が乗り込んでいるにしては随分と小型だし、何より羊を模した船首はあまりにも平和的すぎる。とてもではないが三千万の海賊の本船とは考えられないだろう。

 

「田舎のお嬢様の船って感じだな……」

 

 甲板からそれを眺めるニーサンは、いまだに信じられないといった表情だった。

 

「とにがっ……マー、マー、マー、マ~……とにかく、ビビ様達が無事アラバスタについていることはわかった」

 

 ニーサンの横で腕を組んでいたイガラムは、複雑そうな表情のままにそう言った。

 

「しかし、なんでエルマルなんだ?」

 

 ニーサンはイガラムに問うた。サンディ島につくやいなやエルマルに立ち寄ることを要求したのはイガラムだったのである。しかも彼の思惑通りそこにはビビと行動を共にする海賊の本船があった。

 

「ビビ様は反乱軍の説得に向かわれるだろう」と、イガラムは答える。

 

 そして、その答えにいまだ首をひねったままのニーサンに続ける。

 

「恐らくは反乱軍の拠点であるユバに向かうはずだと思ったのだ」

 

 論理的な答えだったが、ニーサンはやはり腑に落ちないままに返した。

 

「ちょっとまて、今ユバに向かってどうする?」

 

 今度はイガラムが首を捻る番だった。

 お互いが勘違いを続けたまま彼は続ける。

 

「反乱軍の拠点はカトレアのはずだ」

 

 その言葉に、イガラムは反射的に否定の言葉を繰り出そうとした、立場上、彼が偽の情報で自分たちを撹乱しようとしているのではないかとすら思った。

 だが、次の瞬間に「まさか!」と、彼は事の真相を理解して青ざめた。

 

「枯れたのか……ユバが……」

「よくわからんが、その反乱軍はユバに本拠地を構えていたのか?」

「ああ、少なくとも我々が把握していた情報ではそうだった」

「ふーん」

 

 ニーサンはもう一度『麦わら』の船に目をやりながら鼻を鳴らした。

 ユバ、という町の名を全く知らないかと言われれば、必ずしもそうだと断言することは出来ない。アラバスタにいる間にどこかでその名を聞いたかもしれないし、何気なく開いたアラバスタ王国の地図の中にその名があったかもしれない。

 だが、彼の知る限り、そこは任務の中で重要な土地ではなかった。

 反乱軍の本拠地がカトレアであることは確実だ、本拠地ではないところにコーザとその取り巻きがいるとは考えられない。

 イガラムの言うことから考えるに、恐らく最初はその町に本拠地があったのだろう。だが、何らかの理由で、それがカトレアに移った、といったところだろうか。

 そうであるのなら。

 

「皮肉なもんだな」と、ニーサンはやはり鼻で笑った。

 

「会社の情報収集には熱心だったが、肝心の自国の情報はおざなりだったってわけか」

 

 イガラムはそれに何も返さない。ただ、ニーサンの挑発じみた物言いに、多少思うことはあっただろう。

 だが、それは無理もない。ウイスキーピークを本拠地とするフロンティアエージェントが根掘り葉掘りアラバスタ王国の動向を探れるはずがないし、アラバスタから情報供給を受ける選択は、あまりにもリスクが高すぎる、尤も、ミス・ウェンズデーがニーサンに言い寄っていれば、うっかり漏らしていたかもしれないが。

 

「ここで船を破壊すれば、王女たちはカトレアに向かう足を失うことになるな」

 

 もし、ユバから引き返しカトレアに向かおうと思えば、必ず大河サンドラを渡らなければならない。そうなれば、船の使用は必須。

 全くの無人で警戒のかけらもないその船を破壊するのは、無能力者の彼らでも容易だろう。

 

 イガラムは、その言葉にも表情を崩さなかった。今ここで戦っても多勢に無勢、仮に何人かを道連れに出来たとしても、とても敵わないのは明らかだ。

 しかし、ニーサンは退屈げにパイプ椅子の背に体重を預けて続ける。

 

「まあ心配すんな。まだおれが会社員だったら点数稼ぎのためにやってたかもしれねえが……敵に媚びるこたあねェ」

 

 イガラムたちと仲良くするつもりもないが、今更会社に奉仕することもない。

 複雑な視線を向けるイガラムに彼は続ける。

 

「で、どうするんだ? 王女様を追うならここで下ろすが?」

 

 イガラムは少し考えてからそれに答える。

 

「いや、私はナノハナで下ろしてほしい」

 

 ニーサンもイガラムの選択に頷いて「まあ、そうだろうな」と答える。

 

 今から王女の一団を追ったところで、挽回できる時間はたかが知れている。

 それなら、イガラム一人でもカトレアに向かい、反乱軍の説得を試みるほうが良い。

 

「賢明な判断だ」

 

 彼は大声で言った。

 

「錨を上げろ! ナノハナに向かう!!!」

 

 

 

 

 

 

 ナノハナ近辺のある沿岸。ニーサン達を乗せた輸送船は、シャッパとミス・チューズデーの技量のおかげで船体を傷つけること無く接岸していた。

 

「悪いが、おれ達が直接ナノハナに行くわけにはいかねえんだわ」

 

 会社の戦略上、ナノハナには多くのビリオンズ達が送り込まれている、そして、ニーサンとミス・マザーズデイは彼らの教育に一枚噛んでいた。すでに自分たちの抹殺の件が彼らに伝わっていてもおかしくはなく、そこで一騒ぎ起こすことは避けたい。

 

「じがだっ……マー、マー、マー、マ~、仕方のないこと、ここまで送ってくれたことに感謝している」

 

 彼は甲板から見送ろうとしているニーサン達を見やって続けた。

 

「許してくれ、と願うことがおこがましいことはわかっている」

 

 その言葉に、ニーサン達は沈黙をもって続きを求める。

 

「わかってくれとも言えないだろう……だが、結果として君たちを『裏切る』形になってしまったことに……私は……」

 

 彼はその先を告げることが出来なかった。

 無理もないだろう、その先を、彼らに『謝罪』してしまうことは、彼の立場では出来ない。

 それを理解しているのだろう。ニーサンは手を振りながら続ける。

 

「いいんだ。お前らにはお前らの正義があっただろうし、おれ達にはおれ達の正義があった……おれはお前を許せなかったし、お前はおれ達を許せない……そんなもんだろう、何も不思議なことじゃない。おれがあんたを怒鳴りつけたことも道理なら、あんたがおれ達を受け入れられないのも、道理だ」

 

 受け入れるようにも、突き放すようにも聞こえるその言葉を噛み締めながら、イガラムは彼らに背を向けようとした。

 その背中に、ニーサンは「おい」と、声をかける。

 

「無防備に背中を晒すな。敵だろう? おれ達は……」

 

 イガラムはそれに振り返った。パイプ椅子に座って彼を睨みつけるニーサンの目には、悲しみと憐れみがあるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 アラバスタ王国、首都アルバーナの東に存在する港町、タマリスク。

 多くの四角い塔が存在するその町は、同じ港町でもナノハナとは違った様相を持っていた。

 

「恐らく、反乱はもう始まっている」

 

 バレぬようにこっそりと入港したニーサンは、その町の慌ただしさを不気味に思いながら言った。

 

「どうしてです?」と、あとから付いてくるミス・チューズデーが問う。せめて戦力になればと、彼女はあの工場でニーサンが目ざとく拾っていた北の海(ノースブルー)製の最新式ショットガンを背負っていた。

 

「ナノハナ沿岸部に待機させてたはずの武器商船が見当たらなかった……恐らくあれはすでにナノハナにぶっ込まれている」

「武器商船をぶっこむってどーゆーこと? 意味なくない?」

「ナノハナには多くのビリオンズが潜り込まされている。手段はわからないが、恐らく何らかの『煽動』が行われるはずだ」

「『煽動』で武器商船ぶっこむってこと?」

「ああ、あそこで『煽動』が起これば、反乱軍が黙ってはいないだろう……そこにたんまり武器を積み込んだ武器商船が、まるでお告げのように打ち込まれたとしたら……」

「……人数は足りているから、それに伴う武器があれば、最後の反乱が起こるだろうね、カーチャン分かるよ」

「そういうことだ」

 

 街の中心部に向かおうとする彼らを「待ちな!!!」と、住民が引き止める。

 

「誰だか知らんが、あんたらも逃げたほうが良い!!!」

 

 大掛かりな荷物を背負っているその住民は、急いでいるであろうに彼らに言った。

 

「何が起こっているの?」と、ニーサンを影に隠しながらミス・マザーズデイが問うた。

 

「よくわからんが、どうやら国王軍がナノハナを襲ったらしいんだ!」

 

 そういう彼も、いまだに信じられないという表情をしている。

 

「国王軍が?」

「ああ、おれも噂でしか聞いてないんだが、どうやら国王が直接国王軍を引き連れて、ナノハナを焼き討ちしたんだ!」

「国王が? どうして?」

「おれにもわからん! わからんから逃げるんだ!!!」

 

「あんたらも逃げたほうが良い!!!」と、もう一度だけ言って、彼は足早にそこを後にした。

 

 残されたニーサン達の中で、やはりミス・サーズデーが首をひねりながら言う。

 

「国王がナノハナを焼き討ち?」

「……Mr.2だな」

 

 ニーサンは王宮で面会したあの聡明な王を思い浮かべながら言った。少なくとも、あの優しく切れ者の王が、そんなに短絡的なことをするとは思えなかった。

 

「なるほどねえ、確かにボン・クレーちゃんならピッタリの役割だ」

「ああ」

 

 Mr.2がネフェルタリ・コブラの顔をコピーしていることは、ニーサンが一番良く知っている。

 

「なるほど……完璧な計画だ」

 

 彼は噛みしめるように一つ考えてから言う。

 

「もう、反乱は止まらん。この国は、堕ちる」

「どうするんじゃ?」

「……アルバーナに向かう」

 

 ニーサンのその言葉に、仲間たちは一様に緊張感を持った。

 

「戦場だよ」

「ああ、間違いなく戦場になる……だが、この国の行く末を見守るには最も適している」

 

 彼は一歩踏み出しながら続ける。

 

「何度でも言うが……おれ一人でもアルバーナに向かう。お前らはこの町で待っていればいい……多分、この町は焼き討ちには遭わねえ、意味がねえからな」

 

 だが、仲間たちはすべて彼に続いて前に進んだ。それ以上、何も言うものはなかった。

 

 

 

 

 

 

 そのビリオンズ達は、天から降ってきたかのような幸運に感謝しながら。それぞれの武器を握っていた。

 損な役回りのはずだった。

 選ばれたビリオンズ達は、すでに反乱軍と合流するためにアルバーナに発っている。死傷するリスクは有るが、彼らはその働きによって昇格するチャンスもある、何より、反乱を止めようとしている王女とその一味を殺せば、大幅な昇格があるだろう。

 自分達はそれに選ばれもせず、田舎のハズレで社員たちが使う『タマリスク発アルバーナ行ヤサラクダシャトルバス』の管理だ。楽な仕事だが、昇格などあるはずもない。その上責任だけは一人前に存在し、先日一匹ヤサラクダが逃げ出したことで一人ミリオンズに降格されている。

 ふてくされながらアラバスタ王国が堕ちるのを待っていたその時、彼らの前に現れたのは、死んだはずのMr.6だった。

 

「ラクダを使わせてくれ、と言えるような状況じゃないようだな」

 

 ビリオンズ達はそのからくりすべてを理解できるわけではない。

 だが、死んだはずのMr.6がのこのこ現れたことは、彼らにとって幸運以外の何物でもない。

 Mr.7以外のフロンティアエージェント達はすでに壊滅状態だと聞く、近々大幅な昇格劇があることだろう。

 誰かが抹殺に失敗したMr.6の首を手にすれば、エージェントへの道は確定されたようなものだ。

 

「ラクダを使う必要はねぇぜェ」

 

 相手は五人、こちらは十数人。オフィサーエージェントならともかく、フロンティアエージェントなら十分に勝ち目がある。

 

「お前らはここで死ぬんだからなあ!!!」

 

 彼らは我先にとMr.6に飛びかかった。

 

「助かるよ」と、ニーサンが呟く。

 

「向かってきてくれれば、躊躇なく出来るからな」

 

 低い姿勢で彼らの前に立ちふさがったのは、ミス・サーズデーだった。

 

「どけ女ぁ!!!」

 

 彼女は良業物『ニコニコ蝶羽華流』を構える。

 

「『ウチ流抜刀術奥義』」

 

 鯉口を切った。

 

七天(しちてん)抜刀(ばっとう)!!!』

 次の瞬間、彼女もろとも襲いかかろうとしていたビリオンズ達が斬られていた。その数七人。

 目に見えぬ早業だ、ビリオンズ達は彼女が刀をぎこちなく抜いたようにしか見えてない。

 

 普通より短いその刀を重そうに構える彼女がそれをしたとはとても思えないが、結果としてはビリオンズが倒れている。

 彼女は東の海(イーストブルー)に存在するある抜刀術流派が生んだ天才であった。

 

 ビリオンズ達は一瞬それに戸惑い、足を止めていた。

 それを眺めながら「ふふん」と、ミス・サーズデーは悠々と刀を鞘に戻そうとする。

 

 だが、短絡さというものは恐ろしいものであって、ビリオンズの一人が恐怖を振り払うように大声を上げながらサーベルを振り上げた。

 狙いはミス・サーズデーだ。

 

「ちょ!!!」

 

 彼女は慌てて刀を頭上に構えてそれをガードする。だが、すぐさま力負けして膝を折り、姿勢を低くした。とてもではないが剣の達人には見えず、見た目相応の光景にしか見えない。

 

「ちょ、ちょっとまって!!! 刀納めさせて!!!」

 

 天才的な抜刀術を若くしてマスターした彼女の弱点、それは才能を抜刀術にのみ発揮しすぎたせいで『刀を抜いた後』がてんで話にならない素人以下なところだった。

 勿論ビリオンズ達がそこまで複雑な事情を理解できるはずがないが、とにかく何か力で押せてしまいそうだと思うと精神的にも優位になるというもの。

 ついにミス・サーズデーは地面に寝そべるような体勢になってしまった。

 その勢いに他のビリオンズ達も乗ろうとしていたとき、何者かが地面を蹴る音。

 

 見れば、魚人が空を飛んでいた。

 

「『海老追い』」

 

 狙いはミス・サーズデーを押し込んでいる剣士。

 

『スーパーマンパンチ!!!』

 ステップによって一気に距離を詰めながら放たれるパンチは、当然モンハナシャコの魚人であるシャッパのパンチ力を増加させるものであり。

 それをもろに顔面に喰らったビリオンズは、鼻から血を吹き出しながら気の毒なくらい吹き飛んだ。

 

 その威力にやはり戸惑うビリオンズ達から仲間を守るように立ちふさがりながら、シャッパはステップを踏む。

 

「多少足場が悪いが……お前らなら手打ちでも問題ないじゃろうのお」

 

 そのスキに、やたらときれいな音を立てながらミス・サーズデーが納刀する。

 

「サンキューエビちゃん!」

「シャコじゃ」

 

 腰の引けるビリオンズ達に追い打ちをかけるように、今度は遠距離からの攻撃。

 

『地獄特訓スパイク!!!』

 石が、瓦礫が、ミス・マザーズデイのスパイクによって砲弾となって彼らを襲った。

 

 もはや彼らに勝つすべはない、近距離では抜刀術と拳闘術、遠距離からは排球術。

 ビリオンズは一人、また一人と倒れていき、最後は無謀にもシャッパに喧嘩を挑んだものが『栄螺割りストレート』の前に沈んだ。

 

「よし」と、パイプ椅子を構えていたニーサンが言う。

 

「時間がねえ、さっさと乗り込むぞ」

 

 彼らがその直ぐ側にあったラクダ達に目をやると、すでにミス・チューズデーがラクダと車の連結を終え、ニコニコと笑いながら、彼らに手招きをしていた。

 

 

 

 

 

 戦いを嘆く者。

 戦う者。

 戦いを煽る者たち。

 その真実を知り、阻止する者たち。

 

 そして、全てを知りながら、その結末を見守る決意をした者たち。

 

 それぞれの想いは行き違い、首都『アルバーナ』で衝突する。




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特にワンピース二次は初めての試みなので評価とアドバイスを頂けると幸いです

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