Mr.6のお仕事   作:rairaibou(風)

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2.ロクなものがない島

 秘密犯罪結社バロックワークス所有の輸送船は、ログポースにおいてアラバスタ王国の存在するサンディ島の一つ手前、通称『なにもない島』へと到着しようとしていた。

 なにもない島、はその名の通り何もない島だ。山もなければ、森もなければ、川もない。ただただ波によって流れ着いた砂利と石ころ、そしてそのような環境でも生き抜くことができる強靭な生態を持った数種類の植物しか無い、そんな島だ。

 

「Mr.6様!」

 

 見張りの男が叫んだ。甲板に置かれたパイプ椅子に座っていたMr.6がそれに答える。

 

「どうした!?」

「島のハズレに正体不明の帆船が確認できます! 我社のものではありません!」

「なんだと?」

 

 Mr.6は首をひねった。『何もない島』にバロックワークス以外の船があることなんて、それまでは無かったことなのだ。

 何もない島、何の価値もない島。それは裏を返せば、誰も近寄りたがらない島となる。

『ある物資』を秘密裏にサンディ島に供給したいバロックワークスにとって、その『何の価値もない島』は絶好の隠れ蓑だった。故に彼ら輸送部隊は、『ある物資』を一定数その島に保管していた。そのために簡素ではあるが港すら作ったほどである。

 

「カーチャン知ってるよ」

 

 その声に反応するように甲板に出てきたミス・マザーズデイが、Mr.6に新聞をパスした。

 

「おそらくはそれのことだろうね」

 

 小さな記事だった、Mr.6がそれを指差してなぞりながら音読する。

 

「えー『アラバスタ王国に海賊現れるも、王下七武海クロコダイルが討伐』か……なるほどね」

 

 彼は目を凝らしてその記事をよく読む。

 

「船長は2200万ベリーか、悪くない額だがこっちはクロコダイルに取られちまってる……海賊団の損傷激しく、被害は甚大。か」

 

 彼は懐からクリップボードを取り出した。懸賞金の束をペラペラとめくり、ミス・マザーズデイに問う。

 

「今この船には何人いる?」

「五十人くらいだね」

 

『物資』を運ぶ船だ、人手はあればあるほど良い。

 

 うーん、とMr.6は悩んだ。

 

「どう思う」

「カーチャンはあんたのやりたいようにやるべきだと思うよ」

「そうか」

 

 彼はパイプ椅子から立ち上がって叫ぶ。

 

「この船はこのまま予定通り『何もない島』に上陸する! 全員戦闘態勢をとっておけ!」

 

 ミリオンズ達はそれに声を上げて応えた。

 

 

 

 

 意外にも、彼ら輸送船は特に妨害なく港に着港することが出来た。

 だが、その帆船が善良な市民が乗り込んだものではないことは、港の惨状が物語っている。

 性別に関係なく、数々の死体がそこに転がっていた。中には彼ら輸送船の乗組員にとって見知った顔もある。

 その惨状のど真ん中にパイプ椅子を置きながら、Mr.6は言った。

 

「こりゃまたロクでもねえことをやってくれたもんだ。うちの社員は全滅、ここを任せてたMr.12とミス・サタデーもこのとおりだ」

「カーチャン悲しいよ。いい子たちだったのにねえ」

 

 一瞬、彼らは目線を二つの死体に向けた。フロンティアエージェントにしてこの島の責任者である二人は、もはや生きてはいないだろう。彼らをスカウトした身であるMr.6は、少し胸にざわつくものを感じた。

 

 そして彼らは、自らと対立する相手に目を向ける。

 彼らの対面には、一人の大男を中心とした集団が集結していた。その数は三十ほどだが、様々な武器を手にする彼らがこの惨状の制作責任者達であることは明確だった。

 

「2200万ベリーの大海賊『火事場』のガリーシャのやることじゃねえな」

 

 彼の挑発的な物言いに、大男は余裕なく返した。

 

「船長は死んださ」

「だろうな、新聞に書いてあったよ。だが、副船長の『追い剥ぎ』のガモスはまだ捕まってないらしい」

「カーチャン知ってるよ、あいつこそが『追い剥ぎ』なんだ。懸賞金は1200万ベリーなんだろう? カーチャンは知ってるよ」

 

「いかにも」とガモスはサーベルを抜きながら答える。

 

「そしておれ様の本職は『殺戮』と『略奪』ってことよ……クロコダイルにやられちまったときにはどうなるかと思ったが、おれ達にもまだまだ運はあるらしい」

 

 ガモスは倉庫をチラリとみやりながら続ける。

 

「こんなところで『ダンスパウダー』の在庫と出会えるとはな、大方砂漠の王が使うもんなんだろうが。あれだけあれば当分食うには困らねえだろう。おあつらえ向きに、お前らが船と一緒にやってきやがった」

 

『ダンスパウダー』とは、空に打ち上げることで人工的に雨雲を作り出すことのできる化学物質である。あまりにも社会に及ぼす影響が大きいために世界政府によって製造が禁止されているものではあるが、その有用性から今でも密造が絶えない魔法の粉だ。原材料が銀であることもあり非常に高価に取引されており、バロックワークス社がこの『何もない島』に貯蓄しているモノそのものでもある。

 

 しかし、Mr.6はそれに鼻で笑うことで答えた。

 

「何がおかしい?」と、ガモスが不満げに言う。

 ガモスはMr.6を含めるこの集団にムカついていた。

 普通、自分たちのようなならず者が武器とともに出迎えれば、大抵の一般人というものは恐れおののくものだ。『ダンスパウダー』のような密造品を扱うようなものとて、仕事仲間が虐殺されているこの状況に心ひとつ乱すことのない彼らは不気味だった。

 

「いや、ロクでもねえなと思ってさ」

 

 背もたれに体重を預けてパイプ椅子をカタンカタンと揺らしながらMr.6が続ける。

 

「何もかもがその場その場の思いつきばかりでさ。あんたらバカ二人に振り回される部下の皆さんの事を思うと悲しくて仕方がないよ」

 

 その言葉に、ガモスの後ろについた何人かの構成員の表情が歪んだことを確認しながら更に続ける。

 

「そもそもよ、ちょっとばかし情報能力というものがあればアラバスタにクロコダイルがいることくらいすぐに分かるだろう。お前らの海賊団は事前に情報を探ることすらしなかったのか? まあ、しなかったんだろうな。その結果がこれだろ? 新聞すらとってねえのか?」

 

 更に続ける。

 

「挙げ句今度はいきあたりばったりの儲け話に目を輝かせてやがる。まあ我社の同僚たちを軒並み倒したのは評価しよう。そうそうできるもんじゃない。だが、アラバスタからここに逃げるのが精々な連中が、どうやってダンスパウダーを売りさばく気なんだ? 船長がいたときならばともかく、今のお前らなんて弱小海賊にも劣る組織力なんだぞ?」

 

 彼が更にその先を続けようとした時、ガモスは左手を振って「構えろ」と部下たちに指示した。

 ガモスのそばに立っていた男たちが銃とバズーカ砲を構えた、狙いは当然Mr.6だ。

 ガモスが言う。

 

「お前らが哀れなほどに命乞いをすれば、話し合いで終わらせてやっても良かったが、残念ながらそうはいかねえようだな。この稼業は舐められたら終わりなんだよ」

「そうとも、それはよく分かる。おれがお前を舐めているように、お前も我社を舐めたのさ。だからーー」

「撃て!」

 

 ガモスの号令が終わるよりも先に、Mr.6に向けて銃弾が放たれる。

 だが、それよりも先に動き、Mr.6の前に立った人間が一人。

 

『あの思い出のレシーブ!!!』

 

 次の瞬間、不思議なことが起こった。

 Mr.6に向けられたはずの銃弾の数々が、爆風の向こう側から『跳ね返ってきたように』進路を変え、ガモスの部下たちを襲ったのである。

 当然、悲鳴に倒れるのはガモスの部下たちだ。対照的に、Mr.6の陣営には傷一つなく、彼の前に立ってガモスたちを睨みつける美女が一人。

 

「次同じようなことしたらカーチャン許さないからね」

 

 その美女、ミス・マザーズデイは腰を低く落とした体勢を維持しながら言った。

 

「『悪魔の実』の能力者か……!」

 

 部下たちに一瞬目をやりながらガモスが絞り出したように言った。アラバスタで『スナスナの実』の能力者であるクロコダイルに襲われたばかりである。そのような発想を得ても不思議ではない。『悪魔の実』とは、海に嫌われるリスクと引き換えに超人的な能力を得ることのできる禁断の果実だ。

 

 だが、Mr.6は首を振ってそれを否定する。

 

「発想が貧相でいけないね。彼女こそが『東の海の魔女』、超人的な身体能力と天才的なバレーボールテクニックを鍛え上げたスーパーアスリートさ。彼女にかかればすべての攻撃は『レシーブ』される……鉛玉もな」

 

 スキを狙うように、部下の一人が再びバズーカ砲を発射した。

 だが、やはり結果は同じだった。ミス・マザーズデイの超人的スプリントと他の追随を許さないレシーブテクニックは、その砲弾をそのままお返しする。

 

「カーチャン許さないって言ったよね!?」

 

 そのままミス・マザーズデイは足元の石ころを真上に蹴り上げた。

 

『地獄特訓スパイク!』

 彼女は一つ飛び上がってからそれを『スパイク』した。正確無比にコントロールされたそれは銃を構えていたガモスの部下の顔面に直撃して気を失わせる。

 

「勿論『スパイク』も世界レベルさ」

 

「さて」と、彼は動きを止めたガモスの部下たちに向かって言う。

 

「大体戦力差はわかってもらったと思う。その上で取引をしたい、おれとしても君たちをこのまま死なせるのは心苦しい。君たちは愚鈍な長にそそのかされた被害者なのだからね。そこで提案なのだが、今ここで武器を捨ててくれたら、我社の社員になれるようボスに掛け合って見ようと思う。まあ、初めはしたっぱだが、食うには困らんさ。こんな風にならない限りはね」

 

「何を馬鹿なことを」と、ガモスはその提案に顔を真赤にする。

 

「てめえら! たかが女に何びびってやがる! ここで武器を捨てるような奴はおれが直々に八つ裂きにしてやる!」

 

「ああ、そうだ」と、Mr.6はガモスを指差して続ける。

 

「お前は駄目だ。賞金首だからな、ここが最後だ」

 

 Mr.6の挑発に、ガモスはついに怒り狂った。

 彼はサーベルを振りかざしながら言う。

 

「その女がいくら『レシーブ』できると言っても……刃物は無理だろう」

「へえ、意外と頭いいんだね」

 

 ガモスは地面を蹴った。

 

「下がってな」と、Mr.6はパイプ椅子を折りたたみながらミス・マザーズデイに言った。

 

 そして、そのパイプ椅子を迫りくるガモスに向かって『パス』した。

 当然それを振り回されると思っていた彼はそれを『受け取って』しまう。

 視界が塞がれていることに気づいた頃にはもう遅かった。

 

『ロック&ドロップキック!!!』

 Mr.6はガモスに飛び込み、折りたたまれたパイプ椅子ごと両足で蹴りぬく。

 

 不意な攻撃にうめき声を上げながらもなんとか倒れることはしなかったガモスは、視界も定まらぬまま闇雲にサーベルを突いたが、それは空を切る。

 そして、それが命取り。

 彼が視界を取り戻したときに見たのは、パイプ椅子の輪の中に差し込まれているサーベルと右手だった。

 Mr.6はパイプ椅子を捻って一瞬だけガモスの右手を封じた。

 

『ロック&ブラックマス!!!』

 ガモスの死角にして拘束によって防御の取れる右下方から、Mr.6の後ろ回し蹴りが顎を撃ち抜く。

 

 飛びそうになる意識をこらえながら、それでもガモスは右腕のサーベルを離すことはなく、素早くそれをパイプ椅子から引き抜くと、そのままMr.6に向かって薙ぎ払う。

 流石にその攻撃もこらえることは予想外だったのだろうか、彼はそれをかわしきらない。

 それはMr.6の首を捉えたように見えた。

 だが、ガモスの腕にその感触はない。

 

「やったと思ったか?」

 

 舞い上がるジャケットを片手で押さえながら、Mr.6が笑う。

 ガモスは、今目の前で起こった光景が信じられなかった。

 サーベルが彼の首を捉えようとしたその時、彼は目にも留まらぬ速さでコマのように回転し、その斬撃を受け流したのだ。

 

「最近のロックンローラーはな、踊りも出来なきゃ売れねーんだ」

 

 再び振り下ろされたサーベルを彼はやはり回転してかわす。

 焦点の定まらぬ目から放たれる斬撃に切れはない。

 彼はそのままガモスの右腕に絡みつく。

 

「関節もらうぜ」

 

『キムラロック!』

 そのまま関節を決め、力を込める。

 ガモスのような大男でも、効率よく関節を壊すために考えられたその技には逆らえない。

 木材が折れるような音が港に響き、彼はついにサーベルを離した。

 

 そのタイミングで、Mr.6の頬を衝撃が掠める。

 彼に銃を向けた構成員を、ミス・マザーズデイの『スパイク』が撃ち抜いたのだ。

 

「カーチャンに任せときな!」

「援護どうも!」

 

 彼はサーベルを放り投げ、同じく自分を攻撃しようとしていた構成員を倒す。

 更に彼は右肩を押さえるガモスに走り込む。

 ガモスもただでそれを見ているわけではない、まだ動く左腕でMr.6を迎撃するが、それを読んでいた彼はそれをかわして背後に回り込むと、その巨体を抱えあげる。

 

「ミス・マザーズデイ!」

「はいよ!」

 

 彼の掛け声にミス・マザーズデイは素早く反応した。すぐさま『レシーブ』の体勢をとってMr.6を迎える。

 そしてガモスを抱えたままジャンプした彼をはるか上空に『レシーブ』する。

 ちょうど打ち上げられるように、彼らは回転しながら舞う。

 

「お前ら、なんなんだ!」

 

 風を感じながら、ガモスが呟いた。もはや敗北は覚悟していたようだった。

 同じく風を感じながら、Mr.6が答える。

 

「おれはよ、ロックンローラーで、会社員で、賞金稼ぎだよ」

 

『スカイハイーー』

 重力に負けながら、彼らは落下を始める。

 来るであろう衝撃を恐れながら、ガモスは叫び声を上げていた。その様子を、武器を捨てた構成員達は眺めている。

『Deep6!』

 回転しながら、バックドロップのようにMr.6はガモスを地面に叩きつけた。

 

 地震のような衝撃と、鈍く大きい音。

 地面はひび割れ、その中心にガモスがいた。

 Mr.6はジャケットを払いながら起き上がった。回転によって落下の衝撃を軽減していた彼は無傷だった。

 

 彼はピクリとも動かないガモスをみやりながら言う。

 

「腐っても1200万ベリーの賞金首だ。この程度で死ぬってこたあねえだろう。ふん縛っときな」

 

 ミリオンズたちがそれに向かうのを確認してから今度はミス・マザーズデイを見やる。

 

「援護助かった。どうもタイマンしか出来ないのが良くないな」

「困ったときはお互い様だよ、カーチャンに任せときな」

 

 親指を立てる彼女に一つ笑いかけてから「さて」と、今度は武器を捨てた構成員達を見る。

 構成員達はその視線に体をビクつかせた。たった今、彼らの中で最も強い人間が手玉に取られたのを見たばかり、生殺与奪権は、明らかに向う側にあるのだ。

 しかし、Mr.6は彼らに笑顔を見せた。

 

「入社おめでとう。今日から君たちの同僚となるMr.6だ。詳しいことはこれから説明しよう」

 

 

 

 

 

 

『報告書:『追い剥ぎ』のガモスによる『何もない島』襲撃について』

 

 『本日〇〇時、ダンスパウダーの輸送任務の際に、海賊『追い剥ぎ』のガモスによって『何もない島』の保管庫が襲撃されている事を確認しました。ダンスパウダーに被害はありませんでしたが、Mr.12、ミス・サタデーを含める管理部隊が全員死亡、至急人材の派遣を願います。

 また、海賊『追い剥ぎ』のガモスとはその場で交戦し拘束に成功。1200万ベリーの賞金首であったのでそのままミリオンズとともに海軍に向かわせました。

 海賊『追い剥ぎ』の構成員を数名勧誘に成功しました。現状は襲撃によって不足している人材の補填に当てるつもりで考えております。』

 

 Mr.6

 ミス・マザーズデイ




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今回はバトルを書いたんですが、この表現方法が良いのかどうかすごく気になってます

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