感想に関しては、返しにくいものに関しては返さないことも出てくると思うので、ご容赦ください。
その巨大な男は、その国のすべてを手に入れようとしていたその男は、大の字になって気を失っていた。
かつての英雄が叩きつけられた地面はひび割れ、彼が落ちた高さを、受けた衝撃を如実に物語っている。
王下七武海、サー・クロコダイルは、もし彼に意識があれば自害を考えてしまうほどに屈辱的な姿を、彼を慕っていた民衆の前にさらしていた。
一人の男が、彼の傍にいた。彼はパイプ椅子に腰掛け、白日の下に晒された彼の顔を覗き込んでいる。
民衆の殆どは、彼に背を向けていた。遅れてこの戦場に現れたアラバスタ王国護衛隊長、イガラムがこの国に起きたすべてを説明するのを、怯え、恐怖しながらも心待ちにしている。彼の言葉は、この悪夢を葬るレクイエムとなるだろう。
だが、その中でも、イガラムの言葉よりも、気絶した王下七武海に近づくその男の方に興味があった人々は、その男の風貌をみて首をひねった。誰もが、その男をどこかで見たことがあるような気がした、だが、その情報が共有されることがないから、彼らはその男が誰なのか確信を持てないでいる。
その男の様子をもっとよく確認しようとも、その男を囲むように立つ女と魚人が、それを邪魔していた。
「社長……」
その男に対する恐怖が、完全になくなっているわけではなかった。
だが、しとどに雨に濡れながら意識を失っているその男は、気の毒なほどに無力だろう。
なるほど、と、彼は思った。
だからこの男は、この国から雨を奪おうとしていたのかと。
ニーサンは、秘密犯罪結社バロックワークス社長、Mr.0ことサー・クロコダイルに向かって言った。
「おれ達は、負けました」
それは、厳密に言えば彼が言うべき言葉ではなかった。彼はすでにその会社の人間ではなかったのだから。
だが、だからといって彼の『罪』が『思想』が無かったことになるわけではない。最後の最後、僅かなすれ違いから違う道を歩んだだけで、彼らは基本的には『同志』であった。尤も、そう称されることは、クロコダイルからすれば不本意であろうが。
だからこそ、彼はその報告を行わなければならなかった。一つの『罪』と『思想』が敗北し、一つの『正義』が勝利したことを、たとえクロコダイルに届くことはなくとも、自分自身に届けなければならなかった。
「いい夢、見させてもらいました」
彼は立ち上がり、パイプ椅子を折りたたむ。
そして、彼は仲間たちを見やってから、その場を後にする。
最後に、背中越しに彼は言った。
「また、地獄で会いましょう」
☆
割れた岩盤。
崩壊した建築物。
気絶している男。
それを背負う国王。
それだけの情報があれば、一体クロコダイルに何が起きたのかということはだいたい予測ができる。尤も、それは常識の範囲内ではとても予測できる結果ではなかったが、すでにニーサンは、自らの常識というものをだいぶ疑い始めていた。
「その男が」
ニーサンはコブラに背負われている若者を指差して続ける。
「クロコダイルを倒したんだな?」
コブラは「いかにも」と、ニーサン達を警戒しながら答える。
彼らが少なくともバロックワークスの副社長、ミス・オールサンデーと顔見知りであるという情報は、警戒するのに十分すぎるほどのものだった。
だが、コブラは腹も決めている、相手は五人、今更自分に抵抗できるような体力は残っていない。
一人娘が健在であったことをせめてもの救いだと思う覚悟はできていた。
「そうか……とんでもないことを、やっちまったもんだな」
ニーサンは雨に濡れた髪をかきあげてもう一つ問う。
「この国は、どうなる?」
枯れたオアシス、失った命、破壊された建造物。
失ったものはあまりにも大きく、すぐさま変わるものではない。
その問いは、ある意味で、それに関わったニーサンだからこそ真っ先に頭に浮かぶものだっただろう。
だが、それは同時に、物事を起こした人間としては無責任極まりない、侮蔑に値するような質問でもあった。
しかし、コブラはその質問に激昂すること無く答える。
「国民に希望がある限り……この国は枯れぬ……そして、その希望を潰えないようにするのが、我々の役割なのだ」
その言葉は、国というものに懐疑的なニーサンに大きな衝撃を与えるものだった。
深い、深い感動があった。もし自分が、もっと前にこの男と出会うことができていれば、この男のような王と出会うことができていれば、もっと違う『思想』を持っていたかもしれぬとすら思った。
「なるほどね」と、ニーサンはその感動を悟られぬように言った。
「だから王女様は諦めなかったわけか」
どうも、と、簡単な礼を言って、彼はコブラ王から離れようとした。
だがコブラは彼に問うた。
「君は一体……何者なのかね?」
状況だけを考えれば、彼が自分達の敵側、バロックワークスの人間であることは疑いようがない。
だが、それにしては彼には毒気があまりにも無いように思えた。
ニーサンは振り返って答える。
「負け犬ですよ、それも、かなり無様なね」
☆
ミス・オールサンデーこと、ニコ・ロビンは、クロコダイルに貫かれた腹を押さえながら、なんとか壁伝いに歩こうとしていた。
彼女には、強い怒りがあった。
生かされた、という怒りが。
彼女は死のうとしていた。否、厳密に言えば、死んでもいいと思っていた。自死を選ぶには彼女の本当の立場は重すぎたし、生きることを選ぶにも、彼女の本当の立場は重すぎた。
降り続く雨が、彼女の髪を濡らしている。それが腹の傷に届き、痛みもある。
その時だ、ニーサン達が彼女の前に現れたのは。
「……何のようかしら」
口端から血をにじませながら、彼女は表面上彼らに凄んでみせた。
だが、その威嚇がすべて真実というわけでもない。
心のどこかには、ついに死ねるのではないかという希望もあった、恨みは売っているはずだ。格下に殺されるのはしゃくではあるが、仕方がないとも考えられる。
「そう凄むな」と、ニーサンは彼女の腹部から目をそらしながら言った。
「邪魔はしない約束だろう?」
彼は更に続ける。
「手当してやれ」
近づいてくるミス・チューズデーに、彼女は「近寄らないで!」と凄んだ。
彼女は一瞬それにビクリと反応して足を止めるも、再び歩んで彼女の傷を確認する。
もはやニコ・ロビンに、それに抗う体力は残ってはいなかった。彼女はなされるがままに、その手当てを受けるほかない。
「医者じゃないから治療ができるわけじゃないが……簡単な手当てなら出来る」
「……何のつもり?」
「おれの仲間が気になることを言っていたからな……まあ、確認しに来ただけだ」
ミス・チューズデーは手早く消毒すると、すぐに適切な処置を開始する。
それは多少痛むはずではあったが、すでにロビンはその感覚が麻痺していた。
「どうして……私を生かすの!? このままなら、私は死ぬことが出来たのに!」
「……どうしてと言われりゃあ……おれのエゴ以外の何物でもない」
「カーチャンのエゴでもあるよ」
彼は睨みつけるロビンと目を合わせながら続ける。
「おれ達も死ぬつもりでいた……だが、王女様が諦めなかったせいで死に損なった……道連れというわけじゃないが、知った人間が目の前で死なれるのは……気分が良くない。まあ、運が悪かったと思って諦めてくれ」
「それで……どうするつもり?」
「そんな事は考えてない。ただ、逃げることを求めるなら、付き合ってやってもいいと思ってる」
はん、と、ロビンはその提案を鼻で笑った。
「あなた達じゃあ、心もとなすぎるわね」
ある事情から八歳の頃から世界から逃げ続けてきた女である、頼るべき木への嗅覚は鋭い。
だが、ニーサンはそれに同意した。
「そうだな、おれもそう思うよ。だが……すでにアラバスタには海軍が入り込んでる。逃げるのはそう簡単なことじゃない」
更に彼は続ける。
「海軍が間抜けなら『麦わらのルフィ』の船がまだエルマルの港にあるはずだ……頼るなら丁度いいだろう」
ロビンはそれには反応を返さなかった、否定しないところを見ると、あながち悪い選択ではないと考えているのかもしれない。
「貴方は、どうするつもりなのかしら?」
「さあな……それより自分の心配をすることだ。手当てはするが、治せるわけじゃない」
「別にこのまま死んでも良いのだけれど」
「まあ、そう言うな……アルバーナを東から抜けりゃあ、何頭かのヤサラクダがいる。後は運次第だろう……おれ達に運が向いているとは思えんがな」
☆
オカマの頬に乾いて跡をつけていた血を、雨は他の人間にもそうするように、地面に滴らせていた。
Mr.2、ボン・クレーは、痛む体にむち打ちながら、なんとか首都アルバーナを後にしようと、壁を這うようにゆっくりと移動していた。
逃げる理由しか無かった。
そもそも反乱は終わり、国が手に入る様子は微塵も見えない。ユートピア作戦は失敗した可能性が濃厚だ。
もし仮に、今から何らかの逆転が起きて作戦が成功したとしても、新たに作られた理想国家に、自らの席はないだろう。
Mr.2は抹殺対象であった王女ビビを取り逃がし、さらに抹殺対象であった『麦わら』の一味の一人に、言い訳の出来ない敗北を喫したのだから。
この組織は失敗を許さない。まだ組織が存在しているのならば、必ずや追手がペナルティを与えに来るだろう。
自分だって、そうしてきたのだから。
だから彼は、「ボン・クレーちゃん!」と心配そうに歩み寄ってくるミス・マザーズデイに戦闘態勢を取った。
彼女だけではない、その背後にいるフロンティアエージェント、Mr.6ことニーサン・ガロックも、その背後にいるエージェントたちにも同様だった。
彼が死んだことも知っているし、それがこの組織の指示によるものだろうということも、Mr.4ペアから聞いている。だからこそ、彼らを『仲間』とみなすことが出来ないのだ。
「あちしに何のよゥーなのよーーーーう!!!」
体勢こそは彼の十八番である『オカマ拳法』であったが、それがただの虚勢であることは、ハッタリ屋であるニーサンには痛いほどによくわかっていた。おそらく今の彼を殺すのに大した苦労はしないだろう。
だが、ニーサン達の目的はそうではない。
「Mr.2、どこまで把握しているかはわからんが、とにかく、おれ達は負けた。すでにクロコダイルは海軍に拘束され、国民はこの国に何が起きていたのかを概ね理解している」
Mr.2はそれに頭を垂れた。だいたいそんなところであろうとは思っていたが、いざそれが確定的な真実とわかれば、ショックは大きい。
「恐らく数時間後には海軍の後続がアルバーナにたどり着く……そうなれば首都は封鎖され、恐らくアラバスタそのものも同様になるだろう」
更に彼は続ける。
「おれには善良な表の顔がある。少なくともあんたが一人で行動するよりかは、この国を抜けることが出来る可能性は高い」
「……あちしを助けてくれるってとゥ?」
「そういう事だ」
「……どうして?」
ニーサン達に敵意がないと分かり、彼は痛みに身を任せて地面に手をついた。
「大丈夫かい?」
「ちょっと……大丈夫じゃナイわねィ」
彼は心配そうに肩を抱くミス・マザーズデイの手を受け入れながら続けて問う。
「あちしは賞金首……それに、あんたらを抹殺しようとしていた『オフィサーエージェント』側の人間なのよゥ? あんたらからすればあちし達は『敵』のはずじゃナイ……」
その理屈は正しいように思える。ここでニーサン達が賞金首であるMr.2を抱え込むことはリスクでしか無いし、そもそも、状況的にニーサンがオフィサーエージェントを匿う理由もないように見えた。
だが、ニーサンは首を振って答える。
「いいや……確かにおれ達は会社から命を狙われた……だが、それはあくまでも社長の都合。おれは、少なくともあんたはおれ達と同じ目線で、同じ夢を見ていた『仲間』だと思っている」
Mr.2にとって、その『仲間』という単語は衝撃的であった。生き馬の目を抜くようなこの世界、そのような感覚を持ってどうする。
確かに、彼らとは『理想国家』を語り合った仲でもある、だが、だからといって、簡単に心を許して良いわけじゃない。
この男が会社から狙われるわけだ、ニーサンは本質的な部分が優しすぎる。
「馬鹿ねィ」と、Mr.2は立ち上がりながら言った。
「そんなに甘っちょろいこと言ってると……この世界じゃ生き残れないわよゥ……」
「あんたから見ても悪い話じゃないと思ったんだが……」
「確かにそうねィ、だけど、あちしには今もあちしの帰りを待つ部下たちがいるのよゥ……一人で逃げるわけにはいかないわ」
「そうか……それなら、引き止めて悪かった」
自分がニーサン陣営に加われば、確実に彼らは危険な身になる。
そして、彼らにその火の粉を振り払えるだけの武力は、今のところは贔屓目に見てもないだろう。
立ち去ろうとするMr.2に、ニーサンが「待て」と声をかける。
「これを、持っていってくれ」
差し出されたのは、服だった。
「再三言ってきたことだが……あんたのその服は目立ちすぎる。サイズまで気にする余裕はなかったが、それはそっちでなんとかしてくれ」
差し出された服を、Mr.2は無言で受け取る。
「ボン・クレーちゃん……」
通り過ぎようとするMr.2に、ニーサンは更に言った。
「……エルマルに『麦わら』の船がある。海軍と正面からやり合うつもりなら取り込んだほうが良い……思わぬ『伏兵』もいるかも知れないしな」
「わかったわ」と、Mr.2は彼らに背を向け、渡された服を胸に抱きながら呟いた。
頬を流れる温かいものは、雨であるのだと自らに言い聞かせていた。
Mr.2の姿が見えなくなってから、ニーサンは仲間たちに言った。
「さあ、それじゃあ最後の大仕事だ。ついてきてくれるな?」
もはや彼は返答を待たなかった。
☆
ビリオンズ達にとって、その状況は、地獄に叩き落された自分達への蜘蛛の糸のようであった。
目の前には、地面に倒れている『麦わら』の一味。雨に濡れても目覚めることのない彼らは、つい先程まで自分達相手に暴れまわっていた人間だとは思えない。
まだ海軍はこれに気づいてはいなかった。ならば、三千万ベリーが目の前に転がっているのと同義だ。
ただ一つ厄介なことは、自分達と彼らの間に、なぜかMr.6ペアを含むフロンティアエージェントと、魚人が一匹いることだった。
「お前ら」
ニーサンはビリオンズ達に向かって言った。
「おれ達は負けた……もうすぐ海軍がこの町を包囲するだろうから……さっさと逃げろ」
それは衝撃的な情報だが、事実であった。
だが、ビリオンズ達はそれを信じられない。確かに反乱自体は止まったが、あの厄介な『英雄』クロコダイルはどうやら誰かにやられたらしい、戦力は大きく削れ、会社のひと押しがあればまだこの国を乗っ取ることが出来ると信じている。
それに、彼らにはMr.6ペアを信じられない理由もある。
「今更そんな事信用できるはずがねえだろうMr.6さんよお……あんたらが会社から『抹殺』され、しかも俺たちを狙い打ちしてたことはもう知られ回ってるんだ」
確かに、ニーサンの行動を表面的に捉えればそう見えても仕方がない。
だが、彼らにとってMr.6を信じぬ理由など何でも良いのだ、今の彼らを突き動かしているものは『麦わら』というわかりやすい首なのだから。自分達のその欲望を邪魔するのであれば、相手が誰であれ理由づけて反抗するだろう、しかも相手は『無能力者』だ。
ビリオンズ達はそれぞれの武器を構えた。相手は五人で、こちらは五十を越える。先の反乱で生き残ったビリオンズの殆どがそれに集中していた。
「おれ達の邪魔をするなら、死んでもらおうか『無能力者』!!!」
ニーサン陣営もそれに身構える。ハナからその説得が成功するとは誰も思ってはいなかった。
彼らに『麦わら』を守る義理はない。
しかし、ニーサンは『麦わら』を守らなければならないという使命感を感じていた。
彼らは『勝利者』。
王下七武海、サー・クロコダイルと、自分達工作員の徹底的な策略から、この国を救った『英雄』だ。
自分達は彼らに感謝すべきなのだ。
彼らのおかげで自分達はこの国を奪わずに済んだのだから。
後に引けなくなった自分の目の前から、血に濡れた目標を奪い去ってくれたのが彼らなのだから。
それに、彼らのような『英雄』が、こんな下っ端共の手にかかって良いはずがない。
数の差は歴然だ、必ず勝てるとは断言が出来ない。
だが、ここで引いたら一生の後悔が残る。
『ロックンローラー』ニーサン・ガロックは、全力でハッタリをかました。
「『格』の違いもわからねえかカス共!!!」
向かい来る愚か者達に向かって、彼はパイプ椅子を構える。
その時、不思議なことが起こった。
自分達に向かってきていたはずのビリオン達が、急に力の抜けたように膝から崩れ落ちたのである。
彼らは泡を吹き、白目を剥き、気絶していた。
それには、ニーサン達も驚いた。全く予定にはなかったことで、彼らは全力の肉弾戦を展開するつもりだったからだ。
彼らにわからぬことを、ビリオンズ達が理解できるはずもない。後方にいることでその謎の攻撃から逃れることが出来た数人のビリオンズは、その意味のわからぬ光景に怯え、次が飛んでくるよりも先に我先にと逃げ出したのだ。
同じくその光景に驚いていたニーサンは後ろを振り返って問う。
「なんかしたか?」
「いいや、カーチャン何もしてないよ」
「ワシもじゃ」
「あーしも」
「私も……です」
ニーサンは首をひねって再びその光景を見る。やはりそれは夢のような何かではなく、今たしかに起こった現実であるようだった。
彼は複雑な心境でパイプ椅子で空を切った。命をかけた戦いになると思っていたものが、こうも呆気なく、実感なく終わるとは思っていなかった。
だが、一つだけ言えるのは。
「よくわからんが。まだおれ達にも運はあるらしい」
ということだった。
キャラには色々暗い背景を考えたりはしているんですが、ミス・サーズデーだけはどうやっても過去が暗くなりません
感想、評価、批評お気軽にどうぞ
特にワンピース二次は初めての試みなので評価とアドバイスを頂けると幸いです、楽しみにしてます。評価も楽しみです