Mr.6のお仕事   作:rairaibou(風)

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感想に関しては、返しにくいものに関しては返さないことも出てくると思うので、ご容赦ください


20.彼らは六枚目

 奇跡の雨から数日が経ち。

 アラバスタ王国、首都アルバーナから見て東に位置する寂れた田舎町。

 田舎であろうと、王女の演説を聞く権利がないはずはない、首都アルバーナに繋がる電伝虫は、手際の良い国王軍によって街の中心部に設置されている。

 その中でもひときわ目立たぬある小屋の中に、彼らは潜んでいた。

 

「妙だな」

 

 まだ朝日が顔を出し切るより先に、ニーサンは朝刊をチェックしていた。

 背後からそれを覗き込むミス・サーズデーがそれに首をひねる。

 

「みょーって何がさ?」

「おれ達のことが全く記事になってねえ」

 

 彼は今日も一面を飾っているアラバスタ紛争の記事を指差しながら続ける。

 

「王女様にしろ、イガラムにしろ、おれがまだ生きていることは知っているというのに、その情報が触れられてすらいねえ」

「泳がされているんじゃないのかねえ。だけどカーチャンも全く嫌な予感がしないんだよねえ」

「しかし……オフィサーエージェントが拘束されているという記事はしっかり出ている」

 

 彼はその中の知った顔を眺めながら続ける。

 

「しかしまあ……Mr.1がダズ・ボーネスだとはねえ。とんでもねー会社だよ、アラバスタが無事に終わったのは、奇跡と言っちゃあ失礼だが、必然と言うにゃあ、都合が良すぎるな」

 

 ダズ・ボーネスといえば、西の海(ウエストブルー)でそれなりにあくどく生きていれば必ず耳にする名だ。西の海を支配する五大マフィアのボスたちが何よりも恐れ、そして何よりもその力を欲した『殺し屋』。

 裏の顔も真っ黒ならば、表の顔も真っ黒だったというのだから恐れ入る。

 

「海軍もすでにこの島を後にしとるんじゃろう?」

 

 コーヒーに砂糖をドバドバ入れながらシャッパが問うた。

 

「話ではそう聞いているな。まあどういう形であれ『クロコダイル』がいなくなったんだ。これまでのように海軍が全くノータッチというわけにはいかないだろう。いずれ支部も作られるかもしれないし、今日の立志式が終わり次第、この島を後にするのがベストだろうな」

「そうだねえ、カーチャンもそれが良いと思うよ。嫌な予感もしないしね」

「つーかその王女様のスピーチって聞く必要ある?」

 

 今日の昼十時、王女ビビの成長を祝う立志式が行われる。彼女の年齢からして本来ならば二年前に済ませておかなければならなかった行事ではあるが、彼女の謎の失踪によって行うことが出来ていなかったのである。尤も、ニーサン達はその失踪の真相を痛いほどよく知っているが。

 

「いるだろ、スピーチはいる」と、ニーサンは強い口調で言った。

 

「国を救った王女様の勝利宣言だぞ、敵であるおれ達が聞かなくてどうする」

「物は言いようだね。カーチャンわかってるよ、本当は最後にミス・ウェンズデーの声が聞きたいだけだろう?」

 

 ニヤニヤと笑いながら言うミス・マザーズデイにニーサンは何返そうとしたが、ちょうどその時、同じく新聞を読んでいたミス・チューズデーが「ひえぇぇぇぇぇ……」と、素っ頓狂な声を上げた。彼女はベッドの上に新聞を広げて読んでいたのだが、それに振り返ったニーサン達は、わかりやすく腰を抜かしている彼女を目の当たりにする。

 

「こ……こ……これを見てくださいィ……」

 

 彼女の震える手で差し出したそれには、満面の笑みがある。死ぬほど記憶された名『麦わらのルフィ』だ。

 今更何をそんなに驚くことがあるのかと、彼らはそれを受け取りながら思った。

 だが、そこに書かれている懸賞金を見て、ニーサン以外は一様に驚きの表情を見せる。

『麦わらのルフィ』は、懸賞金一億の賞金首となっていた。

 

「やっば……」

「一億とは……ワシの何試合分じゃ?」

「カーチャンこんな金額初めてみたよ」

 

 だが、ニーサンはやけに冷静にそれを眺めていた。更に彼はそれにもう一枚手配書が重なっていることにも気づいた。

 

「少なすぎるくらいだ。うちの会社の懸賞金合計(トータルバウンティ)がいくらだと思ってる。僅か八千百万の懸賞金で王下七武海入りした天才が率いる組織がほとんど手にしていた国を奪い返したんだ」

 

 彼はもう一枚の手配書を仲間たちに提示しながら続ける。

 

「その海賊団が合わせて一億六千万なはずがないだろう」

 

 もう一つの手配書『海賊狩りのゾロ』懸賞金六千万ベリー。

 

「六千万かあ」

 

 ミス・サーズデーはそれを見てため息を付いた。同じ剣士である、目の当たりにした格の差に思うところがあったのだろう。

 

「あまり急激に懸賞金を上げても妙な勘ぐりをされるだけだ、一応『クロコダイル』は海軍が仕留めた事になっているからな」

 

 海軍本部大佐『白猟のスモーカー』がクロコダイルを討ち取ったという報道がなされた時、ニーサン達は随分と驚いたものだが、よくよく考えれば海軍がまんまと王下七武海に出し抜かれ、しかもその危機を海賊に救われた等、天地がひっくり返ってもバレるわけにはいかないだろう。やはりこの世界は後ろ暗いのだと、ニーサンは安心したものだ。

 

「しかし、これはラッキーだな」と、ニーサンは続けた。

 

「ここまでの大物海賊団となれば、海軍も全力を出すより無い。おれ達にかまっている暇など無いだろう」

 

 ははは、と笑おうとした時、彼はミス・マザーズデイが目を瞑り、耳を塞いでいることに気づいた。

 彼は仲間たちに合図してそれを静かに見守る。それが彼女が『声』を聞いた時の姿だということを、彼らはすでに知っていた。

 結局、彼女の聞く『声』が何なのか彼らにはわからなかった。だが、これまでも彼女の『第六感』を信じて行動してきた。その出現が少し変わっただけだと彼らは思っている。

 少しばかり、小屋の中には沈黙があった。

 やがて、彼女は目を開いて言う。

 

「……とても、信じられないねえ」

「何が『聞こえた』?」

「王女様にまつわることさ」

 

 彼女はその『声』をニーサン達に伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 予定より二時間も遅れた『立志式』では、王女が素晴らしいスピーチを披露した。それは彼女が消息不明であった二年間での成長を物語るものであり、彼女がいずれこの国を背負う人材であることの証明でもあった、アラバスタ国民は、彼女が王権を持つことを何一つ不服には思わないだろう。

 一つ、国民達が気がかりであったことは、本来ならば王宮で国民の前に姿を見せるはずであった王女がその姿を見せず、代わりに護衛隊長であるイガラムが変装してあらわれていたことだった。

 その理由が全くわからないわけではない、王女はつい先日まで秘密組織に命を狙われていた身である。もしものことを考えて影武者を用意するのも十分理解できる。その影武者が影武者として機能しているかどうかは別としてだ。

 それに、民衆たちはたしかに王女がこの国にいることが確認できればそれだけで良かった。これまでの二年間を考えれば、彼女の声が聞けるだけでも、彼らは満足だった。

 

 

 

 アラバスタ王国、東の港町タマリスクの外れ。

 相棒であるカルーに乗った王女ビビは、その男たちを前に険しい視線を飛ばしていた。

 

「よう。やっぱり、髪は後ろでまとめたほうが似合ってる」

 

 その男、Mr.6ことニーサン・ガロックとその仲間たちであるフロンティアエージェント達は、砂漠のど真ん中で彼女を待ち受けていた。

 彼はいつもどおりパイプ椅子に腰を下ろしていたが、地盤の緩い砂の上はその足をドンドンと飲み込んでいったようで、ほとんど座布団の上に体育座りをしているような形になってしまっているが、本人はいたって真剣そうだった。

 

 障害物もなくだだっ広い砂漠の真ん中にいた彼らである。ビビはその気になれば彼らを避けて行くことも可能だった。事実、カルーは彼らが豆粒のようにしか見えないときからその違和感を感じ、再三彼女に注意を促していた。アラバスタ最速の生物であるカルーに頼れば、彼女は瞬く間にニーサン達をぶっちぎり、自らの城であるアルバーナに逃げ込めただろう。

 だが、彼女はそれを知っていながらも彼らの前に立った。もちろんそれは、彼女の立場からすれば軽率な行動だったかもしれない。しかし、彼女はあえてそれを受けて立った。それは彼女もまた、彼らが何を語るのか、興味と、僅かばかりの恐怖があった。

 

「素晴らしいスピーチだった」と、ニーサンは立ち上がりながら言った。

 

「君や、君の父のような君主を持てるこの国の国民は幸せだ。皮肉でもなんでもなく」

 

 ビビは黙ってそれを聞いていた。すでに彼らからは闘争心が消え、もはやただの人間であるように感じていた。

 

「『この国を愛している』と、口で言うのは簡単さ。だが、今やおれ達やあの海賊たち以上に、その言葉を心の底から信用できる人間はいないだろうよ」

 

 アラバスタ王国の国民は、王女ビビがスピーチの途中に突然誰かに何かを言い始めたことの意味を全く理解していないだろう。

 当然だ、彼女のそれを理解するには彼女のがこの二年間、どこで何をしていたのか、何が敵で何が味方だったのかを詳細に知る必要があった、当然、それは知られることのない情報だ、バロックワークスを壊滅させたのは、海軍であるのだから。

 ニーサン達と海賊『麦わら』は、対極の目的を持ちながら、彼女のスピーチの意味を知ることの出来る存在だった。

 

「どんな国を作りたいんだ?」と、ニーサンが問うた。

 

「愛しているこの国を、君はどんな国にしたい?」

 

 それは、答えることに何の意味もない質問だった。

 単純に、敵であったニーサンにそんな事を言う必要もなければ、それに対して真摯な答えを返す必要もない。『税金を搾り取って国民を生かさず殺さず恐怖で支配する』という思想を持つ王であろうと、『みんなが仲良く出来る国にする』と答えることに対する罰則なんてありはしないのだ。王は王らしく、当たり障りのない、本心を隠すような返答をすればよく、質問者もそれを深く追求することはない、何の意味もない質問。

 だが、ビビ王女はその質問に真摯に答えた。それは、彼女がこの二年間、考え続けてきたものでもあった。

 

「国を作るのは、王ではなく、国民です。王というものは、国民の模範になることしか出来ません」

 

 他人行儀な口調だった。だが、それも仕方のないこと。彼らは『仲間』ではないのだから。

 真っ直ぐな瞳から放たれたその答えに、ニーサンは「そうか……」と、彼女から視線を外しながら言った。

 

 人間としての格が違う。

 その言葉が真実であるかと言われれば、必ずしもそうではないと答えることが出来るだろう。国とは、国民とは、王とは、そんな漠然とした問に対する答えなど無く、もしそんな物があるとするならば、人間は人間ではない。

 だが、彼女のその思想はその若々しい表情とは裏腹に、権力者だという自我が抜けきったものだった。

 この世界のどれだけの王が、この言葉に行き着くことが出来るだろうか、彼女の三倍、四倍の年齢の王が、果たしてこの答えを導き出すことが出来るだろうか。民衆を支配するという基本的な価値観からの脱却を、目の前の王族はすでに成し得ている。

 彼女の存在は、アラバスタ王国の善政の歴史を物語っていた。

 

「おれ達には『許してくれ』と言う権利すら無い。この二年は、この国と君にとっては大きな損失だった」

 

 彼はジャケットの襟を正し、そして。

 

「すまなかった!!!」

 

 ひざまずき、額を砂にめり込ませるほどに深く、深く頭を下げた。

 仲間たちは、それを必ずしも一つの感情のみでは受け入れてはいないだろう。

 

 身勝手な謝罪だった。

 ビビがそれを許すはずがない。それを許す義務は彼女にはなく、王族として、それを許さぬ義務だけが存在する。そして、彼女個人も彼を許しはしないだろう。

 

 気がつけば、ニーサンの仲間たちも同様に跪いて頭を砂につけていた。

 到底受け入れられぬはずのない謝罪は、彼女と、アラバスタ王国への敬意から行われたものだった。

 彼らにとってアラバスタ王国は『敵』であり『獲物』だった。本来ならば謝意も、敬意も持つはずがない相手だ。

 だが、この国が見せたもの、ビビ王女が見せたものは、彼らに敬意を抱かせるのに充分なものだった。

 

 王女ビビは、彼らを許しはしなかった。当然だ。

 だが、彼女は言った。

 

「この二年は、確かに取り返しのつかないものです、失ったものは大きく、得たものはありません。ですが、この二年もまた、この国の一部であるのです」

 

 去り際に、彼女は言った。

 

「あなたの歌は、好きでした」

 

 

 

 

 

 

 

 アラバスタ王国から遠く、遠く離れるように、その輸送船は大海原を走っていた。

 風は強く、帆はよく張っている。

 それがアラバスタから彼らを追い出そうとする神の意志なのか、彼らの新たな船出を歓迎しているのかは分からない。

 

 甲板から海を眺めるニーサンは、その手にネフェルタリ・ビビの写真を持っていた。彼らの運命を決定づけたそれを、彼はどうしても手放すことが出来ないでいた。

 だが、ニーサンは一つ息を吐いた後に、それを潮風に任せるように手を離した。それは潮風の機嫌次第では再び甲板に戻ることも十分にありえたが、それはあっという間に潮風に巻き上げられ、ニーサンの視界から消えていった。

 相手が悪かった。ニーサンは物件としては悪くはないが、国が相手じゃ分が悪い。

 

「旦那、これからどうするんじゃ?」

 

 仕事を終え甲板に上がってきたシャッパがニーサンに問う。

 

「どうしたもんかな、おれは死んでるし。会社は無くなった……ああそうだ、お前は晴れて自由の身だから、望むならこの船を降りていいぞ」

 

 シャッパは少しムッとした表情でそれに答える。

 

「旦那はワシのことがそんなに嫌いなんか?」

「まさか……そうだな、また歌でも歌うかな」

 

 彼がもう二、三彼をからかおうとした時、ミス・マザーズデイ達も同じく彼らの横についた。

 

「何を話してたんだい?」

「これからどうするかって話だよ。何か希望は?」

「カーチャンには特に無いねェ、まあ、あんたについてくよ」

「あーしもそうすっかなー、もう今更解散ってことはないっしょ」

「私も、みなさんと一緒にいたいかなって思っています」

 

「なんだ」と、ニーサンは呆れた風に言う。

 

「会社がなくなった途端に、無計画な連中ばかりだな」

「しゃーないし」

「よし、それならミス・マザーズデイ、好きな方角を一つ言ってくれ」

「南だね、カーチャン暖かいほうが好きだよ」

 

 もちろん、グランドラインが方角と気温の相関性がないことくらいは彼女も知っている。

 

「よし、それじゃあ南に舵を取ってくれ」

 

 ニーサンの言葉に合わせて、シャッパ達は返事と共にそれを達成するための位置についた。

 

 甲板に残されたのは、ニーサンとミス・マザーズデイ。

 

「そうだ」と、ニーサンがミス・マザーズデイに言った。

 

「もう、コードネームで呼び合うのはよそう」

「確かに、そのとおりだねえ」

「名前は?」

 

 彼女はそれに一瞬言葉をつまらせた。相手の詮索はそれまではご法度であったし、この会社の相手に本名を晒すなんてありえないことだった。

 だが、すでに会社は無く、ニーサン・ガロックは信用に値する相棒である。よく考えてみれば、それを戸惑う必要などありはしない。

 

「ダメータ。ダメータ・チネット」

 

 その名を言う彼女は、少し恥ずかしげであった。

 

「よろしく」と差し出された右手を、彼女は握る。

 

 彼らの目論見は失敗に終わり、彼らが手に入れたかった『理想』は手からこぼれ落ちた。

 だが、彼らは絶望などはしていなかった。

 むしろ、彼らからこぼれ落ちた『理想』は、彼らに『希望』を見せている。

『理想』のために戦うことは簡単だ。死ねば『理想』のない世界から脱却することが出来、勝てば『理想』を手に入れる。

 だが、その国は『現実』を守るために戦い、そして勝利した。

 アラバスタ王国という国を、彼らは忘れないだろう。

 遠く遠く離れながらも、その国は彼らの『希望』であった。




『Mr.6のお仕事』は以上で完結となります。皆様お疲れさまでした。そして、最後まで読んでくださりありがとうございます。
 また、下読みをしてくれたワンピース好きの友人と、多くの感想や評価を入れてくださった方。そして、どうかしてるほどの誤字脱字を修正してくださった方、ありがとうございました。おかげでなんとか完結させることが出来ました。

 ワンピースは今でも読んでいますが、やはり世代なのかバロックワークス編が最も楽しかったエピソードの一つかなと思っています。
 今回Mr.6というキャラクターを使ってアラバスタ編の裏であったかもしれない出来事を書けてとても楽しかったです。

 一つ失敗しちゃったかなと思ったのは、今回Mr.6は『悪人側』のキャラクターでしたし、そのキャラクター性から、ビビやイガラムを敵対視する展開がありました。個人的にはMr.6のキャラクターの立場上絶対必要なシーンだとは思っているのですが、思っていたよりも受け入れられない設定だったのかと今では思っています。そのくらい原作でのビビやアラバスタ王国側に感情移入している方々が多いということでもあるので、やっぱりワンピースはすごいなと思っています。

 最後に、ここまで見てくださった読者の皆様には、ぜひとも評価をつけていただけたらなと思います。今の所ワンピースで書きたいことは全部書いた感じだと思っているのですぐにということはないと思いますが、別原作などでも参考にしたいと思っています。

 最後にもう一度『Mr.6のお仕事』を読んで頂き、本当にありがとうございました。明日千字程度のおまけを投稿します。
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