それでも私は──   作:次作エヴァはきっと鬱エンド

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誤字報告、めちゃめちゃ助かってます

前回のあらすじ
第八の試練、降臨


暗黒臨界凶星 サハクィエル

 発令所が剣呑な雰囲気に包まれる。

 ミサトはいつもの赤いジャケットを着込み、腕を組んでオペレーターたちの報告を待つ。

 その立ち姿は家でのだらけきった様子とは打って変わって、真剣な目つきはまるで別人のようだ。

 慌ただしいスタッフたちの報告によって情報が錯綜する中、日向マコトがいち早く最新かつ確実な情報をミサトに報告した。

 

「三分前、マウナケア観測所より目標を補足。現在、軌道要素を入力中」

 

 それに青葉シゲルが続く。

 

「目標を第三監視衛星が光学で捉えました。最大望遠で出します」

 

 発令所の正面に設置されている超巨大モニターに青葉が衛星からの中継映像を繋いだ。

 一瞬ピントを合わせるためにボヤけたが、すぐに改善される。

 観測された物体――使徒は完全な球体で、その体躯は黒よりも黒い闇色だ。現時点では内部に何が孕んでいるのかは不明だが、表面に幾多もの白い斑点……おそらくは瞳を模した形のものが不規則に蠢いている。

 ひどく生理的嫌悪感を刺激するデザイン。

 だがシンプルな外見ゆえ、油断は一切できない。

 それは正八面体の第六使徒で痛い目にあったことから学んでいる。ミサトたちが使徒の分析や推測が不十分の場合、その分のツケはカノンたちチルドレンに払ってもらわなければならなくなる。

 それだけは絶対に避けたい。

 第六使徒による加粒子砲を胸に受け、口と鼻から血を流しながら生死を彷徨うカノンがプラグから救急搬送された記憶が鮮明に蘇り、ミサトは自身に喝を入れる。

 

「光を歪めるほどのA.Tフィールドとは……恐れ入るわね。落下予測地点は……」

 

 そこまで言って、ミサトはわかりきっているかのような口調で片眉を吊り上げる。

 

「当然、ここよね」

 

 軌道要素の入力が完了し、伊吹マヤがMAGIのサポートによる演算結果をサブモニターに出力する。現時点での使徒の座標、落下速度や地球の自転と公転を要素として追加入力。3Dで表現された日本地図に飛来する使徒の可能性をすべて吐き出し、そこから本部へ落下する可能性を抽出する。

 その結果は――。

 

「MAGIの再計算。ネルフ本部への命中確率、99.9999%(シックスナイン)です」

 

 宇宙空間から綺麗な弧を描き、まるでバスケットゴールに吸い込まれるような軌道。

 マヤの報告にミサトは眉を寄せる。

 その間にも使徒へのN2航空爆雷による牽制攻撃が行われるが、使徒のA.Tフィールドは遥かに強大で、いっさいの傷を受け付けない。

 もしこの中継を冬月が見ていたら間違いなく「税金の無駄遣いだな」とコメントするだろう。今の攻撃で大量に消費した爆雷の生産、またさらにそれらを宇宙へ打ち上げるためのコスト……決して馬鹿にできない。

 マコトが報告する。

 

「まるで効いてません」

 

 使徒は暗黒の尾を引きながら迎撃用衛星群をなんなく通過していく。

 

「軌道修正は不可能、か」

 

 ミサトはリツコやオペレーターたちを作戦会議室へ招集し、集まってきた情報を統合する。

 白く発光する卓上に整理された資料たちを電光石火の如き速度で目を通す。

 その数秒後にMAGIによる報告が上がり、それをマヤが読み上げる。

 

「A.Tフィールドを一極集中して押し出しています。これに落下エネルギーも加算されます。第八使徒直撃時の爆砕推定規模は、直径四十二万GY-一万五千レベルです」

 

「使徒そのものが爆弾というわけね」

 

 新たに現れたサブモニターに予想図が示され、地表を深く抉る様子がシミュレートされる。

 

「第三新東京市は蒸発。ジオフロントどころか、セントラルドグマまで丸裸にされます」

 

 マコトの述べる率直な事実にミサトは歯噛みする。

 セントラルドグマには……第二使徒であるリリスが幽閉されている。第八使徒が直撃と同時に自身を木っ端微塵にしたとしても、次に来たる第九使徒に対して完全にノーガードになってしまう。

 MAGI内部――メルキオール、カスパー、バルタザールによる見解が提示される。これらはシステムの中枢を担い、通常のAIとは異なって非常に人間らしい思考をする。

 そしてその見解は――。

 

「全会一致で撤退、か」

 

 しかしすぐさまそんなことできるはずがないでしょう、と内心で一蹴する。

 それはネルフの作戦部長としてありえないし、ミサト自身の魂にかけて必ず倒す。

 テーブルの上に乗せていた右の拳を強く握りしめる。

 

「……碇司令は?」

 

「使徒の影響で大気上層の電波が不安定です。現在、連絡不能」

 

 パソコンを見ながらシゲルが即座に返す。

 スケジュールによれば、ゲンドウと冬月は宇宙にいる。何の理由かまでは語られていないが、この緊急事態に司令と副司令がいないというのはとてつもなく大きいハンデだ。

 つまり、現在ネルフで最も権力のある人物はミサトしかおらず、この場にいる全員が彼女に対して静かに眼差しを向ける。

 

「ここで独自に判断するしか無いわね」

 

 意を決したミサトは背中をまっすぐ伸ばして凛とした表情になると、力強い声で告げた。

 

「日本国政府及び各省に通達。ネルフ権限における特別非常事態宣言D-17を発令。半径百二十キロ圏内の全市民は速やかに退避を開始」

 

「問題ありません。既に政府関係者から我先に避難を始めていますよ」

 

「あら、手間が省けて助かったわ」

 

 ミサトはシゲルに軽口で返し、すぐさま表情を険しいものへと変える。

 

「MAGIのバックアップは松代に委託しました」

 

 マヤの報告が入る。

 従来の使徒はほぼすべて地上戦だった。アスカの撃破した使徒だけは例外で、海上戦だった。あの時はアスカの適切な判断によって撃破されたが、今度ばかりはそのどちらでもない。

 宇宙から。

 咄嗟に思い浮かんだのは、ヤシマ作戦の際に使用したポジトロンライフルによる超長距離狙撃。

 しかし相対距離はおよそ数千キロもあり、空間の歪みもひどく、まず命中しない。奇跡的に命中したとしても有効打は与えられない。

 ならばエヴァを宇宙に打ち上げるか?

 これも否。

 エヴァ専用輸送機は存在するが、宇宙に打ち上げるとなると話は打って変わる。

 まずそんなものはネルフに存在せず、かといってこれからそれを作ろうしてもその前にネルフは塵ひとつ残らず吹き飛ばされる。

 それに、エヴァは宇宙で活動することを前提としていない。

 一旦解散を言い渡したミサトは、リツコと共に資料室を歩く。

 低い唸り音とともに、ロボットが整然と並べられたラックに保管されている資料を整理している。

 立ち止まったふたりは互いに視線を合わせない。リツコは歩きながらミサトから聞いた作戦に難色を示している。

 

「……本気なの?」

 

「ええ、本気よ」

 

「あなたのこの作戦はあまりにでたらめよ。MAGIの試算では99%強で失敗。たとえ成功してもエヴァ三機を喪失。技術部として、到底受け入れられない」

 

 ミサトの提示した作戦よりヤシマ作戦のほうが成功確率は上。

 算出した確率は、『やめておけ』を数値化したものだ。

 腕組みをするミサトの背中は一切動じない。

 

「可能性はゼロではないわ」

 

 ミサトは曲げない。

 しかしながらリツコも譲らないと食い下がる。

 

「奇跡を待つより地道な努力よ。リリスと初号機の保護を最優先とすべきです」

 

「いいえ待たないわ。奇跡を起こすのよ……人の意志で」

 

 それは、ただの驕りだ。

 数字を見ればはっきりわかる。ミサトの作戦は必ず失敗する。

 リツコにはミサトが冷静ではないように見えた。

 だから睨みつけ、吼えた。

 

「葛城一佐!!」

 

 ミサトが顔だけこちらに振り向く。

 その双眸は鋭くも獰猛な意志を秘めている。

 

「現責任者は私です。私が判断するわ。それに、使徒殲滅が私の仕事です」

 

 そこにある種の執念をリツコは見る。

 

「仕事? 私怨でしょう? あなたの使徒への復讐は」

 

 ◆

 

 スマホの警報がけたましく鳴り響いたのは、昼休み直後の授業中だった。

 この時間は大抵の生徒は睡魔という悪魔に優しく背中をさすられ、それはまるで布団のよう。

 柔らかい陽光に窓からほんのりと私たちのいる教室が暖められ、拍車がかかる。

 すでに何人かは睡魔に魂を抜き取られてしまったようで、パソコンの影に隠れて眠っている。

 私も例外ではなく、出火するのではと錯覚するほど睡魔に背中をさすられていた。

 ダメだ……寝たら……ダメだ……。

 とは思いつつも、斜め前で穏やかな吐息を立てて気持ち良さそうに眠る鈴原くんを見ていると忍耐が一気に削られてしまう。

 何度も何度も船を漕ぎ、視界がゆっくりと狭まっていくのを残った意志力を束ねて抵抗する。

 だから突然の警報音に、私の意識は完全に叩き起こされた。

 

「ふみゃああ⁉」

 

 と、なんとも情けない声を出しながら完全な不意打ちに飛び上がった私は、そのまま椅子から滑り落ちて激しく尻もちをついてしまった。

 寝ていた生徒たちも今の警報音より私の叫び声で起こされ、一斉に全員の注目が集まる。

 恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまい、目元に少しだけ涙を溜め、顔を伏せながらきちんと椅子に座り直す。

 両手を膝の上にのせ、ぴんと腕を伸ばして恥辱に耐える。

 

「ぁ、うぅ……」

 

 次に何を言い出せばいいのかわからない。穴があったら光の速さで飛び込みたい気分だった。 

 しかし。

 私の肩をぽん、と誰かが叩いた。

 びくん、と身体が跳ね上がる。

 私は恐る恐る顔を上げると、いつも通り無表情の綾波さんが、鞄を手にしながら立っている。

 

「……非常招集よ。碇さん、急いで」

 

「え、あ、うん。ありが……とう」

 

 基本的に何事にもリアクションしない綾波さんのおかげで、少しだけ恥ずかしさが和らいだような気がする。

 式波さんを見れば喜々としながら荷物を鞄に突っ込んでいる。

 

「もやし! なにボサっとしてんの!」

 

 警報が鳴ったということは何かが起こったということだ。それから間もないうちに各自治体に設置されている非常用放送スピーカーから超大音量で同じ警報が鳴り始めた。

 ……使徒だ。

 直感的に悟った私は、こんなところでだらだらする場合ではないと瞬時に意識を切り替え、大急ぎで荷物をまとめる。

 

「校門に迎えが来てるわ! ダッシュで行くわよ!」

 

「う、うん!」

 

 弾丸の如く飛び出した式波さんを追いかける形で私と綾波さんが教室を後にする。昇降口で靴を履き替え、校門にダッシュ。

 以前だったらこれだけで息が絶え絶えになっていたが、ネルフで訓練を重ねた結果か、体力は間違いなくついていると自覚する。

 黒服たちの指示に従って素早く車に乗り込んでネルフ本部に到着するまで大まかな経緯を頭に叩き込む。ゲートを潜ると、これまでになく慌ただしく駆け回るスタッフたちが多く目につき、それだけで私たちの意識は研ぎ澄まされる。

 つい数十分前の眠気は完全に吹き飛んでいる。

 あまり時間がないからとそのまま更衣室に連れられ、プラグスーツに着替える。

 

「できればウォーミングアップしてから臨みたかったわ」

 

 小走りにミサトさんの指定した場所へと向かいつつ式波さんが不満げに言った。

 

「私もちょっとそれは思う。でもほら、十分走ったからいいんじゃないかな?」

 

「そりゃあ変な声で椅子から転げ落ちた誰かさんにはいい運動になったでしょうね」

 

「そうね」

 

「うああああ言わないでええぇぇぇっ!!」

 

 記憶の彼方に捨てようとしていたのに、どうしてそういうことを言う⁉

 ニシシ、と笑う式波さんと、顔の表情筋をピクリとも動かしていないが明らかに私を心の中で笑っている綾波さんを懸命に追いかける。

 それでも式波さんには追いつかないだろうが、綾波さんなら……という甘い考えはみるみる距離を突き放されていくごとに萎れていく。

 そのせいで集合場所に到着した私は大きく肩で息をしながら膝に手をついた。

 ふたりは少ししか息が上がっていない。

 

「想像以上に速かったわね……」

 

 ミサトさんが少し驚いた顔で私達を見る。

 

「式波さんと……っ、綾波、さんがっ、私を笑った、から、追いかけたんです……」

 

「なるほどね。でも追いつけなかったと」

 

「……はい」

 

「私は笑ってないわ。碇さんが追いかけてきたから逃げただけ」

 

 淡々とした否定に、私は頬を膨らませながら噛み付く。

 

「笑ってた! 絶対笑ってたもん!」

 

「………………気のせいよ」

 

「んんーー!!」

 

 と、ここでミサトさんがぱんぱんと手を鳴らした。

 それだけで、私を含めて四人は朗らかなムードから緊迫感の高まるムードへと一変する。

 

「はい、そこまでよ。本題に入るわ。聞いてるとは思うけど、現在使徒が宇宙から落下中。撃ち落としたり、空中戦などは無理なので――エヴァで受け止めます」

 

 使徒がどのような外見で、どういう動きをしているのかはすでに私達も把握している。

 果たしてどんな作戦が提示されるのかと思いきや、極めて普通で、だからこそ危険なものだった。

 

「手で受け止めるぅ⁉」

 

 片手を高く掲げた式波さんが、手をにぎにぎと開閉させながら叫ぶ。

 

「ええ。エヴァのA.Tフィールド全開で直接受け止めるの。目標は位置情報を拡散しているから、正確な落下予測は期待できないわ。状況に応じて多角的に対処するため、本作戦はエヴァ三機による同時展開とします」

 

 なるほど、だから集合場所が屋外になっているというわけか。

 橋の下では、すでにエヴァを搬送するために寝かされた状態で地上に揃っている。それぞれがレール上の輸送台に乗せられ、迅速な移動を控えている。

 

「無駄よ! 私一人で殲滅できるもん!」

 

 式波さんが頼もしく言うが、ミサトさんは「無理よ」と即座に否定した。

 同時に横に用意されていたモニターの電源を入れ、その根拠となるデータを私達に見せる。

 その内容は、三パターンでシミュレートされた使徒の落下予測だ。

 各地に配置されたエヴァ三機がそれぞれ落下に間に合うパターン。

 モニターを指先でコンコンと叩きながら説明する。

 

「これを見てわかるとおり、エヴァ単騎では広大な落下予測範囲全体をカバーできないわ」

 

「……この配置の根拠は?」

 

「女の勘よ」

 

 綾波さんの質問にさらりと答える。

 

「なんたるアバウト!」

 

 私も質問を重ねる。

 

「あの……勝算は」

 

「神のみぞ知るってところね」

 

 つまり、言えないほど低い。

 逆に言えば、これ以上勝算の高い作戦はない。

 超極低確率を現実のものとして引き寄せる――まさに『神のみぞ知る』。

 式波さんが高く鼻を鳴らす。

 

「だから他のエヴァは邪魔なの! 人類を守るくらい、私ひとりで十分よ!」

 

「この作戦に必要なのは、シングルコンバットの成績じゃないの」

 

「私の才能を認めないわけ?」

 

「違うわ。あなたたち三人の力が必要なのよ――奇跡を起こすために」

 

 式波さんはそれでもあまり納得できないようだった。

 

 ◆

 

 輸送台に乗せられた私の初号機が指定の位置に到着すると、すでに電源供給用の車両が何台も控えていた。

 作戦時間までは残り八分ほど。

 シンクロを完了させた私は初号機の上体を起こし、電源ソケットを背面に接続した。

 そのまま立ち上がり、ゆっくりとした歩行で移動する。その間にも軽く両腕などを動かしてシンクロの状態を確認する。

 エヴァへの神経の繋がりは問題なく、ラグも極小。作戦に支障のないレベルだ。

 

「ふ、ぅ――」

 

 私は静かに目を閉じ、細く息を吐き出す。

 この作戦は前代未聞であることは明らか。

 あの膨大な質量を、誰かが受け止めなければならない。

 それは私かもしれないし、ふたりのどちらかもしれない。

 最悪、誰の手にも触れない可能性も――。

 

「違う、そうじゃない」

 

 必ず受け止めるのだ。

 昂ぶる緊張と興奮。

 ぎゅっと握った手の汗がL.C.Lにじんわりと溶ける。

 ゆっくり、ゆっくりと肺の中の空気を吐き出し、心を落ち着かせる。

 すると、ひっきりなしに入るオペレーターたちの報告の声が、波が引くように遠のいていく。

 私は、沈黙の湖に落ちる一滴の雫。

 湖に触れた瞬間、微かな波紋が同心円状にどこまでも広がっていく。

 これほど集中するのは、きっと私の人生で初めてだ。

 だからこそ、私はその湖の底に何かを感じ取った。

 視覚ではない。

 聴覚でもない。

 触覚でもない。

 そう、嗅覚だ。

 匂いは底でずっと黙したままたゆたう。私はそれを上からぼんやりと感じることしかできない。

 しかしどこか懐かしい。

 ふんわりと香る、甘い乳液のような。

 私の心を鎮める、僅かな温かみを含む匂い。

 お母さんの匂い……?

 いいや、それは違うような気がする。

 そもそも私はお母さんのことを知らないから、違う。 

 では何だ?

 私はこれをなぜか知っている。特に最近よく感じるこれは――。

 おそらく――。

 

「綾波さんの、匂い……?」

 

 直後、使徒の接近を識らせるアラートがけたましく鳴り響いた。

 高度が二万に達した瞬間にスタートするとミサトさんは言っていた。

 それ以上の高度で開始すると、MAGIの計算の誤差が許容範囲を超えるからだ。

 

『――おいでなすったわね? エヴァ全機、スタート位置』

 

 瞼を持ち上げた私は、ゆっくりと前傾姿勢を取り、膝を曲げ、両手の指先を地面につける。

 これを陸上競技ではクラウチングスタートと言うらしいが、私はそういったものはよく知らないため、事前にミサトさんに叩き込まれた姿勢をとる。

 心は落ち着いた。

 いつでもいける。

 私はミサトさんの指示を待つ。

 心臓が激しく脈を打つのがよく聞こえる。

 どくんと熱く煮えたぎる血が全身を駆け巡る。

 

『二次的データが当てにならない以上、以降は現場各自の判断を優先します。エヴァとあなたたちに、すべてをかけるわ』

 

 返事はしない。

 私は深い深い呼吸をした。

 

『目標接近! 距離、およそ二万!』

 

 青葉さんの報告が入る。

 作戦が始まる。

 

『……では、作戦開始』

 

 ミサトさんの低い号令とともに、電源ソケットをパージする。

 瞬間、エントリープラグ内にディスプレイが表示され、活動限界までのカウントダウンを開始した。

 全身の筋肉に力を込め、一秒後の爆発に備える。

 

『――発進』

 

 極限まで押し留めていた爆発を解放する。

 力強く地面を蹴り上げ、周囲の車両を巻き込みながら私は勢いよく駆け出した。

 私の左側に表示されているディスプレイはMAGIとリンクし、使徒の落下予測地点がリアルタイムで更新されるため、そこに向かえばいい。

 街中を走る私にはエヴァが走ることによってビルが倒壊したりすることに対する心配をする余裕は一分たりともない。

 全員の避難はすでに完了しているときちんと確認しているため、心置きなく走ることができる。

 足元は一切見ない。

 私が見るのはソラと、左手のディスプレイと、正面のみだ。

 アスファルトを砕き。

 山を飛び越える。

 空気を裂きながら紫の稲妻となって疾走する私と使徒の距離はしっかりと詰められている。

 単純な相対距離では式波さんが一番近い。

 MAGIも現時点では式波さんしか到達できないと示している。

 私は心の中で安堵する。

 まずは落下地点に到着するという第一段階はクリアとみていいだろう。式波さんが受け止めて時間を稼いでいる間に私と綾波さんが到着。どちらかがA.Tフィールドを中和して、もう片方がコアを破壊するのだ。

 ――いける。

 そう確信した瞬間、使徒に変化が現れた。

 身体を覆っていた黒い殻が突如として割れて消え去る。露出した中身はさらに何重にも張られたA.Tフィールドによって保護されている。

 暗黒から現るは、七色の凶星。

 鮮やかな色彩となった使徒は、ゆっくりと色を循環させながらその速度と向きを、A.Tフィールドの傾きを変えることで風の影響を受けて変化させた。

 MAGIによれば、

 速度は1.12倍。

 向きは2.888度。

 数値的にはほんの僅かだが、これまでの私の安堵を嘲笑うには十分すぎた。

 瞬時に更新された予測地点は、受け止め役となるはずだった式波さんの許容範囲外まで大きく遠のいてしまう。

 受け止められることを回避するために、自力で修正したか!!

 使徒は私と綾波さんでもカバーできない場所へと落下しようとしている。

 まずい! と出るはずの私の叫びは、それ以上の式波さんの叫び声によってかき消された。

 

『何よ! 計算より速いじゃない……⁉ ダメ! 私じゃ間に合わないッ!!』

 

 このままだと使徒は何の障害もなく地表に衝突してしまう。

 ミサトさんが神のみぞ知ると言ったのは、本当に言葉通りの意味だった……!

 式波さんがいけるからと心のどこかで安心していた私が馬鹿だった。

 使徒との単純な相対距離は、私が一番近くになった。

 しかし近いだけで、間に合うわけではない。

 今でも最速で走っているのに、だ。

 無理なのか……? ミサトさんは言わなかったが、成功確率はおそらく10%未満……いや、きっと1%にも満たないだろう。

 やはり、無理なものは無理なのか……?

 急速に弱気になってゆく。

 そんな下向きな思考が、一瞬、あらゆる動きを止めた。

 どこまでも時間が引き伸ばされていく感覚。

 水面の激しく乱れる湖の底から何かが浮かび上がってくる。それに明確な形といったものはなく、その不定形はそっと私の背中に触れた。

 途端。

 烈火の如く、熱が私の全身――足の爪先から頭頂部まで一気に燃え広がった。

 そして――。

 私は割れそうになるほど強く奥歯を噛みしめた。

 違う!

 いいや、違う!

 全然!

 全くもって!

 何もかもが違う!!

 ここで諦めるのは、式波さんと綾波さんへの裏切りであり、ミサトさんたちへの裏切りである!

 私には使徒を屠る力がある。あるというのに、それを行使しないのは、あまりに無責任!

 もし本当に負けるとしても、それは私のすべてを出し尽くして、それでもなお敵わなかった時。もしくは私が死んだ時のどちらかでなければならない。

 私がなぜエヴァに乗ると自分の意志で決めたのかを思い出せ!

 今ここで諦めるのは、自分自身への裏切りでもあるのだ。

 間に合わせる。

 何が何でも、絶対に間に合わせる――!

 

「私が行きますッ!!」

 

 叫ぶ。

 目を剥き、私はエヴァのさらに深くへと身も心も沈めてゆく。

 極限まで研ぎ澄まされた精神がエヴァに呼応し、これまでにないほどのシンクロ率を叩き出す。

 初号機は……私だ。

 一歩を踏みしめるごとに感じる振動がより鮮明になり、風を切る感覚が肌を刺激し、偽りの身体を動かしているはずなのに、疲労がどっと私に襲いかかる。

 まず目の前に飛び込んできたのは再びビル群が並ぶ街。さっきとは違って私が走り抜けるには十分な空間が確保できない。

 多少ぶつかってでも使徒への最短ルートを辿る。

 そう考えた途端、すぐ右手にエヴァよりも巨大な壁が何枚も地表からせり上がって、街を囲むように斜めに立った。

 私の記憶が正しければ、これは使徒を撃破した際に発生する大量の赤い液体による洪水を防ぐためのものだったような気がする。

 これならば、街中に飛び込まなくても迂回をする際の遠心力や垂直抗力などを上手く逃がすことができるし、スピードが乗って曲がりにくいという難点を克服できる。

 ありがとうミサトさん!

 と心の中で強く念じながらそれらを経由して迂回を始める。金属を踏みしめる硬質な足音が響く。しかし次に私の目の前に迫るのは巨大な駅のホームだった。

 吊架線やらトロリー線やらが張り巡らされた駅は最大の難所だ。

 しかし悠長にしていられる時間もないから躊躇いなく飛び込む。止まっている電車を蹴り飛ばし、線を大量に巻き込んで架線柱を根こそぎなぎ倒しながら駆け抜けていると、次のサポートが現れる。

 地面から現れたのは直方体の台のようなもので、一定の間隔で真っ直ぐに並んでいる。

 これの本当の使用用途はぱっと思い出せなかったが、そんなことはどうでも良かった。少し減速を食らっていた私はその場からジャンプして台に飛び移り、三段ジャンプの要領で一気に駅を飛び越した。

 着地した私は反射的に位置を確認する。

 MAGIの予測は『不可能』と冷徹に赤く表示したままだ。

 その文字から『不』を消し飛ばす!!

 ミサトさんの言った奇跡を、私の手で起こすのだ!!

 お願い……!

 どうか!!

 どうか、届いて――!!

 私はエヴァですらなくなって、ただ走るだけの機構となる。

 加速に加速を重ねた私は一条の閃光となる。

 音速を超えて。

 その先へ。

 あらゆる景色は一瞬にして消え去り、白く溶ける。

 激しい衝撃波は周囲に存在する悉くを吹き飛ばす。

 その果てに、ついに、MAGIの予測が『可能』に青く転じた。

 使徒が私が間に合うことを悟ったのか、最終形態への変化を開始する。

 まず、A.Tフィールドを捨てる。

 そして血色の雲をたくし上げながら、球体から両端に五枚の翼が対となるように大きく開いた。左右の翼の中央には瞳らしきものが燦々と七色の光を放っている。

 不気味さが五倍ほどに膨れ上がった使徒を見上げつつ、私は踵を地面に突き立てて急激に減速し、なんとか落下三秒前にポイントに到達できた。

 改めて見ると、この使徒の大きさはあまりに圧倒的だ。比べるならば、アリとゾウといったところか。いや、おそらくもっとだ。

 第一段階はこれでクリアした。今度はふたりが到着するまでこの凶星を受け止め続けなければならない。

 できるか……?

 いいや。

 やるのだ。

 股を開き、力強く大地を踏みしめる。

 

「――A.Tフィールド、全開!!」

 

 短い高周波が甲高く響いた後、圧縮されたA.Tフィールドが爆発する。周囲の家々を粉々に吹き飛ばし、一瞬にして丘となった。

 凶星を受け止める準備が整う。

 両腕に渾身の力を込めて掲げた私は、胸いっぱいに空気を肺に溜め込む。

 そして落下してきた凶星に触れた。互いのA.Tフィールドが激しく接触する。

 瞬間。

 全身の骨が砕けそうになるほどの強烈な重圧が私の全身を激しく叩きつけた。さらに接触により生じた圧倒的な暴風が、地表を荒々しく穿つ。

 景色は世界の終わりのように赤黒い帳が下りる。

 

「は、ぅ、グっ……!」

 

 肺に溜め込んでいた酸素が強制的に排出させられる。

 腕が千切れんばかりに悲鳴を上げる。

 急いでありったけの酸素を貪ろうとした私の前に瞳の部分から現れたのは、使徒の本体らしき人型だ。実体は上半身しかなく、下半身は瞳に埋もれている。

 特徴的な白い仮面に、ふたつの眼を赤くギラギラと明滅させながら私に迫り、完全に無防備な私の両手を指を絡ませて掴んだ。

 押し潰す気か?

 そう考えるが、すぐさま私の掌が妙な突起物に徐々に圧迫されていることに気づく。

 ……なに、これ。

 その瞬間、肘先まで細く螺旋状に腕を尖らせて槍へと変形し、容易く私の掌を夥しい量の血を撒き散らしながら貫いた。

 

「ああア゛あア゛あァぁぁ゛ッ゛ッ!!」

 

 意識が消え失せるほどの激痛に上半身を限界までのけぞらせ、私は喉が張り裂けんばかりに絶叫した。

 同時に重圧に耐えられなかった腕の筋が立て続けに断裂して出血が加速する。

 私にのしかかる重圧は腰をも砕きかけ、内臓が押し潰されるのではと錯覚する。

 チカチカと視界が白黒し、腕の力が一瞬だけ弱まる。

 足首まで地面に沈み込む。

 しかし離さない。敵の手を離してやらない。

 螺旋部分に指を絡ませて、決死の意志力を束ねてなんとか持ちこたえる。

 私の何百倍もの巨大な使徒との接触は激しい暴風を絶え間なく生じさせ、地を抉り、私の生命力も容赦なく削る。

 顔を上げると、ほんの数メートルも離れていない位置で使徒の仮面がこちらを見下ろしていた。その目は『はやく潰れろ』と私に告げている。

 私も何かを言い返してやりたい衝動に駆られたが、とてもそんな余裕はなく、負けじと睨み返すことしかできない。

 しかしながら今の私はこの場から一歩も動くことができない。使徒のさらなる追撃もありえなくもなく、私は掠れ声でふたりの名を口にする。

 

『もやし――――ッ!!!』

 

『弐号機、コアを』

 

『わかってるわよ! 私に命令しないで!』

 

 ついにふたりが到着する。

 すでにナイフを両手に構えていた式波さんが裂帛とした咆哮とともに高く跳躍して使徒の背後に肉迫。A.Tフィールドに阻まれるがなんなく切り裂き、使徒の腰の周囲……瞳孔の輪郭上にあるコアへナイフを突き立てようとするが、寸前のところでコアが移動した。

 式波さんの狙い澄まされた一閃は瞳に逸れ、ヂヂッ! と赤い火花を放射状に散らすのみ。

 

『外した⁉』

 

 だがコアの移動は使徒を中心として円状にしか回転しないため、見失うことはない。

 しかしながらその速度は式波さんでも目で追えないほどだった。

 

『ちょこまかと往生際悪いわね!!』

 

 活動限界まで残り三十秒を切ったのを確認したのか、式波さんの顔に焦りの色が見え隠れする。

 だが、それよりも先に私のほうが限界が速いかもしれない。

 すでに腕の感覚は麻痺し、骨盤は嫌な軋み音をたてている。足は恐らく骨がズレてしまっている。

 シンクロ率は第一段階の時より多少下がっているからフィードバックはマシなものの、それでも私が受容できる痛みを遥かに凌駕している。

 ほんの僅かでも力を抜けば、その瞬間に私の両腕は千切れ、使徒の落下を許してしまう。

 大きく口を開けて酸素を取り込むにも喉にナイフを突き立てるほどの精神力が必要で、できたとしてもひとつまみ分ほどの酸素しか取り込めない。

 それだけで足りるはずもなく、猛烈に身体が熱くなり始める。視界の端がゆっくりと赤く、濁り始める。

 私が弱ってきているのを見抜いたのか、使徒の目がすう、と細くなる。続いて翼の裏側にびっしりと並ぶ、不気味な触角のような突起物を赤く輝かせる。そして翼を大きく羽ばたかせることで発生した波を中心――槍に伝搬させ、それを衝撃として私に流し込んだ。

 

「カ、ッ゛ハ――――――」

 

 踏み潰される。

 どうしようもないほどの超重量に、踏み潰される。

 今度こそ私の身体が限界を迎える。

 まず、手が数センチ滑り、螺旋に絡ませていた指の何本かが呆気なく切断される。

 そして次に、腕の筋肉、筋、組織のすべてが原型を留めないほどぐちゃぐちゃに潰れる。

 脳が沸騰するほどの熱さと痛みに、私は再度絶叫した。

 それでもなお姿勢を維持できているのは、本当に奇跡としか言いようがない。

 私を中心に、蜘蛛の巣状に大地がとてつもない轟音と共にひび割れる。

 とうに危険域に突入していたダメージアラートが、ついに限界を突破する。アラート音はどこまでも高くなり、やがてそれは金属質の高周波でしかなくなる。

 私は濁りきった灰色の声で式波さんの名を懇願するように叫んだ。

 

「アス、カ……はやぐ……!!」

 

『わかってるってば……!』

 

 ぎゅっと目を閉じて必死に痛みを堪える。

 すると、私の心音がゆっくりと弱くなってきていることに気づく。

 零号機の黄色がA.Tフィールドを中和しながら使徒の上によじ登り、高速で回転するコアを直接手で掴んだ。その瞬間コアの侵食か何かが恐ろしい速度で腕を赤く変色させていく。

 

『くっ……!』

 

『えこひいき⁉』

 

 これ以上の好機はない。

 的は動かない。使徒は私に釘付け。

 今動けるのは式波さんだけだ。

 

『はやく……』

 

「アすかッ!」

 

 綾波さんと私の必死の願いは、式波さんにしっかりと届いた。

 

『わかってるっちゅうのおおおおぉぉぉ!!』

 

 私たちに急かされて怒ったのか、式波さんが怒りのままに無防備な使徒のコアにナイフを突き立てた。

 大きな亀裂が走り、コアが目に見えて膨張するがまだ浅いようで、破壊には至らない。

 すると追撃とばかりに腕に力を入れて身体に反動をつけることで、刺さったナイフを上から膝蹴りをしてさらに深く食い込ませた。

 その瞬間。

 ぴしっ。

 と亀裂が広がり、硬質な破砕音を響かせてコアが砕けた。

 それと同時に私を襲っていた重みが嘘のように消え失せる。使徒の身体がだらりと力なく瞳から垂れ下がり、するりと私の掌を貫いていた槍が抜け落ちる。

 七色の輝きを失った巨躯がその身を黒く変色させる。そして端から触角を折り曲げて中心に到達した瞬間、超膨大な量の赤い液体を垂れ流しながら死骸を爆散させた。液体は津波となって街に押し寄せ、ビル群をドミノ倒しにする。

 爆心地には遥か空へ伸びる光の十字架が屹立し、まるで使徒の撃破を祝福するかのように、いくつもの円形の虹がその周りで眩い光を放つのだった。

 

 ◆

 

 激しくむせ返りながら、私は死に物狂いでL.C.Lに溶けている酸素を貪った。

 両腕はピリピリと小刻みに痙攣している。思ったよりフィードバックが重い。

 あれほどの傷を負ったのだから両腕麻痺という最悪の可能性も脳裏に浮かんだが、一応なんとか動かせるには動かせる。しかし引きつった痛みに眉をひそめ、とりあえず今はどうしようもないと腕の力を抜く。

 腰も相当きていて、身をよじろうとするだけでもピリリ、と微かな痛みが走る。

 脚は強い倦怠感があるがそれ以上は特に問題なく、せいぜい筋肉痛が約束されたくらいだ。

 

「ふ、く、ぁぁ……」

 

 深く、深く深呼吸を繰り返す。

 今回の戦闘は本当に辛かった。第六使徒に接近戦を挑んだ時よりも長い戦闘時間。それもずっと全身全霊で使徒を受け止めるのは相当なことだ。

 エヴァの内部電源は切れ、私は倒壊したビルに背中を預けて項垂れている。

 動くことはできないから、ここで静かに回収班を待つしかない。

 不意に、ふたりに回線を開いてお疲れ様くらいは言っておこうと思った。あのふたりが迅速にコアを破壊してくれたから私の命が助かったと言っていい。あの状態をあと数秒維持していたら、私の内臓……特に心臓が圧迫に耐えられずによくて停止、悪ければ破裂していたかもしれない。

 心音は正常なものに戻っている。少しだけ感覚を取り戻した指先を動かしてふたりに回線を繋ごうとした、その瞬間。

 誰かから一方的に回線が繋げられた。

 カメラはオフにされていて、『SOUND ONLY』とディスプレイに表示されている。

 きっとミサトさんだろうと思って気楽に構えていたら、思いもよらない人物の声が聞こえた。

 

『話は聞いた。よくやったな、カノン』

 

 感情をまるで感じさせない淡々とした低い言葉。

 その声の主は間違いなくお父さんのものだった。

 私は目を丸くする。

 

「え、あ、うん……あ、ありがとう……」

 

 叫びすぎたせいか、あるいはあまりに唐突すぎたせいか、私の喉からはひび割れた声を漏らして曖昧な返事をすることしかできなかった。

 お父さんは私のことが嫌いで、お母さんのお墓の前でも私とわかり合おうと努力するなと冷たく突き放したはずだ。

 それが、なぜ――。

 これはただ司令官が部下を褒めたものなのか、それともお父さんが娘を褒めたものなのか私には理解しかねた。

 でも、こんなことは間違いなく今まで一度もなかった。

 

『では葛城一佐、あとの処理は任せる』

 

 それきり回線は切れてしまう。

 お父さんがどういう意図で私を褒めたのかはわからない。

 もしかしたら墓場での会話で多少なりとも心の変化があったのかもしれない。可能性は極極低いが。

 もしくは、本当にただの気まぐれだったのかもしれない。

 正直なところ、私は後者でも全然良かった。

 ただ、『お父さんが私を褒めてくれた』という事実が、この上なく嬉しくて。

 数分前まで感じていたあれほどの痛みなんてどこかに吹き飛び、私は満面の笑みを浮かべるのだった。




これを執筆しながら気づいたのですが、ミサトさんが「奇跡を起こすのよ。人の意志で」と言ってて、あっ……となりました。シンを観た人ならわかりますよね?
さて。
カノンちゃんは健気で可愛らしくて、非力なおんにゃのこなのでもちろんシンジくんよりずっと弱いです。なので使徒を受け止めるのはとてもハードモードでした。

人の意志。人の可能性。
神ならずとも、奇跡はこちらから呼び寄せることができる。

それではまた次回!
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