それでも私は──   作:次作エヴァはきっと鬱エンド

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yori、上手に

「エヴァの射出口の位置、非常用電源、兵装ビルの配置、回収スポット、全部頭に入ってるわね」

 

「……はい、赤木さん」

 

「リツコでいいわ」

 

「……はい」

 

 エントリープラグ内で私は俯きながら返事を返す。

 青白いプラグスーツは私のボディーラインをくっきりと表す。これはスタイル維持を意識させる格好という意味では大成功だ。しかし、未だ発展途上の双丘までくっきりとなると総合してマイナス点だ。これは所謂公開処刑だ。

 あとでリツコさんに意見しよう。

 エヴァ初号機が立っている。場所はネルフ内、閉鎖空間。エヴァが数歩歩く距離もないほどの広さだ。まさに檻。

 エヴァに何本かケーブルが接続されている。私がエヴァを通じて見ている街の光景は、仮想だ。技術的なことは何一つわからないが、これで効率よく訓練ができる。

 使徒と呼ばれる敵を倒すために、私にはより高レベルな操縦が求められる。私自身も、歩いただけで一喜一憂する領域から脱するために血の滲むような努力をして基本動作をマスターした。

 全ては使徒を倒し、被害を抑えるため。

 

「ではインダクションモードへ切り替え。その後、パレットガンでの射撃訓練を始まるわよ」

 

「……わかりました」

 

 三秒間のカウントダウンで一体の疑似使徒が登場する。姿はこの前倒したものと似ている。

 

「いい? 使徒には必ずコアと呼ばれる赤い球があります。それを破壊することで殲滅できます。画面を見ながら、目標をセンターに入れてスイッチ。これを意識して」

 

 ビルの間を走り抜け、私は隙を見せた敵のコアに向けてパレットガンを一斉射撃する。狙いは大きく外れ、コアには一発も当たらずに周りのビルなどに命中する。

 

「ぁ」

 

 今の私のミスで誰かが死ぬかもしれない。もしあのビルに人がまだ残っていたら、きっと死んでいた。そう言い聞かせる。より上手く操縦して、使徒を倒さないと。

 

「落ち着いて」

 

「はい」

 

 敵から発せられる光線を避け、ビルを利用して死角に入り込む。そして一斉射撃。今度は半分くらいがコアに命中し、敵が倒れた。

 銃を持つことに抵抗はなくなった。実際に私の手が持っているわけではない、という考え方ができるが、そのようなことでいじいじすることは許されない。

 

 ――武器を、私は持っているのだ。

 

 リツコさんのアドバイス通り、私はコアをセンターに収め、スイッチを押す。

 より素早く、より正確に。

 全ては使徒を倒し、被害を抑えるため。

 いつからか、嫌なことがあった時、それを客観的に捉えることができるようになった。まるで自分ではない誰かが怒られているのを、一歩引いた場所で現場を眺めているような感覚だ。

 そして私はそこにいる私を守るために頑張る。

 敵は倒され、次々とレベルアップする。移動速度、出現感覚、反応速度。どれも上げられるが、それでも私はおいていかれないように必死になる。

 訓練を終えた私は、また自分が少し強くなったのだと嬉しく感じた。

 

 ◆

 

 仕事帰りのミサトさんと買い物をして一緒に家に帰る。「ただいま」って言うのも慣れた。

 この家もずいぶんとキレイになった。私の懸命な家に対する救助活動(掃除)のおかげで生気を取り戻した。今後はミサトさんが家を荒らさないかを逐一チェックする必要がありそうだ。

 さっさと風呂に突撃するのを見送り、私は買い物袋を机に置いた。今日の夕食は肉じゃがにしよう。浴室まで行って、「今日は肉じゃがにしますね」と伝えると、「あら、楽しみにしてるわね」と嬉しそうな返事。

 料理を始めようかと戻ってくると、そこにはペット用のお菓子を咥えているペンペンがいた。ペンペンが私に気づき、数秒睨み合ったあと、親指を立てて何事もなかったようにミサトさんの部屋に消えた。

 

「あー! ペンペン! こらー!」

 

 こんな時間にダメなのに。追いかけるとすでに袋は破かれ、美味しそうにお菓子を頬張っている。開けてしまったものは仕方ない。諦めて帰ろうとするが、私の目にふと一冊のノートがとまった。

 手にとってタイトルを読むと、『E計画サードチルドレン監督日誌』と書かれている。

 

「………………」

 

 開いてみると、私がこの家に来た日から今日まで毎日、びっしりと私の様子が書かれている。その中には私が鈴原君に殴られて鼻血を出したことまで書かれている。

 学校であったこと、私は何もミサトさんに話してないのに。私を監視しやすくするために、同居をさせたの……?

 

「くぁあああああッ!! やっぱビールは至高ねぇ!!」

 

 三本目のビールを一気飲みしたミサトさんが悦びに震える。ペンペンと乾杯までして上機嫌だ。ドライヤーもせずに濡れた髪。首にかけたタオル。おっさん臭い。

 

「どう? カノンちゃんも飲む?」

 

「ダメに決まってるでしょ! 未成年なんだから」

 

「相変わらず身も蓋もない子ね……」

 

「どうしますかミサトさん? 『ネルフ作戦部長、未成年に飲酒を強要』って新聞の一面に大きく載るのは? 結構貴重な経験だと思いますよ」

 

「思った以上に毒舌を吐く子ね……」

 

 私の肉じゃがは好評だったようだ。私の三倍ほどの量を平らげ、さらにおつまみまで手を出している。

 

「今日の訓練見てたけど、エヴァの操縦だいぶ慣れたそうね」

 

「それは……まあはい。もっと上手くなってみせます」

 

「嬉しいこと言うじゃないの」

 

「だって私……それ以外特にすることがありませんから」

 

 自嘲しながら私は微笑んだ。

 ビールを飲むミサトさんの手が止まった。

 

「エヴァ以外にもあるじゃない。学校とか。どうなの? 友達とかはできたの?」

 

 思い出すのは鈴原君に殴られたこと。ヒカリにハンカチを借りてそのままでいること。

 学校が嫌いというわけではない。勉強することは大切だから、その場を提供してもらえるという意味でだ。それに人との関係を希薄にしているから嫌なことはない。でも楽しいこともない。

 

「別に……普通ですよ」

 

「しっかり教えてくれないとわからないじゃなーい。これでも保護者は私なんだから」

 

「……っ!」

 

 ミサトさんはあくまで私の口から直接聞きたかったのだと思う。状況を何らかの手段で知っているだけで、私から経験として聞く。その中での私の挙動などをきっとあのノートに書くのだろう。

 それが堪らなく嫌だった。私がまるで、割れ物注意のレッテルがはられたようで、嫌だった。

 急に立ち上がった私をミサトさんが驚いた目で見ている。

 

「どうしたの? トイレ? なにかあたった?」

 

「私、もう寝ます」

 

「え?」

 

 どうして私が怒っているのかわからないミサトさんは、あとでこのことを書くに違いない。それでノートに築かれる『何か変な私』像が嫌いだ。私が嫌いだ。

 今日はもう、何も考えたくなかった。

 

 ◆

 

「綾波さん」

 

「……なに?」

 

 授業の終わり、私は綾波さんに話しかける。ずっと外を眺めていた綾波さんは私を見る。見惚れる水色の髪。吸い込まれるような赤い瞳。まるで人形のような顔だ。

 

「この前は面と向かって話せなかったから改めて紹介させてほしいの。私は碇カノン。よろしくね」

 

「……よろしく」

 

「ところでエヴァのことなんだけど、どうしたら上手く操縦できるようになるの? 綾波さんはわかる?」

 

「……心を開くの」

 

 綾波さんって口下手だったりして。ずっと一言で済むようなことを言っているし、そもそも言葉に生気を感じられない。おそらく私以上に人と会話がしたことがないのだろう。

 

「心を開くって……どういうこと?」

 

「……エヴァに心を開くの」

 

「それは……難しい?」

 

「……慣れるとそこまで難しくないわ」

 

 ノウハウ……のようなものかな? 職人が言葉では言い表せない技術があるのと似たようなもので、感覚で掴みを得るというのなら、このアドバイスは私にはまだ早そうだ。

 

「そうなんだ。ありがとう。じゃあさ、今度綾波さんのテストとか実験のときに見学させてもらってもいいかな? 参考にしたいんだ」

 

「……ええ」

 

「ありがとう! 頑張ろうね!」

 

 良かった。これで私の実力も上がってほしい。綾波さんの手を掴んで振ると、目を見開く。もしかして人との接触が嫌だったかもしれない。「急に触ってごめんね」と言ったら「……大丈夫よ」と言いながら自分の手を凝視している。

 なんだかその仕草が可愛らしくて、綾波さんの口数をもっと増やしてみたら会話が弾みそうな気がした。

 今度はヒカリにハンカチを返さないとだ。今は鈴原君ともうひとりもいない。ヒカリもいない。トイレに行っているのかな?

 教室を出ようとしたその時、ポケットの携帯が鳴った。ネルフからの呼び出し、非常召集だ。

 どうやら綾波さんの携帯にも同じ連絡が来たらしく、ふたりで一緒にネルフに出向することになった。

 

「今って零号機は凍結中なんだよね。たぶん使徒だろうし、出撃するのは私だけか」

 

「……ごめんなさい」

 

「謝る必要なんてないよ。でも凍結解除されたらいっぱい頼らせてもらうからね」

 

「……ええ」

 

 校門に黒い車が止まっている。黒服の人たちが私達を見つけると手招きをしてくれた。急いで車に乗り込んで、ネルフへ向かう。

 

『来たわね。使徒はすでに防衛ラインを突破。すぐにでも出撃してもらうわ。いいカノンちゃん?』

 

「はい」

 

 ミサトさんが通信で連絡してくる。私はプラグスーツに着替えながら得られた使徒に関するデータを閲覧する。

 スルメみたいな形で、胸にムカデのような脚。二本の触手。赤のデザインで、前回とは全く違ったタイプであることがわかる。

 エントリープラグに乗り込んで、エヴァに挿入される。虹色の光景が広がり、シンクロが完了する。

 

『エヴァ射出後、敵A.T.フィールドを中和しつつパレットの一斉射。練習どおり大丈夫ね?』

 

「はい」

 

 コアらしき場所はわかっている。強襲して一気に撃破する。これが一番理想的な流れだ。

 

「エヴァ初号機、発進!」

 

 カタパルトの急上昇に慣れるのは時間がかかりそうだ。レバーを力強く握ってなんとか耐え抜く。射出口から素早く身を現し、装備しているパレットの引き金を絞る。

 目標をセンターに入れてスイッチ! 実戦となると緊張してしまう。パレットの反動が普段より大きく感じてしまう。コアを狙ったつもりで撃ったが、おそらくほぼが外れた。

 弾着の煙で使徒の姿が霞む。これ以上撃ち続けても意味がなさそうだ。

 

『煙で敵が見えないわ! 落ち着いて! いったん留めるのよカノンちゃん!』

 

 射撃を止め、様子を伺う。使徒が撃破された時、多量の血色の液体が飛び散るはずだ。それがないということは撃破できていないということ。

 仕留め損なった。

 煙を裂き、二本の触手が鞭のように激しく襲いかかってくる。反応が僅かに遅れた私はパレットを破壊されてしまう。

 

「うあっ!」

 

 そのまま後ろに倒れ、尻もちをつく。

 

『予備のライフルを出すわ! 受け取って!』

 

 すぐ左手のビルのシャッターが上がり、ライフルが現れる。

 立て! 立て! 私!! ここでうじうじすることは許されない!!

 左手を伸ばす。しかしそれを察知した使徒の触手がしなるように伸び、ビルを破壊した。

 

「っ!」

 

 すぐ目の前にまで使徒が迫り、この前を思い出す。倒れる私を無言で見下ろす使徒。殺意をもった、明確な敵としての使徒を。

 触手が暴れる。

 右に身を投げ、その猛攻から逃げる。修復されたビルも、容易く使徒の攻撃で破壊される。あの攻撃の前では近づけそうにない。

 一瞬のミスが命取りだ。私はその内、アンビリカルケーブルが断線したことに気づく。回避ばかり考えていて、このことを全く考えていなかった!

 

「どうすればいいですか!」

 

『まずは距離をとって! その後ビルを利用して接近、死角に入り込んでナイフで仕留めて』

 

「わかりまし、た!」

 

 ステップを踏む。使徒から離れ、呼吸を整えよう。

 しかし何かに足首を掴まれてしまう。見るまでもなく触手であると理解する。ずっと私は視界の中央で暴れる範囲を注視していた。つまり視界の端、地面スレスレで私の認識外を狙われたのだ。

 

 ――やられた!

 

 と思ったと同時にエヴァを軽々と宙に投げ捨てられる。

 激しく山に背中から落下し、私はフィードバックの痛みに呻く。

 

「ううぅ……」

 

 しかし、おかげで使徒との距離が取れた。今から急いで非常用電源の場所まで戻れば、戦闘に復帰できる。

 

『ダメージは軽微よ! いけるかしら⁉ 無理なら一度撤退もあるわよ』

 

「大丈夫です、いけます!」

 

 呼吸を整えて、いけると自分を励ます。撤退なんて許されない。今ここで必ず倒す。私はそのためにずっと訓練したのだ。

 鈴原君の言葉を思い出す。『足元よう見とけよ』と。私の操縦が下手なせいで身近な人が怪我をしている。それが私には何よりも耐え難い苦痛だった。

 大丈夫、立ち上がれる。まだ戦える。

 ……ふと、手の辺りに見慣れない色が見えた。山はだいたい緑だから、異物との違いがよくわかる。なんだろうと思い、その正体を確認する。

 

「――――――ぁ」

 

 そこには鈴原君とたぶん相田君であろうもうひとり、そしてなぜかヒカリもいた。

 私の落ち着きは、乱された。




シンジは惰性でエヴァに乗ってるけど、カノンはきちんと目標をもっている。
しかし両者ともに『それ以外にすることがないから』エヴァに乗っている。
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