消えてしまった。
何もかも。
家族皆で過ごした生活。皆で一緒に食べに行ったライスカレー。辛い物がダメだって、あの時初めて知ったっけ。
あの後、高熱でうなされる私の傍で、ずっと看病してくれた母。仕事が終わったら父が代わりにしてくれた。
温かかった。
なのに、もう無い。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その日は生憎の雨で、体の芯まで凍ってしまいそうな程の寒さだった。もうそろそろ春だねって、友達と話してたのは昨日の話。降るならせめて雪にして欲しいよねって、父に頼まれた御遣い先のおじさんと話してた。
家に帰るとそこにあったのは、血の臭いと悲鳴が残る壁。本来そこにいる筈の父と母は形を成しておらず、流体と言っても文面上での問題は何も無かった。
「お前、ここの娘か。」
口を開くのは、異物。本来そこにいる筈の無い化け物。その異臭漂う口からは、恐怖と、愉悦、そして空腹が感じられた。
声が出るはずが無かった。だって、私はただの人で、この家の一人娘。食べられるだなんて、考えたこと無かった。
でも、食べられるなんて事は無かった。気付いたら、目の前にいた筈の異物は頸を落としていて、代わりに立っていたのは刀を持ったお爺さん。
「...お前は、何がしたい?」
「...えっと」
「
何を言ってるのか分からなかった。でも、このまま生き続けるなんて、私には出来ない。
答えは一つしか無かった。
「これを、殺し、たいです。」
雨はいつしか雪になっていた。
唇の震えが止まらなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
このお爺さんは
あの後、私は龍飛さんの家へと連れてかれた。
「鬼を殺す方法は二つ。陽光を浴びせるか、この刀、日輪刀で頸を斬るか。」
龍飛さんの振るう刀は薄い水色をしていた。この日輪刀は、『色変わりの刀』と呼ばれているらしく、持ち主によって刃の色が変わるらしい。その色によって呼吸の流派の適正が分かるとか。
「呼吸の流派、とは何でしょう?」
「全集中の呼吸。殺す術を持ったとしても、身体能力という点で人は鬼には勝てない。だが、呼吸によって人は鬼と渡り合う身体能力を得られる。流派とは、呼吸の基本となる剣術の流派の事だ。」
「成程。」
「流派は、炎・水・風・岩・雷の五系統が基本。そこから幾つもの流派が派生している。」
縁側に座っていた龍飛さんは、日輪刀を杖代わりにして立ち上がると、鞘からその刀身を月に見せるようにして抜いた。
綺麗だった。
龍飛さんの振るう剣筋は、素人目に見ても綺麗で、なんというか透き通っていた。
「儂の呼吸は『氷』。水のように柔らかくはない。お前は、本当に鬼を殺す道を選ぶか。」
冷たい目をしていた。
私は、この気持ちを鬼にぶつけたいと願った。
「鬼を殺します。家族の仇を、必ず。」
龍飛さんは刀を鞘に納めると、私の目を見てきた。そういえば、この人が私の目をちゃんと見るのは初めてかもしれない。
「お前、名前は。」
「
何故か、涙が止まらなかった。震えが止まらなかった。
本当に今日は寒い。