「チィ!今度はなんだよ!!」
口に溜まった血を吐き出しながら轟音に疑問を浮かべる虎徹。怒りのヒートゲージは限界を知らず、それでも冷静に鬼の頸を狙った斬撃を繰り出す。
「あっちも始まったんやなー。」
「おい!余所見すんな!」
「ええ〜。余所見してても避けられるんやから別に良くない?」
別に太刀筋が悪い訳では無い。型としての完成度は完璧と言える。単純に圧倒的な力の差故、躱されてしまうのだ。
━━━━魁の呼吸"弐ノ型"高速三段突き
「おっ、いい速さやね〜。」
並の剣士では目で追えない程の速さで下段、中段、上段へ突きを放つ。だが間一髪の所で避けられ、刀の引き際に合わせて蹴り飛ばされた。
「ぐっ...」
「ん〜、どーしよっかな〜」
口に手を当てて何かを考える下弦の壱。銀色に揺れる髪は、それだけでこの鬼をあどけない少女のように見せる。
「他の鬼狩りが居たらちょっとは楽しくなるんだろうけどな、もう食べちゃったし...」
「てんめぇ.........!!」
━━━━花の呼吸"伍ノ型"徒の芍薬
火炎の中から九連撃。隙だらけ、更に意識外からの攻撃に髪を一部切り落とされた下弦の壱は、炎縄を地面に叩きつけ、その衝撃で跳ね上がりその場から一旦離れる。
「階級丙!胡蝶カナエ、増援に来ました!」
所々羽が爛れた蝶が舞い降りた。凜乎とした瞳は、刃と同じような切れ味をしている。
「へぇ、良い水の匂いやね......いいわ。ウチは下弦の壱 驟雨。相手したげる。」
キュートアグレッションに駆られた鬼は、炎縄を握り直してその蝶と向かい合う。動物の甘噛みに当たるそれは、人間が受けるには切れ味が良すぎる。
好奇の目を向けられたカナエもまた、刀を握り直すのだった。
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「コッチダ!早ク逃ゲロ!!」
火事に見舞われた街は悲鳴と混乱の大合唱だ。街の彼方此方で怒号に泣き声。暴れ出す大男に祈り出す老婆。
━━━━水の呼吸"肆ノ型"打ち潮
「こっちです!早く!!」
そんな状況で慌てない人間が一人、哉恵だ。
焼けて倒壊した建物を斬り飛ばし、火の壁を切り崩す。そうして街の外まで出来た道を住人達は波のように押し寄せて逃げていく。
「うっ...」
この熱気もあってか、更に哉恵の身体の熱は高まっていく。熱のせいか、勘──第六感が機能していない。ここだと思った場所には何も無い事が幾度もあった。だからといって足を休めること無く、まだ逃げ切れていない人間を探す。
「.........助けて......」
声が聞こえた。助けを求める声だ。年端もいかない少女の声。
哉恵の足は真っ先に其方へ向かった。
「どこにいるの!!返事して!!」
木製の家屋しか無かったその通りは全て燃え崩れ、辺りは火の海と化していた。
「助けて...」
声の主は家屋の下敷きになっていた。顔は伏せて見えないが、三つ編みの少女。押し潰されてるその姿は、見てるだけでも痛々しい。もう死んでるのではないかと思ってしまう程に。
「大丈夫、今助けるから。」
━━━━氷の呼吸"壱ノ型"砕氷
刀を抜き、横一閃の斬撃。氷の波は炎の角材を吹き飛ばし、その
「助けてよぉ〜」
━━━━雷の呼吸"肆ノ型"遠雷
斬撃が飛んだと思わせる程、伸びる斬撃が其れを襲った。片腕を捥ぎ取るに至ったそれは、時を同じくして向こうに吹き飛ばされている。
「あーしが此処燃やしてから16人。これ食べた人間の数。分かる?鬼狩り。あんたは無力な人間なの。せめて戦いぐらいでは私を楽しませてくれよな。」
「それはコッチの台詞だ...」
火の粉と木屑を払い落とし、折れた角材と炎の原っぱから立ち上がる。瞳の先は鬼の頸、刀の先も鬼の頸を見つめる。
━━━━血鬼術"炎縄・撓り穿ち"
━━━━氷の呼吸"参ノ型"颯颯
仔牛を飲み込もうとするアナコンダのように真っ直ぐ突き進む炎と、鋭い氷の刃がぶつかり合う。
「はははは!!コッチはそこそこ出来そうやんな!」
拮抗したと思われた炎と氷は、鬼の濁った笑い声と共に呆気なく散った。氷は砕かれ、炎の蛇は哉恵の頬を掠めて背後のボロ木を貫いた。
━━━━氷の呼吸"伍ノ型"萌氷種
━━━━血鬼術"炎縄・
炎縄が伸びきったのを見切って真っ直ぐ駆け出す哉恵。前方の攻撃範囲に定評のある萌氷種を放つも、跳ね返った炎縄が哉恵の身体を貫かんとする勢いで直撃し、それは失敗に終わる。
「がっ......」
痛みのせいか、はたまたその熱のせいか地面に倒れ込んでしまう。
「あらら、もうコレで終わりなん......ってうわ、すごい熱。こんなんでよう戦おうと思ったね...早う家に帰っておねんねしな。」
「黙れ...鬼のくせに」
家なんて無い。寝るベッドも、看病してくれる親もいない。そんな現実を振り払うように刃を振るうも、素手で簡単に止められ呆気なく奪われてしまう。刀を鞘に納めると、鬼はそれを哉恵の手元に投げ捨てる。
「そんな気ィ落とさんでえーよ。ウチ下弦の弐やから、普通に強いねん。」
「下弦...弐?」
下弦の弐、炎を操る。
「そ、こんな身体で少しでも打ち合えた君すごいよ。ホント。尊敬する。まぁ前食べた氷の鬼狩りの方が良かったけど...爺さんの癖に強かった。うん。とりあえず見逃したげるから、次会った時やろ。」
氷の鬼狩り。
点と点が結ばれていく。いや、薄らと紡がれていた糸が強固なものとなっていく。
一年前の情景が脳裏に浮かび上がる。拾ってもらった、剣を教わった、一緒に生活を共にした、送り出された。
「...
「え、そう言ったやん。」
新橋色の刀身が鞘から顔を覗かせた。その瞳は濁った白。待雪草のように頭を垂れるそれは、子供じみた鬼の顔を火種として爆ぜた。
「お前は...私が殺す!!!!!」