砕いた氷、斬られた月   作:とある世界のハンター

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滴る狼

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━血鬼術"炎縄・巡輪(めぐり)"

 

 ━━━━氷の呼吸"弐ノ型"英欠達磨

 

 螺旋を描く炎と、弧を描く氷がぶつかり合う。突貫力、そして素の実力で勝る炎は揺らめき余裕の表情を見せる。

 

「氷が粗いなぁ。どしたん、なんならさっきのが強かったちゃうん?まああの爺さんには及ばんけど」

 

「あああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!」

 

 哉恵の瞳は怨嗟の色に染まっていた。声を荒らげ、身体の熱は限界を知らずに更に上がっていく。そんな哉恵の一撃一撃を確実に受け止め、そして砕く下弦の弐。病人であることを気遣っていた一面はもうそこには無く、ただの人喰い鬼としての彼女が戦況の手網を握っていた。

 

「おらっ!」

 

「ガッ!」

 

 右足を軸にした回し蹴りで哉恵の腹を蹴り飛ばす。その顔は、この熱さの中でも涼し気なものだった。

 

 ━━━━血鬼術"炎縄・撓り穿ち"

 

 ━━━━氷の呼吸"漆ノ型"霏霏豪雪

 

 距離が離れたのを好機とし、足りない火力を補う為の連撃の構え。初撃を去なし気味に弾き、折り返しの"山巓彎"も振り返りざまに斬り伏せた。

 

「おぉ、やっぱそれ凄いんやな。」

 

 流石の下弦の弐も焦りを見せたか、という事ではない。只の関心。焦燥感など感じさせず、落ち着いた動きで縄を手繰り寄せる。

 

 ━━━━血鬼術"炎縄・巡輪"

 

 地面に打ち付けられた炎が、回転状の牢獄となって哉恵の行く手を阻む。だが哉恵は止まる事無く突き進む。三撃目、四撃目、五撃目、その剣は止まることを知らない。縄を断ち切らんとする。

 

「足元がお留守やよ。」

 

 ━━━━血鬼術"炎縄・眩廻(くるめまわり)"

 

 縄の先が哉恵の足を掴んだ。その熱さに哉恵は顔を顰めるが、それより先に身体は宙に浮いていた。空中で円を描いた鬼狩りは、下弦の鬼に向けて投げ飛ばされる。それを彼女が両手で受け止める筈も無く、右拳をがっしりと握り締める。

 

「っらァ!」

 

 腰を入れた一撃は哉恵の下腹部を捉えた。

 その一撃は、意識を刈り取るには充分過ぎる威力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫

 

 

 

 

 

 

 

「うをおおお!!!」

 

 ━━━━魁の呼吸"伍ノ型"壬生狼(みぶろう)狩り

 

 ━━━━血鬼術"炎縄"

 

 赤い線と白い閃光の衝突。燃える炎の先に映るのは魁柱。炎を背にするのは下弦の壱、驟雨。大太刀は天から地へと放たれ、勢いをつけたそれは炎縄を切断するに至った。

 

 ━━━━花の呼吸"肆ノ型"紅花衣

 

 追い討ちをかけるようにカナエの剣は振るわれる。敢えて晒された頸に刃が触れるも、頸を数センチ抉ったところで止められてしまう。

 

「くっ...」

 

 ━━━━魁の呼吸"壱ノ型"慈弦断

 

 間髪入れずにカナエの横から刃が飛ぶ。カナエの刃と対になるように切り込んだそれは、簡単に炎の縄で包み込められた。

 

さっき(伍ノ型)のじゃないと斬れへんみたいやなぁ。まあもうさせんけど。こっち(花の剣士)は力が足りひんみたいやし.........そろそろ飽きたな。」

 

 今までの浮ついた軽薄さは一気に吹き飛び、そこだけが重力が強まったように押し潰される気配に圧倒された。何百トンもの水を全身で浴びているような感覚だった。空気は震え、髪が揺れる。暑さではない汗が頬を通って滴り落ちた。

 

(違う...)

 

 カナエは気付いた。これが汗では無いことを。それは虎徹も同じだった。

 

「雨...?」

 

 先刻まで空は確かに晴れていた。雨の匂いはしなかった筈だと、虎徹の頭の中では疑問符が生まれる。

 

「あめあめふれふれ母さんが〜」

 

 雨は次第に強まり、この惨劇を文字通り水に流した。驟雨は我関せずといった態度で、手頃な角材を椅子がわりにして雨が降る様を日向ぼっこするかのように見つめる。

 

(今が好機!)

 

 ━━━━魁の呼吸"伍ノ型"壬生狼狩り

 

 動かない驟雨に対して隙ありと判断した虎徹。しかし、カナエはそれが悪手である事を理解した。哉恵程では無いが、彼女の勘は当たる。だがもう遅い。

 

 ━━━━血鬼術"影虎"

 

 空を舞う狼を、地を這う虎が噛み殺した。

 腹を貫かれた柱は、それとしての機能を失った。

 

「魁柱さん!」

 

 カナエが駆け寄る頃には、既に息絶えていた。

 

「こっちはこんなんやしな〜。他の血鬼術も使っちゃったし、怒りそうだよな〜。う〜ん、う〜ん...」

 

 口に指を当てて考える驟雨。彼女の頭の中にあるのは、下弦の弐との約束を破ってしまった事だけ。

 

「あっち言って謝るかなぁ...うん。使うなって言われてたしなぁ。」

 

 ━━━━花の呼吸"肆ノ型"紅花衣

 

 柱の死。それはあまりにも呆気ないものだった。

 胡蝶カナエは今までに人の死を幾度か見てきた。初めて鬼に襲われた時。そして鬼殺隊に入隊してからの一年間。人の死に直面した時に動揺を表に出す事は無くなってきた。だが、柱という大きな存在が、簡単に砕け散った様を見てしまった彼女の精神状態は並々ならない状態だった。

 

「手土産でも持っていけば許してくれるかな。」

 

 だから、いとも容易くその刃を受け止められてしまった。

 蝶の羽根を摘んだ瞳は、明らかに自分とは違う存在であることをカナエに実感させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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