砕いた氷、斬られた月   作:とある世界のハンター

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降り出す時雨

 

 

 

 

 

 

 

「月が綺麗ねぇ。」

 

 冬の空に真っ白な月。その光は、刀身に移る彼女の横顔そっくりの切れ味。

 

「十五夜はとっくに過ぎてるけれど。」

 

 縁側には哉恵とカナエが二人。しのぶは部屋で目録を記している。刀の手入れをする哉恵を尻目に、カナエは満月を眺める。青白い満月。

 

「良いじゃない。月はいつ見ても綺麗だもの。」

 

「そう。」

 

 刀の手入れを終えた哉恵は、鞘に納めて傍に置いた。そうして白い息を吐いた後、口を開いた。

 

「...話って何。」

 

「...えっとね、屋敷を使って良いって言ってくれたじゃない?お礼してないなって思って。」

 

「違うでしょ。」

 

 淡紅藤の瞳が揺れた。真っ白な瞳はカナエから目を離さず、上っ面の言葉ではなく彼女の本心を見つめるものだった。

 

「...うん。」

 

 本当に言いたい事はこれでは無い。

 

「...下弦を倒したあの夜、私凄い怒ってたの。」

 

 一息ついてからカナエが口を開いた。悲しみが零れる彼女に、心当たりのある哉恵は弱りきった顔で頭を下げた。

 

「...ごめんなさい。」

 

「ううん。違う、違うの。哉恵ちゃんに怒ってるんじゃないの。」

 

 込み上げてくる悲しみを拭き取りながら、哉恵に頭を上げるように手で促す。疑問を浮かべる哉恵の瞳に、今度はカナエが向き合った。

 

「私は、目の前で人を死なせてしまった...」

 

「...魁柱。」

 

 カナエは静かに頷いた。

 

「人はいつか死んでしまうもの。鬼殺隊に入る前から覚悟はしていたわ。」

 

 神妙な顔付きで話すカナエに、哉恵も姿勢を正す。

 

「隊士なら、死ぬ覚悟は出来てたのかもしれない。でも、それでも私は人を救う為に鬼殺隊に入ったから......」

 

「隊士も救いたい。」

 

 涙で遮られた言葉を紡ぐ哉恵。カナエはそれに頷いた。

 

「でも、私にその力は無い......ねぇ、どうしたらいいのかな、私...」

 

 怒り、悲しみ。似て非なる感情がカナエの腕に伝わった。血が滲む程強く握り締めた拳は、カナエの強さと弱さを感じさせる。

 

「藤襲山でカナエは言ったよね...鬼は元は人間だった。それなのに人を喰らい太陽を恐れる...そんな鬼を倒したら、悲しみの連鎖が切れる。」

 

 カナエの手に自らの手を重ねる。白く美しい手。

 

「.........柱になれる力があれば、その夢を実現できるんじゃないかな。」

 

「...つまり、もっと強くなれって事ね。」

 

 雨は上がった。女性的な笑い声を零すカナエに、哉恵も釣られて口角が上がる。人を励ますという行為を、彼女は滅多にしてこなかった。こういうのには、どうにも慣れてない。

 

「ふふっ...前の哉恵ちゃんより、今の哉恵ちゃんの方が好きだな、私。何かあった?」

 

「...さぁ。」

 

 鬼に対する気持ち。

 あれだけ鬼に対しての憎悪を侍らせ、そしてそれを辺りに振り撒いていた彼女は、ほんの少しだけ彼等の存在を許容してしまった事を胸の内に隠そうとする。熱を出した時に看病してくれた母と、熱を心配してくれた楓哇を重ねてしまった夢の中の自分に、喜びとほんの少しの怒りを拳に乗せて殴り続ける。

 

(前の哉恵ちゃんなら、この夢を応援するなんて事絶対にしなかったのに。)

 

 冬の空は青く冷たい。藤の匂いが香る屋敷を照らす月明かりが、優しく二人を包み込む。

 

「月が綺麗だね。」

 

 

 

 

 

 

 

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「だから〜、下弦辞めさせてくださいって。」

 

 無限城━━━━鬼の始祖である鬼舞辻無惨が棲う城。鳴女と呼ばれる鬼の血鬼術でしか出入り出来ない城に、鬼が三体。鳴女、驟雨、そして鬼舞辻。

 

「...」

 

「うんともすんとも言わないんすね。」

 

 本来、鬼と鬼舞辻は絶対的な上下関係だ。十二鬼月であろうとも、それは変わらない。敬意を払わない鬼など、彼の機嫌を損ねてしまい頸を刎ねられてしまう。

 だが彼はそれをしなかった。ひたすらに心の内の憤懣を噛み潰すのみ。

 

「...それを断ったら、お前はどうするつもりだ。」

 

「え?そりゃあもう力ずくで辞めますよ。」

 

 鬼舞辻の言葉に快活な表情で応える驟雨。鳴女は彼女の言葉に狂気を、そして恐怖を感じた。

 

「楓哇に誘われて入ったようなものですし、あいつが居なくなったら此処にいる意味ないんです〜」

 

「...そうか。」

 

 鬼舞辻の表情から感情が抜け落ちていく。他の鬼であれば、恐らく容赦なく殺していたであろう。しかし鬼舞辻はそれをしなかった。彼女を特に気に入ってるから、という訳では無い。

 

「...好きにしろ。」

 

「ありがとうございます!」

 

 驟雨の右眼に刻まれていた『下弦 弐』の文字は過去のものとなった。晴れて自由の身となった驟雨は、鳴女に一声かけて無限城を後にした。

 

「...」

 

 驟雨が去った後に、鬼舞辻も姿を消した。彼は人間世界に溶け込んで生きている。表の姿を全うしに向かったか、はたまた人を喰らいに出掛けたのか。鳴女の知る事ではなかった。

 

『それでは御機嫌よう。()()()。』

 

 驟雨の去り際に残した言葉が、彼女の頭の中を駆け巡った。

 

 

 

 

 

 

 

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