「...継子?」
哉恵が氷柱に就任してから半年が経った。並の隊士とは比べ物にならない程の業務量の多さに、最初は哉恵も手間取っていたが既に慣れたようだ。氷屋敷改め鬼殺隊専用診療所、日中という名の休息を、彼女はそこで過ごしていた。
「そう。今此処で療養してる子が居るんだけど、氷の呼吸に興味あるらしいの。一緒に任務に行ったけど結構いい腕してたわ。柱なんだし、作ってみたらって思って。」
継子───柱に実力を見出された直弟子にあたる隊士の事。柱の控えとして育てられる隊士。
(継子...ねぇ)
興味が無い訳では無かった。しかし、教えるとなるとどうにも気が乗らない。
「...まぁ、会ってみるか。」
━━━━雷の呼吸"伍ノ型"熱界雷
上昇気流にも似た軌道の斬撃が、咄嗟に受け身の体勢を取ったカナエを撃ち上げる。
「吹っ飛ばしながら言わないでほしいのだけど。」
ひらりと舞って難なく着地する。この半年間、カナエはこうして任務の合間に哉恵と打ち込み稽古を行っていた。今では階級は甲となり、更に実力も甲の中では頭一つ抜けているという状態だ。
道着から隊服に着替えた彼女達は、稽古場を後にした。稽古場から病室迄は遠くはない。雑談の花が枯れ落ちるよりも前に彼女達はそこに着いた。
「はいはーい。」
ノックをすると元気な少女の声が帰ってきた。彼女がそうなのだろうと哉恵は直ぐに理解した。扉を開けると、その声の主が身体を起こして待っていた。
「あ、カナエさん!こんにちは!」
「こんにちは、真菰ちゃん。怪我の方は大丈夫?」
「はい!カナエさんの救援が速かったお陰で、大事には至らなかったそうです!」
「そう...良かった。」
少しだけ、陰り。
「ところで、其方の方は。」
真菰の視線はカナエから哉恵へと移る。
「氷柱、灑津幡哉恵。」
白い瞳、碧い瞳。氷と水。
水を凍らせる氷が、彼女の水を包み込む。
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「氷の様に鋭く、水を凍らす。」
「...まだ踏み込みが甘い。もう一度。」
数日後、氷屋敷の庭に隊士が二人。哉恵と真菰だ。あの後、真菰から継子にして欲しいという申し出を受け、一言返事で了承した哉恵は真菰を継子にした。継子を作ったものの、他の柱は
(身体に水の呼吸が染み付いてる...まだ、柔い)
水はどんな形にもなれる。氷はその揺れ動く水を停止させ、鋭く磨き上げたもの。元は柔らかいが、氷は堅く、剛いのだ。
「休憩にしましょうか。」
「はいぃ...」
手拭いを片手に縁側でぐったりとする真菰。二人が出会ってから日は浅いが、彼女達の仲は悪くはなかった。少なくとも、互いに嫌悪感は抱いていなかった。真菰は哉恵の事を尊敬し、哉恵は真菰の実力を認めていた。
「...師匠は、なんで鬼殺隊に入ろうと思ったんですか?」
夏特有の蒸し暑い風が靡いた。
「...親、そして師の仇の為...だった。真菰はどうして?」
「私は一人だったところを育手の方に拾われて、そこで剣を教えられました。恩返しも兼ねて、ここに。」
「そう。」
「その時に氷の呼吸について聞いたんです!『お前はいつか、腕力という壁にぶつかるだろう。水から派生した氷は水よりも剛いから、機会があったら教わるといいだろう』って。今いる氷の呼吸の使い手は、哉恵さんだけですから。」
「...そうね。」
不意に寂しさが哉恵の心を過ぎった。鬼への恨みが消えた訳では無かったが、彼女が今刀を握る理由は『救い』だった。だけども、失ったものは救えない。それが彼女の心を冷たくさせる。
「だからこそ、私は氷柱を名乗ってる。」
(呼吸を紡ぐ事が、龍飛さんの救いになるなら...)
それが本人の望む事かは今となっては分からない。だが、哉恵の勘はそうだと告げる。
「じゃあ、再開しましょうか。」
「はい!」
大正コソコソ話
隊士が柱として就任する際、柱の名前を決めるのは本来お館様だが、哉恵の時は命名権は哉恵に委ねられた。今は亡き師を思い、氷柱と名付ける。
音柱がよく