砕いた氷、斬られた月   作:とある世界のハンター

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熱情の眼

 

 

 

 

「うまい!うまい!」

 

「美味い!美味い!」

 

「真菰、真似しない。」

 

 真菰が継子となって数週間が経過した。初めは氷の呼吸のコツを掴めなかった真菰も、粗はあれど実践に使えるレベルまでに磨き上げていた。

 

 閑話休題。

 

 ここはある町の定食屋。氷柱である哉恵と真菰は任務を受け、共にこの町に来ていた。さらに、今回の任務にはもう一人隊士が居る。

 

(階級甲、元炎柱の息子で次期柱として名高い隊士...煉獄杏寿郎。)

 

 その実力は柱にも引け劣らない。柱の力を見た者達は、皆口を揃えてそう言うという話だ。

 カナエの言っていたことを思い出しながら、山葵入りの汁に漬け込んだ蕎麦を、一気に飲み込んだ。

 

「今回の相手は下弦の肆。こちら側()としては、煉獄に頸を斬ってもらいたい。」

 

 現在の柱は岩柱、音柱、そして氷柱の三人。前回の柱合会議で、柱の少なさが隊士の士気の低下に繋がっているのでは無いか、という話が出た。柱として最古参である悲鳴嶼曰く、隊士全体としての実力は年々低下している様だと。柱に成り得る隊士を、早急に柱として迎え入れる。それが柱としての意向だった。

 

「承知した!しかし氷柱殿、もしそれが原因で一般人を危険に晒す事になるのであれば、俺は一般人を優先する。そこは了承して欲しい。」

 

「勿論。でなければ、私は貴方を柱として認めない。」

 

「そうか、なら良かった!」

 

 見開かれた双眸の奥には、情熱的な正義が映る。炎のように熱く快活な表情は、隊士達の闘志を滾らせるに違いない。

 彼は柱になるべき人物だと、哉恵は勘ではなく肌で感じ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 ■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫

 

 

 

 

 

 

 

 この町の近辺に鬼が潜んでいる。夜な夜な人々が行方不明となっており、そのせいか、ここは昼間から活気のない物静かな町となっていた。町は三方を田圃に、そして残りの一方を山に囲まれている。昔は鉱山だったが、直ぐに資源が尽きて棄てられたのだと、町民は教えてくれた。

 

「既に送り込んだ隊士達が廃鉱内で交戦した後、殆どが死亡。生き残った隊士は日の出ている内に外に逃げれたらしい。皆それなりの実力は備わっている隊士だったが、鎹鴉曰く、血鬼術を使用している様子は見られなかったそう。」

 

(実力があった...とは言っても、全員刀を折られる程度の実力か。)

 

 生き残った隊士達の刀は全て折れていた。隠により回収され、応急処置を施された後に哉恵と入れ替わる形で屋敷に運ばれていた。

 

「...つまり、肉体を強化する類の血鬼術という事ですか?」

 

 何時もの調子よりも抑えられた声で真菰が口を開いた。真菰が十二鬼月と相見えるのはこれが初めてだ。顔や肩に力が入っている。煉獄も唇を固く結んでおり、その瞳に不安が映ってる様に見える。

 

「断定は出来ないけれど、恐らくそう。頭の片隅に置いといて。」

 

「承知した。」

「了解」

 

 現在、彼等は町を出て山を登っていた。町で戦うか山で戦うかを考えた時、町民を危険に晒す訳にはいかないという煉獄の意見に賛同して、哉恵は後者を選んだ。

 

「...深呼吸。刀を構えて。」

 

 ゴツゴツとした山道を進むと、月がよく見える開けた場所に出た。廃鉱が大きく口を開けているのがよく見える。奥は引き込まれそうな程の闇。暗澹とした洞窟には、それだけではない雰囲気があった。哉恵の言葉と共に刀を抜く二人。煉獄の髪が揺らいだ。

 

「おっほほ、まーた鬼狩りか。」

 

 左の瞳に『下弦の肆』。間違いなく、彼が今回の標的。

 

「煉獄、真菰。いくよ。」

 

 ━━━━雷の呼吸"壱ノ型"霹靂一閃

 

 最初に仕掛けたのは哉恵。狙うのは頸、では無く胴体。袈裟斬りにするのは、頸を斬る程では無いにしても鬼には有効な手段だ。ダメージは大きく、回復も腕や足を斬り落とすよりも遅い。

 

「中々速いな。お前、柱か?」

 

「師匠!」

 

 だが、その一撃がそれを切り裂くことは無かった。

 哉恵の身体が洞窟の口の前で止まった時、折れた刃先が荒れた山肌に突き刺さる音が響いた。

 

「っ、気を付けて。コイツの体、異常に硬い!!」

 

 ────例えるなら、鋼。

 

 折れた刃を取り出して、哉恵は受ける体勢に入った。女とは言え、仮にも柱。身体は高熱を出しながらも本調子で、普段よりも筋力は増している。太刀筋に違和感も無い。眼は標的を視認しつつ、心では状況整理を行っていく。

 

「はは、刀が無けりゃお前ら人間は俺を殺せねえもんな。迂闊に手も出せないだろ。」

 

 自らの肉体に自信があるのか、頸を守る素振りは見せず、寧ろ斬ってくださいと言わんばかりに両手を広げ、身体の力を抜いている。戦う前から勝負に勝っていると、そう思っているのだろう。それが彼の根底にある思考なのだろう。

 

「要は、朝日が出るまで粘れば良いという訳だな。」

 

 戦闘に入ってから、一度も口を開かなかった煉獄が下弦の肆に問いかけた。鬼の弱点は頸だけでは無い。陽の光ならば、灼いて鬼を殺す事も可能だ。昼の穏やかだった眉は、寄せられて確固とした熱を帯びている。

 

「ほー確かに。俺の唯一と言っても良い弱点だそれは。でもその前にお前らを殺して、俺はまた穴蔵に戻るよ。人間は疲れるけど、俺は疲れないからな。戦ったってジリ貧になるだけだ。」

 

 今はまだ日を跨いですらいない。現在の三人で、常に受け身の態勢を取りながら日の出まで時間を稼げるかと言われたら、不可能だ。哉恵を含め、三人はそう理解した。

 頬を流れる汗が顎まで伝って、重力に従って乾いた地面に染み込む。各々構えを取りながら、鬼の攻撃を待つ。このまま雨が降ろうとも、待ち続ける心構えだ。

 

 ────でも、この鬼の力が中級程度の鬼なら、もしかしたら耐えられるかも

 

 真菰の脳裏に、そんな想いが過ぎった。

 

「っ、たァ!」

 

 ━━━━全集中・水の呼吸"陸ノ型"ねじれ渦

 

 しかし、真菰の甘い考えはあっさりと崩れてしまった。真菰に向けて突き出された下弦の肆の拳。彼女はそれを往なしで対処しようとしたが、それは彼女が今まで戦ってきた鬼のどれよりも鋭く、力負けしてしまう。

 

「ぐっ。」

 

 故に、尻もちを着いてしまった。そこからの鬼の反応速度は速かった。

 

 ━━━━雷の呼吸"壱ノ型"霹靂一閃

 

 頸を狙った一撃も、簡単に弾かれてしまう。柱の斬撃など無かったことにする様に、鬼の拳は真菰目掛けて放たれる。

 

 ━━━━炎の呼吸・奥義"玖ノ型"煉獄

 

「時間を稼いでくれたお陰だ!すまない!」

 

 鋼にすら思えた鬼の身体は、赤き赫刀によって抉られ、そして頸を斬られた。

 

 玖ノ型 煉獄は、炎の呼吸で最も正面の敵の身体にダメージを与えられる技だ。しかしその反面、身体を止めた状態から、息を整えなければその効果を発揮する事は出来ない。

 哉恵と真菰は、事前に炎の呼吸の型について煉獄から聞いていた。十二鬼月と戦うにあたって、情報の共有はしておいて損は無い。

 

「煉獄...いや、炎柱。お疲れ様。」

 

 熱き双眸は、月明かりに負けない程輝いている。登りの不安で曇った瞳は拭われ、彼が柱であると示すようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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