砕いた氷、斬られた月   作:とある世界のハンター

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始まる修行

 

 

 

 

 

 

 

 日が昇ると、早速鬼殺の剣士になる為の修行が始まった。先ずは走り込みからだった。

 龍飛さんの家は高い山の中腹にあって、その家から山頂までを行ったり来たりした。山は空気が薄くて息がしずらいし、何より足場が不安定で何度も転けた。日が丁度てっぺんになる頃には身体中泥だらけになっていた。

 そこからお昼ご飯を食べて、剣の稽古が始まった。チャンバラごっこを眺めていただけの私が剣なんて持ったことある筈も無く、握り方の指導から始まった。そこからは素振り。勿論、真剣では無くて木刀で。真剣を持つ程の力は私には無いそうだ。それでも木刀は重かったけれど。太刀筋が歪まぬように気を張詰めても、直ぐに歪んで正される。途中から腕が上がらなくなって、その日はそこで終わる事になった。

 

 そこからの日々はひたすらそれの繰り返しだった。朝起きて道なき道を駆け抜け、昼を挟んで腕が上がらなくなるまで素振り。道に慣れてくると、今度は山のあちこちに罠が仕掛けられた。龍飛さんは勘で避けろと言うけれど、そこまで私の勘は鋭くない。振り子の様に頭を揺らしている丸太なら音で分かるけど、音が聞こえてからじゃ避けられない。落とし穴なんて器用に隠されてるから以ての外。最初の日は身体中痣だらけで家に着いた。

 

 木刀を持つのが苦にならなくなってきたら、次は剣術の型を教え込まれた。氷の呼吸は水の呼吸が元になっているらしく、型の基本として水の呼吸の型を教わった。水の呼吸の足運びが氷の呼吸を扱う上で大切な事らしい。

 

「氷の呼吸は水のように流れる足運びから、鋭く冷たい一撃を放つのが基本。」

 

 耳にタコができる程言われた。

 水の呼吸の型はすんなりと覚えられ、十もある型を七日で身体に覚えさせた。

 

 次の修行は、真剣を持って一日中山を走り回る事。水の呼吸の型を実際に使って、罠を切り伏せてみろという事らしい。型を覚えるのは早かったが、未だ罠を避ける事の難しい私には難しい修行だと、足を踏み入れた時は思っていた。

 

━━━━全集中・水の呼吸 参ノ型 流流舞い

 

 振り子の様に動く縄で吊られた幾つもの丸太を、ぶつかる寸前で斬りつけて回避して行く。全集中の呼吸を使うと体力の消費が激しいけど、実戦ではそうも言ってられない。鬼は強いから、一撃では仕留められないかもしれない。戦いが長引くと、その分体力が要る。もっともっと体力を付けないといけない。

 

━━━━全集中・水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱

 

 不安定な足場を、最小の着地面積、最短の着地時間で跳んで行く。何時もとは違う雰囲気、経験は無いけれど、少しだけ鍛えられた勘が教えてくれた。下に目をやれば案の定、凹んだ穴から無数の刃が私を見上げている。落ちれば死は確実...でも、型を完全に覚えた私なら落ちる事は無い。

 

「あっ」

 

 木から滑り落ちる事はあるかもしれないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「型を覚えたからと言って、呼吸をし続ける体力が無ければ鬼には勝てんぞ。」

 

「...はい」

 

「余所見をして負けるなど以ての外だ。」

 

「はい...」

 

 この少女(灑津幡哉恵)を預かって3ヶ月が経とうとしていた。覚えは良いから氷の呼吸の型も直ぐに覚えるだろう。問題は身体能力の面だ。腕力は氷の呼吸の性質上気にはならないだろうが、速さという点で物足りん。陸ノ型に必要な俊敏さ。桑島の所にでも向かわせてみるのもいいかもしれんな。雷の呼吸の使い手は皆足腰が鍛えられている。彼奴なら何か良い鍛え方を知っているかもしれん。今度、鎹鴉を遣わせるか。いや、その時になったらで良いか。

 

「日が暮れてきたな...飯にするか。」

 

「あ、急いで支度します。」

 

「暫く寝ておれ。出来たら呼ぶ。」

 

「...はい。」

 

 さて、今日は何を作ろうか...

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 呼吸をし続ける体力。敵と戦い続ける集中力。

 集中力は気合の問題だから、そこはなんとかなるはず。でも呼吸をし続けるのは気合じゃどうにもならないと思う。だから...

 

「ヒュウウウウウウ」

 

 全集中の呼吸を四六時中する。今は四六時中って訳にはいかないだろうけど、やり続ければいつかは出来るようになるはず。寝てる間にも出来るようになれたら強い武器になるって思う。

 ...とりあえず今は、一刻の間続けられるよう目指そう。

 

 

 

 

 

 

 

「...今のが氷の呼吸の型、ですか。」

 

 全集中の呼吸をし続ける修行を始めてから1ヶ月が経とうとしていた時に、修行が次の段階へと進んだ。この1ヶ月間、全集中の呼吸を続けながら山を駆け回ったお陰でだいぶ体力が付いた。全集中の呼吸も、少なくとも夜の間なら一日中走り回っても切れないぐらいには続けられる。

 それにしても、氷の呼吸の型はいつ見ても綺麗だ。

 

「先ずは陸ノ型以外の七つの型を身体に覚えさせろ。常中の会得も並行して行なえ。」

 

「常中...とはなんでしょう。」

 

「全集中の呼吸を四六時中続ける事だ...知らずにやっていたのか?」

 

 龍飛さんに秘密でやってた修行がバレていた。まあ育手になるような人だし、観察眼も優れているのだろうし当然と言えば当然か。

 

「...蚊が飛んでおるな。」

 

 ...夏の山に蚊が飛ぶなんて珍しくも無い事なのに。龍飛さんは何を考えているか分からない人だ。

 

 

 

 

 

 

 

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