砕いた氷、斬られた月   作:とある世界のハンター

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望まれた萌芽

 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━氷の呼吸・壱ノ型  砕氷(さいひょう)

 

 水の呼吸・壱ノ型 水面斬りと同じ様に、腕を交差して横に薙ぎ払う。水面斬りとは違うのは踏み込みの強さ。

 

「氷の様に鋭く、水を凍らせる。」

 

 龍飛さんに何度も言われた言葉。稽古の時は、斬る前に必ず復唱する様徹底された。竹刀の空を斬る感覚が、水面斬りとは違って重いのが腕に伝わってくる。

 

 ━━━━氷の呼吸・弐ノ型  英欠達磨(えいけつだるま)

 

 次は宙では無く藁人形に向かって。

 大人と変わらぬ丈の藁人形の四肢を、左腕から左脚、右脚、右腕という様に楕円を描くような型。鬼は頸以外を斬っても直ぐに回復して生えてくるらしいけれど、これは頸を確実に斬る為の隙を作る型だと教わった。

 

 ━━━━氷の呼吸・参ノ型  颯颯(そうそう)

 

 これは突き。水の呼吸の漆ノ型・雫波紋突きとの違いは、あっちが速さを重視しているのに対してこちらは威力を重きに置いていること。

 

 ━━━━氷の呼吸・肆ノ型  篝氷山(かがりびやま)

 

 竹刀を握り直して、宙に幾つもの斬撃を放つ。自身を囲む様な斬撃は、鬼の攻撃から身を守りつつ鬼の身体を削ぎ落とすそう。

 

 ━━━━氷の呼吸・伍ノ型  萌氷種(めぐみひだね)

 

 これは砕氷と同じく横に薙ぎ払う型。砕氷と違うのは刀を両手で持っているから、砕氷よりも範囲は広いという部分。そしてもう一つ、この型から直接陸ノ型に繋げられるという事。

 次、陸ノ型を飛ばして漆ノ型。

 

 ━━━━氷の呼吸・漆ノ型  霏霏豪雪(ひひごうせつ)

 

 これは水の呼吸・拾ノ型  生々流転を元にした型。生々流転と同じ様に連続で斬撃を放ち、一撃目よりも二撃目、二撃目よりも三撃目の方が威力が強くなる性質を持っている。

 何故わざわざ型を作ったのかと龍飛さんに訊いたところ、戦闘の途中で呼吸を変えると肺にかかる負担が大きくなるかららしい。特に生々流転の様な連撃を放つ技は元々の負担が大きいらしい。龍飛さんの戦い方は氷の呼吸を主軸にして、水の呼吸も使っていたらしいから、負担の大きい生々流転は氷の呼吸で再現する必要があったのだと思う。

 

「ッス〜...」

 

 肺に中途半端に余っている気持ち悪い空気を吐き出す。生々流転の時とはやはり呼吸の勝手が違う様で、型を見て覚えたばかり、しかも昨日の今日では気持ち良く刀を振るえるはずが無かった。龍飛さんは呼吸に慣れれば違和感は消えると言っていたけれど、このむず痒さは気持ちが悪くなる。

 新鮮な空気を吸い込んだら龍飛さんの家の敷地へと戻る。昨日龍飛さんに敷地から出るなと言われたけれど、多少なら問題無い筈。見られていたらこっ酷く怒られるだろうけれど、今あの人は机に置いた紙と睨めっこしているからそうはならない。縁側から覗いてみたけれど、筆を持ったまま固まっていた。気にせず続けよう。

 

「氷の様に鋭く、水を凍らせる。」

 

 ━━━━氷の呼吸・捌ノ型  時雪(しせつ)

 

 藁人形を中心に対象を程よく切り刻んでいく。龍飛さん曰く、斬る回数は大体で良いらしい。重要なのは、斬撃の合間合間に水の呼吸・伍ノ型 干天の慈雨と同じ斬撃を入れていくこと。本来干天の慈雨は、鬼に苦痛を与えずに首を斬る技らしい。何故そんな型があるのか分からないけれど、龍飛さんはそれを攻撃に取り入れた。この型の中にある痛みの無い斬撃は、切り口を入れる為のもの。頸が硬く、簡単には斬れない鬼でも切り口さえ入れる事が出来れば可能性は出てくるという事らしい。

 

 これが陸ノ型を除いた七つの型。陸ノ型は他の型全てを完璧に覚えたら龍飛さんが教えてくれるらしい。

 

「...今、いいか?」

 

 草臥れた顔をした龍飛さんが部屋から声を掛けてきた。筆は置いてあるので、書き終えたか書くのを諦めたのだろう。

 

「大丈夫です。」

 

「...そうか。」

 

 凄い悲しそうな顔をしている。薄々気付いたけど、龍飛さんって文字を書くのが苦手だったりするのだろうか。何でも卒なく熟す印象なのだけれど。

 

「今から陸ノ型を見せる。また同じようにそれを身体に覚えさせろ。」

 

「はい。」

 

「...いくぞ。」

 

 そう言って龍飛さんは、部屋から持ち出した竹刀を構えた。身体を私に向けて、そして竹刀の先を掲げるように持ち、背中に向ける。

 

 ━━━━氷の呼吸・陸ノ型  鏡花水月

 

 一瞬何をされたか分からなかった。分かったのは、気付いたら地面に倒れていたという事。

 

「昼飯を食べたら指導を始める。」

 

「...はい。」

 

 今日の龍飛さんは怒り気味な様だった。私が不甲斐ないからだろうか...もっと頑張らないと。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 現役時代は氷柱を務めていた。同時期に水柱をしていた鱗滝が鼻が利くのなら、俺は勘が鋭いのだろう。例えるなら、鬼の居場所が分かり、尚且つそいつがどの程度の強さなのかが分かる。哉恵を救えたのもこの勘のお陰だ。老体のせいで救えぬ命があったが、現役時代でそれは何度も体感してきた。もう悔やみ泣く心は無い。

 ...近いな。

 鎹鴉は既に鬼殺隊へ飛ばしてある。近くに鬼殺隊士はいようがいまいが、御館様に判断してもらわなければ余計な死体が増えるだけだろう。

 深い山は日光の届かない場所も多い。特にこの山は。鬼が好む場所だろう。並大抵の鬼なら自分で対処出来るが、今この山に居る鬼はそうでは無い。恐らく十二鬼月...柱、若しくは甲や乙のかなりのやり手でないと頸を斬るのは難しいだろう。

 

「...」

 

 少なくとも、今の哉恵では無理だ。

 技術は下手な癸よりもあるが、実戦経験の無い哉恵では簡単に殺されてしまうだろう。今は昼間だから鬼も大人しくしているのだろうが、夜になれば襲ってくるかもしれん。いや襲ってくるだろうな。明らかに近付いてきている。こちらが鬼狩りである事を分かっているのだろう。

 

「...哉恵。」

 

「ハァ、はい...」

 

 あちらも相応の覚悟で来るのだろう。それならこちらも足枷は外さねばなるまい。幼い芽は摘ませはしない。

 

「手紙を届けて貰いたい。」

 

「手紙...ですか?どちらに?」

 

「東京府の牛込區だ。近くの丘に雷の呼吸の育手、桑島慈悟郎という男が住んでいる。これがその手紙だ。」

 

「東京府...今からですか?」

 

「今からだ。今のお前なら夜になる頃には着く筈だ。泊めてもらうといいだろう。終えたらそのまま藤襲山へと向かえ。」

 

「藤襲山...ですか?」

 

「そこで鬼殺隊になる為の最終選別を行う。詳しくは桑島に聞いてくれ。」

 

「......今の私が、行っても良いのですか...?」

 

 不安そうな目をしている。だが大丈夫だ。生き抜ける。

 ...だが、氷の呼吸の使い手は俺しかいない。だから、出来ることなら細部まで仕上げたい。

 行かせたくはない。

 が、行かせなければ潰えてしまう。

 

「問題は無い。心配しているのは速さ(陸ノ型)だろう。桑島なら力になってくれる。色々聞くといい。」

 

「...分かりました。」

 

「夜は冷える。この羽織を着てくと良い。」

 

「ありがとうございます。」

 

 頭巾の付いた黒い羽織。現役時代使っていた物と同じ物だ。

 夕焼けが近付いてきた。名残惜しいが、哉恵を遠ざけなければならん。

 ...まるで、嫁入りに行く娘を送る父の様だな。現役時代の柱達なら、そう弄ってきただろう。

 

「では、行ってきます。最終選別が終わったら、此方へ戻ってきます。」

 

「...あぁ。」

 

 それも良いだろう。それが鬼狩りの活力となるのなら。

 走り出した哉恵の背中が小さくなっていく。喉が締め付けられていく。だが、そうは言ってられない。日輪刀は既に研いである。刃毀れは無い。体調は万全。

 

「これが最後の鬼狩りになるのか…」

 

 死んでいった仲間達が呼んでいる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

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