砕いた氷、斬られた月   作:とある世界のハンター

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再会の蝶

 

 

 

 

 

 

 

 

 哉恵が最初の仕事を終えてから一年が経とうとしていた。この一年で、哉恵の鬼の討伐数は五十間近だった。階級は甲。鬼殺隊の精鋭隊士である柱を除いて、一番上の階級だ。入隊して一年でこれほどまでの功績を残す隊士は稀。そしてこの異常なまでのスピード出世は、哉恵を鬼殺隊の中でも一目置かれる存在にさせた。

『柱候補』

 その言葉が灑津幡哉恵という隊士に付けられたレッテルだ。だが本人は気にしてはいない。どうせ柱にはなるのだから、という考えを持っているからだ。

 

 柱になるには以下の条件がある。

 柱に空席がある事。

 階級が甲である事。

 鬼を五十体倒す、若しくは十二鬼月を倒す事。

 

 今の鬼殺隊の柱は空席だらけだ。

 柱の最大人数は九人であるのに対し、今の柱は五人。水柱、炎柱、魁柱、岩柱、音柱、の五つの柱。

 この席が埋まらないのは、今の鬼殺隊の全体の力量が低いが言う事を顕著にしていた。

 

 閑話休題。

 

「鎹鴉、情報。」

 

 そして今日も哉恵は、いつものように鬼狩りの仕事をしていた。今回の目的地は、地方の中心地から少し外れたそれなりに大きな街。

 

「放火魔ガコノ近辺ノ街ヲ夜ナ夜ナ襲ッテイル!ソノ場ニ居合ワセタ剣士ガ消息不明!恐ラク異能ノ鬼!」

 

「...そう。」

 

「近クノ街ニハ別ノ剣士ヲ派遣シテイル!魁柱モ派遣!」

 

「...柱?」

 

「十二鬼月の可能性が高いみたいよ。」

 

「げっ...カナエ」

 

 その言葉と共に現れたのは胡蝶カナエ。哉恵とは最終選別以来だったが、親交な関係(を築けている、と一方的に思っている)だ。

 

「哉恵ちゃーん!!」

 

 目が合うやいなや哉恵の胸に飛び込んで来るカナエを、気怠そうに躱して首根っこを掴む。はたから見たら猫と飼い主だ。

 

「...なんでここにいるの。」

 

「この任務は合同なの。来る可能性の高い街程、多くの隊士が送られるそうよ。」

 

「...そう。」

 

「あ、因みにここは私達しかいないらしいわよ。」

 

「......」

 

 その言葉に食い足りなさと欲求不満を感じた哉恵は、とぼとぼと街へ向かって歩き始めた。カナエも哉恵の足に合わせて歩く。

 

「...考えは、変わった?」

 

 程なくして哉恵が口を開いた。手にした錘を力無く地面に落とすように。

 

「...ううん。鬼は悲しい存在...藤襲山の鬼も、それから頸を斬ってきた鬼も、みんなそう。だから、仲良くなる事が出来たら頸を斬らなくて済むのに...って。」

 

「...」

 

「おかしいのは分かってる。でもね」

 

「いいよ。もう、いい...」

 

 カナエの言葉を遮るように歩く速度を上げて、ずんずんと先へ進む哉恵。つられてカナエの足も早まる。その足は、強大な嵐を前に足を竦ませるようだった。

 実際、哉恵の心の中は荒々しいもので満たされていた。だからといってそれをどこかにぶつける事は無かった。カナエの思想に対して、否定的な感情だけを持ち合わせている訳では無かったからだ。

 

「...ご飯。」

 

「...え?」

 

「ご飯行くよ。」

 

()()()のように口を尖らせた哉恵は、強引にカナエの手を引いて街へと駆け出した。体勢を崩しそうになりながらも、哉恵の速さについて行く。

 陽は斜めに首を傾げ、木々の隙間から彼女達を覗いている。少しづつだけ紅く染まるそれは、その先を見つめるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

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「...辛い」

 

 ずるずると勢い良く啜られた蕎麦は、哉恵の胃の中へと流れるように落ちていった。山葵入りの汁に浸かった爆弾は、辛味に慣れていない彼女の口内への爆撃に成功したのだった。目の氷は爆ぜ砕け、そして熱で溶けて水となり彼女の瞳から零れ落ちる。頬は木瓜のように赤らみ、身体が熱を帯びているのが見て取れた。

 

「大丈夫?」

 

「...多分」

 

 出された物を残す事は無く、全て平らげる頃には窓から夕陽が彼女達を照らしていた。会計を済ませて通りへと出た二人は、一先ず宿へと向かった。

 今回の任務の範囲は並々ならぬ広さである為、応援に駆けつけようとも場所によっては間に合わない距離にある所も多い。また、確実に鬼が現れるという確証も得られていない為、鬼が出るまでの間の待機場所として鬼殺隊の経費で予め宿を取っているのだ。

 

「本当に大丈夫なの?顔真っ赤じゃない。任務には就かせられないわ。」

 

「大丈夫だから...全然動けるし」

 

「ダメよ、ほらこんなに熱があるもの。」

 

「顔近い......ホントに大丈夫だって...」

 

「だーめ。此処に来る鬼が可能性は低いから、夜は私一人で動くわ。他の街に増援に呼ばれても、哉恵ちゃんは大人しくしておくこと!」

 

 敷かれた布団に寝かしつけられる哉恵。陽が沈むまでカナエに看病され、逃げ出そうにも逃げ出せずにそのまま夜になる。

 

「明日お医者さんに診てもらわないとね...」

 

「...だいぶ楽になった。ありがとう」

 

「...うん。どういたしまして。」

 

「じゃあ、行こうか」

 

「行かせませんけど???」

 

 日輪刀に手を掛けた哉恵の腕を、躊躇うことなく握り潰さんとせん勢いで捕らえたカナエは、何処からか取り出した麻縄で哉恵の身体を縛り上げた。

 

「いい?私が帰ってくるまで大人しくしておくこと!」

 

「キツい...ねぇこれ水飲めない」

 

 哉恵の言葉を無視して部屋の硝子窓を開けるカナエ。外は風の音が鳴っており、カナエの髪を微かに揺らす。

 

「行ってきます。」

 

 花傘石楠花のように爽やかな笑顔に一瞬目を奪われる。綺麗な鬼狩りは窓の縁を蹴り、持ち主に似て楚々とした刀を携えて常闇に舞う。その白い羽織は正しく蝶のよう。

 

「.........いや水飲めないって」

 

 

 

 

 

 

 

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