音声作品研究会の日常   作:榎田 健也

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温かいお言葉はやる気に、厳しいお言葉もやる気になります。


一応、一話がプロローグ、二話から四話が一章ということになります。


第四話

 手持ちぶさたな風薫る五月の放課後。友人から荷物番を頼まれ帰るに帰れない俺は、頬杖をついて台本の内容を考えていた。自習? するわけねえだろ。

 机の木目をぼうっと見ていると、眠くなってくる。だが、少し浮いてきた頭の時こそいいアイデアが浮かぶこともある。そして――

 

 そういう時こそ、邪魔が入る。ガララとドアがスライドし、誰かが入ってきた。

 

「あれ? マサくんと麻衣ちゃんは?」

 

 声の主は荷物を机の上に無造作に置くと、俺の正面に座った。

 

「……ここに政秀の荷物があるから近いうちに戻ってくる。……委員会お疲れさん」

 

 質問に答え、更に委員会の激務をねぎらう。良い男すぎて自分に惚れそうだぜっ! なんつて。

 

「何でアタシが委員会に行ってたなんて知ってんの? ストーキングは良くないわよ」

「してねえよ。何でお前を尾行しなきゃいけねえんだよ」

「いや、だって――」

「ああ、わかったわかった。これ以上俺を妄想に巻き込まないでくれ」

 

 小佐野(おさの)志波(しなみ)。音声作品研究会の編集兼声優担当。政秀とは小学校低学年の時に同じクラスだったらしく、その後転校してしまったが高校で再会した、というドラマのような関係である。当然、政秀に好意を抱いているはずなのだがその間に何かが捻じ曲がってしまったらしく、今は政秀と俺が小佐野を取り合っている、という妄想をしている。

 いや、タイピング速度は早いし、編集もできるし、重要な人材ではある。あるんだが――

 

「もう、照れちゃって~」

 

 うぜえ。ただただ、うぜえ。いや、お前政秀のこと絶対好きだろ。好きになりようしかないシチュエーションだろ。なんで俺と争わせるんだよ。俺は争わんからいいって。俺も左手でキーボード打って、右手で自分を慰めるから。

 

「そういえば、なんであの二人いないの?」

「あぁ……まあ、補習終わりの妹を兄が迎えに行った、て感じ」

「なんだ、たまにはお兄ちゃんするのね」

 

 あいつは約束の時間を直前まで忘れていて慌てて飛び出したんだがな。まあ、言わずが花とも言う。言わないでおいてやろう。

 

「……そうだな」

 

 あいつは麻衣にとっては大切な兄であり、小佐野にとっては大切な幼馴染であり、俺にとっては大切な友人である。

 誰かに大切だと思われることは素晴らしいことであり、誇らしいことである。つまりあいつと俺は違うってことだな。…………。

 

「どうしたの? 怖い顔しているけど」

 

 正面に座っている小佐野が俺の顔を覗き込んでいた。思わず頬杖をやめ背筋を伸ばした。びっくりしただろうが。

 

「何でもねえよ。少し考え事を……顔紅いぞ、風邪か?」

「あ、暑いだけよ。まだ衣替えの時期じゃないのにもう暑いから、ちょっとね」

 

 確かに暑いが、この教室――学校のはずれにある第三小講義室には冷房器具が無い。我慢してもらうしかないな。

 

「でも確かに、こう暑いと冷たい飲み物が飲みたくなるよな」

「何? 買ってきてくれるの?」

「自分で買いに行け。これ以上奢ってたまるか」

 

 俺は今日既に、あの痴女にカルピスを奢る約束をしてしまっている。バイトはしてないので昼食代兼お小遣いから引かれることになるため、明日はから揚げ定食から1ランクダウンして薄いカツを乗せたカツ丼を食べる派目になる。2ランクダウンはかき揚げうどん。これ以上、じゃないか。これ以下は考えたくないので割愛。たかが昼飯、と思われるかもしれないが、寝起きはお腹が空かない体質のため朝飯を抜いている俺にとって、昼食に何を食べるかは重要なのである。

 

「……これ以上?」

 

 あ、やべ。

 

「な、何でもねえよ。忘れてくれ――」

「先輩戻りました! さあさあ、先輩のカルピスを!」

 

 あぁもう、本当、何だかなぁ!

 

「麻衣ちゃん、カルピスって何の事?」

「志波先輩! さっき持内先輩がカルピスを奢ってくれるってなったんです。志波先輩もいかがですか?」

「いいね、じゃあ私もカルピスで!」

 

 おい勝手に決めんなお前ら。おい、政秀助けてくれ!

 

「僕もカルピスで」

「政秀、お前もか。ていうかなんでこんなに遅かったんだ」

 

 正確に時間を計ったわけではないが、一年生の教室から戻るならもっと早くも度れただろう。どこで道草食ってたんだ、まったく。

 

「ああ、今日の仕事について聞いてきたんだ。今日は無いそうだから帰ろうか」

 

 なら仕方ないか。まあ、今日は無いってことは明日とかが大変そうなんだが、そこはそれ。まずは目の前の現実に向き合おうか。

 

「さあ、自販機まで早く行こうか。さっきの話の続きとしゃれ込もう! 設定は音声作品において重要だからね!」

 

 なんでお前リアルの彼女できそうなのに音声作品にドはまりしてるんだよ。なんでそんなに熱い情熱燃やしてんだよ。

 

「先輩、流石に制服は駄目ですが、Yシャツにならカルピスこぼしてみてもいいですよね!」

 

 知らん。シミになるかもしれないからやめとけ。

 

「こういうイベントって、飲み物が入れ替わっちゃって間接キ、キス? が定番よね!」

 

だから知らんて。自分言い出したことに照れてんじゃねえよ。

 

「はぁ……本当にこいつらは……」

 

  

 

翌日。

 

「うどん、旨い!」

 

昼食が素うどんになりました。

 




香川のうどんを食べると価値観が変わります。具体的に言うと、乾物うどんが食べられなくなります。マジです。
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