-----ワイルド『嘘つきの落ちぶれ』
「ウソハキ?」
「【そう、嘘吐き。でもまぁ、木葉ソウってのもちゃんとした名前だよ。そもそも俺に名前らしい名前が無いからね】」
ソウの周りには黒い靄の様なモノがかかりその輪郭を曖昧にしている
それはソウのギフトなのか、それとも……
「【まぁ、そんな事はどうでも良いでしょ。俺としては白夜叉ちゃんへの返答だよ、へ・ん・と・う】」
「む……」
白夜叉は警戒してソウを見る
ソウは肩を竦ませながら黒ウサギを見た。
「【どう、黒ウサギちゃん。君は東側コミュニティ最強の称号が“欲しい”?】」
「え?」
訳も分からず黒ウサギは慌てる
目の前に居るのはソウであるのにそれを確信することが出来ない。
それはまさしく理解不能
「【君のおかげでこの面白い世界に来れたんだ。俺は黒ウサギちゃんが望むなら何がなんでも手に入れてあげるよ】」
「えっと、あの」
その言葉は嘘か真か
だが、ソウは自信有り気に言っている
それは白夜叉相手にも勝てると言っているということだ。
「【君が望むなら神を騙そう】」
ソウが手を広げる
それだけで靄が広がり世界が黒く染まる。
「【君が望むなら修羅を弄ぼう】」
ソウを中心に黒い球が出来る
世界が歪む。
「【君が望むなら仏を愚弄しよう】」
それは何だ、それは世界だ
彼を中心に世界が彼の【嘘】に呑み込まれていく。
「【君が望むなら修羅神仏に嘘を吐き捨てよう】」
ソウは嗤った
神を、修羅を、仏を
そして……黒ウサギに嗤いかける。
「【黒ウサギちゃん、君の願い一つだ。君の言葉で俺は世界すらも騙してみせる】」
ソウはそう言い切った
黒ウサギは唖然としながらソウを見る
他の皆もソウを唖然としてみていた。
「……はっ!」
そして数分の沈黙の後、黒ウサギは正気に戻る
そしてソウに言った。
「良いです! 別にソウさんが無理する事じゃありません!」
黒ウサギは皆の力でコミュニティを取り戻そうとしている
別に称号が欲しい訳でソウ達を喚んだわけでは無い
もし、ソウの言った事が本当であったとしてもそれは何時かコミュニティの皆で成し遂げる事だと黒ウサギは思っていた。
「【え? 良いの? まぁ、君がそう言うなら俺も別に良いけど】」
ソウとしてはどちらを選んでくれても良かったのだ
もし彼女が称号を欲しいと言ったならそれに従った
彼女がいらないと言ったのなら自分はそれに従い何もしないだけだった。
ソウの周りの靄は一瞬で散って行った
まるでそこには最初から何もなかったように。
「イヤ~、あの状態の維持もこの頃疲れてね、しなくて良いならそれに越した事はないってね」
笑いながらソウは他の四人を見る
今のソウに先ほどの威圧も気配も無い
それは黒ウサギが知っている胡散臭い気配を出している仲間のソウの姿だ。
「って事で白夜叉ちゃん、俺も挑戦ね。イヤ~めんどうな事にならなくて良かった良かった」
「む……そうか」
白夜叉は納得がいかないような顔をするが、既にソウには闘う気がなさそうなので何も言えない
だが、黒ウサギは違った
「良かったじゃないですよ、このお馬鹿様! 喧嘩を売るならもっと相手を見てしてください!なんですか、“階層支配者”に喧嘩を売る新人って!?」
喧嘩を売ろうとしたソウに何時の間にか出したハリセンを叩き込む
その一撃は今までにソウが味わった事のないほどの渾身の一撃だった。
「ぐおぉぉぉ!? なんと言う一撃、これだけで世界を狙えるぞ、黒ウサギちゃん」
「世界も何もあったもんじゃないですよ!? 白夜叉様だったから良いモノを、他の階層支配者様なら今頃ぼこぼこにされてるでございますよ!」
数発ほどハリセンを食らわせた後、黒ウサギは満足したのかソウへのツッコミを止める
そして黒い笑みを見せながら他の三人に振り返った。
「御三人様も同様でございますよ? あまりに寒い冗談でこの黒ウサギの中に燃えていたツッコミ魂が大炎上しておりますよ?」
何時もの黒ウサギならのらりくらりと話題を逸らせられたろう
だが、ソウへのツッコミへの影響か、もはや逃れる事など出来ぬと言う訳の分からない気配を醸し出していた
臆病な兎がワープ進化して猪になったレベルである。
「おい待て、くr」
「問答無用!」
言い訳もさせずに光速の三連ツッコミ
白夜叉さえもその動きを肉眼で捉える事が出来ないほど見事な一閃であった。
「ふぅ……すっきりしました」
今までため込んでいたフラストレーションを開放出来て黒ウサギは満足そうに呟く
あまりに見事なツッコミで白夜叉は黒ウサギに拍手を贈る
そしてハッと意識を取り戻した。
「いかん、いかん。あまりに見事なツッコミで私も眼を奪われてしまった。さて、試練の内容はどうするかのう……」
四人が悶えている(内一人は気絶)中、白夜叉は目の前の童達へ課す試練を考えていた……
ーーー☆ーーー☆ーーー☆ーーー
「……ん?」
ソウは灯の光に目を覚ます
眼を開いて最初に確認できたのは見知らぬ天井であった。
「……ここ、何処だ?」
周りを見渡して自分が和室の一室で布団に寝かされていた事が分かる
ソウの最後の記憶は黒ウサギのハリセンでものの見事に意識を刈り取れたところまでだった。
「……良い連撃だったな」
頭を擦りながら頭の状況の確認をする
頭に外傷らしき外傷は無し
つまり、見事に意識だけを刈り取られたと言う事だ。
「……あれ? これ重要場面で使われたら普通にヤバくね?」
ソウは黒ウサギのハリセンの悪用方法を思いつき冷や汗を流す
油断はしたがあまりに見事な意識の取り方
使い方次第で誘拐や盗難、簡単に悪用する事が可能だ。
「ヤバい、あのハリセンはすり替えとこう。変な能力が付与されてるかもしれんし」
そこまで言ってソウは廊下からの足音に気付く
それはソウが居る部屋の前に来ると扉を開けた。
「む、なんじゃ、もう起きてたのか」
「白夜叉ちゃん? って事はここ白夜叉ちゃんの家?」
ソウはふと思い出して白夜叉に問う
「挑戦はどうなったの? 俺は黒ウサギちゃんのツッコミで意識飛んでたから分からないんだけど……」
「あぁ、あれは見事な一撃じゃったな……おっと、挑戦ならあの猫を抱えた童が見事にクリアしおったぞ」
それを聞きソウは“耀ちゃんがクリアしたのか……良かった”と呟くと布団から出る
そして横に綺麗に畳まれていたパーカーを羽織った。
「休ませてくれてありがとうね、白夜叉ちゃん」
「まぁ、待て。少し話をしようじゃないか」
出て行こうとするソウを白夜叉は制して体面に座らせる
話す内容は勿論ソウの事である。
「お主、何者じゃ? あの気配から察するに私と同じ星霊かそれよりも上じゃな」
白夜叉はソウの正体をそう断言する
ソウはそれを聞いて苦笑いした。
「さてね、もう色々あったから自分が何なのか俺にも分からないよ。白夜叉ちゃんには俺がどう見える」
「……分からん」
今目の前に居るソウを見ても白夜叉はただの人間にしか見えない
だがあの時に見たソウは人間とは呼べない“ナニカ”だった。
「まるで混沌じゃ。白、黒、緑、赤、青。色が混ざり合い過ぎてお主を見極める事が出来ん」
「……そうか。白夜叉ちゃんにもそう見えるんなら俺も自分が何か分からないや」
ソウは苦笑いをして言葉を続ける
「でも、俺の居た世界の仲間は俺を人間だと言ってくれたからね。俺は人間として生きていくよ」
「……そうか」
もう良いかとソウは部屋の扉をひらく
だが“おっと忘れておった、これはお主の物じゃ”と白夜叉が呟くとソウの目の前に灰色のカードが現れた。
「……これは何? 白夜叉ちゃん」
「それはギフトカード、“ラプラスの紙片”とも呼ばれる全知の一端じゃ。お主のカードはなんと書かれておる?」
白夜叉はソウを見る
ソウはギフトカードを手に取るとそれを見つめて言った。
「白夜叉ちゃん、このカードには自分の持つ【全ての“恩恵”が書かれる】の?」
「うむ。何せ全知じゃからの」
ソウは笑って白夜叉にギフトカードを見せる
そこにはこう書かれていた。
木葉ソウ・ギフトネーム“
「どうやら、俺の能力も嘘吐きらしいね」
「……」
白夜叉は息を呑んでソウを見る
ソウは白夜叉の視線に首を傾げた。
「どうかしたの?」
「……イヤ、なんでもない」
「そう言えばこんな高そうなもの貰っちゃっても良いの? 俺、何もしてないのに」
「よい、よい。それはコミュニティ復興の前祝じゃ。もし貰い過ぎだと思うなら私の所に遊びに来い。チップは賭けてもらうがのう」
白夜叉は笑いながらソウに言う
そんな白夜叉にソウは不敵に笑った。
「分かったよ、白夜叉ちゃん。次に来る時は君を貰いにやってくるよ」
「ふむ、その時は黒ウサギをチップに勝負をするとしようかのう」
軽口を叩きながらソウは部屋から出ていく
白夜叉はソウの足音が聞こえなくなるとボソリと呟いた。
「まったく、全知すらも騙すとは……いったいお主はなんなんじゃ?」
白夜叉の疑問は誰も居ない部屋に木霊した
ーーー☆ーーー☆ーーー☆ーーー
「そう言えば俺、コミュニティの場所分からないんだけど……」
店の前に出てからソウは問題に気付く
まったく分からない場所での迷子である
日も落ちてきていて普通に考えたら危険の一言。
「飛鳥ちゃんか誰かにGPSでも持たせておけば良かったか? イヤ、そもそもここは電波通じて無いか……」
“困ったな”と呟いてソウは周りを見る
するとある一角見知った顔を発見する
あちらもソウに気付いたのかソウへと向かってきた。
「ソウさん起きたんですね、良かった。迎えに来ましたよ」
「おぉ、良かったよ黒ウサギちゃん。このまま朝まで適当な所で野宿も考えてたよ」
ソウの言葉に黒ウサギは苦笑する
ソウとしてはいざとなったらそれぐらい可能だと思っていた
有難いことに吹く風は暖かく寝る程度なら壁を背にして出来ると判断した。
「それでは、私達のコミュニティへ御案内します」
「迷子にはならないでよね?」
「それは私の台詞でございますよ!?」
暗くなってきた夜道を黒ウサギとソウは歩いていく
そこでふとソウは黒ウサギ聞いた。
「それにしても良かったの、黒ウサギちゃん?」
「? 何がですか?」
ソウの聞きたい事が分からず黒ウサギは聞き返す
ソウは少し嗤いながら言った。
「白夜叉ちゃんの“称号”を貰わなくて? 俺としては貰っても良かったと思ったんだけど?」
称号とはもちろん“階層支配者”の事である
それは即ち、白夜叉との“決闘”に勝利すると言う事である。
「冗談……ですよね?」
「残念だけど【嘘】じゃないよ。俺は本気で黒ウサギちゃんにあの時聞いたんだよ?」
黒ウサギはあの時ソウが言っていた事を思い出す
“君の願い一つだ、君の言葉で俺は世界すらも騙してみせる”
「……」
黒ウサギは歩きながら沈黙する
ソウは黒ウサギの返答を待った。
そして数分の沈黙の後、黒ウサギは答える
「いりません」
答えは拒否
それはソウの力を使わないと言う事だった。
「あの時は理由を聞かなかったけど、本当にそれで良いのかい?」
「はい。確かに東側コミュニティ最強の称号が欲しいかと言われたら欲しいです。ですが、今はその時ではありません」
その瞳は真っ直ぐだった
ソウはその瞳に息を呑む。
「何時か私達のコミュニティが大きくなってその称号が必要になるかもしれません。ですが、その時はソウさんだけでなく“皆で”その称号を取りにいきます」
それはソウだけの力では意味がないと言っている
確かに今の“ノーネーム”では東側最強の称号は大きすぎると言えるだろう
たとえ強力なギフト保持者が居たとしてもコミュニティが危機に陥っているのは変わらない。
「その時はソウさん、力を貸していただけますか?」
ソウの答えは決まっていた
そもそも、この問答は黒ウサギを試すために言っただけであり
ここで取ってきてくれと言われてもソウは行く気が無かった。
「勿論だよ、黒ウサギちゃん。俺は“仲間”として君の力になろう」
ソウは黒ウサギの為にこのコミュニティを大きくしようと思ったのであった