禁忌少年の月ノ森ライフ   作:火の車

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出生

 6月も下旬に入った

 

 あの仕事から、俺のマンションには住人が増えて

 

 そろそろ、1つじゃ手狭になった

 

司(......ふむ。)

 

 今日1日、俺はずっとマンション建設の手配をしている

 

 今俺が住んでるマンションの横にもう一個くらい作ろうと思ってる

 

司(まぁ、少し時間はかかるが、思いのほか早く終わるそうだな。)

 

 出来るだけ多くの人員を使って、早く仕上げる

 

 完成は少なくとも、冬辺りになるだろうな

 

司「......ふぅ。」

 

 一息つくと、もう周りに生徒はいなかった

 

 外を見ると、雨が降りしきっている

 

司「梅雨だな。」

 

 俺は荷物をまとめながら、そう呟いた

 

 そして、教室を出た

__________________

 

 下駄箱に来た

 

 俺は靴を履き替え、ドアの前に立った

 

司(__あ、傘がないな。まぁ、車を呼べばいいだろう......って、あれは。)

 

 電話をかけようとすると

 

 知った顔が視界に入ってきた

 

司「何をしてる、広町。」

七深「あ、柊木君ー。」

 

 広町は俺に気付くと、軽く手を振って、こっちに近づいて来た

 

司「こんなところで何をしてる。帰らないのか?」

七深「帰ろうと思ってたんだけど、傘持ってきてなかったんだよー。」

司「そうか。」

 

 今朝は確かに、雲一つない空で

 

 雨が降るなんて想像もつかなかった

 

 傘を持ってなくても不思議じゃない

 

七深「いやー、困っちゃうねー。」

司「あぁ、そうだな。」

 

 俺はそう言いながら、電話をかけた

 

 目的は車を呼ぶことだ

 

司「車を一台、月ノ森まで。」

 

 俺はそれだけ言うと、電話を切った

 

 そして、携帯をしまった

 

司「おい、広町。」

七深「んー?」

司「車、乗せてやるよ。」

七深「え?」

司「いらないならいい。」

七深「ううんー、助かるよー。」

司「そうか。」

 

 広町の返事を聞くと

 

 俺は壁にもたれかかった

 

司「......バンドの調子はどうだ。」

 

 俺は待ち時間が暇だったから

 

 広町にそう尋ねた

 

七深「あれから、もう1つライブイベントに出たけど、まー......」

 

 そう言いながら、広町は目をそらした

 

 上手くいっていないんだろう

 

七深「でも、これからだよー。これからもっと、上手くなって行く......予定だからー。」

司「予定、か。」

 

 これは、もう少しかかるな

 

 俺は携帯のSNSを開いた

 

司(......これからだぜ。お前たちは。)

七深「何見てるのー?」

司「......メールだ。」

 

 俺はそう言って、携帯をしまった

 

 そして、校門の方を見た

 

司「車が来たぞ。」

七深「うんー。」

 

 話してると、車から運転手が傘を持って歩いてきた

 

 俺は運転手に広町も乗せると言う旨の事を伝えた

 

司「行くぞ、広町。」

七深「でも、車まで傘ないよー?」

司「ん?入ればいいだろう。」

 

 俺はそう言って傘を指さした

 

 そうすると、広町の肩が跳ねた

 

七深(こ、これは、俗に言う相合傘......!普通っぽい!)

司「行くぞ、広町。」

七深「うん!」

 

 広町はそう言って、傘に入ってきた

 

 そして、車の方に歩きだそうとした

 

司「......?」

七深「うん?」

 

 その時、音楽室の方からピアノの音が聞こえた

 

 なにか、自然と耳に入って注目してしまう

 

 そんな演奏だ

 

七深「なんだろ、これ......?」

司「いい演奏、そう言っておこう。」

七深「そうだねー。」

司「まぁ、行くぞ。」

七深「うんー。」

 

 俺たちは車の方に歩きだした

 

 ”七深”

 

七深(......あれ?)

 

 柊木君と一緒に歩いてると

 

 不思議な感覚に襲われた

 

七深(なんだろう、これ?)

 

 胸がどきどきして、嬉しくて

 

 そんなに長い距離じゃないのに、長く感じる

 

七深「あれ、柊木君......?」

司「なんだ?」

 

 少し柊木君を見ると

 

 肩が傘から出てて、少し濡れてる

 

司「ん?どうした?」

七深「......え?」

 

 気づけば、私は柊木君にくっついてた

 

 目的は傘から柊木君が出ないようにする事

 

 でも......

 

七深(あの感覚が強くなった......?)

 

 さっきよりも胸がどきどきして

 

 嬉しくて、顔も熱くなっちゃう

 

七深「......肩、濡れちゃってるよー///」

司「そうか。」

 

 距離にしたら、50mもないのに

 

 このくっ付いて歩いてる時間が永遠に感じる

 

七深(この気持ちって、なんなんだろう?)

 

 私はこの気持ちの招待を考えた

 

 でも、今の短い時間じゃ、この答えは出せなかった

__________________

 

 ”司”

 

 車の中では、降りしきる雨が窓に当たる音が聞こえてくる

 

 浅く聞けば、ただの雑音

 

 だが、よく聞こうとすれば、良さというものはある

 

 俺はそんな事を思っていた

 

七深「__ねー、柊木君ー?」

司「なんだ。」

七深「柊木君のお家ってどこなのかなー?」

 

 少し車に揺られてると

 

 広町がそんな事を聞いてきた

 

司「......俺の家か。」

 

 俺は窓の外を指さした

 

 広町は指を指した方に目を向けた

 

司「ここだ。」

七深「へー、柊木君ってマンションに住んでたんだー。何回の何号室に住んでるのー?」

司「最上階。1フロアだ。」

七深「え?そんなことできるの?」

司「あぁ。」

 

 広町は不思議そうに首を傾げた

 

 まぁ、1フロアで生活するのは珍しいかもしれないな

 

司「まぁ、そういう事だ。」

 

 そんな話をしてるうちに、地下駐車場に来た

 

 ここには、俺の名義で所有してる車が数多くある

 

 こんなに車があるのには理由がある

 

 まぁ、そんなことはいいだろう

 

司「じゃあ、後は自分で説明しろよ。」

 

 俺が車から降りようとすると

 

 運転手が首をかしげていた

 

司「おい、どうした。」

運転手「そ、それが、車が動かなくなってしまいまして......」

司「なに?」

 

 故障か?

 

 まぁ、こんなこともあるだろう

 

司「じゃあ、他の車を使えばいい。」

運転手「実は......」

司「なんだ?」

 

 俺は運転手からある説明を受けた

 

 どうやら、この車以外は放置期間が長すぎて

 

 車両的な不備がある可能性があるらしい

 

 だから、走らせられないと

 

司「......ふむ。」

 

 正直、この車は全部乗るために買ったわけじゃない

 

 だから、確かに不備があってもおかしくない

 

運転手「申し訳ございません......」

司「いや、これは管理者、つまり俺に責任がある。自分から余計な責任を被ろうとするな。」

 

 俺はそう言って、広町の方に行った

 

司(さて、どうするか。)

 

 広町の家はここから帰るのはキツイ

 

 傘を貸すとか、そう言う問題じゃない

 

司(......はぁ。)

 

 仕方ないか

 

 幸いにも、広町一人だ

 

 俺の正体、いや、もう一つの顔も知ってる

 

 見られて困るものなんてない

 

司「おい、広町。」

七深「どうしたのー?」

司「取り合えず、車がどうにかなるまで時間がかかる。ついて来い。」

七深「うんー。」

 

 俺と広町は近くにあるエレベーターに乗った

__________________

 

 俺の住んでる階には他の住人が来れないように鍵をつけてある

 

 持ってるのは勿論、俺だけだ

 

 長い時間エレベーターに乗ってると

 

 俺の住んでる階に着いた

 

七深「__おー。」

 

 エレベーターを降りると、広町は感慨の声を上げた

 

 一般的なマンションより圧倒的に広いだけあって

 

 俺の生活スペースはかなり広いのだ

 

司「ついて来い。」

七深「うんー。」

 

 そこそこ長い廊下を進んで

 

 俺の部屋に向かった

__________________

 

 俺の部屋に来た

 

 マンションの中だが二階建てのような構造になってる

 

 これは設計段階で、一部屋に大人数が住めるように考えた結果だ

 

七深「おー、すごいねー。」

司「普通だろ。」

 

 俺は鞄をテーブルの上に置き

 

 ソファに座った

 

司「適当にくつろげ。」

七深「はーい。」

 

 そう言って、広町は俺の横に座った

 

七深「おー、圧倒的座り心地ー。」

司「そうか?」

 

 気にしたこともなかった

 

 俺はそんな事を思いながら、携帯を見た

 

司(車の修理は夜までかかるか。まぁ、いいだろう。)

 

 俺は携帯を置いた

 

 そして、ここからの事を考えた

 

七深「ねー、柊木君ー?」

司「ん、どうした。」

 

 考え事をしてると、広町が話しかけて来た

 

 俺は広町に目を向けた

 

七深「家族はいないのー?」

司「......?」

 

 俺は広町の問いかけに首を傾げた

 

 それに広町はさらに首を傾げた

 

司「家族はいない。死んだ。」

七深「え......?」

 

 俺がそう言うと、広町は驚きの声を上げた

 

 そして、申し訳なさそうな顔をした

 

七深「ご、ごめん......」

司「うん?なんでだ?」

 

 変な奴だな

 

 俺の家族が死んだ事を聞いただけでなんで謝るんだ?

 

司「なぜ謝る?別にどうでもいい事だろう。」

七深「え、いや、だって......ご両親が亡くなって......」

司「いいんだよ、別に。」

 

 俺はソファの背もたれにもたれかかった

 

司「俺は今更、そんな些細な事は気にしてない。」

七深「些細......?」

司「そうだ。まぁ、親というやつは俺の人生を決定付けた。」

 

 そう、俺の人生は生まれた瞬間に決まった

 

 生まれた時から、俺は優れていることが決定してた

 

 それ故に......

 

司「......決定付けて、俺の人生を壊したのも親だ。」

七深「壊した?」

司「そうだな......」

 

 俺はもたれるのをやめて、体を前に乗り出した

 

 そして、広町に目を向けた

 

司「パンドラの正体を知ってるお前には教えてやるよ。」

 

 俺はそう言って、本棚からあるファイルを出した

 

 そして、それを広町の前に広げた

 

七深「これって、なんの書類?」

 

 広町は首をかしげて、書類をまじまじと見ている

 

 再度、ソファに座った

 

司「簡単に言うと、実験結果だ。」

七深「実験?」

司「あぁ。」

七深「それって、なんの?」

 

 広町はそう尋ねて来た

 

 俺はファイルの中の一枚の書類を取り出し

 

 テーブルの上に置いた

 

七深「え、これって......」

司「遺伝子操作、ってやつだ。」

七深「!!!」

 

 俺がそう言うと、広町は目を見開いた

 

 そりゃ、普通じゃ聞きなれないからな

 

七深「ど、どういう、こと......?」

司「昔話、というか。聞いた俺の生まれた経緯を教えてやる。」

 

 俺はそう言って

 

 話を始めた

 

司「俺の父親は投資家、母親はそこそこの家出身の令嬢だった。」

七深「......」

司「母親はプライドが高く、自分の子供は絶対に全てにおいて優れている、そう思っていた。だが、現実は違った。」

七深「どういう事?」

司「俺の前に生まれた子供、つまり、俺の兄にあたる人物はあまりに不出来だった。身体能力、知能、免疫など、ありとあらゆる能力があまりにも低すぎた。」

七深「そ、それで、どうなったの......?」

 

 広町はそう聞いてきた

 

 俺は静かに、答えを口にした

 

司「殺された。」

七深「っ!!」

司「病気のまま部屋に一人、閉じ込められ。碌な食事も与えられず、病死か餓死かも分からない死に方をしたらしい。」

 

 俺がそう言うと、広町は苦い表情をした

 

司「そして、俺の親は考えた。自分たちの年齢的に子どもは後一人が限界、でも、もし、またあんな不出来な子供が出来たら、と。」

 

 俺の親は子供を愛する気はなかった

 

 優秀な子供を愛する気しかなかった

 

司「そこで、至った結論は。」

七深「......遺伝子操作で優れた子供を強制的に作る。」

司「そういう事だ。人生最大の投資、そう言って父親は何兆もの金をかけた。」

七深「そ、そんなに!?」

 

 広町は驚きの声を上げた

 

司「成功率は数億分の1、その程度だった。だが、俺は生まれてしまった。」

七深(生まれて、しまった?)

司「まぁ、生まれるまでの流れはこんな感じだ。」

 

 俺は一息ついた

 

 広町は困惑の表情を浮かべている

 

七深「じ、じゃあ、両親はなんで亡くなったの?」

司「簡単な事、投資家の失敗の末、自殺だ。」

七深「!」

司「簡単。俺が生まれてすぐに株価が急落。俺に金をかけすぎて金がなくなり、父親と母親は首を吊って自殺した。」

 

 それだけ、俺はそう言った

 

 広町は暗い顔をしている

 

司「これが、俺が生まれた経緯と親がいない理由だ。」

七深「そ、そんな事が......」

司「まぁ、親が死んだことなんて何の問題でもない。」

七深「問題じゃない?」

司「あぁ。問題は俺が生まれたことだ。」

 

 そう、これが問題だ

 

 俺が犯した、最初で最大の罪

 

 それは、禁忌から生まれ、禁忌そのものだと言う事

 

司「パンドラのもう一つの意味は俺自身だ。」

七深「......禁忌。」

司「そう。禁忌から生まれた禁忌そのもの、それが俺。パンドラの意味はその戒めだ。」

 

 広町の瞳は揺れ動いてる

 

 何を思ってるか、良く分からないな

 

司「生まれた時から俺はこんな風に生きることを決定付けられてる。それが、壊したって事だ。」

七深「壊したって、どういう事?」

 

 広町はそう問いかけて来た

 

 俺はその問いに答えた

 

司「俺は普通に生きる事が出来ない、そういう事だ。」

七深「普通に、生きられない......?」

司「そりゃ、作られて、どう考えてもオーバーな能力を持ってる。俺は勝者として生きることを強いられてるんだ。」

 

 生まれた瞬間から、勝者である事

 

 それは言わば、ズルだ

 

 そんな事を認めない奴だって、絶対に出てくる

 

司「......だから、いずれ、罰が来る。」

七深「え?」

司「なんでもない。」

 

 俺はそう言って、ソファから立ち上がった

 

司「折角だ、飯くらい出してやる。帰りも遅くなるし、ちょうどいいだろう。」

七深「う、うん。」

 

 俺はそう言って、キッチンの方に向かった

 

 ”七深”

 

 私は分からなくなった

 

七深(全部分からなかった......)

 

 さっきの罰って言葉

 

 あれの意味も分からない

 

 でも、柊木君が生まれた経緯を聞いて

 

七深(柊木君って......なんなんだろう......?)

 

 柊木君が分からなくなった

 

 すごい人、それだけの認識から

 

七深(すごく、可哀想......)

 

 そう言う認識になった

 

 普通に生きられない、つまり、自分の強制的に与えられた才能を受け入れて生きる事

 

 才能は変に期待されたり、嫉妬を生んじゃうから

 

七深(私だったら、耐えられるかな......?)

 

 普通に生きるって選択肢があった、私

 

 最初からそれがない、柊木君

 

 そう思うと、胸が苦しくなって、悲しい気持ちになる

 

 自分の事じゃないのに、それと同じくらい悲しい

 

 その気持ちに、私自身も戸惑ってる

 

七深「......私は、どうしたいんだろう......?」

 

 私の心はまるで、鉛みたいに重たくなった

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