”七深”
あの日から、私の日常は変わった
七深「......」
A組の教室から、机が一つなくなった
廊下側の窓から見えた、あの姿が消えた
まるで、最初からなかったみたいに誰もそれを認識してない
七深「うっ......!!」
吐き気がする
あの感触が今でも私の腕には残ってる
段々、冷たくなっていった
私の中で、柊木君が消えていくのを感じた
ましろ「__ひ、広町さん......!?」
七深「し、しろちゃん......」
つくし「だ、大丈夫!?顔色悪いよ!?」
気が付けば、目の前に2人がいた
すごく心配そうな顔してる
七深「だ、大丈夫だよ~」
つくし「ほ、ほんとに?」
七深「う、うん~、ごめんね、こんな所で~。」
私は2人に軽く手を振りながら
その場を後にした
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”瑠唯”
今もあの日の感覚が残ってる
引き金を引いて、人を撃った、あの感覚を
ひどく、あの銃の引き金は重かった
瑠唯(......私は、人を殺したの?)
私の視界は真っ赤に染まって
彼の胸からは血があふれ出してた
そんな彼を抱く、広町さんの目は
瑠唯「......っ。」
明確な殺意を持っていた
あの夜、もしも、近づいていたら......
瑠唯「......ごめんなさい。」
そんな言葉が口から洩れた
誰に許しを求めてるか分からない
広町さん?それとも、彼を迎えに来た女性?
それとも、彼自身......?
カグヤ「__八潮さん。」
瑠唯「......あなたは、十条君。」
カグヤ「奇遇だね。こんな所で。」
ここは、中庭のベンチ
誰でも使う場所に偶然なんてない
瑠唯「何か、用かしら。」
カグヤ「少し、話がしたいんだ。座ってもいいかい?」
瑠唯「......えぇ。」
私がそう答えると
彼は一礼して、私の隣に座った
カグヤ「......」
空気が重い
彼もまた、柊木君を慕っていた人の一人
きっと、私を恨んでいるわ
瑠唯「......私を殺しにでも来たのかしら。」
カグヤ「そんな事はしないよ。」
瑠唯「!」
カグヤ「君の音が危うかったから、声をかけたんだ。」
彼はそう言いながら
花壇を眺めてる
音が、危うかった?
カグヤ「君は何も、責任なんて感じなくてもいい。」
瑠唯「......」
カグヤ「君は司さんの願いを叶えたんだから。」
瑠唯「......そう。」
私はスカートを掴んだ
十条君は私を安心させようとしてるのか
優しい声色で話をしている
瑠唯「......一つ、聞いて良いかしら。」
カグヤ「何かな?」
瑠唯「彼は、柊木君はどんな人物だったの?」
私はそう彼に問いかけた
すると、十条君は表情を変えないまま
口を開いた
カグヤ「......才ある故の孤独を誰より知った人物だったよ。」
瑠唯「......そう。」
カグヤ「人を導くことは出来るのに、自分を導いてくれる人は誰もいない。こんなに苦しい事ってあるのかな。」
そう言う十条君の表情は
ひどく苦しそうで、悔しそう
カグヤ「僕はもう行くよ。」
瑠唯「えぇ。」
カグヤ「今日は冷えるから、これを着ておくと良いよ。」
彼はそう言って、上着を私にかけて来た
人の温度を感じる
瑠唯「あなたは、大丈夫なの?」
カグヤ「大丈夫だよ。八潮さんこそ、風邪をひかないようにね。」
そう言って十条君は校門の方に歩いて行った
私は一人、暗くなってきた中庭に残った
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”カグヤ”
僕には使命がある
それは、司さんのように人を導く事
多くの人々を苦しみから解き放つこと
カグヤ「......」
僕が司さんの穴を少しでも埋められるように
そう思っても、司さんの様にはできない
あの人の偉大さを再認識する
今まで何万人の人を導いてきた司さん
1人も導けない僕
カグヤ(やっぱり、僕はダメなのか......)
ましろ「__十条君!」
カグヤ「倉田さん......」
学校を出る直前に
倉田さんが後ろから走ってきた
少し、慌ててるみたい
ましろ「な、なんで上着着てないの?」
カグヤ「人に貸しちゃって。」
僕は少し笑いながらそう言った
倉田さんは慌てて巻いてるマフラーを外した
ましろ「これ、使って!」
カグヤ「え?倉田さんが寒いんじゃ?」
ましろ「私は大丈夫だから。」
倉田さんはそう言って
僕にマフラーを巻いてくれた
すごく暖かくて
優しい香りがする
カグヤ「ありがとう、倉田さん。」
ましろ「ううん、全然!」
倉田さんは凄く優しい
この前、僕が泣いてた時も
優しく、話を聞いてくれた
そして、一緒に悲しんでくれた
カグヤ「暖かいね、このマフラー。」
ましろ「それ、私が作ったんだ。趣味で何だけど。」
カグヤ「それはすごいね。」
ましろ「えへへ......!」
僕がそう言うと
倉田さんは嬉しそうに笑った
それから、僕たちは一緒に帰ることになった
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やっぱり、今日は冷える
昨日までとは全然、違う
ましろ「__あの、十条君。」
カグヤ「どうしたの?」
暫く歩くと
倉田さんが口を開いた
ましろ「さっき、なんであんなに苦しそうな顔をしてたの?」
カグヤ「っ!」
倉田さんに見られてたのか
これは、隠せないかな
カグヤ「......自分の駄目さが悔しいんだ。」
ましろ「え?」
カグヤ「司さんがいなくなって、傷ついた人はたくさんいるんだ。」
ましろ「うん......」
カグヤ「僕はそんな人たちを導いてあげたいんだ。少しでも、良い道へ。」
僕は奥歯を噛んだ
言えば言うほど、自分の無能さが刺さる
カグヤ「でも、僕は司さんみたいにはできない......」
ましろ「......」
カグヤ「僕は誰も導けない。何もできないんだ......!」
僕と司さんは違い過ぎる
八潮さんだって、まだ迷い続けてる
ましろ「柊木君みたいにするのって、そんなに大切なの......?」
カグヤ「え......?」
倉田さんは僕の目をまっすぐ見てそう言った
ましろ「確かに、柊木君は常識なんて通用しないくらいすごいよ。でも、あれは真似しようとしてもできないよね......」
カグヤ「それは......」
全く持って、その通りだと思う
司さんの真似は誰にもできない
あの人はあまりにも規格外すぎるから
でも、僕は......
カグヤ「でも、僕が司さんの代わりをしないと......」
ましろ「十条君は十条君だよ!」
カグヤ「!!」
ましろ「柊木君の代わりをするのはいいけど、十条君が柊木君にならなくてもいい!十条君には十条君なりのやり方があるはずだから!」
カグヤ「倉田さん......」
初めて、彼女のこんな声を聞いた
必死で、訴えかけるような
ましろ「十条君が私に話してくれた時......」
カグヤ「!」
ましろ「あんな風に人を導けるのが、十条君だと思う。あの言葉を聞いて、私はバンドに改めて向き合えたから。」
カグヤ「......そっか。」
僕は愚かだ
何もかも、倉田さんの言う通りじゃないか
僕は司さんになるのに躍起になってただけだ
カグヤ「ありがとう、倉田さん。」
ましろ「ううん、偉そうに言ってごめん......」
カグヤ「そんな事はないよ。」
僕は少し笑いながらそう言った
カグヤ「......」
ましろ「?」
僕が僕のままでいいなら
僕は自身の道を進む
その道は僕一人で行けない
だからこそ、正直に言おう
カグヤ「僕は、倉田さんが好きです。」
ましろ「え......?///」
僕は驚く倉田さんに手を差し出し
続けてこう言った
カグヤ「これから進む道は倉田さんと歩きたい。」
ましろ「......///」
倉田さんはうつ向いてる
手が震える
ましろ「......私も///」
カグヤ「!」
ましろ「私も、十条君が好き!///」
その言葉を聞いた瞬間
僕の心は幸せでいっぱいになった
カグヤ「ありがとう、倉田さん。」
僕は倉田さんにそう言った
その時だけこの寒天の寒さを
全て、忘れられた