”透子”
あれから、広町は変わった
透子「__広町ー、テストの順位どうだったー?」
七深「1番だったよー。」
透子「え!?マジ!?」
まず、自分の才能を隠さなくなった
ありのままの広町でいるようになった
勉強でも、バンドでも、芸術分野でも
広町は圧倒的な力を発揮してる
透子「やっぱすごいよねー。」
七深「そうー?これくらい当たり前だよー。」
広町は普通になることをやめた
今は逆に普通から離れようとしてる
まるで......
透子(柊木さんみたい......)
態度は全然違う
けど、周りとのあまりに違う様子は
柊木さんに重なるものがある
七深「今日はバンドの練習だったよねー。行こー。」
透子「そうだね、行こ。」
あたしは広町と一緒にバンド練習をする
教室に向かった
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”つくし”
つくし「__皆、休憩にしよ!」
ましろ「そうだね。」
私達は借りてる教室で練習をしてる
月ノ森音楽祭の事があるから、前みたいに苦情が来ることもない
だから、練習で困ることはない
つくし(でも......)
広町さんはアトリエには行けないって言って以来
アトリエの事を何も話そうとしない
それだけじゃなくて、移動教室の時、A組の前を絶対に通らなくなった
どんなに時間がギリギリでも、回り道をしてる
きっと、教室の中が目に入るのが怖いんだ
つくし「す、すごいね!広町さん!今日も絶好調!」
七深「えへへ~、ありがとー。」
広町さんは生気のない目のまま、無邪気に喜ぶ
私はそんな様子に少し、狂気すら感じる
生気のないまま無邪気に喜ぶ広町さんは
まるで、人形みたい
瑠唯「広町さん......」
七深「......なに?八潮さん?」
瑠唯「......何でもないわ。」
七深「......あっそ。」
つくし「ちょっと、喧嘩はダメだよ!」
七深「えー?喧嘩なんてしてないよー?」
瑠唯「......」
一番変わったのは、これかもしれない
広町さんが八潮さんに明らかな敵意を持つようになった
どんなに穏やかな時でも、八潮さんが話しかければ
恐ろしく冷たい目をする
流石の八潮さんもこれにはかなりこたえてる
七深「......」
つくし(広町さん......)
教室内の空気が重たくなる
会話に入って来ない2人も気まずそうにしてる
正直、私も今すぐここから逃げちゃいたい
透子「__あー!」
4人「!」
透子「なんか今日、調子出ないから終わり!」
透子ちゃんはそう大きな声を出して
ギターを片付け始めた
ましろ「私も......」
七深「そ、そうー?じゃあ、終わろっかー......」
つくし「そ、そうだね!次頑張ろ!」
瑠唯「......えぇ。」
こんな状況で仕切ってくれる透子ちゃんは凄く頼もしい
本当はリーダーの私がこんな風にしないといけないんだけど
そんな事を思いながら、私はドラムを片付けた
そして、全員、教室を出た
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”瑠唯”
4人と別れた後、私は一人で廊下を歩いている
日も傾いて来て、もうすぐ夜になる
瑠唯「......っ。」
私は広町さんのあの目を思い出した
冷たく、鋭い、刃物みたいだった
そして、元々、赤みを帯びてる彼女の瞳は
この上ないくらいに濁って、まるで
あの日に見た血の様だった......
瑠唯(......結果が全て。)
私は心の中でそう呟いた
広町さんの好きな人を撃ち殺した
だから、敵視されてる
当り前の結果
私は、右腕を抑えた
瑠唯(......怖い。)
何かに足が引っ張られるように、足が重たくなる
ただの廊下なのに、底なし沼を歩いてるように感じる
そして、すぐ後ろにあの目があるようにも感じる
瑠唯「ハァ......ハァ......」
息が苦しい
気分も悪くなってきた
視界が揺らぐ
瑠唯(もう、ダメ......)
私は体の力が抜け
重力に従って体が落ちて行った
?「__危ない!」
瑠唯「......?」
その時、私を受け止める誰かの存在を感じた
私の意識はそこで途切れた
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瑠唯「__っ!」
私が目を覚ますと
そこは保健室のベッドの上だった
一体、誰が......
三久「起きましたね。」
瑠唯「あなたは、天空時さん......?」
横を見ると
そこには天空時さんが座っていた
三久「調子はどうですか?」
瑠唯「もう、大丈夫です。」
さっきまでの不調は無くなってる
ひどい汗をかいてる
瑠唯「天空時さんが、ここまで?」
三久「いえ、違います。」
瑠唯「え?」
三久「私は廊下で意識を失っていた八潮さんを運んだだけです。」
じゃあ、あの私を受け止めた人物は、一体......?
上手く聞き取れなかったけれど、どこかで聞いたことがある......
三久「ちょうどよかったです。」
瑠唯「?」
三久「八潮さんにお伺いしたいことがあるのです。」
そう言うと、天空時さんの表情が引き締まった
私は激しく息をのんだ
三久「......柊木君を撃ったのは八潮さんだと、聞きました。」
瑠唯「......っ。」
想像通り
彼女また、彼を慕っていた人物の一人
それも、広町さんと同じ方向で
瑠唯「......間違い、ありません。」
私は小さな声でそう言った
もういっそ、殺すなら一思いに殺してほしい
三久「そんな風にしなくてもいいですよ。私もあなたを恨んではいませんから。」
瑠唯「え......?」
三久「彼も、あなたを犯罪者にしたいとは思っていません。その意思に反することをしようとも思いませんから。」
天空時さんは優しい声でそう言った
その表情はすごく優しい
三久「それに。」
瑠唯「?」
三久「私には、彼が死んだようには思えないのです。」
瑠唯「!」
三久「彼は月の様な人ですから。」
瑠唯「月......?」
私は彼女の言った身が分からなかった
柊木君が、月?
三久「今夜は月が出ていませんね。」
瑠唯「はい、そうですね。」
三久「もしかしたら、ですよ。」
天空時さんは窓の外を指さしながら
こう言った
三久「今は彼が新月で見えてなくて、月が出ればまた見えるようになるかもしれないって思うんです。」
瑠唯「そう、ですか......」
三久「でもまぁ、こじつけでしかないのですが。」
瑠唯「素敵な、考えだと思います。」
三久「そうですか。」
天空時さんは小さく笑うと椅子から立ち上がった
三久「それでは、帰りましょうか。夜も遅いので。」
瑠唯「はい。すみませんでした。」
私は頭を下げ、ベッドから起き上がった
それから、天空時さんと共に学校を出た
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”七深”
分からない
あの日から、私はグチャグチャになった
さっき、倒れそうになったるいるいを受け止めた
でも、どうしたらいいのか分からなくなって
そのまま置いて来てしまった
七深「......」
自分の心が分からない
本当は誰も恨みたくない
でも、どこかから、恨みって言う黒い感情が生まれてくる
七深「......分からないよ。」
心の整理がつかないから、るいるいに冷たく当たってしまった
でも、本当に恨んでるのは、るいるいじゃない
そんな事は分かってる
七深「誰、なの......?」
見えそうで見えない、あの姿
るいるい、じゃない
私を殺すことを依頼した人、でもない
もっと他の誰か、そんな訳ない
七深「......」
闇の向こうにぼんやり、姿が見える
その時、鏡に私の姿が写った
七深「......あっ」
その時、分かった
こいつだ、私が恨んでるのは
七深「消えて!!!」
私はそう叫んだあと
目の前にある鏡をたたき割った
手にはガラスの破片が無数に刺さってる
でも、痛いなんて思わない
七深「......柊木君は、これよりも痛かったから。」
私はそうつぶやいて
地面に落ちた、自分の血を見た
七深「......こんなの、なんでもない。」
ごめんね、るいるい、皆
私、やっと見つけられたよ
悪いのは、最初から全部私だった
だから、
私が恨んでるのは、私自身だった
七深「......ごめんね、ごめんね、皆......」
私はしばらくそう呟いた後
自分の家に帰って行った