ベル・クラネルの兄が医療系ファミリアにいるのは(性格的に)間違っている! 作:超高校級の切望
「さあ、こちらのテーブルへ……」
テリーに案内され一つのテーブルに向かう。獣人の老人、ヒューマンの中年二人、小人族の青年が既にいた。
「今夜も楽しませてもらってますよ、オーナー」
「ところでそちらの方は?」
「紹介します。僅か数人でアポロン様の派閥を壊滅させた派閥の一つ、【ミアハ・ファミリア】のヴァハ・クラネル殿です」
「おお、あなたが噂の」
「一方的すぎて面白みがないと弟殿の方にスポットが当たってしまったとか」
本当はヴァハの戦い方が残虐すぎるからなのだが、一部ではそういう噂になった。
「ハハァ。そんな事もあったなぁ………改めて、ヴァハ・クラネルだ。紳士的な振る舞いなどまるで知らぬ無頼漢故に無礼をどうか許してほしい」
雰囲気が変わる。優雅を感じさせる礼をとったヴァハはまるで何処かの貴族の家で所作でも学んだかのように場の空気の格を上げる。接客している美姫達も思わずほぅ、と感嘆の吐息を漏らす。
「顔だけは良いよね、彼奴」
「ただし性格がド屑ニャン。いやまあ、ニョルズ様の秘密とか金払わにゃくてもきちんと守ってくれてるけど……」
後で何か悪戯でもしてやろうかと思いながらヴァハはノエルの手を引きながら席に座る。
「どうぞ」
「ありがとう」
美姫の一人がカクテルとノエルの為のジュースを差し出す。感情のない瞳に、首輪のようなチョーカー。彼女もまた無理やり連れてこられた女のだろう。心を殺して、この環境に耐えているのだ。クソどうでも良いが。
「どうです、彼女達も貴方のお連れに劣らず美しいでしょう」
「ん? ああ………失礼ながらクロエとルノアの方が俺にとっては美人だと思います」
ぜってえ嘘だな、とルノアは照れながらも思った。ぜってえどんぐりの背比べと思ってるニャンとクロエは照れながらも思った。
「は、はは……そうですか」
「しかし、それでもなるほど噂通り随分恋の多いお方のようだ」
「よく言われます。しかし彼女達もそんな多情な男である私めの求愛に真摯に応えてくれました。そんな心根も美しい美姫達を私一人で独り占めしようものなら美の女神から小言が飛んでくることでしょう。
そこで僭越ながら皆様の目を潤す一役になっていだければとこうして酌に協力してもらっている訳ですよ」
「なるほど……見初めた者を他の男の目に晒すなど私にはわかりかねますが、オーナーは懐が深い方のようだ」
「いやぁ、本当に羨ましい! 私も一晩相手にしてもらいたいものだ」
そう言って美姫の手を取る小太りのヒューマン。恐らくは、
その男の言葉に周りが放った僅かな愉悦の気配は、自分達はこんな美姫を抱いた事があると言う事だろう。全員グルか。
(あの真面目なエルフなら、目の前の豚にばかり集中して見逃しそうだなあ。しっかし正義の為に乗り込んだはいいが、俺みたいなのに全部持ってかれたらどんな反応をするのかねえ)
正義の味方が動かなくても、人なんて勝手に救われる。正義の味方が動いても、人なんて勝手に苦しむ。なのに正義はあると、正義の眷属達なら人を救ったはずだと意気込む元正義の使者より先に人を救えば、なかなか良い顔をしそうだ。
「そういえば、ここに来る途中オーナーは傾国の美女を手に入れたと耳にしました」
「おお! 私も聞きましたぞ、何でも遠い異邦の地から娶ったとか!」
「どうか我々にも見せていただきたい!」
美姫を手に入れたと事を羨む声に気を良くしたテリーは傲慢に笑う。
「皆さんも耳が早い! ええ、おっしゃる通り新しい愛人を迎えたのです! 折角ですので紹介しましょう!」
手を叩き従業員に命令する。元々見せつける気だったのだろう、扉を開ければそこに既に新たな美姫とやらがいた。
その容姿に男達は欲情の視線を向け、何処か悲しそうな彼女にノエルは首を傾げた。
「初め……まして。アンナともうします……」
オドオドと微かに怯えた姿は中々どうして男の劣情を煽る。
「………!」
と、アンナがヴァハと目が合う。ヴァハの事を覚えていたのだろう、ヴァハが笑みを浮かべて手を振ってやると僅かに手が上がりかけ、しかし知り合いとバレるわけには行かないからか慌てて手を下げるものの、テリーはそれに気づく。
「クラネル殿、彼女の顔になにかついていますか?」
「いえ、似た顔を見たことがあるので」
「知り合いですかな?」
ピクリと反応するテリー。考えてみればアンナもヴァハも共にオラリオに住まう者。自慢したかったのだろうが下手を打った。
「花屋の娘で、祭りで知り合ったのです……そういえば父親が、娘が攫われたって嘆いていて。知り合いなら助けてくれって頼まれまして………まあ、本当に異邦から来たなら他人の空似なのでしょうが」
馬鹿にするような視線は全部知ってるぞ、とでも言いたげな顔にテリーの顔に苛立ちが浮かぶ。その剣呑な表情に取り巻きの富豪達が狼狽える。
「どうせなら賭け事でもしませんか」
「ほ、ほう………と言いますと?」
「勝者が敗者に好きな要求を出来るというのでどうですか?」
「ははは。なるほど、クラネル殿は随分アンナにご執心なようですね」
ヴァハは一言もアンナ一人を貰うとは言ってないな、とルノアが気付く。クロエは飽きてきたのかふぁ、と欠伸をしていた。
「いいでしょう。どうせなら、ゲームには最高額のチップをかけましょう」
そう言ってヴァハ達が稼いだ額を遥かに超える額のチップを持ってくる。先程の意趣返しも含まれているのだろうが、ヴァハはふーん、と笑う。
「どうせならノエル、お前がやってみるか?」
「? やりかた、わかんないよ……」
「簡単だ。数字やマークを揃えるだけ」
「ん、と………やってみる!」
そう言ってヴァハの膝の上でフンス、と意気込むノエル。ルノアは大丈夫か、と思ったがルノアがシルと同じような顔してるから大丈夫だろと呆れたように言った。
「ははは、そうですか。ああ、そうだ。私の頼みごとなのですが、お連れの方々に一晩酌をさせてもらってもよろしいでしょうか」
「彼女達は中々ジャジャ馬で、おすすめはしませんが」
「では、娘さんも貸していただけませんか?流石に幼子の前で失態を晒したりはしないでしょう」
ノエルを人質にでもして言うことを聞かせたいのだろうか、愚かな事だ。
「この場の女の中で一番怒らせたらヤバいのは他でもないこの子なんですけどね」
「ははは。確かに、子供を持つ親にとって逆らえぬ存在ですからな。お恥ずかしい話、私はこの年で未だ娘がおらず少し羨ましい限りですよ」
その目を見て、やっぱりそっちの目でも見てんのか、と呆れるヴァハ。いっそここで手を出させたら面白い事になるかも。
「ところで、なるべく早く終わらせたいので勝負を降りた場合も金を払う……
降りた場合の参加料が増えようと勝てば問題はないか、とテリーは判断する。
「…………まあ良いでしょう」
「? 何の話?」
「ノエルが勝てばなんの問題もない話だ」
ヴァハはそう言ってノエルの頭をクシクシ撫でる。うにゅぅ、と気持ち良さそうに目を細めるノエル。
「さあ、
ゲームはドローポーカーにした。ノエルは早速己の手札を確認する。
「パパ、これは?」
「ああ、
「じゃあ、さんかします!」
「「「────!?」」」
ザワッ、と動揺が走る。手札を明かすというありえない行動。だが……
(くだらん
「ああ君、アルテナワインの三十年物を頼む」
と、獣人の老人が注文する。これは彼等の暗号。上位カードのフルハウスの際の合図。
「
テリーに続き他の者達も降りていく。この戦いは彼の勝ちだ、と誰もが思った。
「どうやらこの老耄と一騎打ちのようですな」
「では
「………は、はは。強気でいらっしゃる。では、私も」
チップを足し、まずは老人から手札を明かす。クイーン3枚と10、2枚のフルハウス。対して………
「えっと、どうぞ」
キング3枚とジャック2枚の上位フルハウス。
「………え?」
「ノエル、お前の勝ちだ」
「やった……ジュースたのんでいい?」
「アイス付きのジュースを。あ、アイスは二つな」
「は、はい!」
そして、次のゲーム。
「おお、
今度こそブラフ、なのか? と疑う。いや、そうそう揃ってたまるか!
「……………!」
「♪」
勝つたびに甘いお菓子を買ってもらい満足気なノエルに対して負け続けた富豪達は俯き震える。
「あ………」
のべ12回目、初めてヴァハがしまった、とでも言うような声を出し……
「ぶふ、フォーカード………」
今度こそ勝つと意気込んだ者達から金を奪う。
「ファウストォ!」
「………!」
叫ばれた男はフルフルと首を横に振り不正は無いと告げる。ルノアはあん? と眉根を寄せる。
「あははは。ノエル、お前引きが強いなあ。ほらほら、お菓子買っていいぞ。もう一度メニューを持ってきてもらえるか?」
「は、はい」
悔しがる富豪などに目を向けず笑うヴァハ。怒りが募っていく。残りは最早テリー一人。
「よんまいいっしょ! これ、ふぉーかーど?」
「もういっそ次は全額かけちまうか」
「ほ、ほう…………っ!」
舐め腐った態度に怒りに震えながらも、しかし次にテリーの顔は喜色に染まる。
ロイヤルストレートフラッシュ。今回ゲームで最強の手札。
「
「同じく」
馬鹿め、やはり最後に勝つのは自分だ!
「
「
「…………………は?」
なるほど、確かに同じなのは4枚だけ。ただし、唯一違うカードは
「な、あ………は?」
「ふぁいぶ、かあど?」
「最強の組み合わせだよ。お前の勝ちだ」
「やったあ!」
チップ全て失い、ノエルの勝ち。
「さて、賭け事は私の勝ちですね」
勝った者の言うことを聞く、そう言ったのは自分。ゲストの手前、逆らえない。だが、アンナを家族の元に戻しては………いや、交易所の人間さえ殺せば自分が関わった証拠はない筈。
「……よろしい。彼女には暫く暇を出すとしましょう。思えば異国から来たばかりで疲れてるでしょうからな」
まだ買ったばかりで味わっていないと言うのに、こんなに早く手放す事になるとは。何時自分の番が来るのかと怯えるさまを楽しまず、買ったその日に楽しめばよかったと後悔しつつ何れヴァハを必ず後悔させてやると歯軋りする。
「さあ、おいで」
ニコリと微笑んだヴァハにアンナは顔を赤くしながら駆け寄りクロエとルノアは誰あの不気味なの、知らね、とヒソヒソ話す。
「…………っ!」
と、アンナは不意に周りの美姫達の視線に気付く。どうしてお前だけが、そんな言葉が聞こえた気がして、ヴァハの服の裾をキュッと掴む。
「………何だ、その顔」
とヴァハは美姫達に視線を向ける。上品な口調などをかなぐり捨てた、素の態度に美姫達はビクリと身を強張らせる。
「一人だけ助かるのが妬ましいか? 自分達が助からねえ事が、怒りだすほど許せないか? 自分達も助けてもらえる資格があるってか? 傲慢な女共だ」
目を逸らし震える美姫達は、それでもやはり羨ましくて、自分達も助けて欲しいのだろう。
「俺は此奴の親父の助けを求める声に応えただけだ」
「金でね」
「金でにゃ」
「そこうるせえ………だいたい、助けなんてこないと諦めておいてそりゃ理不尽だろうがよ。誰かが、誰かになんて怠惰この上ないが、その誰かに向かって叫ばねえのはもっと怠惰だ。正義の味方だって助けを求めない相手を探すのは大変なんだよ。
助けてほしいならよ、諦めず助けてって叫べよ」
美姫達が無理矢理連れてこられた事前提の言葉にザワザワと騒がしくなる。
「……………た、助けて」
と、美姫の一人が声を震わせながら叫ぶ。
「私も、助けて!」
涙を流し、懇願する。ずっと言えなかった言葉を、ずっと言いたかった言葉を叫ぶ。一人が叫び、周りも感化され叫び始めた。
「もうこんな所、1秒だって居たくない!」
「ウチに帰りたいニャー!」
「助けて、もう一度、お父さん達に会いたいの!」
その懇願に、ヴァハはフッと笑う。誰一人、テリーの下に居たくないというその態度にテリーの顔が怒りに染まっていく。
「そうか………じゃ、その声を聞いた正義の味方が現れてくれることを祈ってるぜぇ。ほらほらお前等、帰るぞ」
「「「………………え?」」」
因みにヴァハはごろつき達の酒場にやって来て情報欲しけりゃ賭け事で勝ちなと言われた際
『負けたらどうせやっちまぇ〜って有耶無耶にしようとするのがわかってんのになんで時間を無駄にしなきゃならねえんだ。脳みそ詰まってんのか?』
と煽った。その後襲ってきた奴等を全員返り討ちにした。逃げられないように閂をかけてしまったが故にヴァハが帰るまで誰も出入りできなかった
ヴァハ君のヒロイン
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フィルヴィス・シャリア
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アスフィ・アル・アンドロメダ
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アミッド・テアサナーレ
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エルフィ・コレット
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メイナちゃんやティオナを混ぜて全員